労働者共産党 第5回党大会 (2011・8)
     情勢・任務決議

                      
    世界情勢

はじめに

 2007〜08年、サブプライムローン問題に端を発した世界金融恐慌は、アメリカを中心とする金融主導型の「成長パターン」の破綻を明らかにした。そして、冷戦崩壊後のアメリカ帝国主義の一極支配は終焉し、世界は多極化の時代に入った。アメリカ帝国主義を筆頭とする帝国主義諸勢力と新興国諸勢力との間での協調と対立が、今日の世界の際立った特徴である。
世界恐慌からの立ち直りが未だ不十分な2011年3月、東日本大震災と「フクシマ ダイイチ」の原発事故が世界を震撼させた。これは、経済成長至上主義と結びついた大量生産・大量消費・大量廃棄の20世紀工業文明の行き詰まりを再び三たび全世界に知らしめた。
 帝国主義諸勢力と新興国諸勢力がしのぎを削る争闘は、この20世紀工業文明と弱肉強食の現代資本主義制度を基礎とした舞台の上で展開されているものである。
地球上のすべての労働者人民の現状打開への道は、さまざまな経路を通りつつも、この舞台を支える経済的政治的枠組みを全面的に変革することこそが求められている。

1、 世界金融恐慌後の情勢の特徴

 世界金融恐慌後の情勢で、もっとも大きな特徴の一つは、市場原理にもとづく今日のグローバル資本主義の本質的な特性である「不安定性」が、矛盾の現れ方をつぎつぎと変化させながら、引き続き進行していることである。
 80年ぶりの世界金融恐慌は、欧米金融機関のみならず、世界の実体経済にも大きな打撃を与えた。これに対して、世界の主要国は、応急対策として、破綻に瀕する大手金融機関への公的資金投入による救済、各国中央銀行による市場への大規模な流動性の供給などの金融政策とともに、大規模な財政出動による景気刺激策を打ち出した。
このため、日米欧主要国だけでも、2009〜10年の2年間で発行した国債は約10兆ドル(約900兆円)にのぼっている。ブルジョアジーの政治的代理人である各国政府は、新自由主義政策の必然の結果としての世界恐慌に対する後処理を、厚かましくも人民の血税で行なうのであった。
 しかし、ただちに新たな問題を発生させた。ヨーロッパでの財政危機とユーロ危機である。かねてより放漫財政がつづいていたギリシャでは、2009年10月の政権交代により財政赤字の隠蔽があばかれた。ギリシャのソブリンリスクは、すぐさまユーロ安となり、財政危機と金融危機が相乗的に進行する事態となる。
ヨーロッパ支配層は、ギリシャに対する金融支援を行なうとともに、ギリシャに投資するヨーロッパ金融機関へのストレステストを実施し、金融不安の鎮静化に努める。と同時に、今回の金融恐慌に対する対処策としての大規模な景気刺激を裏づける財政出動・財政赤字から財政再建策への転換を全域的に推し進めた。だが、それにもかかわらずヨーロッパのソブリンリスクはおさまらず、アイルランド、ポルトガルへと波及する。ギリシャでは、今や元本削減や返済延長を含む「債務再編」が取り沙汰される始末である。
 大規模な財政出動による景気刺激策は、ヨーロッパだけでなく、アメリカや日本でも行なわれた。日本の公的債務残高は、今やGDP(国内総生産)の2倍となり、いわゆる「先進国」ではイタリアよりもはるかに多く、最悪の水準に至っている。日本ほどではないとしても、アメリカもまた同じである。アメリカは景気刺激策だけでなく、アフガニスタン・イラクへの侵略戦争での戦費がかさみ、財政赤字増大の大きな要因となっている。
 大規模な景気刺激策は、帝国主義諸国にとどまらない。新興国もまた同様であり、とりわけ中国では、2008〜10年の合計で、景気刺激策は対GDP比で6・3%にもなり、アメリカ(同4・9%)以上の規模に達している。
 確かに、新興国は帝国主義諸国に比べ、この景気刺激策で景気はV字回復を果たしているが、それはまた別の矛盾を抱え込んでいる。アメリカや日本などの大規模国債発行による景気刺激策は、かつてのような効果を全面的に果たすものではなく、グローバル資本主義の今日では、低金利でだぶつく資金がより利益をあげうる新興国に流入し、新興国の物価上昇からインフレを高進させ、さらにはバブル的傾向をも強めているからである。
 世界金融恐慌後のもう一つの大きな特徴は、冷戦崩壊後のアメリカ帝国主義の一極支配が終焉し、多極化の時代に入っていることである。
 第一次オイル・ショック後の1975年から始まった主要国首脳会議(サミット)は、世界金融恐慌後の2009年9月の第3回G20ピッツバーグ会議で「主役の座」を降り、「国際経済協力に関する第一のフォーラムと位置付けられた」G20に引き継がれた。帝国主義国の多国籍企業の新興国進出の増大もあって、今や世界経済の主要な推進力は新興国に集まり、グローバルな政策協調は新興国抜きでは論じられなくなったためである。このことは、サミットをリードしてきたアメリカ帝国主義の力の後退を歴然と示し、ソ連崩壊後のアメリカ一極支配の終焉を明らかにした。
 実際、アメリカ帝国主義の「世界の憲兵」としての役割は限界に来ている。オバマ大統領は、ブッシュ前政権が無謀にも踏み込んだイラクからの撤兵を公約として当選した。アメリカは、2010年8月31日に、イラク駐留米軍の戦闘任務を正式に終結した。しかし、反米勢力の抵抗は引き続き、イラク政権の不安定さも加わり、依然として約5万人規模での米軍駐留が余儀なくされている。オバマ大統領は、「テロとの戦い」を継承し、イラクとは異なりアフガニスタン侵略については、断固推進するとして米軍増派を続けてきた。しかし、ここでもタリバン勢力などの抵抗運動が盛り返し、泥沼状態に陥っている。アメリカ人民の厭戦気分の下で、アメリカ帝国主義は2011年7月から米軍の部分撤退を開始すると宣言してきたが、その直前の5月、ウサマ・ビンラディンを捕捉し殺害し、「名誉ある撤退」の体裁を整えた。だが、イスラム教徒などの反米勢力の抵抗は強く、アフガニスタンでもその泥沼から抜け出すことは容易ではない。
オバマ大統領は、2010年11月、インドを訪問した際に、「米国だけで世界を動かすことはできない」と発言し、アメリカ帝国主義の力の低下を率直に認めている。2011年になってチュニジア、エジプト、湾岸諸国、リビア、イエメンなどで、反独裁民主化闘争、王政打倒闘争などが燎原の火のごとく燃え盛った。このとき、アメリカは軍事介入の指揮権をNATOに譲った。アメリカ帝国主義の軍事力による世界支配の限界である。
力の支配の限界という状況下で、アメリカ帝国主義はより政治工作に傾斜したヘゲモニー維持を画策している。それは、今日最も経済的な成長能力をもつ東アジアでの巻き返し策動で明らかである。2010年11月に行なわれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、アメリカはアジア太平洋自由貿易圏構想をめざし、TPP(環太平洋経済連携協定)を提唱し、中国を中心とした東アジア共同体構想を包摂するとした。このTPPには、領土問題で中国と対立するASEANの一部の国々も含まれており、新たに日本などにも参加を勧誘している。米系多国籍企業がもっとも利害関心をつよめる東アジアでは、一歩も後には退けないのである。朝鮮半島の核問題の平和的解決や朝鮮民主主義人民共和国(以下、「共和国」と略)の安全保障問題を協議する六者協議では、2009年4月の「共和国」ロケット発射、5月の「共和国」の二回目の核実験、これに対する6月の国連安保理の制裁決議ののち、六者協議は開店休業状態にあった。その後も紆余曲折はあったが、米中などは、@韓国と「共和国」の会談、A米朝協議、B六者協議再開の三段階方式で話し合いをすすめるべきとの大枠で、歩調をあわせつつある。

