普天間問題
  日米合意は破綻しつつある
   1・24名護市長選勝利から、日比谷1・30全国集会へ


 鳩山連立政権は十二月十五日、与党三党の閣僚などによる基本政策閣僚委員会を開き、米軍普天間基地の移設先について年内決着を断念する方針を決定し、同日夜、ルース駐日米大使に伝達した。
 決定した方針では、移設先を検討する与党三党の作業部会を設けるとしつつ、一方では普天間移設関連予算は来年度予算に計上、辺野古の環境アセスメントの作業も続けるとしている。当初は「来年五月までに結論」という方針案であったが、社民党などの反対で期限を設けずに検討を続けることとなった。
 鳩山政権が結論先送りを決定せざるを得なくなったことは、このかんの11・8沖縄県民大会を始めとする「県内移設反対」の闘いの当面の大きな勝利である。
この結論先送りの方針は、対米対処での「方針」と呼べるような政治内容をまったく欠いているが、客観的には、現行日米合意とは別の解決案に政府をして踏み込まざるを得なくするものと言うべきだ。鳩山首相は、自らの「駐留なき安保」の考え方は「首相の立場としては封印する」とし、日米合意と安保の見直しについて何ら政策を明確にせず、日米合意も大事、沖縄県民も大事、連立配慮も大事などとして、政治家としては失格の優柔不断そのものである。案外これも彼の高等戦術なのかもしれないが、内閣支持率の低下は避けがたい。しかしいずれにせよ、重要なのは先送り決定がもたらす政治的結果である。
鳩山首相は十五日に「辺野古ではない地域を模索する」と述べ、十七日に関係閣僚に新たな移設先の検討を指示した。また十八日、COP15が開かれているコペンハーゲンでクリントン米国務長官に対し、「現行計画を強行すると大変危険だ。新たな選択を考える」と説明した。
米政府は依然「現行計画が最善」と繰り返しているが、流れは変わったとみるべきだ。日本のマスコミは「日米同盟の危機だ」と騒いでいるが、見当違いである。日米安保体制の危機なら我われとしては歓迎すべきことだが、現行案を強行して沖縄が統治不能になり本当に安保が危機になるよりも、米政府は特別な贈り物をあきらめるよう海兵隊を説得するほうを選ぶだろう。
沖縄では十二月十七日、基地県内移設反対県民会議の主催によって「辺野古移設ありきの日米WG合意を許さない県民集会」が那覇市で開かれた(350名規模)。オバマ来日時に設けられた日米閣僚級作業委員会は中断しており、集会名称は若干情勢遅れの感もあるが、集会では情勢進展をふまえつつ、普天間閉鎖・辺野古断念の決議、名護市長選へのアピールが採択された。
その名護市では、一月二四日投票の市長選挙必勝へ向け、稲嶺ススム候補の各選対が動き出した。現職の島袋候補はいぜん移設容認を撤回しておらず、争点は鮮明である。平和市民連絡会など市民運動も、玉城義和県議による選対に合流し現地で奮闘している。
「本土」では一月三十日、東京・日比谷野音において新基地阻止のための「1・30全国集会」が、平和フォーラムと辺野古実行委の主催で大規模にもたれる。有利な情勢転換を名護市長選勝利で打ち固め、さらに全国から首都結集で日米両政府を圧倒しよう。(W)


