戦争動員の安倍教育政策を許すな
   教育「政権公約」にみるその反動性
             教育労働者  浦島 学

 安倍政権は、首相直属の「教育再生実行会議」を設置し、一月二四日にその初会合開いた。それは第一次安倍内閣「教育再生会議」を事実上復活させるもので「6・3・3・4制の見直し」や「いじめ対策」等衆院選公約などの実現にむけ検討を進める組織として設置されている。
 「教育再生実行会議」は第一次安倍政権時の名称を一部変更し、メンバーも代えている。それは、「新しい歴史教科書をつくる会」の会長を務めた八木秀次高崎経済大学教授や作家の曽野綾子氏ら極右反動のメンバー、また企業サイドの新自由主義教育論者で構成されている。
 昨年十一月二十一日、安倍自民党は、「改憲・国防軍創設」等の衆院選政権公約を発表し、そのタカ派的姿勢を浮き彫りにした。
 その政権公約「教育」には、◇不適切な性教育やジェンダーフリー教育、自虐史観偏向教育は行わせない。◇高校に「公共」科目設置。◇教育委員会の責任者を首長が任命する常勤の「教育長」にする。◇伝統と文化を尊重する教科書で学べるよう教科書検定制度を抜本改革し、「近隣諸国条項」も見直す。◇「いじめ防止対策基本法」を制定、など様々な政策が掲げられている。教育再生実行会議は、これらの反動政策を現実にうつそうとするものである。
 以下、政権公約「教育」をもとに、その反動性を暴露する。現在、安倍政権は今夏の参院選に向けて、経済政策を前面に出す人気取りを画策しており、一月の首相所信表明演説では教育政策をほとんど語らなかった。しかし教育政策が本来の安倍カラーであり、安倍自民党の政権公約「教育」は早晩全面化してくるだろう。極右反動の軍国主義教育、格差拡大・差別選別教育を阻止するための闘争は、安倍反動政権の打倒にとって重要な位置を占めるであろう。

  軍国主義教育

 政権公約「教育」の冒頭では、「『自助自立する国民』『家族地域社会、国への帰属意識を持つ国民』『良き歴史、伝統、文化を大切にする国民』……を育成します」として教育の目標を掲げている。次いで、その目標実現の教育内容として、「国旗・国家を尊重し、わが国の将来を担う主権者を育成」、「不適切な性教育やジェンダーフリー教育、自虐史観偏向教育等は行わせ」ず、「規範意識や社会のルール、マナーなどを学ぶ道徳教育…の推進を図る」としている。また「中学、高校でボランティア活動やインターンシップ必修化」を掲げ、公共心や社会性を定着させるとしている。
 そして、これらの教育を行なう手段として、「真に教育基本法・学習指導要領に適った教科書の作成・採択」を掲げている。そこでは、「『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する』ための教科書で、子どもたちが学ぶことができるよう教科書検定制度や…教科書採択の構造」を変える。また「文部科学大臣が各教科書共通で記載すべき事項を具体的に定める」と記している。さらに、教科書検定で韓国、中国などに配慮するとしてきた「『近隣条項』については見直」すと主張している。
 安倍自民党の教育政策は、「日の丸・君が代」の強制や道徳教育の強化、奉仕活動、就業教育等を通じて、愛国心を強要し、戦争へと子ども達を駆り立てる極右反動の教育路線である。「自虐史観偏向教育等は行わせず」「近隣条項の見直し」云々は、かつての侵略戦争を美化し、アジアの労働者民衆を蔑視する思想の何物でもない。
 また教科書検定制度の見直しは、育鵬社、自由社版「つくる会」系教科書等の採択の推進をねらったものである。それは、社会科学とは無縁の戦争賛美・アジア蔑視の反動教科書の採択を陰で推進した勢力が、他ならぬ安倍晋三を中心とする日本会議国会議員懇談会や日本会議地方議員連盟等であったことに証明されている。
 さらに、文部科学相が各社教科書の共通内容を規定することになれば、戦争賛美・アジア蔑視の教科書で子ども達を一律に教育することになる。

