ギリシャ財政危機

 南欧の金融不安を促進する短期投機筋
  新たな危機の芽ソブリンリスク

昨年の秋いらい、国際市場ではギリシャのデフォルト(債務不履行)が取り沙汰されてきた。そこに、今年二月三日、同じ南欧に属するポルトガルが、12ヶ月物の短期国債の入札で不調をきたした。予定した落札予定額は5億ユーロ(約600億円)だったにもかかわらず、実際には3億ユーロしか落札できなかったのである。
これをキッカケに、翌四日の欧州株は、スペイン(前日比マイナス6%)、ポルトガル(同マイナス5%)、ギリシャ(同マイナス3%強)など南欧株を中心に大きく下落した。この動きは、ただちにニューヨークに波及し、同日のNYダウは前日比268・37ドル安の10002・18ドルと、昨年十一月四日いらいの安値水準に陥った。株安連鎖は、翌五日、東京証券市場を襲い、ほぼ全面安となり、日経平均株価が前日比298・89円安の10057・09円と、2か月弱ぶりの安値水準となった。上海株など他のアジア株も、全面安の展開となった。さらに八日の日経平均株価の終値は、約2ヶ月ぶりに一万円を割り込み、NYダウも、一万ドルの大台を約3か月ぶりに割り込んだ。
日米欧だけでなく、新興国の株安も引き起こした今回の世界的株安連鎖の原因は、オバマ政権の金融規制強化(しかし議会では慎重意見が強い)や中国の金融引き締めなどもあるが、なんといっても最大の原因は、南欧のソブリン(政府向け債権)リスクの露呈とその影響によるヨーロッパ諸国への金融不安の波及懸念である。
このため、今年一月の上旬ごろから傾向的に進んでいたユーロ安がさらに促進された。このあおりで、ドル建てで取引される商品の割高感が意識され、原油や金など国際商品価格も、四日、急落した。

 〈300万人のゼネスト〉
 火元のギリシャでは、昨年十月、いわゆる中道左派の全ギリシャ社会主義運動が五年ぶりに政権交代を果たし、パパンドレウ政権を実現した。だが、これにより、前政権の財政統計のゴマカシが発覚する。簿外の財政赤字も発覚したのである。前政権においては、放漫財政と富裕層の税金逃れ(非公式経済はGDPの3〜4割)が続いていたうえに、世界恐慌の影響で財政危機はいっそう深刻となり、〇九年の財政赤字は12・7%に膨らんでいたのである。
このため、格付け会社は、ギリシャ国債の格下げを次々とおこなった。巨額な財政赤字で、長期金利も上昇した。進行する財政危機に対処するために、新政権は、昨年十二月から今年一月にかけて、つぎのような処方策を打ち出した。それは、累進課税の強化や資産課税の導入とともに、社会保障費削減、公務員の年金受給のための加入期間の引き上げ(15年間から35年間へ)、公務員労働者の賃金凍結、公務員の定年退職年齢の引き上げ(61歳から63歳へ)などである。
犠牲のしわ寄せを受けた公務員労働者などは、これに抗議してつぎつきとストを打ってきた。そして、二月十日には、同国最大の公務員労組「ギリシャ公務員連合」(組合員数約75万人)が一斉ストライキに入った。スト参加者は約50万人となり、鉄道、バス、空港、学校、病院などの公共機関の機能が完全にマヒした。
さらに二十四日には、ストは拡大し、「ギリシャ公務員連合」だけでなく、民間の「ギリシャ労働総同盟」(同200万人)も参加し、全国で約300万人がゼネストに入り、公共機関のみならず民間企業、銀行、商店なども軒並み休業となった。
多くの労組は、伝統的に全ギリシャ社会主義運動の支持基盤である。だが、労働者たちは、「いつも労働者にしわ寄せがくる」と反発し、ある役員は「労働者の権利を守るためには、私たちが選んだ政権が崩壊しても仕方がない」(『朝日新聞』二月十三日付け)といって抵抗闘争を続けている。