2、 帝国主義諸勢力と新興諸国の協調と対立

帝国主義諸勢力の相対的後退の下で、新興諸国の政治的経済的な台頭はめざましいものがある。2011年4月、中国海南島で開かれたBRICs首脳会議には、新たに南アフリカが加えられてBRICS5カ国となった。同会議では、国際金融・通貨システムの改革を要求し、リビア問題への欧米帝国主義の介入をけん制しつつ、同会議が新興国の発言力を高めるためのけん引役を担うことで結束していくとしている。
帝国主義諸勢力の相対的後退とは対照的に、新興諸国の発展する姿は、今回の世界恐慌からの立ち直りの様子一つをとって見ても明白である。新興諸国のほとんどがV字回復するのに比較して、帝国主義諸国の景気回復は緩慢であり、大規模な財政赤字や大量失業などに苦悩しているのである。
両者の対照的姿は、別の角度から見ると、帝国主義諸国の独占資本のほとんどが、より高い利潤を求めて、多国籍企業として新興国や「発展途上国」での活動を拡大していることでも明らかである。
帝国主義諸勢力と新興諸国の協調の核心点は、両者が共に新興諸国や「発展途上国」の市場から直接的に利益を吸い上げるという共通性にある。新興諸国の立場からすると、搾取の場を多国籍企業などに開放することにより、代わりに多国籍企業のさまざまな「進んだ」ノウハウを獲得し、「追いつき追い越す」可能性を十分に持ち得るからである。
しかし、両者の間には協調面があるばかりでなく、逆に、ドーハ・開発・アジェンダ交渉、G20会議、地球温暖化問題などさまざまな対立面があることも確かである。
現在進行しているWTO(世界貿易機関)のドーハ・開発・アジェンダ交渉は、先のウルグアイ・ラウンド交渉(1986〜94年)が「先進国」中心主義で推進され、「発展途上国」の事情に配慮されなかったという理由などで立ち上げが遅れたが、この問題は解決せず2004年末までに妥結するという目標は実現していない。2004年8月、ジュネーブでのWTO一般理事会は、ようやく交渉を進展させるための「枠組み合意」を採択した。だが、ドーハ・開発・アジェンダ交渉は、新興国と「先進国」との対立に、輸入国と輸出国との対立も含めて複雑に展開され、今もって妥結していない。今や一括合意と言う交渉方式そのものの変更が余儀なくされている。ドーハ・開発・アジェンダ交渉がなかなか進展しない状況下で、世界的には二国間や複数国間でのFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)などが増加している。
G20では、各国の膨らむ財政赤字を踏まえた財政再建問題で合意できても、日米欧の帝国主義諸国の非伝統的政策としての「量的緩和」の措置が、新興国などのインフレやバブルを助長している問題などをめぐり、激しく議論が展開され、とりわけ米中間で対立してきた。打ち続く物価上昇とバブルへの危機感で、元通貨の緩慢な切上げで、たとえ米中協調がなったとしても、新興国の利益が反映された金融・通貨システムの再編に至るまで、両勢力の対立は継続するであろう。投機マネーの規制については、米英とその他の諸国の間での対立がつづいている。世界金融恐慌の教訓を踏まえた金融・通貨システムの再編は、未だ決着をしていない。
地球温暖化問題については、ポスト京都議定書を巡って、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が続けられている。しかし、新興国は「先進国」のこれまでの責任を批判し、自らが削減目標を持って取り組むことを拒否している。したがって、新たな温暖化対策の枠組を法的拘束力をもつものにするか否か、京都議定書を延長するか否かなどは、2011年末の南アフリカで開かれるCOP17に先送りされている。
 資本主義は、産業革命期につづき、20世紀の帝国主義時代に、人類の生存基盤である地球環境を破壊する諸力を格段に増大させた。とりわけ、第二次世界大戦後、科学技術の発展を取り込んだ経済成長至上主義は、誰もが実感できるほどの生態系破壊をもたらしている。大量生産・大量消費・大量廃棄の工業文明は、近年、その解決への決め手として、原子力発電を提唱してきた。しかし、これもまた「3・11」大惨事により破綻した。「福島第一」原発では、今もなお放射能が漏れつづけているのである。経済成長至上主義と結びついた20世紀工業文明そのものの革命こそが、不可欠なのである。
 また、人類は今年10月末には70億人となり、2050年には90億人を超えるといわれる。アジアの人口は抑制されるがアフリカで急拡大するからである。帝国主義による植民地経済の略奪と破壊、モノカルチャー経済への変改、第二次世界大戦後もつづく工業による農業の圧迫、世界的な飢餓問題の未解決などにより、世界の貧しい国々での人口を爆発的に増大させている。帝国主義諸国の歴史的かつ今日的責任は、極めて重大である。また、この現実に目をつむり、食糧を自給しないで、儲け率のよい工業化に偏重することは厳しく批判されるべきである。

