政府・電力会社による原発再稼動の真意はどこにあるか
   再稼働を許さず、全ての原発を廃炉へ
                           遠山 健次郎


 今年5月5日、北海道電力泊3号機が定期検査に入り、国内の全原発が停止しようとしている。政府や電力各社は、影が薄くなる原発の存在を示すためにも、再稼働に向けた攻撃を強めている。
 昨年12月16日、野田政権は、政府原子力対策本部の会合で、東京電力福島第一原発が「冷温停止状態」を達成し「事故そのものは収束に至った」と強弁。次いで12月26日、国の事故調査検証委員会が中間報告を公表し、津波による過酷事故を想定せず、対策を講じなかったこと、非常用冷却装置を作動させた経験がなかったこと等を主な事故原因として掲げた。そして地震による配管の破損で大事故がすでに始まっていたことを一切無視し、津波対策等によって、再稼働可能であるかのごとく装った。
 さらに経済産業省原子力安全・保安院は、関西電力大飯3・4号機について2月13日に、次いで四国電力伊方原発3号機について3月3日に、電力会社の耐性評価(ストレス・テスト)の一次評価を「妥当」と判断し、3月23日には大飯原発3・4号機についてのこの判断を内閣府原子力安全委員会が承認し、再稼働の手続きが後は地元の同意という最終段階に入った。原子力安全・保安院や電力各社等は「初めに再稼働ありき」の立場から、福島第一原発の原因究明がいまだに未解決のまま、「原子力ムラ」の仲間うちだけの手続きで、原発の再稼働を強行せんとしている。
 また、東京電力は2月2日、福島第2原発の内部を震災後初めて報道陣に公開、地元では「再稼働に向けた動きか」といぶかる声も出ている。
 電力各社、野田内閣、経済産業省、文部科学省は、地元自治体と世論が原発再稼働に広く反対している中、何が何でもこれを強行せんとしている。安全を省みず、労働者人民の生命を危険にさらしてまで強行せんとする狙いを探ってみたい。

倒産対策としての再稼働

 原発が核兵器を製造・開発し、核武装を進める装置として建設・稼働されてきたことは、『プロレタリア』8月1日号遠山論評で述べられている。原発再稼働もこのことを目的にしているのは、自明のことだろう。
 それとともに、東京電力が、経営破綻寸前の状態に追い込まれていることも見逃せない事実として上げられる。
 2012年3月末で東京電力の総資産額は、およそ13兆円と言われている。しかし東京電力は8兆円を超える借金を抱え、毎年1兆円近くの借金を返済し続けなければならない。東京電力は、電力債の償還、銀行借入れの返済や借換えが次々とやってくるため、莫大な資金を用意しなければならない。
 けれど、原発事故を引き起こした東京電力は、銀行からの融資を受けたり、電力債の発行をしたりすることができず、資金繰りが非常に困難になっている。
 その上、稼働していない原発は、維持費に莫大な資金がかかるのみで、利益を生むことがない。ましてや原発が稼働していれば、銀行からの融資も可能かもしれないが、それもままならない。金子勝教授(慶応大学)によれば、原発は、経営上の「不良債権」であり、どんどん赤字が膨らんでいくばかりであるという。「東京電力に関する経営・財務委員会」のシュミレーション(東京新聞2月17日)によると、電気料金の値上げをしないと仮定すると、2020年までに必要となる額は、再稼働しない場合8兆6427億円。再稼働させると半分以下の3兆7824億円になる。電気料金を10%値上げする場合には、再稼働なしで4兆2241億円、再稼働させると7540億円と10分の1以下に激減するととされている。
 つまり、「火力発電による燃料費上昇のための電気料金値上げ」は、口実に過ぎない。原発を再稼働し、電気料金を値上げして経営危機を乗り切ろうとしているのが本当のところである。他の電力会社は、重大な事故を起こしていない分多少余裕があるが、同じような課題を抱えている。
 さらに「経営・財務委員会」の試算には、事故被害者への賠償や除染費用が含まれていない。賠償見込み額は、少なく見積もっても6兆円近くにのぼり、除染費用も1兆円以上になると見られている。それでも全く足りない可能性が高い。
 会社を潰さないために工場を動かせ、というのが原発再稼動である。東電の防衛が前提となっていれば、賠償も危うい。

