新たな改憲策動を粉砕しよう
  米国の対中国戦略の尻馬に乗る9条改憲派

 五月三日の憲法記念日を迎えた昨今、憲法「改正」を求める右派勢力の策動が、再び活発化してきた。9条改憲を中心とする憲法改悪の動きは、07年の安倍内閣倒壊で打撃を受け、しばらく低迷していたが、あらたな改憲論拠を掲げて復活してきた。
 その理由は制度的には、安倍内閣の置き土産である改憲国民投票法によって国会に設置された憲法審査会が、四年余をへて両院で始動してきたからである。衆院の憲法審査会は麻生内閣時にその「規程」策定が強行されたが、当時は民主党の抵抗で動かなかった。しかし政権交代後の参院選で民主党が敗北し、事情が変わった。参院の憲法審査会は、東日本大震災からまもない昨年五月に「規程」策定が民主・自民の翼賛で行なわれた。昨年十一月から両院で憲法審査会の議事が開始されている。
 憲法審査会は、国会提出の憲法改正案を審査するものとされている。四月二七日、この憲法改正案が戦後初めて、国会に提出される事態が発生した。一院制国会実現議員連盟(会長・衛藤征士郎衆院副議長)が、定数500一院制の改正案を衆院に提出したのである。制度的には、これを憲法審査会が受理すれば国会審議に掛けられ、3分の2以上の賛成で国民投票となる。
 制度的には、そこまで改憲攻撃が来ているのである。現実には、この自民党・衛藤らによる動きは、改憲勢力の予行演習である。そのまま進まないのは、改憲国民投票法は成立時に多くの付帯決議が付いたように欠陥法律であり、十八歳成人問題など多くの関連法が整備されなければ機能しないからである。前提が出来ていないのに、憲法審査会を開始していること自体が暴挙である。
 こうした手続き上の批判も重要であるが、改憲論の政治内容への批判が最重要であることは言うまでもない。
 四月二七日の自民党による二回目の改憲草案の発表を始めとして、改憲派が続々改憲案を公表した。ここ数十年の改憲論は、1992年以降の自衛隊海外派兵を動力とするもので、「一国平和主義」を批判し「国際貢献」のためには9条改定が必要だとするものであった。この基調は今も続いているが、新たな論拠付けが加わってきた。
一つは、東日本大震災の教訓をふまえ、「非常事態対応」の条項が必要とするもの。
これは教訓を、真逆に描くデタラメである。大震災・原発事故の教訓は、戒厳令によって被災者・国民を統制せよということではなく、権力側が情報を隠し、放射能被害などを拡大させたことである。また指示待ち・予算待ちでは復興は進まず、住民の自治的活動をこそ支援すべきだということである。権力統制では、事態はかえってひどくなる。
二つは、中国の大国化をふまえて日米同盟を「深化」する必要があり、そのためには、やはり9条改正が必要だとするもの。
自民党の改憲草案は、05年の案での「自衛軍」を今回は「国防軍」としているが、この改憲論の代表である。民主党政権の「動的防衛力」と通じ合う。この改憲論は、米帝国主義が「対テロ戦争」から「対中国戦略」へ転換したことに依存し、その尻馬に乗るものである。しかし悪乗りして、石原都知事のように中国や朝鮮半島への敵意をむき出しにする危険な改憲論である。中長期的にみて、対中国の国民意識の行方が、憲法闘争についても重要になってきている。
三つは、「決められない政治」を打破し、「統治機構を変える」憲法改正が必要だとするもの。
これは、橋下大阪市長ら「大阪維新の会」に代表される。「維新の会」の総選挙公約では、首相公選・参院廃止・憲法改正2分の1などを掲げる。「決められない政治」の背景には「ねじれ国会」状況があるが、政界再編成で「決められる」独裁をやろうとしている。また公約では、戦術的に9条改定を掲げていないが、橋下は、「9条は他人を助けるのに、危険なことはやらないという価値観」、「国民が9条を選ぶなら、僕は別のところに住む」(3・24記者会見)とする根っからの9条改憲論者である。
新たな改憲勢力の策動を、憲法闘争の強大な共同闘争で粉砕しよう。