参議院選挙

日共の大敗北と新自由主義党派の躍進
問われる左翼の現代的再構築


    (1)

 七月十一日に投開票された参議院通常選挙は、次のような結果となった。
投票率(選挙区)は約58%で、ほぼ前回並みだった。しかし、沖縄では大幅に落ち込み、全国最低・戦後最低(約52%)を記録した。その原因の考察は、別稿「沖縄通信」にゆずる。
各政党の相対得票率(比例区)は、民主党31・6%、自民党24・1%、みんなの党13・6%、公明党13・1%、日本共産党6・1%、社民党3・8%であった。
議席数を見ると、民主は選挙区(特に一人区)で惨敗した結果、改選議席を10も減らして44議席となり、非改選を含めても106議席で、過半数(122議席)を大きく割り込んだ。自民は、改選議席を13増やして計84議席(以下同じ)、得票数を大きく減らしての勝利である。みんなの党は、10議席ふやして11議席に、得票数でも大躍進した。公明は、2議席減らして19議席となった。日共は、1議席減らして6議席に、社民は1議席減らして4議席となった。連立与党の国民新党は、改選議席3を全て失い、3議席になった。

    (2)

 この選挙結果をどう見るべきか。
 第一のポイントは、民主党が大敗したことである。すなわち、昨年の8・30総選挙で民主党圧勝・政権交代に結果した国民の「変化」への熱望、「国民の生活が第一」への期待が、失望に転化したことである。
 この局面は、小泉政権の登場から始まる政治流動の中で捉える必要がある。
 新たな時代は、戦後の産業発展に対応した利益誘導型統治が行き詰まったことに端を発する。産業の成熟(市場の飽和)によって、貨幣資本の過剰とその投機マネーへの転化が、その対極に失業を増大させつつ進行する時代に入った。そこで唱えられたのが、これからの資本主義の「発展方向」である国際投機マネーの膨張促進を本質とする改革であった。アメリカ一辺倒・市場原理主義の「第一極」路線である。利益誘導型統治の弾劾をテコに、「変化」を求めて大きく流動し始めた民衆の期待をこの路線の下に糾合し、政権を樹立したのが小泉であった。
 しかし、小泉政権の改革は、非正規労働者の増大、格差の拡大、貧困問題の深刻化をもたらした。巨大投機マネーの膨張運動は、社会の崩壊を招くのである。それで何故悪いと開き直るのが、この路線の態度なのだが、政治的にはそれでは済まない。支配階級の間において民衆を包摂することによって社会の崩壊を押し止めようとする路線が台頭した。それが、「対等の日米関係・東アジア共同体」「国民の生活が第一」の「第二極」路線である。8・30政権交代選挙でこの路線が支持され、民主党主導政権が誕生したのだった。
 しかし民主党は、政権交代後わずか10ヶ月後の本参院選挙で大敗することになった。何故か。
 それは、民衆の懐柔・包摂をその役割として期待され成立した政権が、超大国アメリカに屈し、官僚の言いなりとなり、財界の利益の代弁者へと後退してしまったからである。「辺野古」回帰しかり、消費税しかり。
 民主党主導政権のあまりにも軽々しい変節は何処から来るのか?
 それは、民衆の中に根を持っていないからである。かつて、利益誘導型統治が活力をもっていた時代には、政権与党の政治家もまた民衆的基盤と結合していた。それが衰えた今日、それに代わる基盤を創造できていないということである。これでは統治に当たって、官僚システムや企業システムにひたすら依存せざるを得なくなるのももっともなことである。
沖縄では民主党は、民衆に依拠する条件があったにもかかわらず、これを拒否してアメリカを選択した。アメリカ一辺倒を変える基盤を国際的(特に朝鮮を含めた東アジア)に構築できていなかったことが、大きな要素としてあるだろう。
第二のポイントは、みんなの党の躍進である。
みんなの党は、小泉構造改革を継承する、アメリカ一辺倒・市場原理主義の党である。この党が、今回躍進し、一定の勢力を確保した根拠は何か?

