労働者共産党 第5回党大会 労働政策決議(2011・8)

非正規労働者の団結と闘争の前進のために
        「05年労働運動政策決議」の補強について


1  「労働運動政策決議」採択から6年

(1) 党は、2001年7月に採択した「我々がめざす労働組合運動の基本方向」において、個人加盟のゼネラルユニオン形成と地域ユニオンの推進を打ち出した。バブル経済が崩壊し、アメリカ主導の国際的な自由競争が激化し、企業の多国籍化、失業・企業倒産の増大、非正規労働者の増大、既存の企業社会の崩壊がすすんでいるが、既存の労働組合組織がこの情勢に対決できていない。企業の枠を超えた団結の必要性を提起し、課題別共闘の推進、地域を基礎とした労組と市民・住民団体との団結、自立した労働者諸個人の階級的団結を訴えた。
(2) ゼネラルユニオン構想は、情勢を踏まえた的確な方針提起であったが、党内議論は組織形態論が先行し、運動論が希薄であった反省から、2003年7月には決議草案「当面する労働組合運動における我が党の闘いの基本方向」を提案し、日本労働者階級の差別・分断支配を打破し、階級的統一を勝ち取っていく政治方向と、その基調における賃金闘争や反失業闘争などでの運動政策を提起した。
(3) 2005年7月に第3回大会で採択された「当面する労働組合運動におけるわが党の諸政策」(以下「決議」という)は、草案にもとづく内部討議を経て採択されたものである。「決議」は、新自由主義路線が席巻する労働情勢を指摘し、これと全く闘えずに衰退する連合労働運動を総括し、今後の労働運動の課題、主な闘争課題について、今後の基本方向、と全般的な分野について書き込んでいる。
(4) 労働運動政策決議から6年を経過したが、「年越し派遣村」、リーマンショック、自民党から民主党への政権交代、東日本大震災など、大きな状況変化があった。「決議」の基本路線は維持しつつ、状況変化に伴う修正ならびにすでに労働者の3分の1以上を占める非正規労働者の団結の促進と運動の前進を図る提起をおこない補強とする。

