千葉県松戸市
 画期的な成功収めた「住民投票」条例請求署名運動

   住民自治の前進に大きな一歩

 東京都に隣接する千葉県松戸市で、地方自治法74条に基づく住民投票を求める署名活動がたいへんな注目と活気のなか行なわれ、31742名という予想をはるかに上回る署名を集めて終了、市選挙管理委員会に提出されて投票実現に向け大きく前進している。
 この運動を推進しているのは「新病院整備基本計画の賛否を問う住民投票を実現する会」で、この会は、現存する松戸市の市立病院周辺の町内会・商店会を中心とし、「市民自治をめざす1000人の会」(吉野信次事務局長)や無会派の市議会議員、民主党の一部県会議員・市議会議員、新社会党の市議会議員が参加して作られ、昨年十一月から活動を開始していた。
 住民投票は全国的には、市町村合併やゴミ処理施設の是非を問う例が多数見られる。今回、松戸市で市立病院移転を問うことになった経緯は次のとおり。
 国保松戸市立病院(入院病床数613)は、千葉県北西部に位置し、NICUを含む小児医療センター、救急救命の三次救急(最終受け入れ)病院として機能しているが、その一号館の老朽化(1967年開設)が阪神淡路大震災後に問題化されながらも、一号館だけの改築ではなく、なにゆえか全館立替・移転にすりかえられ、予定地が二転三転したうえで塩漬け状態になっていた。ところが突然、一昨年十二月市議会で川井市長は、現在地からかなり離れ、市の南東部に位置し、しかも幹部たちのでたらめな運営で破綻をきたして利子払いで汲々となっている区画整理組合の地域内に病院移転先を決め、法外な価格での土地購入を議会に催促した。(区画整理事業は市が監督する事業であるにもかかわらず、現市長はその破綻を見てみぬ振りを続けたのである)。市長は、ここに至る過程を市民にも議会にも一切説明せず、いま土地を購入しなければ病院問題が暗礁に乗り上げてしまうと、恫喝だけを行なう最低の対応であった。
 この問題をめぐり、昨年六月議会には5本の陳情が提出されたが、2本が議会にかかり否決されている。この陳情に係わった現市立病院周辺町内会・商店会が結束して市立病院問題の精査(耐震問題、立地上の問題、経営問題等)を行ない、移転の不必要なこと、耐震問題のある一号館のみの現地での立替が可能なことを立証した上で、移転の賛否を問う住民投票を提唱した。
 こういう経緯だが、地方自治法では、住民投票が簡単には行なえない仕組みとなっている。まず、その地方自治体の有権者の五十分の一の署名が必要で(松戸市では約八千名)、署名を集める期間も一ヵ月に限られ、原則自筆でなければならない、という大変ハードルの高いものとなっている。住民投票のような直接民主主義の形態を地方自治においても実施させたがらない、ブルジョア国家権力の本音が制度的に示されている。しかし今回、そのハードルをはるかに超え四倍ともなる署名数となったことは、四期十六年も続いた現市長に対する松戸市民のハッキリとした拒絶の意思表明とも言える。
 この一月十五から開始された署名活動は、街頭では言うに及ばず個別訪問でも日を追うごとに市民の関心が高まり、経験したことのない手ごたえに興奮を抑えられないほどだと市民運動家にも言わしめている。これまで、松戸市において町内会や商店会が中心となり全市的な運動がおこなわれたことは、いまだ一度としてなく、革新・保守にかかわり無く、住民自治の貴重な経験をつむことになっている。
 当初この運動に冷淡であった既成政党も、日を追うごとの運動の高揚に慌てふためき、隠れ自民党の保守系はもとより、民主党も本年六月の市長選とリンクさせるためにヨタヨタと後追いしてきた。が、民主党は市長選候補者の選定で二分し、市内選出の二人の衆院議員の代理戦争の様相さえ見せ、署名活動はそのための手段と化し、党全体としての取り組みはまったく見えないでいる。公明党も動揺をきたし、学会関係者に突き上げられている。日共にいたっては、この運動開始当初はまったく評価せずにいたが、署名の高揚を目のあたりにし、あわてて一月終わりにこそこそと運動に参加してきた。
 集められた署名は、選管が住民台帳と照合のうえ縦覧し、市長が意見を添えて議会に条例案を提出することが義務付けられている。議会での条例制定賛否が行なわれ、賛成多数の場合は住民投票が施行される。住民投票で移転反対が多数を占めた場合、市長・行政はこれを参考としなければならないとされている。
 ところが、松戸市では六月に市長選挙が控えており、さらに十一月には市議会議員選挙も行なわれる。そのため市長は、この署名活動を行政に対する敵対行動と認識し、署名活動が開始された前後に市長選への出馬表明を行なうというむきだしの挑発に出たのである。
 また議会内(定数四十六名)は、市長派は公明党を含めて十六名、移転反対派は日共を含めて十名で、あとは保守系を含めて中間派というのが現状である。「実現する会」は今後、中間派の議員に対する工作を進めることを確認している。
 この運動は、いままでの市民運動の次元を乗り越え、住民自治の出発点を形成する意義をもつと考えられる。引き続き経過を報告したい。(千葉Ku通信員)