3、 前進する世界の労働者人民の闘い

 ヨーロッパでは、恐慌にともなう解雇・工場閉鎖に反対する闘い、賃金カットに反対する闘い、非正規労働者の雇用確保の闘いなどが広範に広がった。
 闘いは、ドイツ、フランス、イギリスなど主要国だけでなく、IMF支援に陥ったいくつかの東欧諸国や財政危機にあえぐギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインなどで激しく行なわれた。ヨーロッパでは、各国での闘いとともに、ヨーロッパ規模での統一行動が、欧州労働組合連合会(ETUC)の呼びかけで、2009年5月、2010年9月と行なわれ、金融恐慌の負担を労働者人民に負わせることを厳しく批判した。
 金融恐慌の打撃を抑えようとする大規模な景気刺激策は、各国政府の財政赤字を増大させ、とりわけギリシャ、アイルランド、ポルトガルの財政は従来の放漫財政なども含めて財政危機を激化させた。この財政危機がユーロ安に転化し、ふたたびヨーロッパは金融危機に見舞われた。このため、遅くとも2010年の春までには、各国はつぎつぎと財政再建に舵を切るに至った。この結果、公務員労働者の賃金抑制だけでなく、付加価値税の増税や、年金改悪など社会保障の削減などの攻撃が露骨となっている。投機マネーにとどまらず資本主義制度そのものがもたらす矛盾のツケを、労働者人民への負担増大で切り抜けようと
する資本家階級に対する闘いは、ヨーロッパ労働運動の共通した闘いになっている。
ヨーロッパではまた、「3・11」福島第一原発の事故を契機に、反原発・脱原発闘争が大規模に復活している。とりわけドイツ、イギリス、イタリア、フランスなどで大衆的な闘いは拡大している。ヨーロッパでの反原発・脱原発のうねりが高まる中で、3月、ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州議会選挙で、緑の党は議席を倍増させ第2党に躍進し、第3党の社会民主党と連立政権を組み、はじめて州首相を獲得した。5月には、ブレーメン州議会選挙で躍進し、キリスト教民主同盟を抜き、第2党に躍進した。
 経済成長の著しいアジアでも、恐慌にともない失業は増大した。もともと世界の貧困人口の四分の三を抱えるアジアでは、農村部での失業あるいは半失業だけでなく、都市部でも準失業状態は多かった。労働組合の闘いは、失業あるいはレイオフ(一時帰休)との闘いとともに、資本が正規労働者を非正規労働者に切り替える策動との闘い、賃金引下げとの闘いも進展した。この中で、規模が大きく激しい闘争が行なわれたのは、2009年1〜8月にかけての韓国・自動車メーカー双龍での解雇撤回闘争、同年7月の中国・大手国有鉄鋼企業「通化鋼鉄」のリストラに抗議する闘いなどがある。金融恐慌を契機としたアジアの労働組合運動での一つの特徴は、多国籍企業での闘争の発展である。マレーシアでは、法律で定められた最低賃金を無視し、団体交渉権も認めず、低賃金の外国人労働者や非正規労働者を酷使している多国籍企業に対する闘いが進められている。ベトナムでは、奴隷労働に準ずる苛酷な労働で酷使された労働者たちが闘いに決起すると、韓国や台湾の多国籍企業は賃金も払わずに逃亡した。中国では、2010年春以降、労働条件の劣悪な台湾系多国籍企業で自殺者が相次ぎ、日系多国籍業でも低賃金に怒ってストライキが広がり、賃金値上げに追い込まれている。
 アジアでは、1980年代末から90年代にかけて、長年続いた軍事独裁や開発独裁の政権が相次いで崩壊した。韓国、パキスタン、バングラデッシュ、インドネシア、フィリピンなどである。これにより、労働組合運動や住民運動などが以前よりはるかに活発に行なわれるようになった。しかし、基本的権利の保障はまだまだ弱く、労組の組織率も低く、新自由主義のグローバル資本主義との闘いを通してさらなる前進が問われている。
 2011年に入り、北アフリカ・中東では、澎湃たる民衆決起によって、チュニジアでも、エジプトでも、長期独裁政権が打倒された。大衆的な反独裁民主化闘争は、以降もバーレーン、イエメン、リビア、シリアなどに波及し、継続されている。闘いの原因は、個々の国内事情もあるが、共通したものは、新自由主義がもたらす物価上昇、食料不足や、数十年にわたる独裁政治に対する不満と怒りがある。一連の反独裁民主化闘争の影響もあって、パレスチナ自治政府のアッバス議長などのファタハとガザ自治区を統治するハマスとの間で和解が成立し、統一政府を目指すことが合意された。これもまた、世界の人民にとっては大きな成果である。だが、民主化闘争のヘゲモニーは帝国主義勢力や地域大国などの息のかかった支配層に集約される傾向が強まり、闘いの新たな前進が問われている。とりわけ、この地域に多い外国人労働者の生活と権利を前進させる闘いと共闘した労働者人民の自国政府との闘争・帝国主義との闘争が求められている。
1980年代、新自由主義政策に苦しめられた南米では、反米左派政権や中道左派政権を押し立てながら、労働運動や地域住民運動が活発に展開されている。世界恐慌によって解雇が増える中でこれに反対し、ベネズエラやアルゼンチンなどでは、工場占拠・自主管理が盛んである。また、低所得者や非正規労働者が多いため、最低賃金の引上げの闘いも展開されている。労働運動が前進するラテンアメリカでのもう一つの特徴は、都市住民の間で、連帯精神をもってさまざまな相互扶助の組織が形成されたり、あるいは発展したりしていることである。ベネズエラの低所得者居住区での「地域住民委員会」、ボリビアの「近隣住民組織連合」や先住民組織での共同組織、アルゼンチンの貧困者・失業者の社会運動、ブラジルの低所得者向け住宅政策の受け皿となっている「全国大衆住宅連盟」の都市住民運動などである。
 新自由主義の破綻を示す金融恐慌がもたらした解雇、賃金抑制、社会保障の削減などとの闘い、新興国などでの多国籍企業との闘い、あるいは食料高騰や独裁政権などとの闘いを通して、世界の労働者人民の闘う戦列は、確実に前進した。だが、なお一層世界の労働者人民の国際連帯を強固にして、新自由主義・グローバル資本主義との全面的な闘いを強めることが要求されている。                       

     日本情勢

はじめに

第四回党大会以降の日本情勢は、@2008年秋の国際金融恐慌勃発と「非正規」切り、A2009年の政権交代・鳩山民主党主導政権の成立、B翌10年の民主党主導政権の路線修正・菅政権への移行、C本年三月十一日の大震災・巨大津波・原発崩壊によって節目づけられる。前三者は、社会を統合できなくなった支配階級の政治的動揺であった。それに対して敗戦・戦災に比される進行中の大災害は、社会の崩壊と国家の機能不全を加速・顕在化させようとしており、支配階級を大混迷に陥れ、労働者民衆に新たな社会創造への闘いを迫る時代情勢をもたらした。まさに、現代的な変革主体の構築が待ったなしで問われるということである。
以下、このような日本情勢を概観していくことにする。