2  最近の労働情勢の特徴

(1) 労働者の状況
@ 2010年の雇用者(役員を除く)5111万人のうち正規労働者は3355万人、非正規労働者は1755万人である。経団連が「新時代の日本的経営」を発表した1995年と比較してみると、雇用者は331万人増えているが、正規労働者は424万人減少し、非正規労働者は754万人増加している。非正規労働者の割合は、20.9%から34.3%になり、2009年にリーマンショックで一旦低下したものの過去最高となった。
A 2010年の完全失業者は334万人、完全失業率5.1%であり、リーマンショック後の前年から変化がない。男性は5.4%と0.1ポイント上昇し、女性は4.6%と0.2ポイント低下した。完全失業率を年齢階層別にみると男女とも15〜24歳が最も高く、男性は10.4%,女性は8.0%である。
B 国税庁の調査によると、2009年の民間労働者給与平均は405.9万円である。前年より23.7万円、5.5%低下している。給与が一番高かった1997年より62万円、13%低下している。年収200万円以下が1099万人、300万円以下が1888万人と低所得者が増加している。厚生労働省の毎月勤労統計の現金給与総額は、1997年から2009年にかけて一般労働者で5.1%減少し、パート労働者を含めると12.4%減少している。厚生労働省の賃金構造基本統計調査2009年によると男性正社員の年収は552万円(指数を100とする)、女性正社員384万円(70)、男性非正社員316万円(57)、女性非正社員231万円(42)であり、男女間賃金格差、正社員と非正社員の賃金格差は拡大したままである。
C 厚生労働省の「若者雇用実態調査」によれば、15歳から34歳の労働者で自分の収入だけで生活している人は、正規労働者で51.6%、非正規労働者で30.3%である。若年労働者の賃金総額階級をみると、15万円〜20万円未満が24.3%と最も多く、次いで20万円〜25万円未満が23.5%、10万円〜15万円未満が14.7%の順になっている。
D 総務省によると地方公共団体の一般行政部門(教育、警察、消防、公営企業を除く)の職員数は、1995年の117.5万人をピークに毎年減少し、2010年は93.7万人になった。国が職員定数削減を条件に地方交付税の交付額の決定や起債の許可に圧力をかけるとともに、人件費削減を公約とした首長、議員が増えたことによる。そのため、指定管理者制度の導入など民営委託化がすすめられる一方、非正規職員が増加している。非正規職員数は、2005年で45.6万人、2008年で49.9万人である。自治労の調査によると、非正規職員の賃金は月給15万円前後が中心であり、一時金が支給される非正規職員は27%であり、年収200万円以下が7割に及ぶ。昇給なしが90%、雇用期間3年を超えるのが2%であり、低賃金、使い捨ての実態が明らかになっている。
(2) 非正規労働者の決起
@ 2006年以降の非正規労働者の反撃が開始された。大手新聞社が派遣労働の偽装請負問題を取り上げ一気に社会問題になった。そこには、派遣労働者が個人加盟の労働組合に加盟し、労働実態を明らかにしてきたのである。割増賃金なしの長時間労働、日雇い派遣、偽装請負など、派遣法が制定された当時には想定できないような派遣労働者の劣悪な働き方が問題になってきた。1999年の派遣の原則自由化、2004年の製造業派遣の解禁による弊害が問題になり、派遣法の抜本改正が課題となってきた。ナショナルセンターを超えた非正規労働者の共同行動が生まれはじめた。
A 2008年9月に発生したリーマンショックによって、日本経済は金融危機から本格的な経済危機に突入した。製造業は派遣労働者の解雇(いわゆる「派遣切り」)を強行した。3年以上の派遣は認められていないために、いわゆる2009年問題を抱えていた製造業は、派遣労働者の解雇、雇止めを行うことによって一気に生産調整を図ろうとしたのである。派遣労働者は、失業と同時に住居も失う状態であり、雇用保険も適用されない、セーフティーネットがない「滑り台」社会の現実が露わになったのである。2008年の年末は「年越し派遣村」が開村され、テント村と炊き出しによって年を越さなければならない状況が出現した。
B 自治労においても自治労連においても、非正規職員の組織化が重点課題になっている。自治労は約4万人、自治労連は約2万人の非正規職員を組織しているが、両組織を合わせても非正規職員の組織化は10%をわずかに上回る程度である。この間、非正規職員のたたかいによって、任期の定めのない一般職非常勤職員への移行、昇給制度の導入、時間外手当の支給などの成果が報告されている。自治労は、臨時・非常勤等全国協議会を結成し、非常勤職員にも諸手当を支給できるよう地方自治法の改正を国に要求している。また、パート労働法による均等待遇、差別的取扱の禁止、正規労働者への転換ができるよう公務員にも同法を適用するよう改正を求めている。さらに、多様な働き方を制度化しワークシェアリングをすすめるために任期の定めのない短時間勤務公務員制度の導入を目指している。
(3) リーマンショック
@ 2008年9月のリーマンショックは、進行していた世界的な金融危機が明確になるとともに、製造業をはじめ実体経済にも危機が国際的に波及する状況となり、世界的な経済恐慌の様相を呈した。それは1980年代から始まった新自由主義の破綻であり、1990年代から広がったグローバル経済が生み出した格差の拡大と過剰な生産の弱点があらわになった。それは、新自由主義の行き詰まり、世界的な転換期の到来であった。
A G20の開催など素早い国際協調により、各国の景気刺激策により景気は一定の下支えを得て持ち直しつつあるが、国際的な経済金融政策については、金融資本を規制する一致した方針をもたず、長期的には安定化策の見通しが立たない状況である。
B 派遣労働者は2008年に140万人いたが、派遣切りによって2009年には108万人、2010年には96万人と激減した。特に製造業では半減した。派遣労働者が減少し、製造業においては、一部では期間雇用(有期雇用)へ移行している。
C 低賃金の外国人労働力を移入する方策がより明確になってきた。移住労働者数は2009年の法務省統計によると約218万人である。ピーク時に約30万人に及んだ非正規滞在労働者は、国の取り締まり強化によって1993年から減少し、代わりに日系移民労働者と外国人研修・技能実習制度の下で働く労働者が、日本の最底辺の産業構造を支えるようになった。彼らは非正規雇用や劣悪な労働生活条件におかれ、最低賃金に満たない低賃金や労災補償も受けられないため、抗議のたたかいが全国で起こった。入管法が改正され、外国人技能実習制度が2010年に制定されて実務に従事する期間に労働法が適用されることとなったが、多くの移住労働者の生活労働環境はリーマンショック以降悪化していて、雇用・労働条件確保や生活困難の改善は依然大きな課題となっている。
(4) 自民党政権から民主党政権へ
@ 2009年9月に発足した鳩山政権は、子ども手当、高等学校授業料無償化など、子育てを社会が行っていく方向性を示した。働き方に対しても示唆を与えるものであったが、選挙対策上の政策にとどまっている。公務員についてはマニフェストで「地方分権推進に伴い国家公務員の総人件費を2割削減するとともに、公務員の労働基本権を回復し、民間と同様、労使交渉によって給与を決定する仕組みをつくる」としている。
A 菅内閣は、新経済成長戦略を打ち出し、医療、福祉、環境対策の充実と雇用確保政策を打ち出しているが、それら分野の労働者の労働条件が改善されているわけではない。菅内閣は、法人税引き下げ、企業献金禁止解除など大企業優先の政策を打ち出し、輸出産業重視、規制緩和の一層の推進を図ろうとしている。
B 2010年の労働経済白書は「総人件費抑制政策により、技能蓄積の乏しい労働者が増加し、賃金低下、格差の拡大をもたらした。労働者派遣法が後押しをした。成果主義賃金の反省」などをあげ、この間の労働政策を見直す動きが出ている。
C 2010年6月、JR不採用問題の和解が成立したが、再雇用については未解決のままである。また、日本航空では、再建計画を上回る利益を挙げているにもかかわらず、2010年大みそか、指名解雇が強行された。
D 憲法改正国民投票法が施行され、憲法改正手続きが機能するようになった。東日本大震災を契機に、危機管理を重視する憲法改正論が浮上してきた。一方で震災被災者の生存権を保障する制度づくりの必要性が言われている。
(5) 東日本大震災
@ 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、地震、津波、原発事故による大災害となった。被災地では、生活も産業も崩壊した。大量の失業者が発生した。雇用の確保が重要な課題である。労働条件の切り下げ、便乗解雇を許してはならない。大手ゼネコンによる復興事業支配、貧困ビジネスの暗躍を食い止め、地域産業を被災者、地元労働者が再建する方策がとらねばならない。
A 政府がすすめる復興構想会議は、規制緩和の一層の推進、TPP型に日本の産業を再編する方向を打ち出しており、新自由主義路線を明確にしている。農業、漁業をはじめ地場産業を再建し、雇用を確保しなければならない。
B 福島第一原子力発電所が制御不能に陥り、水素爆発と引き続く放射性物質の放出により、政府は周辺地域の住民に避難勧告を行った。事故の鎮静化には1年近くかかると発表しているが、避難はいつまで続くのか、その間の生活、仕事、学校はどうするのか、全く方針がない。放射能に汚染された地域、海域での生産活動に対する補償と再建についても同様である。政府は、原発を推進し、日本の核武装化をいつでもできる体制を作ってきたが、原発の「安全神話」は崩壊したのである。原発建設中止、既設原発の停止、浜岡原発をはじめ老朽化した原発の廃止を勝ち取り、自然エネルギーの開発、利用促進をすすめ、原発の廃炉をすすめなければならない。
C 政府は、震災復興への財源捻出を理由に、国家公務員の給与を5〜10%削減する法案を国家公務員制度改革関連4法案と抱き合わせで6月3日に国会に提出した。国家公務員の給与削減は、地方自治体や民間企業での労働者の賃下げに利用される危険性が高く、そうなれば、低賃金の非正規労働者の生活維持に対する影響が最も大きく、非正規労働者は団結して自らを組織化し、賃下げ攻撃に備えなければならない。また、「税と社会保障の一体改革」と称して、社会保障給付の切り下げ、増税を明確にした。

