韓国情勢
 吹き荒れる反共反北キャンペーン
  統合進歩党の再団結を願う

 四月総選挙での韓国民主進歩陣営の予想外の敗北後、その戦線建て直しが望まれていたが、いぜん混迷が続いている。
 最大野党の民主統合党は、敗北の諸要因を総括できないまま新指導部を形成し、本年十一月の大統領選挙に臨んでいる。それで現在、与党セヌリ党の最有力候補パク・グネに大差の支持を許してしまっている。
 また統合進歩党は、六名の当選を果たした比例代表部分の名簿順位について、党内の予備選挙を行なっていたが、総選挙後、予備選挙に重大な不正が発覚した。それで当時の指導部(いわゆる党権派)と地方組織との対立が表面化し、さらに、この党内問題に警察が公然と介入・弾圧する事態まで起こされてしまった。この権力の介入は論外であるが、与党や右翼マスコミからの反共攻撃、「従北主義」排除の宣伝が大々的となり、内部対立が深刻化した。こうして統合進歩党は、いまだに内部対立が収束しない事態に陥っている。
 統合進歩党は、これまでの韓国民主化闘争、統一運動、労働運動など総じて「進歩運動」が合流し、各運動の推進翼が結集して成り立ってきた政党といえる。各運動にはその性格や歴史的な違いがあること、また現在の党は社会民主主義的な合法政党を志向していること、これらによって党内分岐は免れ得ないともいえる。しかし、現在の分裂状況が必然的であるとはいえない。統合進歩党が現在の混迷を克服し、再び前進すること、韓国政治社会に「第三極」として位置を強化すること、これは極めて重要だ。

 康宗憲氏の再審無罪を

 さて、元在日韓国人「政治犯」死刑囚の康宗憲(カン・ジョンホン)さんが、総選挙に統合進歩党の公募によって立候補(比例名簿下位で落選)していたが、統合進歩党への反共反北キャンペーンの一環として現在、彼に対するいわれのない中傷キャンペーンが行なわれている。
 元在日韓国人「政治犯」は二百名とも言われ、独裁政権時代に「北のスパイ」と捏造され、過酷な獄中生活を強いられた。これらの人びとは、家族や韓国の人権団体、日本の在日韓国人「政治犯」を支援する会全国会議などの闘いにより、その後、特赦や刑の執行停止で全員が釈放された。しかし今も、無罪放免ではないので諸権利の制限などが課せられ、日常生活で不利益をこうむっている。拷問による後遺症に苦しむ人も多い。
 ノ・ムヒョン前政権時に、独裁政権から被害をこうむった人びとを救済すべく、「真実と和解のための過去時整理委員会」が設置され、光州蜂起や済州島4・3蜂起の犠牲者に対して、名誉回復や国による追悼と補償が実現した。しかしその後、イ・ミョンパク政権になって、過去時整理委員会は解散されてしまった。
 この解散前の一昨年に、元「政治犯」の金整司(キム・ジョンサ)さんら数名が、過去時整理委員会に自身の事件を照会し、独裁政権の犠牲者と認定された。以降、元「政治犯」を中心にNPO法人「在日韓国人再審無罪と原状回復を勝ちとる会」が立ち上がり、関東・関西から二十数名が、韓国の「民主社会のための弁護士会」(民弁)の協力のもと、再審裁判を開始した。すでに金元重(キム・ウォンジュン)さんなど六名が、完全無罪判決を勝ちとっている。
 この韓国の再審裁判は、短期間に結審し、判事から元「政治犯」の方々にねぎらいの言葉もかけられている。冤罪事件でも、なかなか再審決定を行なわない日本の司法制度に比べ、現在では韓国の裁判所のほうが進んでいる。
 先述の康宗憲さんも、再審請求を行ない、裁判が開始されたが、中傷キャンペーンで結審が延期される事態となっている。彼が再審無罪を勝ち取ることは、右派言論に対する確実な反撃であり、それはまた統合進歩党への反共キャンペーンに反撃し、進歩陣営の団結の回復に寄与することになるだろう。
また、元死刑囚であった人に無罪ということから、元在日韓国人「政治犯」事件の全体に再審の道を開くことにもなるだろう。(Ku)
 