 〈財政危機から金融不安へ〉
 サブプライムローン危機に端を発する世界恐慌は、全世界で急激な生産縮小を引き起こし、製品販売の減退・安売り競争の激化、失業者の増大を招いている。各国政府は、資本主義の諸矛盾の「現実的総括および暴力的調整」である恐慌がもたらす大打撃を緩和しようと、大規模な財政支援を行なった。
ヨーロッパもこの例にもれず、左図表(『読売新聞』二月七日付け)に見られるように、ユーロ圏16か国の昨年の経済成長率はマイナス4・0%、財政赤字(対GDP比)は6・4%、失業率は9・5%になっている。中でも、ギリシャ、ポルトガル、スペインの財政赤字は、ユーロ圏の平均を上回っている。
ギリシャは、巨額の財政赤字が露呈して、国債消化の資金調達コストがはねあがり、一月末には、ドイツ国債(10年物)の利回りに対してさらに4%も上乗せするほど高騰した。ポルトガルは、先述したように国債の販売が思うようにいかず、スペインも同じで二〇一〇年の国債発行額を〇九年比34%減の768億ユーロ(約9・3兆円)に圧縮すると発表した(二月八日)。両国の国債利回りも、今年に入って、ドイツ国債(同前)に比べ1%前後も高い傾向を示している。
EU加盟国は、「安定・成長協定(財政協定)」により、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内に抑えることが義務付けられている。だが、独仏でも「3%以内」を守られなくなったが、とりわけ南欧三国とアイルランドは、この基準の3〜4倍ほどにまで至っている。したがって、投機筋がソブリンリスクに敏感にならざるを得ないのである。実際、二月上旬の世界的な株安連鎖は、短期的な投機筋が、南欧諸国の財政危機に反応して資金を引き揚げたからである。
二月四日、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、ユーロ圏経済の先行きの不確実性が依然として高いことを述べながら、「財政赤字が金融政策の重荷になりうる」認識を示した。ソブリンリスクの露呈から金融危機への発展への可能性を明らかにしたのである。
深刻化するギリシャの財政危機は、南欧にとどまらずEU全体への影響を強めている。さしあたりは、ユーロ安が一向にとまらず、ヘッジファンドなどの投機筋による売り圧力が続いている。ユーロの弱点がつかれたからである(金融政策はECBによって統一的に行なわれるが、財政政策は各国ごとに行なわれる)。
ギリシャの50万人ストの翌日、二月十一日、EU臨時首脳会議が開かれた。ここでは、独仏などはギリシャ支援で協調行動をとることで合意した。だが、具体策は先送りされた。それは、時間稼ぎでもあったが、ドイツ国内では支援反対が7割もあり、さらに安易な資金援助が債務国の自助努力を妨げ、モラルハザードに陥るからである、といわれた。
だが、ユーロの下落基調は止まらず、信用不安はポルトガルやスペインに拡大しつつあった。
二月十五日夜、EUのユーロ圏16か国財務相会合は、ユーロ売りの圧力に押されて、ギリシャの再建計画(右図表 『日経新聞』二月十六日夕刊)を条件付きで承認することで一致した。「条件は3月中旬までに年内の財政赤字削減目標達成が困難と判明した場合、ギリシャ政府が一段の歳出削減と増税などを実施する」(『日経新聞』二月十六日夕刊)というものである。
十六日のEU財務相理事会も、ギリシャの財政再建計画を承認した。だが、EU諸国の態度は全体的に厳しく、ギリシャの自力再建を強く迫ったものである。
第一は、三月十六日までに、今年中に実施する財政再建の具体的な「工程表」を、欧州委員会やEU加盟国に提出しなければならない。これを財務相理事会が点検して、内容が不十分ならば、さらなる再建策を勧告することになっている。
第二は、ギリシャ国債の大量償還や元利払いのため、四〜五月にかけて約250億ユーロ(約3兆円)が必要となる。資金繰りが苦しくなれば、ユーロ圏は緊急融資を検討せざるを得ないが、その際も、モラルハザードの観点からさらに厳しい条件を課すのは必定といわれる。
第三は、五月十五日には、二〇一一年以降の「工程表」を提出しなければならないことである。ギリシャ政府の一一年の経済成長率見通しは1・5%であり、欧州委員会などの見通しである0・7%とは大きな開きがある。ここでもまた、激しい対立が起こり、さらに厳しい歳出削減や増税が課せられるであろう。
このように、ギリシャ政府は、巨額の財政赤字で、EUの完全監視下に入ったといっても過言ではないであろう。というのは、ギリシャ政府が統計数字の操作を行なったのは、今回が初めてではない。実は、二〇〇一年のユーロ導入時にもあったからである。
EU加盟国での財政危機は、ギリシャ、スペイン、ポルトガルだけでなくアイルランド、イタリアでも際立っている。それに、世界恐慌の影響で、EU加盟を希望する東欧諸国での債務問題も抱えている。ユーロの下落圧力は、早期には解決しないであろう。

