「動的防衛力」に転じた菅民主党政権の新「防衛計画大綱」
  東アジアを分断し戦争の道へ

 菅改造内閣が一月十四日に発足したが、TPP「開国」と消費税増税への決意をむき出しにするとともに、軍事・外交面でもかってない反動ぶりが目立っている。その特徴は、中国対峙の日米安保「深化」であり、また自民党時代にもできなかった形での日米韓軍事同盟の強化である。
昨年十二月十七日午前、菅政権は、安全保障会議と閣議を開催し、新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防、2011年から15年度)を決定した。菅政権は、日米同盟強化、中国包囲網を強めて、戦争へと突き進む道を選択した。
昨年の「尖閣」漁船事件、朝鮮西海での延坪島砲撃戦が起きて以降、日米韓の連携によって中国・朝鮮への対決を扇動する新冷戦的な動きが急速に高められた。その策動の中心に据えられたのが、新防衛大綱である。東アジアの新たな分断と戦争か、東アジアの協調と平和か、これが問われる重大な局面を迎えている。

  中国対峙の「安保深化」

民主党政権が初めて決定した防衛大綱は、中国が、海空の軍事力を急速に近代化させて地域・国際社会の懸念事項となり、朝鮮民主主義人民共和国(以下共和国)も、日本を含む地域の不安定要因になったと主張する。そして、不安定な情勢から起こる様々な事態に、米・韓・オーストラリア等と協力を促進して、迅速・機動的に対処する「動的防衛力」を掲げている。この「動的防衛力」こそが新しい防衛大綱の特徴である。
そのために「日米同盟の深化・発展」を基軸にすえ、首相官邸に「安全保障に関する関係閣僚間の政策調整と首相への助言を行う組織の設置」を掲げている。そして「平素からの情報収集や警戒監視、偵察活動が重要。今後は高度な技術力と情報能力に支えられた『動的防衛力』を構築する」と述べ、機動力や警戒監視能力の向上を打ち出している。
さらに大綱は、十一年予算案への協力を得たい社民党の反発に配慮して「武器輸出三原則見直し」を見送ったものの、「武器の国際共同開発をめぐる大きな変化に対応する方策を検討」等として、武器輸出禁止の破棄を日程に入れている。これは当面、日米共同開発の誘導ミサイルをNATO諸国にも配備することを狙いとしつつ、三菱重工など日本の兵器産業の強化、自衛隊の軍事技術の向上を画策し、世界で戦う日米同盟の好戦的な姿勢を明確にするものである。
また、防衛大綱は、「島しょ部への攻撃には、機動運用可能な部隊を迅速に展開」、「周辺海域での航空優勢、海上輸送路の安全を確保する」と述べ、南西諸島防衛戦略を掲げている。南西諸島とは、九州以南・台湾本島以東の島嶼部であり、釣魚台も含まれている。
そして、中期防では、「与那国島に沿岸監視部隊を配置するとともに『中隊規模の陸上部隊を展開する』」と計画している。沿岸監視部隊は中国・台湾艦船のみならず、中国本土での通信傍受を任務とする部隊であり、直接の軍事的衝突にいたる前に、中国軍と対抗しつつ、中国側の防衛態勢を破壊・突破しようとするものである。中隊規模の陸上部隊も重大な任務をおっている。早期警戒機も南西地域で常時運用する計画になっている。
新しい防衛大綱は「基盤的な防衛力」から34年ぶりに明確に転換し、「専守防衛」を放棄して、好戦的な姿勢をあらわにしている。そして装備も、戦車や火砲を削減して、潜水艦や護衛艦・イージスシステム搭載艦等を増強し、米軍と一体になって中国軍の艦船や基地を叩き、ミサイルを撃ち落とす態勢をつくろうとしている。また、中国の潜水艦活動を封じ込める対潜水艦戦も想定している。東シナ海での米空母の行動の自由を守るために、自衛隊が前方へ出るということである。
中国対抗の日米安保強化は、沖縄県民による普天間基地「県外・国外」撤去要求に真っ向から敵対する。南西諸島を日本の安全保障の拠点とする路線は、沖縄を侵略拠点とするとともに、再び沖縄を戦場化する路線である。「沖縄の負担軽減」と日本政府がいくら言っても、沖縄戦の悲惨を再来させる政策を現に取っているのである。絶対に許してはならない。

  日韓軍事結託へすすむ

菅民主党政権は、中国対抗的な日米同盟を強めるだけでなく、日米韓による軍事連携を強め、自衛隊が米軍と共同して、朝鮮半島と海外での戦争に公然と参加するための枠組みと態勢を、一層拡大・強化しようとしている。
北沢防衛相は一月十日訪韓し、韓国国防相との会談で、日韓軍需(物品役務)相互提供協定を結ぶことを提案し、その協議入りが合意された。また昨年来、米韓合同演習への自衛隊参加、日米合同演習への韓国軍参加が行なわれている。日本と韓国との実質的な軍事同盟化は、日韓の歴史的背景から自民党時代にも打ち出せなかったものである。日韓軍需協定の策動は、きわめて危険な突破口であり、絶対に許すことができないものである。
二〇一〇年十一月、ギリシャに端を発した動揺がアイルランドに波及し、アイルランド危機が発生した。金融危機と財政危機が相乗したアイルランド危機は根深く、ポルトガルの破綻は時間の問題とみられている。一方、中国等新興国は、金融緩和を背景にしたマネーの流入や価格の高騰により、インフレ傾向が強まり経済の減速が見込まれている。ユーロ危機から国際金融危機の再燃が懸念されている。混迷する世界経済を背景にアメリカ帝国主義は、中国等が掲げる東アジア共同体構想をTPP(戦略的経済連携協定)のもとに包摂して、ASEANを巻き込んだ中国の台頭・攻勢に巻き返しを図っている。そして、アジア、太平洋地域での権益を守るために、アメリカは、中国対抗的な日米同盟論を強め、日米韓による中国包囲網を強めている。これに対し中国は、共和国と連携を強め、軍事的・政治的に対抗している。
日本では、ブルジョアジーが日本内需に見切りをつけ、中国・インド等に資本増殖の活路を見出している。菅政権は、これら財界の要求を第一に、国際競争力強化のため、低賃金使い捨て政策を実施し、労働者人民に犠牲を強いている。そして、アメリカの軍事戦略に加担し、多国籍企業と金融資本の権益を守るために、アジア人民に敵対している。菅政権は、アメリカにすり寄り、財界と官僚の言いなりになって、アジア侵略と戦争への道を突き進んでいる。新防衛大綱は、かつてないほどに好戦的であり、迅速に機動的な軍事的攻勢を仕掛けるものである。
情勢は政権交代以降、最大の転換点を迎えている。戦争か平和かが問われ、諸大国に仕切られる東アジアか、民衆の連帯が前進する東アジアかが問われている。中国とは裏取引もする米国に踊らされて、日本が冷戦態勢に舞い戻るなどというのは愚の骨頂である。
民主党内では「リベラルの会」の有志国会議員が新防衛大綱反対の声明を出し、日本の労働者人民と進歩的な諸野党などによって戦争に反対する運動も各地域で闘われている。各地域・職場から、菅政権による戦争策動に反対する運動を巻き起こし、高揚させよう。そして当面、民主党政権を包囲し、「東アジア共同体」「国民の生活が第一」の政治に立ち返るよう強力に迫る闘いが必要だ。その菅政権については、戦争への道をひた走る限り、菅政権は打倒される以外にはないことをハッキリさせなければならない。新防衛大綱に反対し、菅政権の戦争策動を許さず、共に闘おう。(O)