1、  第四回大会後の展開

イ)政権交代・鳩山民主党主導政権の成立
 2009年8月末の総選挙で民主党が大勝し、政権交代が起こった。
 この政権交代には、それが歴史的事件であるだけの理由があった。
すなわち前提的な理由としては、戦後の産業的発展(高度成長)を基盤とする政・官・財の癒着体制・利益誘導型統治が、既に機能しなくなっていたことがある。そしてこの状況を打開すべく登場した小泉政権が、国際投機マネー(および多国籍企業)の利益を図るアメリカ一辺倒・市場原理主義路線を推進したこと、そのことが現代的な「格差」「貧困」問題を生み出したことである。小泉政権自身は、現代的な格差・貧困が社会問題化する直前にすばやく身を引いたが、路線的に跡を継いだ安倍、福田、麻生の各政権は、支持率の低落に苦しみ、福田、麻生政権は軌道の修正を余儀なくされたものの、いずれも短命を運命づけられた。そして2008年秋に始まる世界金融恐慌情勢が、支持率の低落に喘ぐ自公政権にとってとどめとなったのである。
鳩山民主党は、「国民の生活が第一」「東アジア共同体」の旗を立てて社会の建て直しを求める世論を糾合し、新政権を打ち立てた。
鳩山政権の路線は、国際投機マネー及び多国籍企業の利益をあからさまに推進する小泉路線(アメリカ一辺倒・市場原理主義)が社会を崩壊させ、階級支配秩序を危うくさせることに対する支配階級の一半の危惧を反映していた。それは一方で、資本主義の「発展」方向としてのカジノ資本主義を否定せずに新自由主義政策を一定推進しつつ、他方で、労働者民衆の包摂に腐心するものであった。鳩山首相の「友愛」と「動揺」は、この路線の本質的特徴に他ならなかった。
ロ)鳩山政権から菅政権へ
 鳩山政権は、「国民の生活が第一」「東アジア共同体」の旗を立て、労働者民衆の政治的包摂を実行しようとした。その中心環に浮上したのが、米軍普天間基地の国外・県外移設問題だった。しかし、超大国アメリカの沖縄における軍事利権に手を触れようとしたこの動きは、当のアメリカと日本の外務・防衛官僚の拒否的態度、司法官僚による国策捜査、マスコミの政権批判キャンペーン、それらを政治的に支えるために仕組まれたアメリカによる対中朝緊張醸成策謀に翻弄され、数ヶ月にして窒息させられた(「5・28日米合意」)。
対米自立の方向への日本の政権の大きなふらつきは、半世紀に及ぶ自民党政権下ではかつてなかったことである。それを民主党主導政権に余儀なくさせたものは、既存の統治システムによって労働者民衆を包摂することができなくなってきている現実であり、沖縄の怒りの高まりに他ならなかった。国際的背景として、中国の台頭に代表される「多極化」の趨勢があった。
しかし、この大きなふらつきの惨めな結末は、戦後くりかえし再編され蓄積されてきたアメリカの対日コントロール力が依然あなどり難いレベルで維持されている現実、日本の国家がアメリカの覇権に深く依存している現実を明らかにした。
それと同時に、動揺的な政権に対する、労働者民衆の側の強制力の弱さをも明らかにした。とりわけ、ヤマトの労働者民衆の主体の弱さである。労働者民衆は、社会関係崩壊の渦の中に投げ込まれてしまっているだけであり、既存の支配システムに包摂されなくなってきてはいるが、新たな自己のシステムを創造している訳でも、政治的に独自の勢力として登場できている訳でもなかった。この主体の限界が露呈したのだった。
 ともあれ、鳩山政権は退陣を余儀なくされ、菅政権が誕生する。菅政権は、その誕生の経緯から、アメリカ一辺倒・市場原理主義の「第一極」路線に限りなく擦り寄る方向に舵を切ることになる。リーマンショック・世界金融恐慌後の世界的な財政出動によって、日本経済もある程度癒される過程に入ったことも、菅政権の誕生と「国民の生活が第一」「東アジア共同体」路線の修正を支えた。
 しかし菅政権は、労働者民衆が「政権交代」に込めた期待を裏切ったのである。この厳然たる事実が、この政権を指導力のない政権にしてしまった。またそのため、リーマンショック後の財政出動で財政破綻の危機を招来しながら、この危機を打開する指導力も示せず、支配秩序の混迷を促進したのだった。
 こうした中で日本社会は、東日本大地震・巨大津波・原発崩壊という「3・11」事態の中に投げ込まれることになる。