躍進の根拠は、この党が、過剰化し膨張する貨幣資本にとっての唯一の「発展方向」である投機マネー資本主義の道を掃き清める政策を正面切って掲げたことである。
たしかにこの路線は、「格差・貧困」問題が焦点化したリーマンショック後の8・30総選挙においては、断罪された。しかし、08年世界金融恐慌が国際的に共同した大規模財政出動(=財政赤字の肥大化)によって一時的に緩和されたことによって、一方で「勝ち組」階層が欲する「新たな成長」をめぐる議論に道が開かれ、他方で公共投資から社会保障対策へ舞台を変えてバラマキ批判が復活した。こうした状況変化が、リニューアルした市場原理主義に勢いを与えたといえるだろう。
とはいえこの党が、アメリカ一辺倒・市場原理主義の推進的中核となって、自民党の「上げ潮」派などを糾合していくか否かは、不透明である。08年世界金融恐慌が、財政危機を介して新たに政治的危機を現出させれば、この党の躍進がこの局面では一時的なことに終わるということもある。ただし、この傾向がこれからの一時代において、あくまで「第一極」を成すのである。その意味でこそ、今回の躍進は、注目しておかねばならない。
みんなの党と好対照をなすのが自民党である。この党は、見かけ上は勝利して二大政党の一方の地位を維持しはしても、利益誘導型政治の長老や派閥が依然として力を持っており、路線的に曖昧なままでいる。人々が現状の打破を求めている時代には、そうした政党に未来はない。
第三のポイントは、日本共産党の歴史的大敗である。
日共は、得票数・得票率をいずれも大幅に減らし、改選議席も3議席しかとれず、しかも東京選挙区に立てた目玉候補を落選させた。幹部会は、これを受けて声明を発表したが、いつものような弁解も出来ず、「自己検討を行なう」とだけ述べている。内的に、困惑と混迷が深まっているようである。
しかし、原因は明らかだ。要するに、利益誘導型統治の枠内の反対派に特化し、中央集権的党官僚体制への信奉と独善性で打ち固めてきた体質が、社会の変化に適応できなくなっているのである。それは、日本政府が「県外・国外」公約を裏切り、「辺野古」回帰の「日米合意」に走った直後のこの選挙で、沖縄選挙区に「県外・国外」の共同候補を立てようとせず、まず独自候補ありきで沖縄民衆の戦列に分裂を持ち込んだ態度にこそ、端的に現れていた。また、非正規労働者運動の発展の萌芽を育てる態度が欠落していた点にも、見ることができる。さらには、実際には三五六万票しか獲得できなかった訳だが、六三〇万票に目標設定していたという超主観主義的な現実認識に、この党の現実離れの深刻さが集約されていた。
ともあれ、良くも悪しくも左翼の政治的流動化を押し止めていたこの党が、解体的危機にはまり込んだということである。左翼の一大政治的流動が始まり、その現代的再構築が問われよう。

    (3)

 超大国アメリカは、アフガンにおいて史上最長の侵略戦争に疲れ切り、はやく撤退の道筋をつけようとする焦りから敗北必至のカンダハル決戦に突入しようとしている。東アジアにおいてもアメリカは、軍事権益の政治基盤の動揺に直面しており、これにタガをはめるため、朝鮮半島の軍事緊張を無理矢理に掻き立てている。悪あがきである。アメリカ帝国主義は衰退してゆく。
 こうした中で民主党主導政権は、アメリカにしがみついて生きる道へと旋回した訳だが、その道に展望はない。消費税10%増・法人税減税による財界・官僚の協力獲得とそうした形での財政再建の目論見は、今回の参院選の大敗で破綻した。民主党主導政権は、「東アジア」および「民衆」という大きな壁にぶつかった。東アジア重視・民衆包摂という8・30政権交代当初の路線に回帰することが問われているのだが、それは、連立対象の問題を含む権力闘争抜きにはありえない。
 政治の流れは、渾沌状況に入る。われわれは、その渦中で「第三極」の形成にあらゆる方面から着手してゆかねばならない。
 第一に、労働者民衆の大衆運動を再建することである。
 それには、失業・非正規の労働者の運動に力点をおく。人間(環境)を大切にする新たな社会の建設に貢献する仕事を勝ち取り・創造していくこと、最低賃金千円以上を実現すること、労働組合による労働者供給事業を含め失業・非正規労働者を大胆に組織化することが鍵となる。闘争と事業・地域づくりとを結合し発展させることが重要である。運動の横のネットワークを広げていくことである。
 第二に、「第三極」政治勢力の形成を模索することである。
 「第三極」政治勢力は、社会の崩壊に抗して新たな社会の在り方を模索する労働者民衆の大連合体となるだろう。それは、左翼の政党・政派の枠を超え、左翼の枠をも超えたものとなるだろう。失業・非正規の労働者層が強力な一基盤でなければならない。地域社会の再構築の内に自己の力を蓄積していかねばならない。
 第三に、「第三極」政治勢力の形成を推進するヘゲモニーを生み出すことである。
 「第三極」政治勢力の形成には、ネットワークを編み上げる推進翼を、ネットワークの一構成部分として打ち立てる必要がある。社会の崩壊を根本のところから克服する構想が求められる。
マルクス主義の現代的発展と共産主義者の団結・統合、これが緊要の課題となってくるだろう。