「大阪維新の会」との闘争強化を
                                 浦島 学


 橋下大阪市長と松井一郎大阪府知事が圧勝したダブル選挙から間もなく半年。「大阪維新の会」人気に押され、民主党、自民党、公明党等各党がこぞって協力姿勢を見せ、大阪都構想に関する法案が、今国会で成立する可能性が高まってきた。
 5月25日、橋下市長は、こうした情勢を背景にして「選挙を活用し、民意の後押しを受けて、ここまで来た。統治機構を変えていく。」と主張。大阪都構想・住民自治を否定し、労働者大衆を収奪する道州制の実現を強引に推し進める決意を示した。
 われわれは、橋下維新の会の特徴を一層鮮明にし、維新の会との闘いを労働者・大衆とともに強化する。

  (1) 強権的支配で新自由主義を推進

 大阪維新の会は、大阪都構想を主要な政策として掲げている。それは、大阪府と、政令指定市の大阪・堺両市を解体し、大阪全体の成長戦略や景気対策・雇用対策、広域インフラ整備等広域行政を担う「大阪都」と、大阪市内の24区を中核市なみの権限・財源をもち住民サービスを行う8区程の「基礎自治体」に再編する構想である。
 橋下市長は「世界は激しい都市間競争の時代」をむかえ「このまま何もしなければ、税収は減り続け、大阪は衰退するのみ。」「大阪都によって、大阪の都市としての活力・競争力を高め、大阪全体の成長を図る。」として大阪都構想の必要性を強調する。そして、橋下市長の後見役で大阪府市特別顧問の堺屋太一氏は、「大阪から始まる、日本の国の形の大変革」と規定する。氏はさらに続けて「国は国の仕事、外交とか防衛とか、通貨問題とか国益全体にかかわる問題に専念する。住民サービスは基礎自治体。基礎自治体だけではまとまらない相互の調整や広域的な事業は、広域自治体が取り組む」そうして「日本は、道州制を目指すべきだろう」とその概要を明らかにしている。
 また、橋下市長は、政治と行政の役割分担として「政治家の役目は、一定の方向性を示し・その実現に必要な人やお金の配置をし・組織が機能する環境を整え、組織が動かなくなる原因を取り除くといった、組織マネジメントをすること」そして「個別の政策を実行するのは、行政組織しかできない」と述べている。さらに堺屋氏との対談では「大阪都構想と教育基本条例、職員基本条例はワンセットの戦略。」と発言し、「職員基本条例は大阪府・大阪市の職員、つまり公務員の解雇や降格人事を可能にするもの。教育基本条例は、おなじく教員の懲罰規定の明確化と教育への政治の一定の関わりを盛り込んだもの」と言い切っている。
 これらの発言から大阪都構想は、住民一人ひとりの思いを大切にして地域の政治や生活を作り上げる住民自治ではなく、新自由主義の掲げる道州制をまず大阪で実現しようとする政策であることが明らかになる。それは都市間競争に打ち勝つために、基礎自治体の権限を奪い、財源を吸い上げて、大企業の基盤整備に重点投資し、大企業の利益を保障せんとする新自由主義政策そのものである。大阪都構想は労働者・大衆の利益とは無縁の代物と言っても過言ではない。
 さらに橋下市長は、政治家と行政の役割にふれて、大阪都構想を実現するためには、行政の役割が必要不可欠であり、公務員労働者が忠実に従うことを強制する。公務員労働者を有無を言わせず従わせ、反対する者は、解雇、降格して従順に従う労働者・強権的支配に従う労働者をつくり出そうと画策しているのである。橋下大阪維新の会は新自由主義を掲げ、強権的支配を目論む、新自由主義右派勢力として登場している。反動的で危険な政治勢力と言うことができる。

