スポーツ部活動体罰問題の背景

 安倍教育改革は、体罰と通底
                   教育労働者 浦島 学

 大阪市立桜宮高校でバスケットボール部顧問の体罰を受け、2年生の生徒が自殺した衝撃的出来事をきっかけに、部活動等での体罰が過去にさかのぼって明らかにされている。
 二月十五日には洛南高校陸上部顧問の体罰が報道される等、次々に体罰の実態が明らかになっている。しかし、これらは氷山の一角に過ぎない。戦前からの体罰を容認する体質は今も生き続けている。そして、安倍教育改革は、戦前からの体罰容認の教育と同根の内容を持ち、体罰容認・いじめ拡大の教育以外の何物でもない。

「道徳的な心の教育」が体罰の根元に

 部活動での体罰は、スポーツ振興の歴史や教育制度が絡み合って発生している。
 日本のスポーツは、戦前から学校を中心に発展してきた。学校教育では、スポーツ奨励・部活動推進のために教育的理由付けが必要される。そこで道徳に注目、「道徳的な心の教育」が拠りどころされた。児童・生徒の心は態度に表れるという前提のもと、部活動でも教師に従順な態度をとるまで体罰が加えられることになった。
 日本では、明治維新で徴兵制が敷かれ、軍隊内でさかんに体罰が行なわれた。上官の命令に絶対に従わせるために…。部活動にもこれとよく似た側面があった。
「道徳的な心の教育」は、戦後になっても本質的には変わっていない。部活動は、指導要領にも内容が示されず、現場では、特別活動の中に位置付けられ、あいまいな形で進められている。部活動が一部の児童生徒を対象に実施されていることからも、指導方法の研究も深められず、個人の経験に基づいた指導が行なわれている。そして大学の教職科目にも部活動を扱う授業はない。
 つまり部活指導は、どう指導するのか教えられないまま、多くの教師が自らの経験をたよりに指導し、体罰を受けた者が体罰をする連鎖の中で営まれてきた。心を鍛えるという位置づけのままに…。

成績主義が体罰を助長

 1970年代に入ると部活動は、進学の手段となる。内申書・調査書に対外試合等の成績が記載され、部活動が重視されるようになった。そして、スポーツ推薦がさかんになり、部活の成績が進学につながっていった。部活動で好成績を上げ有名校進学につながれば、保護者はたとえ体罰があっても教師を評価し、生徒も恩師として感謝するようになった。
新自由主義教育が推進され、幼いうちから学力や運動能力で子どもを振り分けるようになればなおさらであった。部活の強さは学校のPRにつながり、強豪校の教師は、尊重された。他の教師は指導に口を挟めなくなり、校長も進学実績を上げたと評価し、児童生徒についてアドバイスすることさえ許されない雰囲気が作られていった。部活動での体罰は温存され、助長され、力で従わせようとする傾向が今もなお続いているのは、そうした理由による。

体罰・いじめを拡大する規範・帰属意識注入

 二月末、国会で2012年度補正予算案が強行成立させられる中、与党は、今国会に提出する議員立法の最終調整を進めている。その中には、いじめや体罰についての対策法案が含まれている。自民党は、「いじめ防止対策基本法」として体罰もいじめとする法案を作成している。しかし、この法案が成立しても、いじめはもとより体罰を防止する効果は期待できない。
 昨年十一月二十一日、安倍自民党は「政権公約」を発表、教育改革を明らかにした。その中で安部自民党は、『家族地域社会、国への帰属意識を持つ国民』、『良き歴史、伝統、文化を大切にする国民』を育成するとして教育の目標を掲げている。そして目標実現の教育内容として、『規範意識や社会のルール、マナー等を学ぶ道徳教育…の推進を図る』と主張する。
このことから、安倍自民党の目指す教育は、極右反動の軍国主義・愛国主義教育ばかりでなく、国家や社会への帰属意識を高め、これに従うことを強制する教育であることが明らかである。そのことは、2012年版自民党日本国憲法改正草案で基本的人権を大幅に制限していることにも通じている。かれらは、一人ひとりの基本的人権をないがしろにし、国家や社会に従順に帰属することを求めている。それは、戦前からの体罰教育と一致し、権力に従順に従う子どもの育成を要求している。安部自民党の教育政策は、体罰を容認する内容が根底に流れている。
 そればかりではない。新自由主義教育によって競争あおり、子どもを幼いうちから「学力」やスポーツで選別していく教育は、勝つための競争を激化させ、体罰を引き起こす。つまり安部教育改革は、いじめを激化させ体罰を拡大する教育以外の何物でもない。

自主的に運営するスポーツ活動を

 部活での体罰は、「道徳的な心の教育」を拠りどころとしたことに起因する。したがって、道徳教育の要素を切り離すことが求められている。
生徒が自分たちで自主的に運営し、スポーツを楽しみ、あるいは強くなる方針に立ち返る必要がある。そのためには部活動を学校教育から切り離し、社会教育として実施することも一つの方法であろう。学校の名を上げ、進学率を高める教育ではなく、学校本来の姿に立ち返る必要がある。教師のかかわりはその上で考えれば良いことである。
 コーチとして教え込むより、「子ども自身に気付かせ、学ばせる方がずっと伸びると発見したんです」と、サッカー出前指導の池上正さんは語っている(2・1朝日新聞)。多様な練習方法を学んだコーチを育成し、自分から学ぼうという意識やエネルギーを引き出して練習するスポーツ活動が可能になれば、体罰はおのずとなくなるに違いない。「ドイツケルン体育大学留学中、ウォーミングアップの方法を授業で300通り近くも教わったそうです。…これでけっこう興味を持ちますよ。」、池上さんの言葉が心に残っている。(了)