G20首脳会議
  「保護主義反対」「通貨安競争回避」の水面下で
   米中熾烈な主導権争い


十一月十一〜十二日にソウルで開催されたG20は、表向き国際協調を唱えつつも、米中間の激しい主導権争いが展開され、根本問題は来年のフランスでの会議に先送りされた。  
採択された首脳宣言の要旨は、以下のようなものである。
▽為替相場の柔軟性を向上させるとともに、通貨の競争的な切下げを回避する。
▽準備通貨国を含む先進国は、為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視する。
▽新興国への急激な資本流入を抑制するための規制を容認する。
▽大規模で継続した対外不均衡を是正する参考指針は、2011年前半の財務相・中央銀行総裁会議で議論する。
▽不均衡是正の参考指針に基づいた最初の評価は、2011年中に、議長国フランスの下で始める。
▽ドーハ・ラウンド交渉を成功させるとともに、あらゆる形態の保護主義に対抗する。
▽新たな金融規制の枠組みは、金融センターの行き過ぎを抑制し、より強靭な金融システムを確保する。
▽IMFの包括的な出資割当額改革を行ない、グローバルな資金安全網を強化する。
 リーマン・ショックから二年たち、世界経済は明確に、低迷する日米欧とすぐさま立ち直った新興国へと、二極分化した。こうした状況下で、G20各国は保護主義に反対すると言いながら、互に自国利益優先主義で立ち回り、通貨安競争に走った。
 問題の焦点は、先進国とりわけ米日が、景気回復を図って、大規模な金融の量的緩和を行なうが、それが成功しないでむしろ新興国への投機マネーの大規模流入となって、インフレ高進、バブルの醸成など経済を撹乱しているところにある。
 アメリカは、この点を全く軽視し、自国の貿易を改善させようと、中国通貨・元の切上げをこの間、強く迫ってきた。中国はこれに応えて、今年六月、為替の柔軟化を促がす措置をとった。
 しかし、アメリカ側は元の切上げの幅を年間2〜4割と見ているのに対して、中国側はせいぜい1割り程度と踏んでいる。しかし、中国も内需拡大経済に移行するための準備基盤として、貿易黒字が必要なのであり、為替レート改革を徐々に進めるとして、10月現在2%程度で済ましている、といわれる。
 アメリカは二国間交渉に限界をさとり、夏ごろから多国間会議の場を利用して、元切上げの圧力を考えるようになる。そして、直接的なアプローチよりも、間接的アプローチとしてに経常収支の不均衡是正をG20の準備過程から強力に押し出すようにしている。
 そして、十月二十二〜二十三日のG20財務相・中央銀行総裁会議では、韓国と示し合わせつつ、アメリカは「2015年までに経常収支の赤字幅や黒字幅を、各国が対国内総生産(GDP)比で4%以内とする」ことを提案した。
 だがこの提案に対しては、新興国はもちろんのことドイツを始めとするユーロ圏諸国も反対し、日本も慎重姿勢の態度をとる。結局、経常収支の不均衡是正には反対しないが、数値目標ではなくガイドラインに止めるという範囲で合意された。
 このレベルの反応は、アメリカにとって想定の範囲内であった。だがその後も、ドルの独歩安の傾向は止まらず、にもかかわらずFRB(米連邦準備制度理事会)は十一月三日に、さらに金融の量的緩和の政策を強化する。これは、新興国の不満や批判をさらに高めることとなった。こうして、十一月十一〜十二日のG20でも、問題解決の具体的方策は定まらず、来年以降に先送りされたのである。
 G20首脳会議の暫定的結論に至る過程は、アジアや欧州の諸国を巻き込んだ米中間の激しい多数派工作があり、熾烈なヘゲモニー争いとなった。中国がギリシャやポルトガルの国債購入にとどまらず、フランスやイギリスなどとの商談をすすめ「札束外交」を推進すれば、他方のアメリカは、南シナ海の領土問題でベトナムやマレーシアなどを支持し、「尖閣諸島」をめぐっては日本を支持し、環太平洋パートナーシップで「東アジア共同体構想」を凌駕する政策展開を行なう。
 中国は、G20ではとりあえず、アメリカの狙いをそらすことができたが、資本主義世界経済上での活動のツケは、逃げ切ることはできない。すなわち、人民元を徐々に切上げるという今の政策がいつまで持つか―きわめて疑問である。それだけでなく、外資の流入が増えることが明らかなのにもかかわらず、十月二十日に、2年10か月ぶりの利上げをせざるを得ないように、国内のインフレ傾向は強まっているのである。利上げはまた、国内経済を冷やすこととなる。
政府は消費物価指数を3%以内に抑制する方針なのだが、9月は3.6%と3か月連続で3%を超え、10月はさらに4.4%に高進している。投機マネーは不動産のみならず、農産物にまで襲いかかっているのである。
また、中国人民銀行は、十一月二十九日から大手銀行の預金準備率を0.5%あげることを決定した。これは、今年で六回目のことであり、今月だけでも二回目である。(T)


アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指すAPEC
アメリカの巻き返しが顕著

 ソウルでのG20ときびすを接して、十一月十三〜十四日に、横浜でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催された。
 会議は、「世界経済の不均衡是正」、「健全な財政運営の追求」、「保護主義抑止のために、輸出制限やWTO(世界貿易機関)と整合性のない措置を2013年まで控える」としつつ、五本柱の成長戦略(不均衡是正、成長基盤の強化、環境対策、技術革新、安全確保)で「強い共同体」になることを目指すとした。
 APEC首脳宣言(横浜ビジョン)では、この他に、APECの将来像として、「緊密な共同体」、「強い共同体」、「安全な共同体」をうたった。「強い共同体」は前述したが、「安全な共同体」は、感染症や食料安全保障などの取り組みを指す。
 そして、最も特徴的なのは、「緊密な共同体」として、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を目指し、その具体的手段として、@ASEANプラス3(日中韓)、AASEANプラス6(日中韓に、インド、オーストラリア、ニュージーランド)、B環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を基礎に発展させるとした点である。
 @は従来から「東アジア共同体構想」として、中国などが強調してきたものである。これに対抗して、日本などはこれまでAを提唱してきた。それが今回、アメリカを中心として、BのTPPが強力に主張された。
 このTPPは、明らかに「東アジア共同体構想」を相対化し、同構想をTPPのもとに包摂するものであり、ASEANの一部を巻き込んで中国の台頭・攻勢に巻き返しをはかったものである。TPPには、ASEANからはシンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナムが加盟することを表明しているが、ベトナムの参加は極めて重要な意味をもつであろう。
 菅政権は、今回、このアメリカの巻き返し活動に、議長国として強力な支援を行ない、鳩山政権時代の「東アジア共同体構想」からは大きく離れた方向性を示した。
だが、事前の閣議決定では、TPPへの参加については「関係国との協議を開始する」程度に止めざるを得なかった。関税撤廃のTPPは、法的拘束力をもつ協定なのであり、日本農業の壊滅は必至である。画一的一律的な新自由主義にもとづく貿易制度に反対しつつ、日本農業の根本的再興が喫緊の課題となっている。(Y)


