TPP交渉参加の安倍反動政権打倒


 安倍首相が訪米して二月二十三日、オバマ米大統領との間で「環太平洋経済連携協定TPPに関する日米共同声明」なるものを発表、TPP交渉参加を対米約束してしまった。安倍は、彼の持論の「押しつけ憲法の改正」などはおくびにも出さず、アメリカに気に入られる日本政府を演じきったのである。TPPは、アメリカ主導による包括的な地域経済ブロックであり、東アジアを分断する。「一方的にすべての関税を撤廃することをあらかじめ約束されない」との共同声明の文言は、安倍の政権公約とのツジツマを合わせただけのことであり、TPPの本質は、交渉によって何ら変更されるものではない。
 TPP参加路線は、中国対峙の日米同盟強化路線と一体である。安倍は「日米の信頼、完全復活」と演出しているが、民主党政権時に外務・防衛官僚が引いた路線に乗っているだけではないか。辺野古埋め立て申請を許さず、オスプレイ低空飛行訓練を阻止しよう。
 内政でも安倍政権は二月二八日、極右の爪を当面は隠しつつ、経産省主導で新自由主義色の強い施政方針演説を行なった。三月の脱原発闘争、五月の憲法闘争をもりあげ、安倍反動政権を打倒しよう。以下は、予算案に示された安倍政権の内政への、同志の批判である。(編集部)


安倍内閣の15ヶ月予算−借金重ね経済成長の幻影追う
  現実は格差拡大さらに

 安倍内閣は、一月十一日、総額20・2兆円に上る「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を閣議決定した。同月十五日には、総額13・1兆円の2012年度補正予算案を閣議決定した。更に、同月二十九日には、総額92・6兆円に及ぶ2013年度予算(一般会計)を閣議決定した。
 予算編成に関しては、総選挙後の自民・公明の連立政権合意で、「本格的な大型補正予算を来年度予算と連動して編成・成立させる」とすでに明記しており、いわゆる「15ヶ月予算」になっている。
 緊急経済対策は、「金融緩和」、「財政出動」、「成長戦略」の三本の矢から成り立つアベノミクスの内、「財政出動」を中心とした経済対策である。
 緊急経済対策の事業規模は、国や地方自治体の財政支出や、企業への融資なども含めた合計である。事業規模別にその主な内容をみると、「復興・防災対策」が5・5兆円(うち、国の補正予算での支出3・8兆円。以下同じ)、「成長による富の創出」が12・3兆円(同3・1兆円)、「暮らしの安心・地域活性化」2・1兆円(同3・1兆円。うち、地方向けの交付金は事業規模に含まない)、「その他」0・3兆円で、総額20・2兆円である。
 