 〈懸念広がる借金漬けの日本財政〉
世界恐慌の結果、その影響を緩和し、景気回復を支えるために、〇九から一〇年の二年間で、日米欧主要国が発行した国債の規模は、イギリスのバークレイズ・キャピタルによると、約10兆ドル(約900兆円)に達するという。
膨れ上がった巨額の財政赤字を解消しようと、イギリスは昨年末に、財政赤字のGDP比率を4年間で半減する法案を議会に提出した。ドイツは、二〇一六年までの財政均衡を義務付けるよう憲法を修正した。フランスも、同じような憲法改正を模索している。アメリカも、二〇一三年までに財政赤字を半減することを打ち出している。
それでも、二月二日、米格付け会社のムーディーズ・インベスター・サービス、アメリカが財政再建の今一段の手立てを打たなければ、最上級格を失う、と警告した。
主要国の中で、財政再建の基本方向を打ち出すのに立ち遅れているのは、日本だけである。鳩山政権は、六月ごろに方針を出すとしている。だが、一月二十六日、米格付け会社のS&Pは、日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更した。
日本は、国債の94・2%が銀行など国内投資家によって保有され、その国内投資家の原資は1400兆円にのぼる個人の金融資産である。つまり、日本の国債を保有する海外投資家はわずか5・8%なのであり、経常収支の黒字基調もあり、海外の国債市場の影響はほとんどなかったのである(ちなみに、海外投資家の国債保有率は、ドイツで53・8%、アメリカ47・7%、フランス34・7%、イギリス32・0%)。このため、これまでの自民党などの政治家たちは、利益誘導のバラマキ政治に明け暮れていた。その体質は、民主党にも根強く残り、古い自民党的政治体質が財政危機を増幅させている。
だが、今回の世界恐慌で日本の国債発行額は一段と増加し、国と地方の政府債務残高は、対GDP比で181%ほどとなり、これはギリシャの111%をもはるかにしのぐものである。また、二〇一〇年には、国・地方・社会保障基金を合わせた一般政府ベースの純債務残高(政府の総債務残高から、政府が保有する年金積立金などの金融資産を差し引いた金額)の対GDP比は、ついに104・6%に達し、100%の大台に乗る見通しである。これは、イタリアを抜いて主要国では最大の借金漬けの状況を示す(米・英・仏・独は6割前後)。
膨れ上がった巨額な財政赤字が、国債市場を通して、金融不安を煽りたてる構造が、世界的に出来上がりつつある。新自由主義の一結果としてのサブプライムローン世界恐慌は、世界の資本主義を大きく傷つけ、そこからの回復のために、世界資本主義は政治的財政的な支援を受けたが、今度は逆にそれによる新たな金融不安が醸成されてきているのである。(Y)