G20財務相・中銀総裁会議
  最大の対立点は「不均衡是正」
      課題は、投機規制・食糧問題などへも

 二月十八〜十九日、パリで、G20財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。会議では、新興国と先進国との間で厳しい議論が闘わされ、G7以上のまとまりのなさを露呈させた。妥協の産物として採択された共同声明の要旨は、以下のようなものである。

共同声明の要旨

【世界経済情勢】
 世界経済の回復は強固なものとなりつつあるが、一様ではなく、下ぶれリスクは残る。先進国では成長は緩やかで、失業率は高止まりし、一方、新興国では景気過熱の徴候がみられる国もある。
【不均衡を監視する指標】
我われは、不均衡に対処する政策措置を可能にする一連の指標について一致した。各国・地域の状況を配慮しつつ、4月までに評価の参考指標について合意を目指す。これらの指標は、目標ではないが、以下の項目を採用する。@公的債務と財政赤字、民間貯蓄率と民間債務、A為替や財政、金融、その他の政策を十分に考慮しつつ、貿易収支、投資所得及び対外移転の収支から構成される対外収支。
【国際通貨システム(IMS)の機能強化】
不安定な資本フローに対処するためにIMSの機能強化に向けた作業プログラムに合意した。プログラムにはIMSの機能強化や資金セーフティーネットやSDR(国際通貨基金の特別引き出し権)の役割といった論点を含む。
【一次産品の価格監視】
 一次産品価格の過度な変動を懸念し、国際機関と協力し、消費国と生産国に与える課題と対応策の検討のため作業部会を設置する。次回会合(4月)では、食糧安全保障に関する中間報告や、市場の乱用に対処するための商品デリバティブ市場の規制・監督に関する提言を期待する。我われは、IMFや国際エネルギー機関などに、石油の価格変動に関するG20の作業について、ガスと石炭に拡大する提言を10月までに策定することを求める。
【金融セクターの改革】
 銀行の新しい自己資本規制「バーゼル3」の基準を完全に実施する。厳しい資本規制が課される大銀行の選定は、次のG20首脳会合までに決まることを期待する。
【その他】
 @国際基準の遵守状況を改善する。すべての国・地域に税務行政執行共助条約に署名することを奨励する。Aあらゆる形態の保護主義に反対し、自由貿易と投資の重要性を再確認し、ドーハ交渉の迅速な妥結の重要性を認識する。B昨年12月ソウルで立ち上げられた、金融のためのグローバル・パートナーシップを歓迎する。カンクン機構会議の肯定的成果を歓迎し、国連気候変動枠組条約の議論を進める。Cチュニジア、エジプトを支援する用意がある。

主な新興国は指標表現で反対

 共同声明の発表文は、通常、会議の閉幕と同時に配布される。だが今回は、議長国フランスのラガルド財務相が、会議を総括する議長国会見を始めて、十五分ほど経過した時点でようやく出てきたといわれる。しかも、その発表文には、「外貨準備高」、「経常収支」、「実効為替レート」などの指標に関する文言はなかった。
 このことからも、今回の会議で最後まで争われた最大の問題は、昨年に引き続き、いわゆる「不均衡の是正」なるものである。
 十八日の午後、会議に先立って、中国、ブラジル、インド、ロシアの新興国は、会合を開いて結束を確認した。この席上、中国の謝財務相は、「不均衡是正」のための指標について、「為替レート・外貨準備を使うのは不適切だ。新興国は金融危機への対応に一定の外貨準備が必要である」と強調している。ブラジルのマンテガ財務相も、「指標では、経常収支ではなく、貿易収支を使うべきである」と、述べている。(主要国の経済指標は右表参照、『朝日新聞』二月二十一日付け)
 新興国側の結束した反対で、結局、「経常収支」などの用語は明記されなかった。妥協の産物として、「経常収支」ではなく、「貿易収支」や「対外収支」が用いられたのである。
 経常収支の赤字国と黒字国の間のゆがみが拡大し、その「不均衡」を是正することが、当面の最大の課題として、ソウルG20いらい追求されてきた。しかし、その原因は、貿易収支黒字に有利にするため、人民元を実態よりも割安にしていることだけにある訳ではない(しかし、このために中国はインフレに悩み、不動産バブルの危険さらされている)。アメリカ側の、借金に依存した過剰な消費もまた、大きな原因なのである。
しかも、中国の輸出の半分以上は、外資系企業が担っているのであり、その中には米系多国籍企業も大きな地位を占めているのである。
いまや、グローバリゼーションの時代においては、国民国家の単位だけでの経済分析では、事態の実相には接近はできないのである。「国民経済」から遊離したグローバル企業(投機マネーや多国籍展開する製造大企業など)と、伸張著しい新興国とりわけ国家資本主義との協調と対立が、今日の世界経済の主軸なのである。

投機規制は見送り

 議長国のサルコジ大統領は、「ルールのない市場は投機に支配された市場だ」と言って、投機的な取引規制の必要性を述べた。しかし、米英は、資本活動の自由の原則から市場への政府の介入に消極的な態度をとった。また日本も、「まずは要因分析が大事だ」として、慎重な姿勢を示した。
だが、ひん発する金融危機に、投機マネーが深くかかわっているのは明らかである。したがって、新興国などが、海外からの資本流入に一定の規制を設けているのは当然のことである
また、食糧高騰の原因となると、先進国と新興国の間で、対立している。
新興国の側では、投機マネーや先進国の金融政策(量的緩和政策など)が商品価格の上昇を煽っているとしている。これに対して、先進国の多くは、新興国の経済成長による需要の増加にあるとしている(そのわりには、先進国の食糧消費のムタ゜やぜい沢については、なんら反省されていない)。
会議では、原油とともに食糧など一次産品の高騰を抑えるための対処を重視し、来る4月に中間報告を討議し、6月にはG20の農相会議を開催するとしている。
 食糧高騰の原因は、いずれの要因も当てはまるものであり、さらに異常気象に伴う凶作も大きな要因となっている。(食糧高騰については、本紙面の別記事も参照)
 食糧問題は、地球温暖化問題と同じように、今後、国際的な重要課題となるであろう。(T)