人命無視の原子力政策はそのまま

 国の原子力政策の基本は、内閣府の原子力委員会が定める「原子力政策大綱」に示されている。
 「大綱」には、原子力の安全確保について国は、「人は誤り、機械は故障することを前提に・・・リスクを抑制するための措置を講じることを求め、・・・安全確保の仕組みを整備してきた。」「この政策は正しく、安全確保の仕組みは万全である」と書かれている。そして、原子力事故やトラブルが生じた際には、「東京電力の不適切な行為、日本原燃六ヶ所再処理工場の不適切な施行等」があったため、「国の規制や対策は充分であったにもかかわらず、事故が発生した。」と総括した。
 原発は、人類にとって制御不能で、対策や規制を強化しても事故は防ぎようがない。それを承知の上での詭弁である。
 詭弁は多重防護の考え方にも見られる。多重防護とは、個々に独立した安全対策が幾重にも施されていれば、いくつかの対策が失敗しても、どれかの対策が働いて、深刻な原子力災害は防げるという考え方である。
 それは@事故を誘発するような事象が少ない地点に立地すること。A設計、建設、運転において異常事象の発生が極力抑えられていること。B異常が発生しても、早期に検出して処理し、危険の顕在化を防ぐこと。C事故になっても、影響をできるだけ緩和する設備上の対策を、設計の段階から施しておくこと等々七つの観点が上げられている。この七項目は、ことごとく福島第一原発事故でその矛盾をさらけ出した。どんなに対策を講じても、根本的に事故を防ぐ技術がない以上、原発の暴走は避けられない。最初から分かっていたことではなかったのか。
 これらの事実だけでも彼らには、真剣に労働者人民の生命を守り、健康を守ろうとする意識など一かけらもないことが分かる。彼らは危険を百も承知で「深刻な事故が起こる確率は無視できるほど小さく、日本の原子力政策は、安全性が確立されていることを前提に進められている」等と根拠もない安全神話を吹きまくってきた。
 原発の建設を決定してから間もない1959年、科学技術庁は、すでに原発の危険性を把握している。日本原子力会議に委託して作成した報告書には、要約すると次のように記述されている。
 東海原発を想定した調査で放出量37京ベクレルのケースでは、「放出パターンと気象条件によっては、数百名の致死者、数千人の障がい、百万人程度の要観察者がでる。また物的被害は最悪の場合、一兆円以上に達する」と。当時の国家財政がおよそ一兆八千億円、被害額はその半分以上に相当している。これには除染費用や廃炉費用が考えられていないが、あまりにも衝撃的な報告に科学技術庁は、この報告書を非公開のまま放置していた。
 この事実を受け、時の政府は1961年、四つの原則を持つ原子力損害賠償法(原賠法)を制定した。その一つは、原子力事業者に無過失責任を課し、賠償責任を厳格化すること。二つめは、賠償責任の集中。それは、原子力事業者だけが責任を負い、プラントメーカーやゼネコン等の責任を問わないとした。第三は賠償措置の強制、第四は国の援助が掲げられている。一見もっともらしく装っているが、原賠法は、原発製造業者らを守り、大事故になれば国が援助して、原発等の運転継続を保障している。つまり原賠法は『原子力事業の健全な発達』を目的とし、大事故が起きても上辺だけの早期結着をはかって、原発等を強引に運転し続けるために制定されている。原子力事業は当初から、国策として核武装を進めるため、人の命をないがしろにして進められてきた。