  (2) 公務員労働運動の解体ねらう

 新自由主義を掲げ、強権的支配を目論む大阪維新の会は、大阪都構想を中心にその目的を実現するために、公務員労働運動の解体をねらって活動している。
 橋下市長は昨年12月19日、初登庁し、時間内組合活動があるとして大阪交通労組を攻撃した。そして12月28日の施政方針表明では、市バス・地下鉄の民営化、二重行政の解消、余剰人員は分限処分できるよう法的な整備をする等と発言した。また市役所が休み中の年末年始に、部長、局長たちにメールを発信、労組とは法的に最低限の交渉しか認めないこと、これを破れば厳罰に処すと表明している。そして「組合適正化条例」を制定し、交渉ルールを厳格化する旨明らかにした。
 今年に入ると施設管理課は、大阪交通労組に組合への便宜供与を解消すると表明、市の建物内にある組合事務所を1月31日までに撤去するよう要求した。この攻撃は、他労組にも波及し、市職労支部は事務所を外に移し、市庁舎にある本部も退去したうえで、法廷闘争を行う方針をとった。
 さらに2月9日総務局長名で「労使関係に関する職員アンケート調査」の指示が出され、10日から16日の間に回答することが強要された。設問の内容は「労働条件に関する組合活動に参加したことがあるか。」「活動内容」「誘った人」「誘われた時間帯」「組合に加入しているか」等22項目を回答させている。(この違法アンケートは大阪府労委から緊急是正勧告を出されて破綻)。
 また、同日、橋下市長が業務用メールの内容を極秘に調査していることも明らかになった。
 大阪維新の会は、時間内の組合活動を禁じ、組合事務所を職場から排除、労働者の思想調査によって組合活動する労働者、オルグした人まで調べ上げた。そして、法的に最低限の交渉しか認めず、民営化をも追求している。それは明らかに組合活動に敵対し・組合活動を不可能にするものである。
 そればかりではない。職員基本条例 総則(目的)第一条には、「健全な人事制度を構築しこれを厳格に運用するために・・・任命権者による人事権の行使を適切なものとして・・・」と規定されている。大阪維新の会にとって健全な人事制度とは、主張からして、新自由主義の政策を強権的に推し進めることに反対し、忠実に従わない労働者を迅速に、有無を言わさず処分することになる。そのことを裏付けるように、第八章 職員の懲戒(懲戒処分の基本方針)には、「組織の規律と公務遂行の秩序を維持して‥市民の信頼回復を図るため‥適正かつ迅速に懲戒処分を行なう‥」と述べられている。組織規律・秩序の維持・市民の信頼等、処分の規定は、きわめてあいまいだが、橋下維新の会の意に反する労働者や労働運動を担う労働者を処分することが示されている。
 地方公務員法は第三章第五節で分限及び懲戒について厳格に要件が示されているが、職員条例はきわめてあいまいで、条例の多くの部分を処分に割いている。
 大阪維新の会は、組合への露骨な支配・介入を行い、団結権を侵害している。これら一連の労働組合攻撃は、単なるいやがらせではなく、公務員労働運動の解体をねらって仕掛けられている。
 橋下市長は、施政方針演説で、「大阪市の組合をこのまま放置しておくとギリシャのようになってしまう。これを徹底的に是正」しなければならない、「全国の公務員組合を是正することなしに日本の再生はない。」と公言した。大阪を皮切りに公務労働運動を解体することが、維新の会のねらいであることが明らかになった。
 そのために大阪維新の会は、「市の交通局の労働組合は‥民営化は断固阻止しなければならないと主張して、労働組合が押す立候補者を当選させようと」し「職員組合と市役所が一体となって」市長選対策をしていたと述べ、組合攻撃を仕掛けている。それは民間労働運動の弱体化の中で公務員労働運動の解体、日本労働運動の衰退をもたらすことになる。橋下維新の会との闘争を強め、維新の会と追随する勢力を解体することが求められている。

