福島原発大災害が突きつける緊急課題
  浜岡原発の即時停止から脱原発へ


 「原発震災」が現実に起こった。三月十一日の東北関東大震災(M9・0)で、東京電力福島第一原発の1、2、3、4号炉は核燃料を「冷やす」機能がすべて失われた。放射能を「閉じ込める」機能が危険にさらされて、一部が突破され、周辺に放射能汚染が拡大している。
 運転中の原子炉は幸運にも緊急自動停止したが、冷却機能が喪失したことによって、1、2、3号炉のすべての原子炉で炉心溶融が起こった。4号炉を含むすべての施設で使用済み燃料プールへの冷却水の循環が停止し、使用済み燃料の崩壊熱による破壊が起こっている。この結果すべての施設で水素爆発が起こり、格納容器の破壊や建屋が吹き飛ぶなど大きな施設の損壊が起こった。
 緊急措置として、放水ポンプを使って原発外部から強行的に原子炉や使用済み燃料プールに向けて水を注入しているが、本来の、水を循環させて熱だけを取り出して海に捨てる機能が失われているために、放射能を含む蒸気が外に出ているだけでなく、注入した水が高濃度放射能を大量に含んだ汚染水となって、タービン建屋や原発施設の外にあふれ出てきている。冷却水の循環機能の回復が容易に望めない現状では、緊急措置の綱渡り的対応が長期間続いて、原発の施設外部に放射能汚染が拡大することは避けられない状況になっている。
 当初の水素爆発などで、放射性ヨウ素やセシウム137など放射性物質の飛散が首都圏にまで及び、東京でも水道水の汚染が起こった。原発周辺地域では牛乳や野菜などの農産物の汚染がみられ、出荷制限や摂取制限などが実施され、大きな損害をもたらしている。今度は土壌の汚染による長期的な被害が深刻なものになろうとしている。
 原発周辺では、20キロ圏が「避難指示」で強制避難させられ、その規模も、「自主避難」とされる30キロ圏に実質的に拡大されつつある。現状のように外部注水など綱渡り的措置が続くかぎり、放射能を「閉じ込める」機能がさらに破壊される危険が続き、30キロ圏の人々の緊急避難・生活破壊は相当に長期的なものにならざるを得ない。この圏外でも、風向きで放射性物質が多く降った強い汚染地帯が原発から北西方向に伸びており、避難の必要が出ている。
 福島原発で起こっている「原発震災」は、静岡県の中部電力浜岡原発で近い将来起こることが指摘され続けてきた。福島原発の「原発震災」を目の当りにして、浜岡原発を稼動し続けることの犯罪性・反社会性がますます明らかになっている。

  必ず起こる東海地震

 江戸時代末期、1854年に静岡県の駿河湾を中心に大地震が発生した。M8・4の安政東海大地震だ。東海道沿いの宿場町が壊滅し、大津波が襲って一万人以上の人々が死亡したとされている。その翌日には紀伊半島から四国にかけて、同じ規模の安政南海大地震が起こった。
 東海大地震は南海大地震を伴って、過去周期的に起こっている。明確に分かっているところでも、1498年に明応大地震がM8・4の大きさで起こっている。その107年後に慶長大地震がM8・0で起こり、またその102年後には宝永大地震がM8・4の規模で起こった。その147年後に安政大地震が起こった。つまり100年から150年の周期でM8以上の大地震が起こっている。そして現在は、安政大地震から150年以上が経過している。
 今後三十年間に次の東海大地震が起こる確率は、日本政府の調査機関によっても87%とされており、確実に起こるとされている。その規模はM8以上である。そして今、日本周辺は神戸の大震災以来、地震の活動期に入っている。
 浜岡原発が建っている御前崎は、フィリッピン海プレートがユーラシアプレートの下にもぐり込んでいく、そのユーラシアプレート側の先端に位置している。東海地震、南海地震はこのプレート境界型の巨大地震だ。周期的に、数千メートルもの広がりのプレートが数メートルはね返ることで引き起こされる。浜岡原発はその直下、深度10キロから20キロのところにプレート境界面がある。想定震源地域に建つ原発であり、福島よりも強烈な震度となるだろう。
 地震が「想定外」の事象を引き起こすことは、福島「原発災害」が大被害を伴って示した。浜岡原発の周辺には、いくつもの活断層がある。原発の敷地内にも複数の活断層が走っていることが知られている。原発には、原子炉建屋からタービン建屋に、また冷却用海水の取り入れや排水などのため、たくさんの配管がはりめぐらされている。東海地震では浜岡の大地が2メートル程も隆起することが予測されている。「想定外」の事故が起こる可能性は無数にある。配管が破断すれば、たとえ電源が失われなくても、福島原発と同様に「冷やす」機能は失われる。原子炉内の各燃料の溶融が始まったり、使用済み燃料プールで核燃料の破壊が始まったりする。放射性物質が大量に飛散する危険性はきわめて高いものとなる。
 日本では基本的に気流は西から東に流れている。浜岡で放射性物質が空中に飛散すれば、おもに首都圏方向に飛んでいく。首都圏三千万人が相当な被曝をする破滅的危険性は、福島原発災害よりも高い。

