欧州債務問題
  ユーロ安値の更新から世界同時株安へ
    スペイン破綻は世界的混乱

 五月二十三日午前のニューヨーク外国為替市場は、1ユーロ=99円台をつけ、さらに三十一日には、一時、1ユーロ=96円48銭まで値下がりした。これは、二〇〇二年一月にユーロが現金として出回るようになってからの最安値97円04銭(一月十六日)を、四ヵ月半ぶりに塗りかえるものである。
 引き続いて六月一日の欧米外国為替市場でも、1ユーロ=95円台の水準へとさらに値下がりしている。
 ユーロ相場は、ギリシャ政府の債務を減らす交渉が一応「ひと段落」した三月末には、1ユーロ=110円を超える水準まで買い戻されていた。しかし、五月六日のギリシャ総選挙で、緊縮策一辺倒を批判する野党が勝利し、ふたたびギリシャの財政不安が再燃した。ギリシャのユーロ離脱の論議や、「ユーロ共同債」の発行を巡る各国間の対立が顕在化し、ユーロ売りが続いた。これに続いて、財政危機・金融危機はスペインやイタリアにも波及するなどして、ユーロ安は深刻となり、歴史的なユーロ危機となっている。(図表を参照、六月一日付け『朝日新聞』)
 
  スペイン市場の緊迫

 スペインの10年物国債の流通利回りは、六月一日には6・5%にまでハネ上がり、昨年の11〜12月の高値水準にふたたび匹敵するようになり、「危険水準」といわれる7%に迫っている。
 スペインの国債金利の上昇は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が五月三十一日に報じた記事がキッカケであった。それによると、国際通貨基金(IMF)が、スペインの大手銀行バンキア支援のための資金調達に同国が失敗した場合に備えて、スペインへの金融支援を検討し始めた、というのである。
 これに先立つ五月二十五日、経営難に陥ったバンキアは、190億ユーロの公的資金の注入を政府に要請する、と発表している。だが、国債を使った救済計画については、ECB(欧州中央銀行)が拒否した、と英紙フィナンシャル・タイムズが五月三十日に報じていたのである。
 バンキアをふくめスペインの金融機関の多くは、2007〜08年のサブプライムローン問題をキッカケとした世界金融恐慌のときに不動産バブル崩壊で、強烈な打撃を受けた。この結果、スペインの金融機関は大規模な不良債権を抱え込んだ。しかし、その解決はほとんど進んでおらず、今年三月末の時点でもまだ、総額1479億ユーロ(約14兆3000億円)の不良債権を抱えている。
市場では、スペイン政府はバンキアをふくめて1000億ユーロ(約9兆7000億円)程度の公的資金の注入を迫られているが、その「資金を賄いきれない」と、観測しているといわれる。
ギリシャの10年物国債利回りが29%なのに対して、スペインのそれが6・5%と低いにもかかわらず、市場が大騒ぎするのには理由がある。
それは、一言で言うならば、経済破綻した場合の世界資本主義への打撃が、ギリシャに比較して、スペインの場合は比べものにならないほど大きいからである。
ギリシャを1とした場合、スペインの規模は、人口で4・2倍、GDPで4・7倍(名目GDP1兆4073億ドル〈約108兆3600億円〉)、国債や社債などの債務不履行(デフォルト)によって銀行がこうむる損失で7・8倍(推計3832億ユーロ〈約37兆1700億円〉である。
このため、スペインの破綻による世界経済への影響は、リーマン・ショック時よりもはるかに大きいといわれる。先の世界金融恐慌からわずかな年数を経ての世界恐慌では、もはや財政資金を大規模に投入しての救済がほとんど不可能である。世界資本主義が大打撃を受けることは、必至である。
スペインの失業率は24%を超え、ギリシャをしのいでEUで最悪である。24歳以下の若者の失業率に至っては、49%である。ギリシャと同様にスペインでも、独占資本は労働者への犠牲の押し付けで、資本主義の矛盾を解決しようとしている。労働者よりも資本の利益のために経済再建を狙う政府に対して、労働者は多くの人民と団結して、断固たる反撃と抵抗を闘い取ることが重要となっている。
事態は、ヨーロッパの財政・金融危機だけでなく、世界同時株安に発展している。アメリカも中国など新興国も景気後退を鮮明にしている。世界の労働者の団結と闘争がますます問われている。 (T)