3  破綻した連合の運動

(1) 先進諸国でも賃金が低下しているのは日本だけである。政府の誤った経済政策、労働政策によって、非正規労働者の増大、貧困の拡大、デフレが進行した。連合が、このような政府の政策とたたかってこなかった責任は大きい。
(2) そもそも連合は労働戦線の統一によって政界再編の起爆剤になることを目指していた。連合が支持した民主党が政権についたことで連合は目的を果たしたわけだが、連合がめざす「労働者を中心とした福祉国家」をめざす政策が実現しているわけではない。政権政党とナショナルセンターの関係はどうあるべきか、政治主導の在り方、国民合意形成のプロセスは不明確であり、混乱している
(3) 労働者派遣法の抜本改正運動は、政権交代前の野党であった民主、社民、国民新党、共産による4党合意、政権合意による抜本改正案がまとまった。抜本改正というにはきわめて不十分のものだが、登録型派遣や日雇派遣の原則禁止など一定の前進面はみられた。しかし、それすらも実現できない民主党政権の弱さがある。派遣法抜本改正はナショナルセンターを超えた運動となっているものの、運動は盛り上がりを欠いている。非正規労働者の団結の促進と運動の統一が求められている。
(4) 連合は、原子力政策を推進してきた。中央をはじめ地域の連合においても、電力、電機、重工業の労働組合が指導部を握り、労働運動としても原子力政策推進の役割を果たしてきた。脱原発をめざすエネルギー政策への転換が求められている。