「原子力ムラ」利権のための再稼働

 福島第一原発事故がおこると「原子力ムラ」の存在がクローズアップされてきた。「原子力ムラ」は、国策としての原子力開発推進によって、政官財労学そしてマスメディアを巻き込んで拡大した運命共同体的利益集団であり、非常に閉鎖的で強力な政治力・経済的パワーを持つ集団である。
 それは広い意味で、電力九社および日本原子力発電など、三菱重工業・日立製作所・東芝IHI等プラントメーカー、ゼネコンを中心とした原子力協会会員企業、電力総連など電力関連の労働組合、文科省・経産省・資源エネルギー庁・保安院など中央官庁、そして、一部政治家、各種メディア、原子力工学出身者を中心とする一部学者・研究者で構成されている。この中でも電力会社と中央官庁、政治家が中核をなしている。
 電力会社が国策を推進するため影響力を行使するパターンはいくつか上げられる。その活動を通じて「原子力ムラ」は拡大されてきた。
 その一つは、直接政治に影響力を行使する方法である。電力会社出身者に組織的支援を行ない、国や県に議員を送り込んで、政策を有利に進める。また、電力会社の役員が、自民・民主等に多額の政治献金をしたり、電事連も含めて、特定政治家のパーティー券を購入したりすることは、よく知られている。
 第二は、官僚との関係を深めるパターンである。電力会社が官僚の天下り先を用意したり、「官民交流」と称して電力会社社員が国家公務員になったりすることが、常態化している。電力会社に籍を置いたまま、あるいは電力中央研究所に出向した形で、非常勤の国家公務員になったりもしている。
 そして第三は、学者を使って原子力推進に学問的権威付けをするパターンがあげられる。そのため電力会社は、有力大学の学者に多額の研究費を提供したり、破格の待遇で講師に依頼したりして学者を取り込んでいる。また、大学に多額の寄付をして講座をつくらせ、関連組織の人を送って、大学教員の肩書をとらせている。その他、メディアを通じて原子力賛成の世論形成のため、スポンサーになる等様々な例が上げられる。このように巧みに「原子力ムラ」は維持拡大されてきた。
 国策の原子力開発で電力会社や関連企業は多額の利益をあげ、一方で強固な利権集団が形成拡大された。かれらは莫大な利権を決して手離しはしない。
 政府・官僚、電力各社は国策としての核開発を推し進めるため、電力各社の経営破綻をくいとめ、あわせて独占企業と「原子力ムラ」の莫大な利権を維持しようとしている。それが再稼働の主要な動機であり、簡単に手を引くことはない。
 だからこそ、かれらはフクシマ以前の安全基準を使ってまでも、なし崩し的に原発を再稼働せんとしており、人命を危険にさらし、自然環境を破壊することなど全く気にもとめていない。電気料金を引き上げ、労働者、人民に負担を押しつけることも当然のことと考えている。


政策と大衆運動をととのえよう

 3月11日の震災一周年の記者会見で、野田首相は「原発再稼働の先頭に立つ」と表明、再稼働反対・慎重の世論に挑戦した。野田首相は、一次評価の妥当性を確認した後、地元説得のため「政府を挙げて説明し、理解を得る」などぬけぬけと言ってのけ、その反動ぶりをあらわにした。
福島第一原発は、メルトダウン・メルトスルーを起こしたまま放置され、再臨界の可能性も否定できない。それにもかかわらず、次々に原発を再稼働させるなど言語道断である。そのうえ、大地震が再び日本列島を襲う可能性は高い。
 我が党は、全原発の再稼働に断固反対し、すべての原発の廃炉を要求する。民主的な電力改革を求め、再生可能エネルギーの発電システムを普及させ、地産地消型社会の建設を進めるべきである。これら対抗運動を強め、政府・電力各社の暴走を阻止しせねばならない。
 そのためには、まず労働運動の側の取り組みを強めなければならない。とりわけ連合傘下各労組は、下からの運動を強めて、原発を容認するダラ幹どもを放逐しなければならない。そして、ユニオン等様々な組織と手をたずさえ、反原発・脱原発の闘いを強化する必要がある。それとともに地域市民運動とも固く結合し、運動の輪を広げなければならない。
この運動で注目すべきは、子育て世代が運動に関わり始めたことだろう。とりわけ女性の参加が目立ち、我が子を放射線被害から守りたいという思いで、立ち上がっている。これらの人々の意思を尊重し、丁寧にかかわることが求められている。運動の拡大実現には、運動にかかわっていなかった世代との合流が求められている。
 これら広範な運動を背景にして、原子力政策に関与した者(原子力ムラ)全ての責任を明らかにし、それぞれの責任を問うことも可能になる。また、電気事業の地域的独占体制を解体し、発電、送電、配電等の事業を分割して、再生エネルギーへの転換にはずみをつけることが可能となるだろう。
 再稼働に反対し、断固とした闘いを。(了)