  (3) 教育の強権的支配もくろむ

 「体制維新―大阪都(文芸春秋刊)」は、教育について「教育の方向性を示すのは政治の役割」「大阪府の教育方針の下で、それぞれの創意工夫でやればよい」と記し、さらに「君が代起立斉唱についても―職務命令まで出されたにもかかわらず堂々と無視する教員がいる。有権者から受けた大きな方向には従ってもらわなければなりません。」と主張する。ここには、強引な国家主義・軍国主義教育の押し付けと共に、知事の教育方針を強制し、教育労働者を支配する強権的教育支配がある。そして、強権的支配によって従順に従う子どもたちを育て、その体制を維持しようとする目論みがある。
 プロレタリア506号(浦島学論文)は、「知事の独裁的権力で、新自由主義教育の貫徹を目論む」教育と規定しているが、このことも強調しておかなければならない。
 「職員基本条例は大阪府・大阪市の職員、つまり公務員の解雇や降格人事を可能にするもの。教育基本条例は、おなじく教員の懲罰規定の明確化と教育への政治の一定の関わりを盛り込んだもの」と主張するのは、このことを裏付けている。大阪維新の会は、教育の強権的支配をもねらっている。
 3月23日大阪府議会は、大阪維新の会ほか自民・公明の賛成で、違法の教育関係三条例(教育行政基本条例・府立学校条例・職員条例)を可決した。引用の教育基本条例は、修正協議が進められ、教育行政基本条例・府立学校条例として成立している。しかし、その本質は何ら変わるところはない。
 大阪府教育委員会は、教育基本条例案が可決されれば総辞職すると表明していた。しかしダブル選後の12月上旬以降、「国の法令に違反しない条例案づくり」に方向を転じた。そして1月30日、府教委案は第4回市統合本部会議に提出され、原英史特別顧問の意見に基づく修正が加えられている。修正個所は2ヶ所で、一つめは「知事は委員会と共同して基本計画の案を作成」し「共同」を「協議」に修正した。知事の政治介入を抑えるための「共同」が「協議して」に修正され、教育振興計画案の作成権を知事に与えてしまった。そして二つめは、教育委員の罷免に関する条項だった。
 その結果、教育行政基本条例は教育振興基本計画について「知事は教育委員会と協議して基本計画案を作成」し「府議会の議決」ののち「遅滞なく基本計画を公表する」と規定した。そして、基本計画では、「大阪の教育の振興に関する基本的な目標及び施策の大綱」と「教育の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進する必要な事項」を定めるとした。
 さらに府教委には、「目標」の達成状況に関する自己評価、基本計画に基づく「市町村に共通する教育の基本方針」策定と指導助言援助が義務付けられた。そして教育委員には、自己点検・評価が義務付けられ、その結果で罷免が規定されてしまった。
 府立学校条例では、府教委が「府立学校に共通して運営の指針となるべき事項」を定め、府立学校が指針に基づいて「学校の運営を行うよう指示する」と決められた。そして校長は、基本計画と指針をふまえ「学校協議会」の意見を聞いて、経営の視点を取り入れた「学校経営計画」を定めるよう義務づけられた。さらに「学校経営計画」に定める「教育目標達成状況」について、学校評価を行うよう義務づけている。
 これらは、徹底した目標管理システムであり、維新の会の教育基本条例と何ら変わらない。知事の教育支配を「教育振興基本計画」としてオブラートに包んだに過ぎない。
 教育振興計画の根拠は、教育基本法第十七条にある。そこでは、教育条件整備に関する基本方針を体系的に整理している。教育基本法は、教育への政治加入を排除する立場で貫かれ、決して学校や教職員を評価管理したりする法ではない。まして、知事の教育への政治介入等決して許してはいない。教基法を否定する立場であり、条例は違法である。
 
  (4) 地域に闘う陣形を

 5月31日、橋下市長は関西電力大飯原発三、四号機の再稼働に関し、夏の電力不足を乗り切るために一時的な再稼働に限るとした上で「事実上の容認だ」と明言した。原発に反対する素振りを見せ、民意を引き付けた橋下市長は、いよいよ馬脚をあらわしている。
 しかし、橋下人気や大阪都構想に関する法案成立の可能性は、各地に追随する勢力を生み、拡大する可能性もある。総選挙の気運が高まればなおさらである。
 われわれは、維新の会の攻撃を一つ一つはね返す闘いを組織し、労働者大衆と共に闘う。そのためには、労働運動が地域に進出し、市民運動と固く結合して地域闘争を強めることが求められている。総評運動の地域共闘ではない、地域市民運動等との固い団結である。
 地域に闘う陣形をつくり闘争を通じて拡大し、維新の会を追いつめることが今こそ問われている。反原発、脱原発の運動をも担って維新の会との闘争を強めよう。共に闘わん!(了)