  浜岡原発は止められる

 浜岡原発は5基ある原子炉の内、1号機、2号機は老朽化しているうえに耐震性に大きな不安があって、今は運転を停止し、廃炉の準備に入っている。これは、浜岡原発差し止め裁判などで危険性が追及されるなど、闘いの成果としてかちとられたものだ。
 いま4、5号機が稼動し、3号機は定期検査に入っている。浜岡原発はこの3基の合計出力で、361・7万キロワットだ。中部電力は、その管内での供給能力は3000万キロワット、今年の夏の最大電力需要の見通しは2560万キロワットと試算している(3月26日「朝日新聞」)。単純計算しただけでも、原発の電力供給量を差し引いても、最大需要を充分まかない切れている。
 原発がなくなれば「電力不足」になる、という脅迫めいた宣伝が続けられてきた。全国的にみても、日本の電力需給は原発がなくても、火力・水力発電で充分まかない切れることは明らかだ。このかん度重なる原発のトラブルで原発が停止しても、大停電は起きていない。
 これまでのように、供給側が電力をより多く売ろうとし、需要側が使い放題に使うという電力消費のやり方は根本的に改めるべきだ。企業などがもっている自家発電能力を活用し、電力会社が介在して電力の供給能力を高める方法も短期的に行なえるやり方だ。原発の稼動を優先させ、火力・水力発電を休眠させる政策はもはや許されない。
 中長期的には、太陽光・風力・小規模水力発電など、再生可能な自然エネルギーを使った電力生産の割合を増やしていくべきだ。地震など自然災害に強いエネルギー生産を内在させた産業構造をもつ社会の建設が目指されるべきだ。
 福島「原発震災」が多くの人々の犠牲をもたらしつつ、われわれに与えた教訓を真剣に受け止めなければならない。いま最も危険にさらされている浜岡原発を即時稼動停止させること、これが実現されなければならない。その上で、全国の原発の廃炉に向けた作業を真剣に進めなければならない。(S)


自衛隊は縮小廃止し、災害救助隊へ
      今こそ軍隊はいらない

 東北関東大震災における大規模な自衛隊出動について、われわれ反戦平和勢力には戸惑いの向きもある。しかしこれはむしろ、今こそ軍隊はいらない、自衛隊を縮小・廃止し、災害救助隊に改編せよ、の世論を高める機会とするべきだ。(以下は、自衛隊解体の具体的政策についての労働者共産党の見解ではなく、私見である)
 三月十一日震災発生の日の内に、宮城県知事などから自衛隊に災害出動要請が行われ、また菅政権も上からの出動命令を出し、十三日には自衛隊の10万7千人動員が開始され、その後戦後初の予備自衛官動員も行なわれた。阪神淡路大震災ではピーク時でも自衛隊動員は1万9千人であるから、今回は被災地での自衛隊の活動がとくに目立っている。
 今回の大災害の特性(被害が壊滅的かつ非常に広範囲であり、その中に漁村山村が無数に散在している)を考えると、初期の救命救助段階では、自己完結型の機動的な組織による大規模な対応が必要であったことは否定できない。
 このような巨大災害は、日本では再びありうる。全国の消防署からの動員などでは対応が不足する大災害に備え、常設の全国組織として「災害救助隊」(仮称)を作る必要がある。
 これに対し、自衛隊をそのつど今回のように動員すればよい、国防と並んで災害救援を重視するようにすればよい、という見解がある。しかし、この見方は日本の民主主義を危うくし、災害救援態勢を強化することもできない見解である。
 国家暴力装置である自衛隊は、敵を消滅させ自己を保存する武力組織であり、災害救援はあくまで余技である。装備も指揮系統も、災害救援用に作られてはいない。今回自衛隊はヘリコプター二百機を派遣したが、巨額を投じてきた戦闘機、ミサイル、戦闘ヘリ、戦艦、戦車などは何の役にも立っていない。たとえば救難ヘリとヘリ搭載救助船を多数擁していれば、より多くの人命を救えただろう。
 また、自衛隊は上意下達の組織であり、現行法で災害対策の主体である基礎自治体の災害対策本部の指示ではなく、防衛省の指示で動いている。行政・住民・ボランティアの結集と同じ次元で、自衛隊は結集できない。これは被災地での自衛官の資質の問題ではなく、組織の問題である。
 阪神淡路大震災の後、自衛隊は被災自治体の要請を待つことなく自主出動ができることになったことも、文民統制を逸脱する大問題だ。災害で行政が壊滅したら、軍事管制になってもよいというわけにはいかない。
 こうした矛盾を解決するためには、自衛隊を縮小・廃止し、災害救助隊を総務省管轄で創設することである。災害救助隊設置法案および、自衛隊の一部または全部をそれに改編できるとする自衛隊法改正案を国会に提出せよ。(W)