食糧高騰が、イスラム圏「民主革命」の一大要因
  日本農業再建は国際連帯の鍵

 世界恐慌の傷も未だ完全に治りきらぬ世界経済に、今また食糧高騰という難問が襲いかかっている。二月中旬、パリで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議でも、極めて重要な議題として取り上げられ、共同声明にも明記された。

独裁政権打倒に次々と決起

 07〜08年のサブプライムローン問題に端を発する世界恐慌では、投機マネーの流入で、食糧価格が世界的に急騰した。このときには、一部の諸国では暴動が発生した。だが今回は、チュニジア、エジプト、リビア、バーレーンなどイスラム圏諸国の「民主革命」の一つの大きな背景となっている。
 実際、国連食糧農業機関(FAO)によると、リーマン・ショックのあった年、二〇〇八年六月時点の食料価格指数(2002〜04年の平均を100とする)は224・1であったのが、今年一月には230・7、二月236・0とはねあがり、過去最高を更新している。
 FAOの食料価格指数とは、米・小麦などの穀物、食用油になる大豆、牛や豚などの肉、チーズなどの乳製品、砂糖など55品目の国際価格を平均して一つの数値として示したものである。
ぜいたく品などと異なり、人間にとって不可欠な食料価格の高騰は、世界中の人々にとって、深刻な問題にならざるを得ない。若者の失業も多いイスラム圏諸国で生活に窮した人民が、長期独裁政権打倒の闘争に、次々と決起することは本当に理解できるものである。
 食糧高騰は、イスラム圏諸国のみならず、経済成長が著しい新興国をもインフレとなって襲っている。直近の消費者物価指数の前年同月比は、中国4・9%、インド8・2%、ブラジル6・0%、ロシア9・6%、インドネシア7・0%、韓国4・1%などという高い水準になっている。
先進国は、概してデフレ傾向にあったので、インフレにはなっていないが、イギリスのみは特別で、昨年12月が3・7%、今年1月が4・0%となり、2年2ヶ月ぶりの高水準に至っている。また、ユーロ圏も二月の消費者物価上昇率は、前年同月比2・4%となり、三か月連続して政策目標の「2%未満」を上回っている。

輸入大国の脱皮せまられる日本

農水省は、二〇二〇年の穀物価格は、07〜09の平均価格に比較して、24〜35%高くなるとの見通しを、二月十八日に発表した。例を挙げると、トウモロコシの価格は35%、コメは31%、小麦は24%の上昇である。
世界的な人口の増加や、家畜のエサとして穀物が大量に必要な肉類の消費増加、そしてバイオ燃料の普及などにより、穀物全体の消費量は年間22〜27億トンまで増加すると見られるのに、生産量は22〜26億トンまでしか増加しないとみられている。
世界的な消費量の増加、気候変動による凶作などによる食糧高騰に、さらに投機マネーの流入で、食糧分野の商品市場は撹乱され、食糧価格は乱高下するという事態が繰り返されている。
食糧市場が投機マネーによって撹乱されるのは、過剰資本が巨大となり、それが投機マネーと化し、金融市場でのリスクを避けて、食糧市場にしばしば流入することにある。だが、食糧市場は極めて狭隘であり、したがって価格は乱高下しやすいのである。「農産物の貿易市場は、小麦で全生産量の約2割、トウモロコシで1割強、米は3%と小さく、不作の際には国内優先となる。さらに、輸出国が輸出規制をかけてくることもあ(る)」(『朝日新聞』三月一日付け、〈私の視点〉東久雄・国際農林業協会会長)といわれる。
気候変動によりひんぱんに起こる凶作は、地球温暖化ともからみ、資本活動がもたらす経済成長と密接な関係がある。凶作は、単なる自然災害と言って、かたづけるわけにはいかないのである。
世界の食糧ひっ迫が予想される中で、日本は需給率が40%前後という水準であり、輸入大国といわれる。このような低い水準は、いわゆる先進国ではどこにもない。イタリアですら60%台である。
今や、自民党と官僚が荒廃させた日本農業を根本から改革し、再建する事業は、日本人民の食糧事情を安定させるだけでなく、食糧輸入大国として、飢餓にさらされる諸国の人民の食を奪う存在から脱皮するものとして、国際連帯そのものとなっているのである。
菅政権は、TPP(環太平洋経済連携協定)参加への前のめり姿勢をあらわにしている。しかし、関税を全廃とするTPPは、まさに弱肉強食の新自由主義そのものである。それは、強者による、強者のための、強者に都合のよい「自由」の押し付けとそのルール化にしか過ぎない。
菅政権はこのTPP参加のために、日本農業の改革をわずか五年で成し遂げようなどと拙速主義を露にしている。だが、企業の参入による改革は、農業の荒廃をもたらす危険性をもつ。すなわち、利潤追求を目的とする資本の活動は、容易に事業転換を行ない、農業を切り捨てるのは目に見えているからである。
そもそも、民主党の個別所得補償は、その仕組みを基本的に自民党から受け継いだものであり、不足払い制度としては重大な欠陥をもつものである(理論誌『プロレタリア』9号の堀込論文を参照)。人気取りの個別所得補償は、長い目で見て、日本農業を発展させず、農民の生活を保障するものとはならないであろう。(H)