菅連立政権といかに闘うか
  「中道右派」に抗し左翼「第三極」へ


 昨年の「政権交代」以降、約十ヵ月を経た七月十一日、通常の参議院選挙が行なわれる。この参院選挙における最大の争点は、客観的に見ると、このかんの民主党主導政権下の経験を国民がふまえ、民主党に政権担当を続けさせるのかどうか、それ自体を問うことであると言える。(本紙が出回る頃はその結果が出ているが、他の小政党と連立して参院過半数をようやく制するか否かが、鍵とみられている。有権者の多数が、自民党旧勢力の復権を望まないものの、民主党の執権続行にも批判的・条件付的になっている傾向が示されるだろう。)
 衆議院では民主党は単独過半数を占めており、「ねじれ国会」とならないかぎり、民主党を中心とした政権が当面続くことになる。この民主党主導政権との闘いの基本的方向、また参院選が終わって直面する諸闘争課題について検討しよう。

  「新成長戦略」の内実

 六月八日、民主党・国民新党連立の菅直人政権が成立し、同十一日、菅首相の所信表明演説が行なわれた。菅首相はそこで、「強い経済、強い財政、強い社会保障」によって「元気な日本を復活させる」こと、これを新政権のカラーとして打ち出した。この「経済・財政・社会保障の一体的立て直し」の内政と、「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の外交、これが所信表明の基調となっている。菅民主党によっても、鳩山民主党時の「国民の生活が第一」「脱官僚依存」「東アジア共同体」などの言葉は維持されているものの、鳩山前首相のカラーであった「友愛」理念は、今やブルジョア的現実主義によって一掃されたのである。
 しかし、この菅政権も、自民党旧体制の新自由主義一辺倒や官僚主導政治に戻るわけにはいかない。戻れば、民主党による政権交代の正当性自体を壊すことになる。そこで菅は、公共事業中心の「第一の道」でもなく、市場原理主義の「第二の道」でもない、「第三の道」として「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげる」政策、すなわち「新成長戦略」を掲げた。
その「新成長戦略」の中味は主要には、環境や介護、生活関連での需要・雇用創出と、中国やインドの経済成長を日本の経済成長に取り込もうとする「アジア経済戦略」の二つである。
この提起の前半部分の「グリーン」「ライフ」による成長策は、自民党時代の物財中心の経済成長主義とは異なるが、菅が経済効果を期待する福祉・介護・医療などの社会保障的分野においては、利潤率を目安とする資本主義的経営が適応できる範囲は限られている。現代的な課題領域で雇用を創出しようとするならば、資本の論理とは異なる新しい事業体・新しい社会システムが問われ、それを本格的に支援する行政が問われる。しかし、資本の増殖を経済成長のベースとして捉えるブルジョア民主党は、NPOなどを奨励することはあっても、資本主義の枠外までは決して行けないのである。
結局、国内の雇用創出は建て前化され、提起の後半の、原発を含むインフラ輸出や増大するアジア諸国中間層の「アジア内需」が頼みの綱となる。財界はアジア市場などでの国際競争力のために、民主党主導政権に国内の賃金・雇用破壊政策の続行を求めるだろう。
外交面においても菅政権は、鳩山政権の普天間返還問題での対米交渉の挫折をそのまま引き継いでいる。内政面においても、昨年の政権交代時にみられた民主党の「変革」の意気込みは引っ込み、財界・官僚との妥協と調整の局面に入っている。われわれ労働者人民が政権交代情勢を利用できる可能性は、より小さくなっている。民主党主導政権は当初は、格差拡大反対・雇用破壊反対の国民的声に強く影響され「中道左派」的政権として出発した。しかし結局、「5・28日米合意」と社民党の連立離脱を契機として、「中道右派」的政権へ後退したのである。
民主党は、自己の執権に正当性を与える自民党旧体制の否定と、政権党としてのブルジョア現実主義との間で今後も不断に動揺していくだろう。民主党主導政権のこうした両面性は、いぜん見ておく必要がある。労働者人民の闘いによっては、民主党主導政権下でも状況は変わりうるだろう。
日本の階級闘争の現在の発展段階においては、この民主党主導政権との闘いという当面の過程を省略することはできない。この過程を経ることによって、労働者人民は当面の改良をかちとり、また政治的・社会的力量を強めていくことができる。この過程を通じて、民主・自民の二大ブルジョア政治勢力に対決できる左翼的・民主的な「第三極」政治勢力を形成しなければならないのである。自民党の復権を許してはならないが、それでは、いつまでも民主党の執権に甘んじるのか。いや、そんな必要はない。「第三極」政治勢力形成の前進の度合いに応じて、民主党主導政権に取って代わる次の政権展望が見えてくることになるだろう。

