橋下一派の総選挙公約「維新八策」−その極悪な本性
  「維新の会」の出鼻を打ち砕け


 国会では野田政権が、消費増税法案の参院採決を強行せんとする中、八月三日には自公を除く野党7党が、消費増税を阻止するための内閣不信任案を提出することで合意した。これに対する自民党内の対応を含め、諸野党の思惑がどうであれ、ただちに国会が解散され、消費税・原発・オスプレイなどの懸案について、国民が総選挙で断固たる判断を下すことが問われている。しかし、この機を利用し、民主や自民への有権者の嫌悪を自党にダマシ盗ろうとしているのが、国政進出を画策する橋下「維新の会」である。

 弱肉強食・競争原理の全社会的持ち込み

 橋下・大阪維新の会は、七月はじめ、国政進出を目指す次期衆院選の公約のベースとなる「維新八策」改訂版を発表した。
 特徴の第一は、弱肉強食・競争原理の全社会的持ち込みをテコに、マネーゲーム資本主義の時代に勝ち抜ける国家・社会へと日本を改造しようとする点にある。
 目指しているのは、マネーゲーム資本主義というステージでの競争(金融賭博)に勝ち抜くこと、世界市場に徘徊する投機マネーを呼び寄せる都市間競争に勝ち抜くことである。改訂版が言う「競争力強化のためのインフラ整備」は、あくまでそのためのものである。今や、産業的競争力の回復がメインではありえない。「貿易収支の黒字重視一辺倒から、所得収支、サービス収支の黒字化重視戦略」へという主張は、いわゆる金融(賭博)立国ということである。「資産課税」の強化を主張し、巨大投機マネーが待ち構える賭博場へ民衆資産を誘導しようと目論んでいる。
 改訂版は、「実経済政策は競争力強化」「産業の淘汰を真正面から受け止める産業構造の転換」を主張している。しかし既に産業が成熟(市場が飽和)してしまった今日、市場原理に頼ってみても、かつてのごとく新産業が勃興する訳ではない。実際は、ますます多くの貨幣資本を産業から遊離・過剰化(投機マネー化)させ、その対極に失業人口を累積させることになる。改訂版が主張する「TPP参加・FTA拡大」は、国内産業を衰退させ、投機マネーの肥大化と失業人口の膨張を加速させる。改訂版が主張する「解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化」も、同じ脈絡の中にある。
 改訂版は、教育や社会保障の領域に「バウチャー制度」を導入するという。競争の徹底化により、人と人の絆の破壊と引き換えに教育・社会保障事業を発展させることができるのだという主張である。だがそのようなやり方は、この領域の性格と両立しない。人と人の絆の破壊だけを拡大し、改訂版が言うような「新規事業・雇用の創出」は実現しない。既にイギリスなどで実証済みのことである。
 改訂版は、生活保護に関して、「現物支給中心」、給付の「有期性」などを主張する。それらは、保護費削減・生活保護打ち切り強化のためのあの手この手でしかないものである。改訂版は、現役世代の生活保護増への対策として、「現役世代は就労支援を含む自立支援策の実践の義務化」を主張している。しかし資本主義がますます雇用を保障できなくなっている中では、しかも公的就労を改訂版が「創出しない」と強調している中では、これも欺瞞であり、保護費削減・生活保護打ち切り策でしかないということである。

 マネーゲームのための中央・地方政府改造

 特徴の第二は、国家機構をマネーゲーム資本主義の時代の国家機構へと改造することである。この国家改造のポイントは、中央政府の役割を国際投機マネーと多国籍企業の利益に奉仕するものへと純化し、地方政府の統治機構を民衆に対する監視・分断・弾圧へと純化する点にある。
 改訂版は、中央政府の役割を「国防、外交、通貨、マクロ経済政策など」にすると主張する。すなわち中央政府を国内支配の機能からできるだけ切り離し、その役割を国際投機マネーと多国籍企業の利益に奉仕するものへ純化するという主張である。「首相公選制」や「首相が百日は海外に行ける国会運営」の主張も、首相(中央政府)を地域住民の具体的要求から最大限切り離し、その役割を巨大資本の利益ために奉仕ものへ純化させる意図から発している。
 改訂版は、「中央集権型国家から地方分権型国家へ」と主張する。それは、地方政府が民衆支配全般を引き受けるということである。この見地から、「国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で」と、地方政府の財源の「自立」化を主張する。「地方交付税制度の廃止」や「消費税の地方税化」の主張は、その一環としてある。改訂版は、これらの政策が大都市を抱える地方とそうでない地方の格差を増幅させるものであることから、後者の地方政府を懐柔するための「地方財政調整制度」を付加している。
 民衆支配全般を引き受けることを想定した地方政府における「統治機構の作り直し」の核心は、統治機構から利益誘導・所得再分配型統治の側面を削ぎ落とし、監視・分断・弾圧する機構へと統治機構を再編・純化する点にある。それは、資本主義が社会を崩壊させ、国家が財政破綻を深める時代に入った中での、支配の在り方の転換である。
 この統治機構の作り直しのテコとして、「日の丸・君が代」の強制がある。だから改訂版は、「教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革」「公立学校教員の非公務員化」などを掲げ、統治者による教育の掌握と愛国主義教育の強制を目指すのである。
 また改訂版は、統治機構の作り直しにとって、公務員労働組合の存在と相容れないとの立場に立つ。「大阪府・市職員基本条例をさらに発展・法制化」「公務員の身分保障の廃止」などは、公務員労働者を、労働者としての権利も市民としての権利も全く保障されない文字通りの奴隷に落し込めるものである。
 もとより統治機構の作り直しは、民衆に対する監視・分断・弾圧の強化と連動する。「国民総背番号制で所得・資産を完全把握」などは、その一つである。
 橋下・大阪維新の会は、社会を統合のために必要な所得再配分を廃止しようとする。大都市と勝ち組に財政支援を集中し、農村地方や社会的弱者を切り捨てる。当然、社会の格差拡大と崩壊が加速する。これに対しては、監視・分断・弾圧で対処すればよいという訳である。民衆の間にある対抗力はことごとく潰していくことなる。警察の役割が重要になるが、触れていない。触れていないことも重要である。