4  今後の労働運動の課題

(1) 社会運動ユニオニズム的な新しい労働運動づくりとして、中小企業労働者や非正規労働者を軸に@個人加盟労組や地域ユニオンの共闘、Aサポート団体の形成、B企業内組合の労働者との連携、Cこれら運動のネットワークづくりを提起した。個々の場面においては前進面もあるが、その実現に向けてさらに具体的展望が求められる。
(2) 短時間労働者や短期間雇用労働者を含めた雇用の安定、労働時間の短縮、生活できる最低賃金、労働安全衛生、福利厚生、社会保障などの内容を含めたディーセントワーク(人間の尊厳を尊重する、人間らしい労働)実現のための「労働者憲章」の制定をはじめ、労働法制の見直しをすすめる。
(3) エネルギー政策、第1次産業の復興を含む産業・貿易政策、社会福祉政策の展望をもった労働運動の形成をめざす。
(4) 新自由主義にもとづくグローバリズムに反対し、戦争政策に反対する左派労働運動の強化をはかるため、非正規労働者の団結の促進、政策議論と政策実現共闘の組織化をめざす。
(5) 日系企業での労働者の決起にみられるように、グローバル企業と対決するために、国際連帯の強化が必要である。実習生問題、移民労働者、アジアの労働者との連帯をめざす。
(6) 東日本大震災からの再建活動を、被災地域の人々と手を携え継続的に行う。全国の原発で働くすべての労働者の権利と安全・健康確保をすすめるとともに、福島第一原発による放射能被害対策をすすめ、全国の原発廃止を求めてたたかう。

5  主な闘争課題について

(1) 非正規労働者の団結の促進
労働者派遣法を廃止し、労働組合による労働者供給事業の促進を図る。日々雇用や短期雇用労働者の働き方を規制し、労働者の権利を確立するため、労働者供給(事業)法制定など日雇、短期就労者を保護する制度づくりを図る。

(2) 地域から賃金の底上げを図る
@地域最賃を引き上げる。当面、民主党の公約でもある最低賃金1000円の実現を図る。
A 職種別最低賃金の実現を図る。
B 公契約条例の制定がすすんできている。千葉県野田市、神奈川県川崎市では、市の発注事業の賃金について下請け企業も守らなければならない規定が含まれてきた。今後、公契約条例の拡大、内容の充実を図っていく。
(3) 非正規労働者の雇用保障
@震災被災地においては雇用創出基金の活用を地域産業の地元からの復興計画と合わせて行っていかなければならない。労働する権利、仕事よこせ運動を被災地域の連携を図りながら行う必要がある。
A 非正規労働者、短期雇用労働者の雇用保障制度を確立し、非正規労働者の雇用安定を図る。
B「新しい公共」をすすめるにあたっては、安上がりな行政の下請けではなく、ボランティアでなく労働者の権利保障が図られる形で、地域から住民が参加し、公共サービスを担う運動として作り上げなければならない。
(4) 移住労働者
@ すべての移住労働者に労働法を完全適用させて、非正規滞在、非正規雇用、「外国人技能実習」の下で行われている、あらゆる差別的労働を廃止する。
A 多文化・多民族共生社会を実現するための諸制度確立のたたかいをすすめるとともに、移住労働者との労働・生活コミュニティを職場・地域で作り上げる。
(5) 反原発運動
@ 政府は新経済成長戦略の一環として、原発の輸出を推進してきた。一方で、プルサーマル計画を実施し、プルトニウムを蓄積してきた(すでに長崎型原爆5000発分のプルトニウムを保有している)。原発の高濃度廃棄物の処理方法は決まっておらず、まさに「10万年後の安全」でしかない。地球温暖化を促進させないクリーンなエネルギーとはまやかしである。また、労働、環境、土壌、海洋における安全基準も定まっておらず、遺伝子を破壊する放射線の被害から考えてみても、原発は廃止されなければならない。
A 福島第一原発で復旧にあたるすべての原発関連労働者に、賃金・労働条件の確保、長期にわたる、厳格な健康管理を保障し、経済的・社会的差別を引き起こさないよう、最大限の対応を行う。
B 放射能汚染地域で生活・労働する人々に対して正確な放射能レベルを情報提供させ、汚染レベルに応じた生活と労働をする権利を確保する。とりわけ子どもと出産年齢の女性に対する配慮は重点課題である。
(6) 運動体の形成
@ 非正規労働者の権利を確立していくことが、連合主体の労働運動を作り替えていくことになる。時代の転換を見据えた政策と展望を共有した共闘の形成が重要であり、その連携が必要である。
A 地域での労働運動の連携、市民運動との共闘形成が、地域再生の重要な要であり、地域からの産業復興、雇用創出、労働条件確保を図っていかなければならない。
                                             以上