2、 「3・11」後の時代状況の特徴
 
 本年3月11日、東日本大地震が起こる。大震災、巨大津波、原発崩壊は、人々の意識や社会の在り方を一変させるであろう計り知れぬ惨禍をもたらした。そのうえ原発の方は、いまや放射能排出ポンプと化して、いまだ被害を日々拡大させている状況にある。
 東日本大地震を経て現出した新たな時代状況をどう見て、どう対処するかは、革命運動の今後を決すると言っても過言ではあるまい。まず新たな情勢をどう見るかである。
 第一に、旧来の社会の崩壊が加速し、新たな社会を創造する動きが顕在化する。
 社会は、災害によって社会そのものが消滅するのでない限り、それがいかに大きなものであろうと、原始時代に戻ることはないし、単なる復旧にもならない。むしろ大災害は、社会の矛盾の展開(=発展)を加速する。
 今日における社会の矛盾の展開は、かつてのような産業の発展・物質的豊かさの実現へと向かうものではない。産業が成熟し、物質的豊かさを(過剰に)実現した基盤の上に、これからの社会の在り方をめぐって攻防が激化するのである。
日本の資本主義は、産業(工業)の発展を推進するというその歴史的役割を終えた。貨幣資本が趨勢的に過剰化し、投機マネーに転化し始めた。投機マネーの肥大化運動は、実現された豊かさを独り占めにし、その対極に失業と貧困を蓄積してゆく運動である。社会(関係)を崩壊させるメカニズムである。
復興をめぐる動向の一方の極にはこれがある。それは、アメリカ一辺倒・市場原理主義のTPP(環太平洋経済連携協定)を推進し、東京や中核都市を国際的な金融都市あるいは非農業消費都市に偏重させるとともに、漁場や農地を金融資本による投機的略奪の対象へと転換させる動きである。
これに対して労働者民衆は、産業の成熟と物質的豊かさの実現の上に、人間(関係性)の豊かさを目標とする新たな社会の創造へと向かう。旧来の社会が崩壊して資本主義の下で生きてゆけなくなった人々は、新たな社会の創造へと向かわずにいない。
復興をめぐる動向の他方の極にはこれがある。それは、人々の協同関係と対象的自然との共生関係の実現をめざすいわゆる「地産地消型地域社会」の創造と地域社会間のヨコの相互扶助ネットワークとして新たな社会を構想する動きとなるだろう。これは、国際的金融消費都市への一極集中を解体・再構築する過程となるだろう。
旧来の社会と新しい社会の葛藤が現れてくるに違いない。
 第二に、国家の機能不全が露になり、その対極で住民自治が発展する。
 今回の未曾有の大災害に対する国家の救援出動は、迅速かつ大規模に展開された。それは、全国の地方行政組織の動員や医療等の民間能力の活用という領域においても、言うことができる。基幹的役割を果たしたのは自衛隊であった。
 今回の自衛隊の災害出動は、対外的備えを含めて、文字通り全自衛隊の作戦行動として展開された。自衛隊中枢は、大災害を、戦後為しえなかった一大演習の機会として利用した。それとともに自衛隊は、救助・捜索、避難住民の救援、幹線道路の復旧を通して、それらの主目的が支配秩序の回復であるにせよ、被災地民衆との協力・共感を深め、国民の広範な支持を獲得した。こうして自衛隊は今回の災害出動を介して、戦後社会の中に位置づけられない特殊的存在形態を、全面的にではないが大きく脱皮した。そのことは自衛隊が、「隔離」された存在でありつづけることができなくなったこと、民衆の政治的動向に強く影響される時代に入ったことをも意味する。
 また、今回の災害対処において、超大国アメリカが米軍による大規模介入を実施し、日本に対する一定の支配・統制の大きさを見せつけた。それは、災害が極めて大きかったこともあるが、何よりも原発崩壊がそうさせたのであった。空母艦隊を急派して極東の治安を確保、原発崩壊の戦場を想定した自衛隊との一大演習を展開、米兵家族の逃避作戦を発動、原発崩壊押さえ込み作業に介入。そうした中で、沖縄における軍事権益を確保し続けるためのパーフォーマンスも忘れなかった。もちろんこの大規模介入は、原発推進政策を維持しようとするアメリカ経済界の利害も背負っていた。
 国家機構は、軍事機構を中心に、今回の巨大災害の初動においては見事に作動した。しかしながら、そのような状態は長続きしない。なぜなら大震災と原発崩壊が、国家の財政的な余力を奪うからである。また何よりも、国家の足元で社会の崩壊が進行し、旧来の社会と新しい社会の葛藤も現れ、それらが支配階級内の路線闘争を先鋭化させ、国家の方向喪失・機能不全を一段と深刻化させるからである。
 国家の財政破綻と方向喪失・機能不全は、その対極に住民自治を発展させる。それは、国家主導の復興か、住民自治主導の復興か、をめぐるつばぜり合いとなって表面化してきている。かつてのように国家主導ですんなりいかなくなっているのである。住民自治の発展は、新しい社会づくりの流れを促進するだろう。
 第三に、労働者階級の非正規・失業層が一層増大し、ブルジョア階級に対する労働者階級の生存をかけた階級闘争が激化する。
 そもそもこの間、米・欧に続いて日本の資本も、多国籍展開した基盤の上に投機マネーを肥大化させていく時代に入り、その対極に失業人口を増大させてきた。「格差」「貧困」「ワーキングプア」「過労死」「自殺者三万」「孤族」などが日常用語となってきていた。
大震災と原発崩壊は、失業人口を一段と増大させる。大増税、インフレも企図されている。
 こうした事態は、非正規労働者、失業者労働者の運動の発展を求める。労働者階級のブルジョア階級に対する階級闘争が激化するに違いない。大震災・原発崩壊が、競争から連帯へと人々の意識の転換をもたらしていることも、労働者の団結と闘争の発展にプラスに作用するだろう。
第四に、政治的渾沌・方向喪失の時代が到来し、第三極の形成と根本的な打開の方向が問われてくる。
 「3・11」の大災害は、政治情勢に次のような変化をもたらした。
一つは、東日本大震災、福島第一原発の大惨事という非常事態にもかかわらず、「ねじれ国会」を背景に、国政が混迷し、政権交代した民主党への期待はすっかり無くなるだけでなく、民主・自民などの与野党に対する人民の苛立ちと怒りが全般的に高じていることである。これは、民主、自民を中心とする与野党間の権力闘争、ならびに両党内部での権力闘争が被災地や人民の要求とかけ離れた地点で激烈となり、これに対して人民が怒りあきれ果て、民主・自民に対する政党支持率がともに大きく割り込んでいることで明らかである。自民党は2009年の後半頃から、民主党は2011年5〜6月ごろから2割を割り込み、とりわけ民主党の最近の下落率は自民党よりも大きく、軟弱な二大政党制の基盤そのものがより一層弱体化している。
二つは、アメリカ一辺倒・市場原理主義の巻き返しの勢いが一定削がれたことである。この「第一極」潮流の主要部分がそこに依拠する自民党は、菅政権から復興への協力を迫られる受身の立場に陥り、しかも原発を推進してきた責任も社会的に問われて内的混迷を余儀なくされている。自民党から飛び出した純粋「第一極」路線のみんなの党の場合は、2011年統一地方選挙においてそれなりに勝利したが、震災前の勢いはなかった。「第一極」路線が道州制導入問題と絡んで地方で台頭する流れの中で、それを代表する大阪維新の会は同じ統一地方選で大勝した。ただ目標には届かなかった。
三つは、「国難」の語が飛び交う大災害情勢にもかかわらず、支配階級が階級としてまとまるどころか、かえって階級内部の対立を拡大していることである。そのことは、支配階級の抱える路線対立の深刻さの証であるだろう。
支配階級は政治的混迷を深めている。
菅政権が退陣し、新政権への交代が為されようとしている。民主党主導政権成立当初の「国民の生活が第一」を投げ捨て、アメリカ・官僚・財界に擦り寄ることで成立した菅政権が、「3・11」に発する民衆の苦難に対処できず、退陣を迫られたのは必然であった、しかし新政権の誕生によって、支配階級内部の熾烈化する路線対立・権力闘争と政治の混迷が収まる訳ではない。
もっとも、「3・11」の大災害がもたらしつつある、そして今や世界金融危機再来の動向が加速しようとしている政治情勢の最大の特徴は、支配階級内部の路線対立を超えたところにこそ在る。「3・11」事態は、社会の根底からの変化をもたらそうとしているのである。
 すなわち、ブルジョア社会の崩壊が加速し、新たな社会を創造する動きが顕在化する。国家の機能不全が露になり、その対極で住民自治が発展する。ブルジョア階級と労働者階級の階級闘争も激化する。それらは、支配階級の内訌を一段と掻き立てずにはおかず、社会の政治的渾沌と方向喪失を深刻化させるに違いない。
 この状況を打開する政治勢力の形成と路線の立ち上げが問われることになる。