 〈参院選・消費増税実施を照準に大型補正〉

 補正予算案は、前記のカッコ内の数字に、「その他」0・3兆円と「基礎年金の国庫負担」など2・8兆円を加えたもので、総額13・1兆円の大型である。
 緊急経済対策は、デフレ脱却を目指すアベノミクスの重要な柱である「機動的な財政出動」を軸としたもので、実質GDP(国内総生産)の押上げ効果2%、雇用創出60万人程度を見込んでいる。
 緊急経済対策の中軸となる補正予算案は、二月十四日に衆議院で可決され、二六日に参議院で可決・成立したが、その中心的な柱は、相も変わらず公共事業である。補正予算案全体の約半分を占める公共事業は、総額約5兆円である。
 その対象は、昨年末に起こった笹子トンネルの天井崩落をも利用して、古くなった道路や橋、トンネル、水道といった全国のインフラの総点検を行ない、補修などを前倒しでおこなうというものである(2・2兆円)。だが、総点検の内容や優先順位、廃棄対象など未確定にもかかわらず、「前倒しでやる」として前のめりになって、不要不急の公共事業をまぎれこませ、財政の無駄遣いに奔走するのである。このことは、東日本大震災の復旧復興費で、被災地と関係ない地域での公共工事を急先鋒で主張したのが自民党であることで、既にあきらかである。
 また、「全国ミッシングリンク(未開通部分)」の整備と称して、新たな道路建設をおこなう(623億円)ことは、税制改正の場で、実質的に「道路特定財源」が復活していることと合わせて明らかである。
 さらに、「暮らしの安心・地域活性化」の分野でも、公共事業の地方自治体負担を軽減すると称して、「地域の元気臨時交付金」を新設する。地方負担分の8割に当る1・4兆円を肩代わりする。ちなみに、安倍内閣は、ひも付きを無くそうと前政権がはじめた「一括地方交付金」(「地域自主戦略交付金」)をわざわざ廃止して、中央による地方支配の重要な手段として、ひも付き交付金を復活させる反動的政策を進めつつある。
 しかも、補正予算案の財源は、予算の使い残しや「埋蔵金」5兆円、追加の借金(国債発行)約8兆円(うち、つなぎ国債が2・6兆円)である。予算の使い残しがあるのならば、借金返済に充てるのが筋にもかかわらず、不要不急が多分に含まれている公共事業のために使うのは、まさに財政再建など眼中にない所業である。それどころか、安倍内閣は、さらに国債発行をおこなって、公共事業などのために大盤振る舞いしているのである。
 このため、国債発行は、すでに行なわれている2012年度当初予算時の44兆円に、約8兆円が新たに加わり、計52兆円にまで膨張してしまった。民主党政権の「借金44兆円以下」、という財政規律さえ弾(はじ)き飛ばしたのである。国債の発行残高は、2013年度末には855兆円へと膨張することが見込まれる。また、プライマリーバランスを2015年度に、2010年度の半分にするという国際公約もほぼ不可能となった。
 もともとゆるい財政規律は、これで完膚なく崩れ去ったのである。
 このように無理やりに大型補正予算を編成し、不要不急の公共事業を設定したのには、訳がある。一つは、今年夏の参議院選のための布石、露骨な利益誘導であり、もう一つは、消費増税を実施するか否かの判断が、今年の4〜6月期の実質GDPの速報値によって決まるので、強引に即効性をもつ公共事業費を急増させたのである。
 