  差別選別教育

 政権公約「教育」は、「将来を担う子供たちは、国の一番の宝」、「世界トップレベルの学力、規範意識、そして歴史や文化を尊重する態度を育むために『教育再生』を実行します」と述べている。安倍自民党の教育改革は、軍国主義教育と「学力」向上が主要な内容であることを、この前文から読みとることができる。
 安倍自民党の「学力」向上にかかわる政策の要は、「平成の学制改革」なる政策である。「激動の時代に対応する新たな教育改革」では、「世界トップの教育立国とするため、幼児教育の無償化、小学校5・6年生への教科担当制の導入、飛び級制度、中学・高校において未達成科目の再チャレンジ、義務教育化を含めた高等学校の理念・あり方等、現行の6・3・3・4制の是非について検討し、子どもの成長に応じた柔軟な教育システムとするため〜『平成の教育改革』を行います」と述べ、学制改革の内容を提示している。
 このことから、就学年齢の引き下げ、飛び級と留年の実施、高校の義務教育化、幼小、小中、中高一貫教育校や柔軟な教育システムを一層推進することなどが「平成の学制改革」と考えることができる。
 政権公約発表の直前に出された教育改革中間報告では、「中期的な課題として、義務教育の5歳開始」を掲げている。つまり、幼児教育無償化の導入は、就学年齢を引き下げるための布石として主張されている。
 「高校在学中も何度も挑戦できる達成度テスト(日本版バカロレア)を創設」し、「大学入試のあり方そのものを検討」するという文言は、飛び級を推進するための方策である。バカロレアとは、フランスの中等教育修了学位、あるいは大学入学資格を意味している。大学入学資格・規定を設定し、高校在学中に達成度テストに合格すれば、飛び級も可能となる。さらに大学入学年齢制限が撤廃されれば、大学入学も可能になるというわけである。「大学入試のあり方そのものを検討する」とは、そのことも意味している。
 教育改革国民会議答申(2000年)は、「5歳から7歳までの幅の中で、小学校に入学できるよう義務教育開始年齢を弾力化する」と述べ、さらに高校や大学入試について「大学入試年齢制限の撤廃」、「高校での学習達成度試験の活用…大学入試の多様化」を掲げている。安倍自民党の「学制改革」は、この主張とみごとに一致している。
 また「平成の学制改革」の項では、「小中学校卒業時における学力評価や高校での達成度試験の実施を図り、確実に学力を身につけさせます。」とも述べている。これは一定の学力に達しなければ、小中学校、高校などでの留年もあり得ることを示唆している。卒業時、「社会が求める」充分な学力が定着していなければ、資本や国家はどのような対策をとるか、と考えればこれは一目瞭然である。
 そして、「子どもの成長を考えた柔軟な教育システム」とは、各一貫校や柔軟な教育システムをもつ学校の拡大・推進をねらっている。それは、より効率的にエリートを育成し、子ども達をふり分けるシステムとして掲げられている。
 教育改革国民会議が「公立学校の半分程度を中高一貫教育校とする」と述べ、あるいは、当時「留年」が話題になったことが思い出される。
 安倍自民党の教育政策は、財界の要請にこたえ、一握りのエリートを育成、多くの子ども達を低賃金で働く労働者として市場に提供するために、子ども達を幼い内から徹底した競争の中に引きずり込み、学力や運動能力等によって振り分け、将来を規定しようとする格差教育・差別選別教育の強化以外何物でもない。
 「世界トップの人間力と学力を実現するための教育投資の充実」では、「全国学力、学習状況調査を全国一斉の学力テストに戻し…さらに土曜授業を実現します」と述べる。この主張は、学力テストによって子ども達の競争をあおり、学校間の競争をあおって「平成の学制改革」のもと、より効率的に一握りのエリートを育てようとする教育を意味している。
一人ひとりの子どもを競争によって個々バラバラにし、苦悩や不安・不満を拡大する教育は、学校現場の荒廃をもたらすのみである。

  大学「特区化」

 「高等教育・大学政策の積極的な推進」では、「『大学力』は国力そのものであり…強化が必要」、「世界トップレベルの大学は特区化し、諸規制を撤廃します。…世界トップレベル大学からの、博士号を持つ若手研究者の大量スカウト、資金支援などを行い」、「大学教育の質の保証徹底を義務化し、評価に基づく資金の重点配分を行います」と述べている。これは一握りのエリートを高等教育で育成せんとする政策として掲げられている。つまりこの項目は、産業が要請する技術や、人々を支配する人材を確保するため、トップレベルの大学を特区として優遇したり、人材育成、技術者養成、技術開発に貢献しない大学は廃止したりすると主張している。
 また、「大学9月入学の促進」は、アジア等外国からの学生を迎え入れ、あるいは国内の学生を外国に留学させて、国際競争に耐えうる学力・技術の向上をはからんとしたものである。大学の生き残りをもかけた方針として掲げられている。
 以上のことから安倍自民党の教育政策は、幼児教育から高等教育まで一貫した極右反動の軍国主義教育強化・格差拡大の教育である。