3、 根本的な打開の道と諸潮流

政治的渾沌と方向喪失が長期に続くことはありえない。崩壊へと沈む社会は、自己を存続させるために、何らかの打開方向へ突進せずにいないからである。この間、支配階級の二つの路線の旗が立てられるたびに、民衆が政治的に大きく動いたのは、政治的渾沌・方向喪失状況の打開を求めた突撃でもあった訳である。問題は、民衆自身が現代的変革主体として自己を組織しておらず、政治的結集をはかる旗が立てられておらず、根本的打開の道が提起されていないところにあった。
大震災・原発崩壊による「3・11」後情勢は、その克服に道を開きつつある。今日の情勢の核心的特徴はこれである。
@現代的変革主体としての民衆の自己組織化は、地域からの社会再建と労働運動の建て直しとしてある。
地域からの社会再建は、実は、国家も取り組んでいる。それというのも、利益誘導型統治システムが崩れて、それに代わるシステムが打ち立てられていないからである。もっとも支配階級の一半は、それを市場原理に委ね、社会が崩壊するならそれもよし、治安管理の強化で対処するとの態度だ。だが支配階級のもう一半は、民衆の間で広がる協同組合、NPO、社会的企業などを能動的に包摂しながら、それらに対する統制力を確立してゆこうとしている。民衆の側からの社会の再建は、支配階級のこうした諸傾向との闘争や競合を通して実現される。東北の被災地が、その主戦場となっている。
社会の再建において左翼の内部に克服すべき傾向がある。国家と支配階級を批判するだけで、社会の再建に足を踏み入れることに躊躇し、社会の崩壊を放置する傾向である。この傾向は、社会の崩壊を放置する点で、結果的に市場原理主義と歩調をそろえるものであり、広く民衆の支持を得ることができない。被災地の復興という課題は、このような傾向の克服を求めるし、全国的な規模で現代的変革主体の形成を促さずにはいないものである。
労働運動の建て直しは、積極的に原発を推進してきた電力総連、これに同調する連合に典型的な企業内正社員組合、御用組合、国策協力組合を中心にした運動からの転換を実現することである。それには、非正規労働者、失業労働者の団結と闘争を前進させ、国家と資本が労働者(人間)を使い捨てることを許さない労働運動を創り出すことである。そして、人間(人と人、人と対象的自然の関係性)の豊かさの実現をめざす地域社会を創造する運動と固く連携することである。これまでに、労働運動の建て直しの萌芽は創られてきた。「3・11」後の情勢は、その展開を求めている。
「3・11」は、アメリカ・官僚・財界の側に傾いた政治の流れを、再び民衆の側に変えた。問われているのは、政治の流れの変化を促進し、現代的変革主体形成の政治空間を押し広げ、民主党主導政権の路線的再修正を超えて、労働者民衆の現代的変革主体を発展させることである。
脱原発の闘いは、こうした闘いの推進翼の位置を占めつつ、大きなうねりになろうとしている。沖縄普天間基地撤去・辺野古新基地建設阻止の闘いも、再度焦点化しだしている。迫り来る闘いの季節の到来に能動的に臨むことが求められている。
A社会の基盤における現代的変革主体の形成は、それに対応した政治的「第三極」の形成を必要とする。「3・11」後の情勢下では、かかる政治勢力の形成が実践的課題となるだろうし、そうしていかねばならない。
その際、日本共産党の綱領路線が桎梏になる。
日本共産党は、福島原発事故以降、従来の「原子力の平和利用」から「原発ゼロ」政策に転換した。これは前進であるが、しかし、それまでの生産力主義思想を全面的に総括したものであるか否かは不明である。また、党(=国家)が人々に善政を施すという社会変革観を固持している。そこでは、人々の協同関係と自治の発展よりも、中央のヘゲモニーが優先される。議会主義にも規定されて、運動全体の利害よりも、党のセクト主義的利害が優先する。しかし人々の協同関係と自治の発展は、かかる社会変革観の危機をもたらすに違いない。
社民党(旧社会党)は、総評解体・連合結成以後、党勢を顕著に後退させ、既存のシステムを前提とした議員政党に純化してきた。そのためこの党は、議席確保の見地から労働者民衆の欲求の現代的変容にそれなりに対応するが、社会的影響力は弱く、労働組合や市民団体との連携ならびに共同行動は弱いものである。
左翼諸派は、いまだ分散状況を克服できておらず団結と統合に積極的とは言えず、大衆的結びつきもいまだ弱い。「第三極」政治潮流の形成においては、左翼諸派の団結は極めて重要であり、この面の工作は引き続き強化することが問われている。
とはいえ政治的「第三極」は、こうした政党・政派レベルの再編が主導して形成されるのではない。その形成は、新たな地域社会づくりの広がりと労働運動の建て直しに突き動かされて実現されるに違いない。
B政治的渾沌と方向喪失を打破するために不可欠なのが、革命的な理論と政治的「第三極」の一翼を担う共産主義潮流の建て直しである。
かつてマルクス主義がその役割を果たしてきた。しかし社会は大きく変わり、マルクス主義のかつての理論体系は、現実を変革する現実の運動の指針として、その限界を露呈するようになった。そうした中でわれわれは、結党以来、マルクス主義の現代的発展を自己の課題としてきた。
既に、唯物史観の再構成、資本主義の歴史的役割の終焉形態、旧来の社会の崩壊と新たな社会の創造、地方自治・住民自治、これからの労働運動の在り方、ソ連体制の批判、等々について理論作業を重ねてきた。
もとより理論の発展は、一党派の枠内で為す課題ではない。実際、ひろく各方面で理論的前進がみられるようになった。産業の成熟、地球環境限界への逢着、現代的な社会的文化的要求の増大といった社会の土台の変容を背景にして、「ネットワーク社会」「定常社会」「循環型社会」「福祉国家」「脱原発社会」等々の構想が提起されるようになってきている。ただ全般的に、資本主義を廃絶する社会革命の理論として止揚される手前のところに止まっている限界がある。この限界を克服した革命理論は、まだ社会的影響力を持つレベルで形成できていない。社会のこの思想状況の克服が問われている。
革命的理論の構築とともに重要なのが、共産主義運動の建て直しである。共産主義者の団結・統合と労働者民衆の新たな運動との結合を実現しよう。