 〈多方面に影響及ぼす生活保護費の引下げ〉

 来年度予算は、総額92・6兆円にふくらみ、過去最大級の規模に達した。これに先の補正予算を加えると、105・7兆円となり、非常時でもないのにもかかわらず、東日本大震災の復興予算を含む2011年度の107兆円、リーマン・ショック直後の2009年度の102兆円に続く大規模なものになる。
 来年度当初予算の歳出の主な内容は、多い順にみると以下の通りである。
 @社会保障費が、基礎年金の国庫負担2・6兆円を加えたため、29・1兆円となった(全体の31・4%)。このうち、生活保護費は、受給者の増大でかなり増大するところであったが、給付水準の引下げで、保護費の伸びが670億円削られ、全体で前年度並みの2・8兆円に抑えられた(同3・0%)。A借金返済のための国債費が、22・2兆円(同24・0%)。B地方交付税は、地方公務員の賃金を2000億円削減したため、前年度比1・2%減の16・4兆円(同17・7%)。C公共事業費は、12年度当初予算よりも、15・6%の大幅増の5・3兆円(同5・7%)。D軍事費が12年度予算よりも400億円も多い4・8兆円となる(同5・1%)。E震災復興費は、前年度より16・1%増の4・4兆円(同4・7%)。F農林水産費は、前年度より5・7%増の2・3兆円(同2・5%)である。
 安倍内閣の予算を「15ヶ月予算」全体で見ると、その特徴は、次の諸点にある。
 先ず第一は、貧富の格差が、今ふたたび更に強まることである。
 復興増税だけでなく、消費税増税が確実視される中で、生活保護費が削減され、貧者がますます貧しくなる。それだけでなく、貧者の層がますます拡大する。なぜならば、生活保護基準額を目安にする施策はたくさんあるからである。
 たとえば、住民税の非課税限度額も生活保護基準額を参考に設計されているが、この非課税世帯は、同時に障がい者福祉のサービス料、保育料や、医療・介護費の自己負担も軽減されている。また、生活保護基準額を利用の物差しにした制度としては、「就学援助」、「生活福祉資金の貸付」、「国民健康保険料の減免」、「介護保険料・利用料の減額」などがある。
 このように何らかの形で財政援助を受けられる低所得者層は、生活保護費のカットで、ますます制限され、その範囲は狭められるのである。
 さらに、言うまでもなく、低所得者の貧困度が増せば、今度は生活保護受給者にまたはね返って生活保護受給の条件もますます悪化する。
 二月十一日付け『朝日新聞』によると、日本は世界でも貧困率ワースト4にランクされているのにもかかわらず、生活保護費のGDPに対する比率が極端に悪く、わずか0・6%でしかない(OECDの平均は2・0%)。このような悲惨な状況を更に悪化させようというのが、安倍内閣の予算案なのである。
 これとは対照的に、安倍内閣は、企業へは国際競争力強化を名分に、減税措置や財政援助などさまざまな優遇措置をとっている。新自由主義は、格差拡大で「底辺に向かっての競争」を仕向けるとともに、「企業優遇の国際競争」でしのぎを削り、国家財政制度を崩壊させるゴールにむかってのチキンレースとなっている。
 金持ち優遇も、基本的に変わっていない。今回の所得税制度の改革も、所得税の最高税率を「4千万円超―45%」(現行は「1800万円超―40%」)としたが、それはたんなるパフォーマンスでしかない。金持ち優遇の批判をそらすための、金持ちに対する軽い増税でしかない。ちなみに、1984年の所得税改定では、最高税率は「8千万円超―70%」だったのである。これと比べるならば、今回のそれは増税の名に値しないものである。

  〈成長主義を捨て文化的豊かさへ〉

 第二は、国債発行で借金を積みかさね、その上で不急不要な公共事業で見せかけの経済成長を図るという90年代の誤った手法を繰り返していることである。
 来年度の当初予算の公共事業費5・3兆円と補正予算案の公共事業費4・7兆円を合わせると、計10兆円にもなるのである。この規模は、2002年度以前への復帰である。
 公共事業への投資額を『1』とすれば、高度成長時代にはその波及効果は『2』台であった。それが20年前ですでに『1・33』に落ちており、今では『1・07』でしかない。 
 従って、公共事業の対象は、厳格に選定して最小限の必要不可欠なものにしなければならない時代なのである。それなのに、安倍内閣は、知ってか知らずか、即効薬としての公共事業に頼った経済成長を夢見て、借金を積み重ねているのである。(皮肉なことに、公共事業を急激に増大させたため、とりわけ被災地では人手と原材料が極度に不足している)
 しかし、日本の実質GDPは、平均で、1981〜90年度が4・7%であったが、1991〜2000年度が1・1%へと落込み、2001〜10年度になっては0・75%でしかない。今や日本に限らず、いわゆる先進国での製造業などを原動力とした経済成長は完全に終わっており、利潤率の低落はすさまじく、ほとんどの大企業は多国籍企業活動によって延命しているのでしかない。
 高度成長への幻想を捨て去り、無駄遣いのないほどほどの豊かさで、失業者も含めた「ワークシェアリング」で自由時間を大胆に拡大し、「賃金奴隷」から解放された精神的文化的豊かさを充実できる経済に変えるべきである。
 第三は、中国や朝鮮民主主義人民共和国などとの軍事緊張を口実に、軍事費を増大させていることである。軍事費の総額は、4・8兆円であるが、増額したのは実に11年ぶりのことである。なお、海上保安庁関係の予算も、12年度予算よりも33億円多い1765億円である。
 安倍内閣はその強い「右傾化」路線により、軍事力を強化させるだけでなく、内需拡大の一環として、軍需増大をはかっているのである。(Y)