以上の民主党主導政権との闘争基調をふまえつつ、参院選挙後の直面する闘いを検討しよう。

  辺野古新基地建設阻止

第一に、普天間基地撤去・新基地建設阻止の闘いである。
 参院選挙では本来、鳩山政権が普天間返還問題での公約違反を主因として崩壊したことをふまえるならば、普天間問題に集中的に表現された現在の日米関係、その日米安保体制の問い直しが一大争点となるべきであった。「抑止力」なるものにしがみつき沖縄に基地を押し付けるのではなく、平和構築外交に転じる方向で「対等な日米関係」に踏み出すこと、これが問われていた。
ところが、鳩山から菅に首相が代わると混乱に終止符が打たれるという期待感なのか、民主党人気がV字回復し(それも一時的ではあったが)、その中で「本土」では普天間問題は一応決着がついたかのように扱われ、マスコミの選挙争点から外されていった。
菅政権成立直後の朝日新聞世論調査では、「5・28日米合意」を踏まえて対応するという菅首相の方針について、「評価する」49%「評価しない」26%という遺憾な数字がでている。鳩山政権による日米合意強行について、その直後には「本土」でも明らかに不人気であったが、評価が逆転している。民主党支持者などの中に、普天間問題は沖縄という一地方の問題であり、その紛糾で政権交代が台無しにされては困るという意識があると考えられるが、それは「本土」エゴ・沖縄差別であるだけでなく、政権交代の意義自体を堕落させるものである。こうして、我われには「本土」世論を変えるという大きな宿題が残った。
菅首相は所信表明演説で、「普天間基地移設問題では先月末の日米合意を踏まえつつ、同時に閣議決定でも強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力する」と述べ、鳩山政権による辺野古回帰の「5・28日米合意」と閣議決定を踏襲することを表明した。また沖縄に対し、「長年の負担に対する感謝の念を深める」などと述べ、6・23「慰霊の日」の沖縄全戦没者追悼式においても、米軍基地での「沖縄の負担がアジア太平洋地域の平和につながってきたことにもお礼を申し上げます」などと述べた。菅と調子を合わせ、米議会も沖縄「感謝」決議を上げた。感謝するので新基地を受け入れよ、こんな言辞に沖縄民衆の抗議が高まるのは必然である。
「日米合意」「閣議決定」をすぐに撤回させることができなくても、それを空洞化し、死文化させることは完全に可能だ。
「5・28日米合意」は、「1800m滑走路を持つ代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置する」とし、「位置、配置及び工法の専門家による検討を八月までに完了させ、次回日米安保協で確認する」としている。菅首相は6・23沖縄で、「検討が八月に終わったからといって、問答無用で着工するということではない」と述べ、沖縄交渉役の仙谷官房長官も「決まっても地元の同意がなければ進まない」としている。今のところ、埋め立て認可など知事権限の取り上げという強権措置は、政治的に困難である。
この辺野古回帰方針は、稲嶺名護市長の拒否はもちろんとして、仲井真沖縄県知事からすら同意をとれていない。かつての名護市長、沖縄県知事の「条件付き」同意があった海上案・沿岸案よりも、さらに実現可能性がない代物である。九月名護市議選、さらに十一月沖縄県知事選の勝利で、「日米合意」の死文化が確定的となるだろう。