     任務

以上の世界・日本情勢に基づき次の方針を掲げて活動する。

【1】 復興活動・脱原発・安全な食と水の確保等、地域の諸課題に取り組み、住民自治を実現して、地域的統一戦線を勝ち取ろう。

(1) 東日本大震災からの復興は、国家主導か、住民自治主導かがするどく問われている。我が党は、住民自治を主導として、国家や地方行政がこれを支援する復興を追求し、民衆の側の自治的団結を形成し、発展させる。そして、東京の食糧基地として純化させ、大資本の食い物にする国家主導の復興を拒否する。我が党は、人と人・人と自然の豊かな関係を実現する地域社会としての復興を追求する。そのために@被災者や全国の失業者が復興の仕事に就けるよう労働者人民とともに努力し、地域に生活できる条件を勝ち取るために奮闘する。そして、A育児・教育・医療・介護等相互扶助の生活を中心に、住民自治の土台となる自律的な経済構造=いわゆる「地産地消型社会」の創造を追求し、資本や国家の攻撃に断固とした闘いを組織する。また、Bそれらを支える共同所有の諸形態、協同組合やNPOの発展を評価し支援する。さらに、我が党は、住民主導の復興を実現するためにC地方自治体が自由に使える地方交付金や民衆の自治的復興推進諸組織への資金供給を勝ち取るために奮闘する。D我が党は、これらの闘いを断固推進するために、労働者人民と協力し、被災地での復興活動の一翼を担う。そして、被災地での労働運動・市民運動・住民運動・協同組合・NPO等との連携を強め、左翼の共同をも追求して、住民自治の発展、人間の豊かさの実現を目指す社会の創出、災害に強い地域社会建設のために奮闘する。
(2) さらに我が党は、全ての原子力発電所の停止・廃止を求めて、運動を強化する。そのために、当面、浜岡原発や老朽化した原発などの即時廃止、全ての新規建設計画の撤回、核燃料サイクル施設(六ヶ所再処理・もんじゅ・プルサーマル)の停止を求めて活動する。また、安全な「食や水」の確保、第一次産業の国家による保障と農業生産の拡大を求めて、運動を強める。原発全廃期限を明確にした脱原発法の制定要求を支持する。
(3) 復興活動・脱原発・地域医療・高齢者問題・子育て・仕事づくり・反差別など諸分野の闘いを組織し、地域での労働運動・市民運動・NPO・協同組合等様々な運動との連携を強めて、住民自治を闘い取り、未来社会建設の教訓を導き出す。我が党は、これらの闘いを全力で担い地域的統一戦線実現のために奮闘する。

【2】  個人加入制のユニオン等を主力とした新しい労働運動を発展させ、非正規労働者の団結を推し進めよう。

 我が党は、非正規労働者の組織化を一層前進させるために、次の課題を掲げて闘う。
(1) 東日本大震災による大量の失業者が発生し、便乗した労働者への攻撃が強められている。我が党は、仕事づくりを要求し、被災者が、復興事業に参加できるよう粘り強く闘う。また、労働条件の切り下げや、便乗した解雇に、断固反対して闘う。さらに、原発事故や原発作業に従事する労働者の健康管理を厳格に求め、また、賃金・労働条件の改善を要求して闘う。
(2)我が党は、いまだ成立していない労働者派遣法改正案を、派遣先責任の明確化等法案修正を求めつつも、早期成立をはかる。そして、非正規労働者の無権利状態を抜本的に改善するために、派遣法の抜本的改正、理由のない有期雇用の禁止、均等待遇の実施等制度的な改善を追求するとともに、様々 な手段を駆使して、労働者の生活と権利を守る闘いを、先頭に立って組織する。
(3)我が党は非正規労働者組織化の一環として、労働組合による労働者供給事業を追求する。非正規労働者の生活と権利を守り、広範な組織化を促す労組による労働者供給事業は、職安法に掲げられた労組の正当な事業であり、その役割も見直されている。我が党は、条件のある労組、地域からその実践を開始する。その活動を通じて、労働組合とNPO等社会団体との連携も追求する。
(4)非正規労働者の賃金は、最低賃金によって規定されている。我が党は、非正規労働者の生活と権利を守るためにも、各労組・地域の実態に適応しながら、最賃を少なくとも「千円以上」に引き上げる闘いを全国で推し進める。
また、各自治体で条件のあるところは、公契約条例制定の闘いを強化する。
(5)釜ヶ崎では、生活保護の獲得により臨時宿泊所の利用者数が半減した。しかし生活保護の「充実」は、決して根本的解決ではない。野宿問題は、「失業の問題」「労働を軸とした自立」の問題であり、仕事と屋根の獲得、事業運営機関の成立、地域づくりへの参画が求められている。我が党は、NPO等の組織のもとに事業運営を模索し、仕事を創出するために活動する。さらに、地域の活性化を図り、地域の労働者を組織して労働者供給事業を模索する。広義ホームレスに対する施策を含め、野宿者自立支援法の継続・拡充を求める。