 映 評
 韓流ブームは、日韓関係を変えたか?
 真の友情は歴史認識から
   
      『道−白磁の人』
          監督  高橋 伴明
          製作  小説「白磁の人」映画製作委員会

 日韓両国人民の真の友情・連帯が発展することを期待しながら、映画『道−白磁の人』の感想を記す。これは、日帝の朝鮮強制併合時代の林業技師で、白磁保存の業績でも知られる浅川巧を描いた劇映画である。
 ここ十年の韓国テレビドラマの日本での人気は大変なもので、「冬のソナタ」から現在は「イサン」「トンイ」と変わり、イケ面や美女の出演でビデオ店でもレンタルの順番待ちである。また、韓国観光も安くて時間もかからず、若者はおいしい料理や買い物を楽しんでいる。商業ベースではあるが音楽や映画などの交流は、短い年数で、日本人の韓国に対する感情を好印象なものに大きく変化させた。
 が、本当なら日韓の両国民関係が改善され仲良くなれた状況に拍手すべきなのに、何ゆえか喜べない。その答えが、この映画の中にある。
 主人公の浅川巧は、「人間の価値」からして、日帝の朝鮮植民地支配時代において、その行動や生き方、発言が、抑圧される韓国朝鮮民衆の立場や目線の側に立っており、当時の他の日本人にはとても真似のできることではなかった。これを、彼がクリスチャンであるからと、安易に決めつけることはできない。「太古から多くの文化を隣国朝鮮から学び」発展したのが日本、しかし、その先生でもある国を植民地支配し、土地や言語を奪い、いばりながら闊歩する日本人、これに怒りと失望を実体験して、「自分自身が日本人である」ことを恥じる浅川巧の生き様、これから来る目線であった。
 映画は3・1独立運動にも触れている。その抵抗と弾圧の描き方は、政治的配慮が感じられたが(日韓当局の後援を得ての両国同時上映)、強制併合を映像化しただけでも、一歩も二歩も前進した映画ではと思う。
浅川巧の美談だけをクローズアップすることなく、日本が隣国朝鮮を強制併合した時代を知ることは大切であり、真の交流連帯は正しい歴史を学ぶことから出発する。
 韓国旅行帰りの若者諸君のみやげ話しで、「日本語が通じた」、「韓国王室が突然消えた」等々の疑問発言を聞くたびに、こう思わざるをえない。この国の指導者と呼ばれている連中が、歴史教育を自分たちに都合がいいように変質させ、あるいは覆い隠し、これを恥と考えずに現代に至ったこと、またしかし、これが崩れる日が来るに違いないと。
 最後に、この映画上映までの、長い時間とさまざまな試練や資金集め、日本と韓国の歴史認識の相克をのり越えた多くの関係者の汗と努力、これに感謝したい。なお、製作過程については、最近発刊された小澤龍一製作委員会事務局長の著、『道・白磁の人 浅川巧の生涯』(合同出版)に詳しい。
日本帝国の朝鮮強制併合時における浅川巧の言葉、「疲れた朝鮮よ、他人の真似をするより、持っている大事なものを失わなかったら、やがて自信のつく日が来るであろう。このことはまた工芸の道ばかりではない」、意味深い言葉である。(N)