  「新三法」とは

 政権公約は反動教育を推進するために、国家や首長による教育統制を主張する。
 「教育委員会の責任体制の確立と教育行政権限のあり方の検討」では、「首長が議会の同意を得て任命する常勤の『教育長』を教育委員会の責任者とするなど、国と地方の間や、地方教育行政における権限と責任」について述べている。これは、首長の任命した教育長が教育委員会の責任者になり、教育内容を統制できることを意味している。「議会の同意」を条件にするが、首長が任命することにかわりがない。教育委員会制度の廃止は、自民党の中で検討されたが、慎重論があって掲げられなかった。しかし、首長や国家による教育統制が可能になるのは間違いないことである。
 そればかりではない。一連の教育改悪実現のため、子どもと友に歩み、闘う教育労働者を処分排除し、あるいは、がんじがらめにして動員しようと画策している。
「教育の政治的中立を確保するための『新教育三法』」では、「『教育公務員倫理規定』を制定して、職務規律を確立」、「『教育公務員特例法』違反者に罰則規定を設け、日教組等の政治的中立確保及び…違法活動を防止」、「『義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法』の徹底を図り、教育委員会等に調査を義務付けるための法改正を行」なうと述べている。
 これは、教育労働者が勤務時間中に組合活動することを禁じ、「日の丸・君が代」強制に反対する教育労働者、戦争に反対して民主教育・人権教育を実践する教師の処分をねらった条文である。「中立を確保するため」、「職務規律を確立」とは、戦争を賛美して子どもを動員し、女性差別など差別を助長する教育を「政治的中立」として強要し、これに反対する教育労働者を処分すること以外の何物でもない。
 安倍自民党の「政治的中立」こそ右翼偏向教育であり、処罰されるべきはかれら自身である。公約は、北海道教職員組合の例を上げ、「勤務時間中の組合活動など数多くの違法行為」があるとして組合活動を禁じ、闘う教育労働者を処分するための罰則規定を制定しようと目論んでいる。しかし勤務時間以外いつ活動できるのか。我々は職員会議等でも、真の教育実践・教育内容を勝ち取り、働く者の勤務条件を確保してきた。安倍自民党にも通じる反動の輩こそ勤務中に、子どもとは無縁の政治活動をしてきたのではないか。これをどう考えるか!
 「新三法」とは、教育労働者が良心に従って実践する子どもの幸せを願う教育と、それを保障する組合活動を禁止し、処分するための法の制定である。戦前戦中、教師は、子どもを戦争に動員し、たくさんの命を奪う教育活動を担った事実がある。安倍自民党の教育改悪は、無責任にも再び過去のあやまちをくり返すものであることを指摘しておく。「新三法」とは反動以外何物でもない。そして、これも橋下維新の会に共通する内容である。

  いじめに無力

 文科省は、昨年四月からの半年で小中高校で把握したいじめの件数は、75000件を超えていると発表した。また別の調査では、144054件と発表。村井政務官は、この数は「正確ではないと思う」と語り、より多いことを示唆している。いじめは、ますます深刻になっている。
 これについて政権公約は、「いじめをくり返す児童生徒への出席停止処分や…警察に通報…道徳教育の徹底」、「いじめ防止対策基本法を制定」、「いじめ防止条例制定」を掲げている。 しかし、これらは何の役にも立たない。なぜなら子どもは、いじめを悪いと認識し、それでもいじめをしてしまう、このことにこそ問題と課題があるからだ。
 子ども一人ひとりの心に寄り添い、悩みや苦悩を知って教師が変わり、子どもと共に生きる教育。しんどいことをクラス・学年等で語り合い、心をつなぎあう教育。家庭訪問で保護者から学び結び合う教育。地道な努力で一人ひとりのちがいを認め合い、差別しない差別を許さない子どもと教師に高めあうことこそ、いじめを克服する道である。
 公約の安易な教育政策では、何も解決しない。「修身」が盛んな戦中、問題行動が最も多発した事実を上げれば充分である。
 いじめ拡大の根源は、新自由主義教育、安倍を始め自民党が進めてきた安易な「教育改革」にこそある。その政策を直ちにやめ、共に育ち合う教育、子どもを中心にすえた教育こそが求められている。

    *    *    *

 安倍自民党は、公共事業バラマキ政策を実行に移しつつある。利益誘導政治への復帰は短期間で行きづまり、軍事優先の政治へと突き進むにちがいない。安倍自民党は、教育政策を柱として、子どもを戦場に送る極右反動を強めてくるだろう。
 教育労働者は職場闘争を担い、地域労働運動・市民運動と堅く団結して、地域での闘いに合流する必要がある。地域のネットワークを拡大し、地域・職場をつらぬいて軍国主義教育を打破することが求められている。労働者民衆は、「国会では何も変わらない」と直接民主主義の闘争を展開している。地域の労働者民衆と手をつなぎ、安倍反動政治を打ち砕ろう。子どもの幸せのために共に闘わん!(了)