  消費税増税阻止

第二に、消費税増税阻止の闘いである。
民主党は参院選マニフェストで、「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」としている。また菅首相は所信表明で、「財政健全化の緊要性を認める超党派の議員により、財政健全化検討会議をつくる」ことを提案した。明らかに消費税増税のための大政翼賛、大連立の策動である。
菅は六月十七日に、「自民党が10%という案を出している。参考にさせてもらう」と突出した発言を開始し、民主党内からも大いに反発がおきた。10%発言が不評であったので、菅は低所得層への還付案などを出して取り繕ろったが、法人税を下げて消費税を上げるというのでは「国民の生活が第一」を真っ向から否定する提案である。
東アジアの平和環境を前進させ防衛関係費を半滅させれば2・5兆、対等な日米関係を前進させ「おもいやり予算」その他米軍支援関係をはぶけば1兆円、今後の特別会計仕分けで数兆円は節約できるはず。大企業優遇税制と低い社会保険負担によって、日本の企業の実際の負担は軽い。消費税増税・法人税減税のためではなく、格差是正のための税制改革が必要だ。
消費税増税反対の闘いは、ブルジョア与野党による政界再編の動きに抗しながら、民主・自民に対決する「第三極」政治勢力の発展の道筋となるだろう。

  非正規の組織化

第三に、派遣法抜本改正の実現と非正規組織化の闘いである。
政府の派遣法改正案は継続審議となっている。政府案は、労働規制緩和から規制強化へ転ずる第一歩とはなるが、登録型派遣を広く容認し、「常用型」の製造業派遣を認めるなど、ザル法である。しかし臨時国会では、必要な修正を求めつつも、これを成立させ次の展望を拓く闘いへ進むべきである。
抜本改正によっても、派遣・非正規問題の解決はない。次の闘いは、非正規労働者を大きく組織化する闘いである。そのためには、どのような闘い方があるのか。派遣法を廃止させ、非正規労働者が労働組合による労働者供給事業として団結することも検討の一つである。あらゆる方法で非正規組織化を進めよう。
非正規の仲間を組織するうえで、最賃時給闘争は重要だ。民主党は公約で、最低賃金として時給800円とし、景気状況を考慮しながら全国平均1000円を目指すとしている。六月にはこの内容で、菅政権と連合の政労合意が行なわれた。しかし現在の課題が800円では、ワーキングプア―の固定化である。
九月の最賃審議会の決定を前に、全国どこでも時給1000円以上の早期実現、この世論をもりあげる必要がある。
沖縄反基地をはじめとする諸闘争を発展させ、延命・動揺する民主党主導政権を包囲しよう。


〔夏季特別カンパを訴える〕

  選挙後こそ本番だ

 読者・友人の皆さん! 参院選挙も終われば、私たち労働者人民の闘いの再スタートが始まります。労働者共産党と本紙への、夏季特別カンパをよろしくお願いします。
 菅連立政権が、沖縄基地公約の裏切りで崩壊した鳩山政権に代わって発足し、そのまもないうちに新首相が消費税10%の引き上げ・法人税引き下げを主張するなど、労働者人民への収奪を強めようとしています。また辺野古回帰の日米合意を踏襲し、沖縄県民の願いに敵対しています。
 労働者共産党は、こうした民主党主導政権の政治に対決し、すべての進歩的人々と団結して闘うとともに、非正規労働者をはじめとする労働運動の前進のために力を入れて奮闘してきました。
 昨年来の政権交代情勢を活かしきり、労働者人民の政治的・社会的進出と改良的成果とを更にかちとるために、また、民主・自民に対峙する「第三極」政治勢力の形成のために、皆様のご支援を心よりお願いします。

【カンパ・紙代送金先】郵便振替00160−4−174947新世界通信