EU・ユーロサミット
 直接資金投入で妥協
      支援要請は5ヶ国

 六月十四日、スペインの10年物(返済期間が10年)国債の流通利回りが、7%を突破した。7%というのは、ユーロ導入以来もっとも高い水準であり、また財政の自力再建が困難とされる水準である。利回りの急上昇は、前日に、米格付け会社のムーディーズがスペインの長期国債の格付けを、「投機的」段階の一歩手前まで下げたことが、直接のきっかけである。
 流通利回りの急上昇は、イタリアにも波及し、先週末の5%台後半から十四日には6・3%にまで上がった。
 ギリシャの再選挙で旧与党の二大政党がかろうじて勝利した直後の十八日、ヨーロッパ市場ではスペインの財政・金融への不安は強く、再び7%台に突入した。スペインの国際金融機関への支援要請が確実視される中で、ギリシャと同様に貸した金が戻ってこないのではないか、という投資家の不安が高まっているためである。
六月二十一日、ムーディーズは、欧米の主要な計15金融機関の長期国債の格付けを、一斉に引き下げた。ヨーロッパのクレディ・スイスが3段階引き下げ(21段階の上から5番目)、米ゴールドマン・サックスなど10社が2段階引き下げ、米バンク・オブ・アメリカなど4社が1段階引き下げである。
国際金融市場の動揺がつづく中で、六月二十五日、スペイン政府はついにEU(欧州連合)に金融支援を正式に要請した。巨額の不良債権をかかえる国内銀行を救済するために公的資金の注入が必要なためである。
同日、キプロス政府もまた、EUに金融支援を要請した。キプロスでは、国内の銀行が保有するギリシャ国債の減免措置により、多額の損失を出し、やはり銀行の資本増強が必要な事態に陥っていたためである。
これで二〇一〇年以降、ヨーロッパの政府債務危機で、EUに支援要請したのは、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロスと五カ国に増大している。

 〈スペイン国債また7%台〉
六月二十八〜二十九日、ブリュッセルで開かれたEUとユーロの首脳会議は、意外な展開をみせ、次のような合意に至った。
まず、EU首脳会議(EUサミット)では、@域内の銀行の監督を欧州中央銀行(ECB)に一元化する方針で合意し(具体策は今年中に詰める)、Aインフラ整備など1200億ユーロを投じる方策を盛り込んだ「成長・雇用協定」を採択した。また、各国の預金保険制度の統一などは今後さらに検討を進めることとした。
ユーロ首脳会議(ユーロサミット)では、ESM(欧州安定メカニズム 七月中に発足)を通じて、経営不振の銀行に対して資本を直接注入する枠組で合意した。また、国債利回りの急上昇を抑えるために、ESMによるスペイン、イタリアなど南欧国債の購入も柔軟に行なうこととした。
大方のジャーナリストも、市場もまた、このような合意がなされるのは意外なものであった。その証拠に、EU・ユーロサミット閉幕直後の世界の株価は急上昇し、ユーロの対円相場も2円ほど高くなった。
世界の金融市場も驚くような合意は、結論的に言えば、イタリア・スペインの連合軍がフランスなどを巻き込み、ドイツから譲歩をもぎとったことにより生じた。
二十八日夜のEUサミット会議で、イタリア・スペインの両首相は、事前調整で容易に決着するはずだった「成長・雇用協定」をはじめ全ての議事で、賛成しない態度を表明した。市場安定化のための短期策の論議も一緒に行なうよう強力に求めたのである。
ESMなどが当該銀行へ直接資本注入できず、当該国家を経由しなければならないため、銀行危機で公的資金を注入しようとすれば、その国の政府債務が増大し、国債利回りの上昇で国家財政の信用不安に陥るという「負の連鎖」をどうしても断ち切る必要があったのである。
これを受けて、急きょユーロサミット会議が開かれ、両首相が強硬に要求する短期的な市場安定化策が協議された。ここで、スペイン、イタリア、フランスなどによる包囲網に陥ったドイツは、ついに柔軟姿勢に転じ、「ESMを通じた銀行への直接資本注入」を受け入れる代わりに、「域内全体の強力な銀行監督体制の構築」をもって妥協したのであった。
これで、スペインで典型的に見られるような、銀行の救済と国家財政の信用不安が連動する「負の連鎖」を鎮め、一服したのである。
しかし、一服したのもつかの間、七月六日、スペインの10年物国債の利回りは、またまた7%台に突入し、同日のNY市場では、1ユーロが97円台後半に下落している。
国際金融市場の動揺が繰り返されるのは、根本的にはEU圏の財政・金融危機が、簡単には解決しないからである。まさに前途遼遠である。
欧州共同債の発行やEU全体の金融機関の監督・預金保険制度の統一など、中長期的政策での意思統一と実践化はまだまだ極めて困難である。それだけでなく、短期策でも、ESMによる銀行への直接資金投入ひとつとっても、ユーロ圏での銀行監督制度が年末に発足することが前提である。ESMなどの安全網全体としても、スペイン支援に多額の資金が投入されるので、南欧諸国などの国債購入にも足りなくなる恐れがある。抱える課題は、いまだ山のようにある。(Y)