 アメリカ一辺倒路線と憲法改悪

 特徴の第三は、「日米同盟基軸」「豪州、韓国との関係強化」などに込められたアメリカ一辺倒路線である。
 改訂版は、「ODAの継続的低下に歯止めをかけ、積極的な対外支援策に転換」するとした。さらに、覇権拡張・軍事介入政治に不可欠な「外国研究体制の拡充」を、「安全保障上の視点からの外国人規制」と併せて主張している。そして「憲法9条を変えるか否かの国民投票」で9条改憲を実現し、アメリカの世界覇権を維持・拡張するための侵略戦争に、先兵となって貢献しようというのである。
 
 労働者民衆の「第三極」勢力を

 日本の支配階級は今日、社会の崩壊をもたらすマネーゲーム資本主義に向かう現実の中にあり、この道を突き進む路線と社会の崩壊を押し止めようとする路線に分裂し、末期的内部抗争を熾烈化させている。
 その先鞭をつけたのが、小泉政権である。小泉は、自民・官僚・財界のトライアングル(利益誘導型統治構造)の内部から、アメリカ一辺倒・市場原理主義(「第一極」)の旗を立て、この構造に大打撃を与えた。マネーゲーム資本主義を推進し、社会を崩壊の道に引きずり込んだ。しかし、格差の拡大が政治問題化する中で、後退を余儀なくされる。(橋下・大阪維新の会は、この潮流のリニューアル型、巻き返しに他ならない)
 小泉路線に対する批判が高まる中で登場したのが鳩山・民主党政権だった。この政権は、一方で新自由主義をやりマネーゲーム資本主義への道を是認しつつも、東アジア共同体・国民の生活が第一の旗を立てて社会の崩壊を押し止めようとする路線(「第二極」)を立てた。だが鳩山政権は、アメリカ・官僚・財界の激しい妨害に直面し、挫折する。その後の民主党政権は、政権交代当初の路線を放擲し、彼らの軍門に降った。
 こうしたことの結果、政治の主導権は官僚・財界に移行した。彼らは、「国民の生活が第一」路線の「抜け殻」と化した民主党と、「小泉構造改革」路線の後退で利益誘導型統治時代の「残滓」が幅を利かせる自民党を籠絡し、消費増税のための大連立を形成させた。世界(アメリカ)が、世界金融恐慌の余波の渦中にあって、息継ぎを必要としていたこともそれを可能にした。
 しかしこの政策大連立は、「抜け殻」と「残滓」の寄せ集めでしかないから、未来(人民の支持)が無い。世の中の閉塞感を飛躍的に高めた。それは、政治の混迷の打破を目指す政治勢力の進出を促さずにはおかない。
 「第一極」路線の橋下・大阪維新の会は、そのような政治勢力として、また当面の局面において最も勢いのある勢力として台頭しつつある。「第二極」路線の小沢新党も、建て直しを図っている。だが、この局面で焦点となるのは、そのいずれでもないだろう。「第一極」路線は、その反社会的本性を一旦露呈させてしまった影響を、橋下的リニューアルによって全て消し去ることはできない。「第二極」路線も、その動揺性を露呈させ民衆の期待を裏切った直後であり、即復活とはいかない。
 「残滓」と「抜け殻」の大連立が社会の閉そく感を強める中で、「原発再稼働」「オスプレイ」「消費増税」「TPP」などを契機に民衆自身が大規模に立ち上がり始めている。労働者民衆自身の政治勢力(「第三極」)の形成が問われる局面に入っている。
 こうした中で、国際投機マネー(と多国籍企業)の利益ためには社会が崩壊しても構わないとし、統治機構の民衆弾圧機構への純化をねらう橋下・大阪維新の会との闘いがある。野田政権を打倒するとともに、橋下・大阪維新の会の出鼻を打ち、労働者民衆の大衆的反撃の高まりの中で「第三極」政治勢力を打ち立てていこう。