〔投稿〕

  ワークシェアリングで雇用の拡大を
                    自治体の労働組合大会討論から

先日、私が所属する組合の大会にて職場闘争の方針案の討議が行われたが、出席した一人の代議員より修正案が提出された。これは執行部の方針案に、「労働時間短縮によるワークシェアリングを行ない、増員要求を実現するための職場討議を進める」という方針を加えようというものである。
提案理由は次のようなものであった。
戦後最大の不況と言われ、解雇や新規雇用の減少により失業者が増大している。そのためワークシェアリングを行ない、雇用の増大を図ることが求められている。我々自治体職場においては、生活保護受給者の増加によって担当職場の人員不足が叫ばれており、また財政状況が厳しいことを理由に多くの職場で人員削減が行われており、人員不足の声が多くの職場から上がっている。
 生活保護受給者は2009年4月以降市内でも一千世帯以上増加したと言われ、現在でも生活保護の相談が数多く寄せられている。増加の原因は、多くの派遣労働者が首切りにあって路上生活を余儀なくされた状況の上に、いわゆる路上生活者が「住所不定」を理由に生活保護を受けることができなかった状況が改善され、住居を構えることを前提に住宅扶助と併せて生活保護ができるようになったためである。
 確かに、これまで公園などに多く存在したホームレスの人数が目に見えて減少しており、生活保護を適用することへの政策の転換は大きな成果を上げている。それには生活保護担当職員の苦労があるわけであるが、現状では生活保護を適用することだけで精一杯の状況である。
 しかし、生活保護を適用するだけでは、近い将来、生活苦のために、あるいは仕事に就けない失望感から住宅扶助費を生活費や他のことに消費してしまい、家賃が払えなくなって再び路上生活に戻ってしまうことが心配される。そうなれば、ホームレス→生活保護→ホームレスという循環に陥ってしまう。やはり、仕事に就いたり、地域社会に定着するなどの社会的な繋がりが必要であるが、現行の生活保護担当職場の体制ではいかんともしがたい。生活保護適用だけでなく(この業務も人員不足であるが)、保護受給者が仕事に就いたり、地域社会に定着できるなどの社会的な繋がりを築くことを創出したり支援したりする施策、つまり、再び路上生活に戻らなくて生活できるような支援策と、その施策を実現するスタッフ(職員)も必要なのではないだろうか。
 そのためには、自治体は財政が厳しいことを理由に職員を減らすのではなく、市民の生活を守り、雇用の増大を確保する観点から、また不況だからこそ必要である施策を遂行する人員を確保するために、自治体はワークシェアリングを率先して行うべきだと考える。
 しかしながら、当局は組合の反発を恐れてか、本格的なワークシェアリングを提起しようとはしない。ここはむしろ組合から労働時間の短縮によるワークシェアリングを提案し、その替わりに雇用の増加に伴う職員の配置についても組合が提案し、かつ組合の同意が必要とするような、組合主導のワークシェアリングを進めるべきではないか。
 以上が修正案の内容であり、具体的なワークシェアリングの方法として提案者から次のような試案が示された。

  労働時間短縮による賃金減額を原資に雇用の増大を

 一つは、毎週一日、一時間の労働時間の短縮を行ない、業務に支障が生じない範囲で全職員に割り振るものである。そのため労働時間は週38時間45分から一時間短縮されて37時間45分になるので、2.6%の短縮として給料を2.6%減額する。職員数が一万人とすれば、週総労働時間が一万時間短縮されるので、これを一人あたりの週労働時間37時間45分で割ると二百六十五人の新規職員を採用できることになる。
 二つ目は、一日の労働時間を15分短縮するものである。3.2%の短縮なので給料を3.2%減額する。週労働時間が15分×5日=1時間15分短縮されるので、職員数が一万人とすれば、週総労働時間が1万2千5百時間短縮されるので、これを一人あたりの週労働時間37時間30分で割ると三百三十三人の新規職員を採用できることになる、というものである。
しかし、若年の代議員より、「今でも給料が上がらないのに、これ以上カットされるのは反対である。時間外労働が多いので、時間外労働を担う職員を増やせば良い」という意見が出され、その他「若年層に比べ給料が高い五十歳代に適用すれば良いのでは」、「五十歳代のみに適用するのは不公平だ」、「いっそのこと、希望選択制にすれば良いのでは」など様々な意見が飛び出し百家争鳴の観を呈したが、それに慌てた執行部は、「時間外労働を縮減し、時間外手当の原資にて職員採用を増やすことも労働時間の短縮によるワークシェアリングの一つである。提案者の労働時間の短縮による賃金の減額は一つの事例として挙げたものであり、それをいま方針として決定しようというのではない。それを含めて職場討議を進めるというのが修正案の趣旨であり、執行部としては受け入れたい」と表明し、論議は打ち切られ、修正案を取り入れた執行部案が賛成多数で可決された。
さて、ワークシェアリングをきっかけとした論議において意見の相違が顕在したが、これは賃金が年功序列になっていることを反映したものでもあった。若年層の低額な賃金が臨時職員や嘱託職員などの非常勤職員や委託・派遣職員の低賃金の算出根拠になっており、中高年層の賃金を抑えてでもそのぶん若年層の賃金の底上げを図るということは全労働者的な課題になりえるのだが、従来の年功序列賃金に固執する執行部としては、ワークシェアリング論議が賃金の「世代間抗争」に及ぶことを恐れ、討論を早々に打ち切ったようである。

  若年層が組合の中心となる賃金闘争を

自治体労働者の賃金は人事院勧告に大きく影響を受けているが、人事院と自治労中央本部は給料表のフラット化(年齢で給料が上がる斜線をフラットに近づける。つまり中高年層の給料を抑え、そのぶん若年層で給料を上げるもの)に大筋合意しているが、現場の組合役員の多くは、「年功序列賃金を壊すフラット化は能力給や成績給の導入に繋がる」という理由で反対している。
現場の組合役員はどうしても現状の賃金体系を守ることが第一義となってしまうのだが、私たちの組合では特にその傾向が強まりつつある。というのは、近年若者の組合離れにより組合加入者が激減し、組織率は五十%までに落ちてしまい、五十歳代が組合員の大半を占めるという状況のため、中高年層の賃金を守るというのが賃金闘争の主眼になってしまっているのである。しかし、十年も経てば組合員の大半は退職してしまい、新規採用職員の加入率の低さから察すると、組織率は散々たる状況になるのは目に見えている。ここは思い切って賃金闘争のあり方を根本から見直すことによって、若者に対する組合への求心力を高めていくべきではなかろうか。さて、どうすべきか。
若年層の賃金アップが非常勤職員や委託・派遣職員の、つまりはすべての労働者の賃金アップに繋がることを若年層が自覚し、若年層自身が賃金闘争の主役となり、組合運動の中心になることである。あえていえば組合青年部が、「中高年層に劣らず、いやそれ以上に頑張っている私たち若年層が、なぜ低い賃金で働かされなければならないのか。中高年層の高い賃金をダウンさせてでも、若年層の賃金を上げるべきである」と組合執行部に詰め寄る、もっと言えば組合執行部を若年層で占めて賃金闘争の転換を図るくらいの運動が求められているのではないだろうか。
                        (自治労加盟組合の一組合員より)