PAC3配備から二年  11・29習志野基地抗議行動
  ミサイル軍拡も見直せ

 十一月二九日、千葉県の自衛隊習志野基地(航空自衛隊習志野分屯基地、陸上自衛隊習志野演習場)に対して、「習志野基地へのPAC−3強行配備から2年・市民統一抗議行動」が行なわれた。参加者約100人は船橋市の東部公民館で集会をひらき、習志野基地への抗議デモ、ミサイル撤去の要請行動を行なった。
 主催は、パトリオットミサイルはいらない!習志野基地行動実行委員会。この実行委員会は、無所属の市民派議員のほか、市民ネットや新社会党の県内議員、そして鳩山政権与党の社民党、民主党の地方自治体議員も参加して、二年以上にわたり基地周辺住民や近隣都市での情宣活動を続けてきた。
 このかん米前政権による弾道ミサイル防衛の拡大政策に従い、日本でもPAC3ミサイルが首都圏をはじめ各地の航空自衛隊基地に配備されてきた。09年4月には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の人工衛星ロケット発射に対し、米国の主張する長距離弾道ミサイルだとする一方的見解に乗る形で、防衛省は東北地方にPAC3の移動展開を行ない、麻生内閣は「迎撃命令」を発動し、憲法で厳しく禁止されている集団的自衛権の行使に及んでいる。
 しかしながら九月の鳩山内閣誕生後は、その東アジア共同体構想からしても、旧自民党政権時のミサイル軍拡政策を含め防衛大綱の見直しが期待されることとなった。米国でもオバマ政権は、アフガン増派など対テロ戦争を続けているが、他方では東欧でのミサイル配備計画を中止している。日本でも、北朝鮮敵視政策・中国への軍事対抗策の抜本的見直しを前提とし、平和的友好関係構築をめざす外交政策に基づく防衛政策への転換が必要となるだろう。
しかし現段階では鳩山政権は、PAC3配備拡大(北海道、青森、沖縄)のための防衛省の来年度予算要求944億円をそのまま認めており、また防衛大綱の見直しも先送りしている。ムダ使いカットの手法として注目された「事業仕分け」でも防衛関係費については、空母型大型護衛艦など目玉的なものは「政治判断」に委ねるとして手付かずとなった。が、防衛省の隊員増員要求は、コスト問題に限定・矮小化されているとはいえ削減となっている。政府の判断待ちの装備調達をふくめ、このように流動的要素はまだ大きい。(十二月十五日の基本政策閣僚委員会で、PAC3配備拡大が先送りされたとの報道もあるが詳細不明)。
今後の反戦平和を願う民衆の闘いによっては、PAC3の配備計画全般をコスト・政策面も含めて廃止・修正に持っていける可能性はある。闘いを強めよう。(千葉Ku通信員)


狭山事件
  東京高裁が検察に証拠開示勧告
   再審決定へ大きな山場

 狭山事件の第三次再審闘争において十二月十六日、東京高裁(門野博裁判長)が検察に対し、裁判にこれまで提出していない証拠を開示するよう初めて勧告した。この証拠開示勧告は、狭山事件の再審決定への大きな転換点である。
 狭山再審闘争はこのかん、弁護団が証拠開示勧告を出すよう東京高裁に請求したことを受けて、九月十日に初めて三者協議(東京高裁、東京高検、弁護団)が行なわれ、ここで高裁は検察に、検察が隠していると弁護団が言う証拠(殺害現場とされる雑木林でのルミノール反応検査報告書など)があるのかどうか十月末日までに回答せよ、と求めた。十月三十日に検察は意見書を提出し、再審での証拠開示には法的根拠がない、殺害現場の血痕反応報告書は「不存在である」などと回答してきた。
 殺害現場での鑑識結果は、もっとも重要な証拠であるはずだ。ルミノール検査で血痕反応が有ったにせよ無かったにせよ(元埼玉県警鑑識課員の証言では反応無しであった)、報告書自体が無いというのはどういうことか。
また検察意見書が手続き論で、再審に証拠開示は関係なしなどとしているのは、免田事件での八三年再審無罪以降、開示勧告などによる新証拠の開示によって確定判決の誤りが次つぎと明らかになっていること、これら一連の再審事件の教訓をまったく無視する態度である。最近の例では、足利事件でのDNA再鑑定という新証拠による再審決定、布川事件での殺害方法および(開示勧告による)目撃証言についての新証拠による再審決定がある。
狭山事件では新証拠の開示によって、「殺害現場」を始めとする石川一雄さんの「自白」の虚構性、これが今まさに再審法廷でばくろされようとしているのである。
十二月十六日の二回目の三者協議で、高裁は検察に、捜査資料や目撃証言の開示を求めるとともに、ルミノール反応報告書がなぜ無いのか合理的説明を要求した。捜査資料には起訴前に石川さんが書かされた「脅迫状の写し」が含まれる。目撃証言とは、犯行時間帯に「殺害現場」近くにいた人による、「雑木林に人影はなく悲鳴も聞こえなかった」との証言である。
この開示勧告に対して検察がどう対応するにせよ、「開示勧告」が出されたということは、狭山事件でもやはり「自白」が信用ならないという姿勢を東京高裁が示したということである。ならば高裁は「開示勧告」からさらに、鑑定人尋問など「事実調べ」に進まなければならないはずだ。
十一月二七日には、「狭山事件の再審を求める市民集会」が東京・日比谷野音で開催された。この集会は一回目の三者協議をふまえ、検察意見書を糾弾し、二回目の三者協議に備えるものであった。これに集まった二千人の人々が求めたのも、この「開示勧告」と「事実調べ」であった。
一九六三年事件発生、同年五月二十三日・石川一雄さん別件逮捕、七四年東京高裁の無期懲役判決、七七年上告棄却で寺尾判決確定と再審闘争の開始、九四年石川さん仮釈放という経過の狭山事件。その半世紀近くの、部落差別を利用した権力犯罪との闘いは大きな山場を迎えている。(東京W通信員)