ギリシャに続くアイルランドの混迷
  金融危機と財政危機の相乗

ヨーロッパ金融情勢は、今年七月の金融機関のストレステスト(資産査定)によって落ち着いたかと思われたが、九月はじめになって、再び金融不安が生じた。
それは、アメリカの新聞報道が「一部の銀行が、売買目的で保有する国債を(ストレステストでの)申告から除外した」と報じて、槍玉に挙がったバークレイズやクレディ・アガリコルなどの株価が下落したためである。
また他方では、ギリシャはもちろんのこと、アイルランドやポルトガルの10年物の国債利回りが、ヨーロッパで最も安全とされるドイツのそれとの格差をつぎつぎと過去最大に拡大し、五月いらいの水準に上昇している。
ここへきて、アイルランドでは、二〇〇九年に破綻し、国有化されたアングロ・アイリッシュ銀行への公的資金が急増する。このため、今年の財政赤字の対GDP比は、昨年の14%に対して11.5%に改善されると予想されていたのが、約20%に増大すると見られている。
しかし、アイルランド政府は、九月三十日には、さらに他の銀行を含めて追加支援策を発表せざるを得なくなる。このため、今年の財政赤字は、改善どころかなお一層悪化し、対GDP比32%になる、と見られている。(政府が保証する銀行の債務はGDPの3倍近い)
この事態に、格付け会社フィッチ・レーティングスは、十月六日、アイルランド国債の格付けを「AAマイナス」から「Aプラス」へ引き下げた。
その後、ギリシャ、アイルランドだけでなく、ポルトガル、スペイン、イタリアの10年物国債の利回りは、10月下旬頃から急上昇する(国債価格は下落)。
ギリシャでは、10月中旬9%を下回っていたのが、十一月に入って11%にはねあがる。アイルランドは、十一月はじめ7%を超え、過去最高となり、同月十一日には9%超と2週間で2%も急上昇した。ポルトガルは、十一月に入り、6%台半ばという過去最高水準を示したが、同月十一日には7.2%を超え、過去最高を更新した。この日は、スペイン、イタリアも上昇し、スペインは4.6%強、イタリアは4.2%前後となり、ドイツとの利回り格差は、前者が2.2%、後者が1.8%となった。(下図を参照、『日経新聞』十一月二十五日付)
南欧諸国が一斉に国債利回りを上昇させ、ひいてはユーロを下落させたのには、理由がある。それは、ドイツのメルケル首相の発言である。10月末のEU首脳会議は、欧州版IMFの設立で合意した。これは、ギリシャ危機に伴って二〇一三年までの期間限定で設けられた緊急融資制度(本紙488号を参照)に代わる恒久的な制度である。しかし、その制度設計をめぐって、ドイツ政府は民間投資家の負担(支援対象国の国債を保有する投資家に元利払いの先送りなど一定の負担を課すとした)を求めたのに対して、欧州中央銀行(ECB)側は、「市場の不安材料となる」と反対したのである。
このメルケル発言を聞いて、投資家たちはアイルランドやポルトガルの国債売却の動きを加速させた。この動きは、さらにスペインやイタリアの国債にも波及したのである。
この一連の動きに対し、ドイツ、フランス、イギリス、スペイン、イタリアの五カ国財務相は、共同声明を発し、二〇一三年半ばまでは(欧州版IMFが設立されるまで)金融支援を受ける国の国債保有者は負担を被(こうむ)らないことを強調し、沈静化させた。

〈次はポルトガルか〉
しかし、南欧諸国の国債利回りは、全般的に高止まりし、とくに深刻なのはギリシャを除くとアイルランドである。
アイルランドはもともと農業を中心とする農業国であったのが、一九九〇年代以降、極めて低い法人税率で、医薬やIT(情報技術)の外国企業を誘致するとともに、金融業を基幹産業に育てた。しかし、サブプライムローン問題に端を発する世界恐慌で、国内の不動産バブルが崩壊し、銀行業の経営が急速に悪化する。銀行などの資産規模は、バブルでアイルランドの国内総生産(GDP)の8〜9倍にも膨れ上がっており、不良資産の処理に終りがなかなか見えず、国家財政の負担もどこまで膨れ上がるか目途が立たない状況である。
実際、住宅金融最大手のアイリッシュ・ライフ・アンド・パーマネントや、大手銀行バンク・オブ・アイルランドやアライド・アイリッシュなどでは、預金流出が止まらない有様である。したがって、多くの大手金融機関が資金繰りを市場から得られず、ECBに依存しているのである。
こうした状況下で、外部支援を嫌うアイルランド政府に対して、EUやIMFなどは銀行再建を迫り、国際機関との協議開始という噂が広がる中で、十一月十六日の欧州株は全面安となる。
アイルランド政府が外部支援を嫌ってきたのは、自らの金融・経済政策の過ちを認めたくないのと、国債の償還資金を二〇一一年まで手当できていることにある。
しかし、肝心の不良債権問題が解決できておらず、むしろ傷口を広げる状況となり、ついに外部支援を仰ぐこととなった。アイルランド支援の規模は、850億ユーロ(約9.5兆円)と見込まれている。
アイルランド政府は、十一月二十四日、二〇一四年までの4か年の財政再建計画を発表した。基本目標は、十四年までに財政赤字を対GDP比で3%以下へ減らすことである。そのために、4年で財政規模を150億ユーロ(今年度歳出の約2割り、GDPの9%にあたる)圧縮する。100億ユーロは歳出削減、50億ユーロは増税で、財政赤字を減らす。歳出削減は、社会保障給付や公務員賃金・公務員数の圧縮などで、増税は、付加価値税率の引上げ(21%→23%)、資産課税の強化、所得税の見直しなどである。
金融危機と財政危機が相乗したアイルランド危機は、根深いものであり、これだけの方策で解決するかは、きわめて疑問である。問題はそれよりも、ポルトガルやスペインなどへ、危機が波及する可能性のほうがはるかに高いのである。ポルトガルの財政危機は、その原因がギリシャと同様の「放漫財政」によるものであり、その破綻は時間の問題と見られている。(H)