【3】  格差拡大・貧困の深刻化、耐え難い生活苦を許さず闘いを組織しよう。

(1)新自由主義による格差拡大と貧困層の増大・消費税・大衆課税の復興税等に反対して闘う。
 格差拡大と貧困層の増大、そして社会保障の抑制・圧縮、増税によって労働者人民の生活はますます耐えがたいものになっている。
  2010年の完全失業者は、334万人で、完全失業率は5.1%であり、今年に入っても、4%台後半が続いている。生活保護受給者は、200万人を突破している。それにも関わらず資本家階級は、賃金カット、非正規雇用の拡大などの低賃金政策を推し進め、政府与党は、法人税を引き下げながら年金・医療費負担の増大・給付の削減、自立支援の名による「障がい者」の生活破壊等を推し進めている。そして消費税率の引き上げや震災にともない大衆課税の復興税の導入を目論んでいる。我が党は、新自由主義による格差拡大と深刻な貧困層の増大や、社会保障の削減、大衆課税による耐えがたい生活苦を許さず、断固とした闘争を組織する。また消費税率の引き上げや大衆課税の復興税の導入に反対して労働者人民とともに闘う。
 (2)農業破壊のTPPに反対して闘い、被災地の農業復興を支援し、日本の農業の抜本的改革のために奮闘する。
  我が党は、日本農業をさらに破壊し、農民層を零落させる例外なき自由貿易協定TPPに断固反対する。アメリカは、環太平洋経済連携協定(TPP)を基礎に、経済的・政治的に対中国巻き返しを図りつつある。菅政権はアメリカを支持し、TPP参加を画策しているが、我が党は、これに対して断固反対し闘う。東日本大震災、福島原発事故で、大規模に農地が破壊されている。何年にもわたる農業基盤の復興に対し、資金と人材をつぎ込み、粘り強く闘う。複合経営を発展させ、地域に根差した農業集団化・共同化を推進し、自前の飼料生産を行い、日本農業の根本的改革を押し進める。全算入生産費と販売価格の差額を一元的な不足払いとする農家個別所得補償を行い、日本農業振興のために活用する。
(3)あらゆる差別に反対し、地域での反差別共同戦線の形成を重視する。
  党は、女性解放運動、障がい者解放運動、部落解放運動など、あらゆる反差別闘争を支持する。右派勢力のジェンダーフリー批判と闘い、女性の一層の社会進出を支持し、女性差別を構造化した賃金体系・労働条件などを変革するために闘う。障がい者解放運動では、地域の自立的な運動の支援を基本として闘い、「障がい者自立支援法」など福祉サービス切り捨てに反対して闘う。部落解放運動では、狭山第三次再審・全証拠開示を求めて闘い、反差別共同戦線の形成を重視する。
 さらに東日本大震災による原発事故に関連して差別が行われている。これに対しても断固として闘う。

【4】 米帝の戦争政策ならびに日帝の侵略戦争参加に反対しよう。

アメリカ帝国主義の戦争政策に反対し、中国対峙の日米同盟強化を許さず、朝鮮半島・東アジア・全世界の労働者人民と、連携して闘争を強化する。
@  我が党は、アメリカ帝国主義のイラク・アフガン等侵略戦争に、全世界労働者人民と連携して、  断固反対し闘う。
 また、侵略戦争に加担する日本帝国主義のあらゆる策動にも反対し、アフガン傀儡政権への援助・PKO参加・海賊対処活動阻止、ジブチ等海外軍事基地撤去を求めて闘う。さらに東アジアでは、日米韓等の合同軍事演習に断固反対し、あらゆる戦争策動に反対して闘う。
また、日本帝国主義の新防衛計画大綱や中期防の実施に反対する。
A  我が党は、当面の要求として、普天間基地閉鎖・新基地阻止を沖縄海兵隊の全員撤退として実現し、在沖アメリカ海兵隊を、ハワイ以東へ撤退させるために闘う。来秋のオスプレイ配備を必ず阻止する。また岩国、座間、厚木など反基地闘争を闘い、全国の空港、港湾の軍事利用に反対して闘う。
B  日本帝国主義は「尖閣」問題で排外主義的なナショナリズムを掻き立て、中国対峙の日米同盟を強めて中国包囲網を強化してきた。我が党は、これまでも「北朝鮮脅威論」や「中国脅威論」に反対し、排外主義、ナショナリズムを煽り立てるイデオロギー政策と断固闘ってきた。今後さらにこの闘争を強化し、拉致問題をテコにした経済制裁をやめさせ、日朝国交正常化交渉の再開を実現する。また民族差別・排外主義に基づく「高校無償化」からの朝鮮学校排除に断固反対する。これらの闘いを通じて、東アジアでの平和構築と人民が連帯する条件を、断固闘いとる。
C  我が党は、憲法改悪・解釈改憲の策動を許さず全力で闘う。「改憲手続法」に基づき、憲法審査会の始動・改憲策動が進められ、総務省は政令を強行に施行した。さらに民主党は、参院憲法審査会の委員数と議事運営案を示し、本会議で議決する等、改憲の動きが強まっている。我が党は、労働者人民による運動の連携と団結、ネットワークを形成し、九条改悪反対の運動を幅広く組織する。震災や自衛隊の復興活動によって、自衛隊を容認する主張が強まっている。我が党は、自衛隊を縮小・廃止し、災害救助隊を創設することを求める平和勢力の要求を支持し、改憲阻止闘争を断固として推し進め、日帝の戦争策動を打ち砕く。

【5】 政治情勢の変化を活用して、労働者民衆の政治勢力「第三極」形成のために奮闘しよう。

 我が党は、地域社会に根ざした、日本労働運動の新しい潮流前進のために闘い、一方では地域的統一戦線形成に向けて奮闘してきた。これらの闘いを一層前進させ、日本革命を闘いとるために、我が党は政治の変化を正確に見定めながら、労働者民衆による社会の再建と資本との闘争の大規模な発展、「第三極」政治勢力形成にむけて奮闘する。
 昨年秋以降、菅民主党政権は「第一極」政治路線への転換をはかり、「第二極」勢力が後退している。民主党・自民党内外の右派勢力による大連立への模索、党分裂を含む政界再編等、政治情勢に臨機応変に対応して「第三極」形成にむけ活動することが求められている。
 我が党は、左翼政治勢力の広範な共同をもてこに「第三極」を実現する。そして日本労働運動の新しい潮流のさらなる前進と、地域的統一戦線の強化から全人民の統一戦線実現にむけて活動する。

【6】 世代交代を実現して自力の党建設を進め、誠実な共産主義者との団結を推進しよう。

(1)我が党は、復興支援や地域での闘い、反失業闘争等を先頭に立って組織し、若者との交流を深める。また、各地域での労働運動・市民運動等を強めて自力の党建設を進める。そして若い世代を党に迎え世代交代を実現する。そのためにも我が党は、各地方組織の政治的思想的団結を引き続き強化し、党活動の一層の活性化をはかる。そして各地方組織の創意工夫のもとに、党勢拡大の活動を推し進める。
(2)震災による復興支援、原発の停止・廃止を求める闘争の拡大等、左翼の政党政派、グループ、個人の交流・共同が求められる機会が拡大する。
  我が党はあらゆる場面、あらゆる闘争を通じて、様々な左翼の共同形態を積極的に追求し発展させる。左翼結集は「第三極」形成の推進力であり、共産主義者の団結・統合の条件を成熟させるものである。
(3)さらに我が党は、現代世界の急速な変貌を踏まえ、マルクス主義の現代的な発展を追求する。そして政治路線の基本的一致による共産主義者との団結・統合を求めて活動を推し進める。
 我が党は、以上の活動を担い党建設を推し進めて、労働者人民の解放のために奮闘する。
                                                (了)