米国金融情勢

  膨らむ不良債権と、大手金融の二極化
   中小向けCITの破産

 米金融大手6社の7〜9月期の決算が、十月二十一日に出揃った。
 その特徴は、第一に、大手金融機関の二極化がますます鮮明になったことと、第二に、不良債権の増加が止まらず、金融危機の再燃が警戒されていることである。
 第一の二極化問題では、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスなどが純利益を伸ばすなど好調を維持しているのに対して、赤字に転落したバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)やかろうじて黒字を確保した(税金の還付による)シティグループとの格差が明瞭となったことである。
図表1に示されるように、JPモルガン・チェースは、今年に入り純利益を大幅に伸ばし、7〜9月期は35億8800万ドルと、前年同期の約6・8倍となった。ゴールドマン・サックスも、08年10〜12月期に赤字になったが、それ以降、黒字幅を拡大し、6〜8月期の純利益は31億8800万ドルとなり、前年同期の約3・8倍となった。
両社ともに、昨年来の公的資金の注入を、すでに全額返済しており(他にモルガン・スタンレーも返済済み)、経営の好調さが最も際立っている。しかし、両社とも株式や債券の取引で得た利益に大きく依存しており、銀行本来の融資業務によるものではない。そして、有価証券の評価損が前年に比較して、大幅に減ったことも追い風になっている(この点は、全体的にいえることであるが……)。
なお、ワコビアを吸収合併したウェルズ・ファーゴは、純利益が32億3500万ドルで、前年同期比98%増となり、四半期としては過去最高益となっている。
これに対して、経営困難に陥っているのが、バンカメとシティグループである。
バンカメは、3四半期ぶりに赤字に転落し、純損失は10億ドルとなっている。シティグループも、3四半期連続で黒字となったが、それは極めて低い水準の1億ドル強というレベルでしかない。もともとバンカメ、シティグループ、モルガン・スタンレーの前期の黒字は、資産売却によるかさ上げが大きく、いつまた赤字に転落してもおかしくはないのである。今期もまた、JPモルガン・スタンレーが、融資の焦げ付きに備えて貸し倒れ引当金を積み増したのに対して、バンカメとシティグループは、逆に、引当金を圧縮するなど厳しい経営が続いている。
第二の不良債権問題では、図表2に表わされているように、不良債権額がますます増大している。
証券業務が中心で貸し出し資産が少ないゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを除く、大手4社の合計で見ると、09年7〜9月期の不良資産の合計額は、1000億ドル(約9兆1000億円)を超え、前年同期の2・8倍となっている。09年4〜6月期と比較しても、17%も増加している。
不良債権比率は、最も高いシティグループが5%台であり、2ケタ近かった90年代の邦銀よりは低いが、全体的に前年同期の3倍に達している。
他方、不良債権処理額の合計は、停滞しており、図表2に示されているように、処理が先送りされている。前年同期比で49%増にとどまり、09年4〜6月期と比較すると逆に10%の減少である。中でも、シティグループの先送りは顕著で、09年4〜6月期と比較して約3割も減少している。
不良債権の増加は、業績好調の金融機関でも同様であり、JPモルガン・チェースでも、今期の額は前年同期の2・6倍に急増している。ウェルズ・ファーゴの最高財務責任者のハワード・アトキンス氏によると、「不良債権処理のピークは2010年半ばになる」と、言われている。
アメリカ金融恐慌は、昨年9月のリーマン・ショック後の状況に比べれば、かなり落ち着いてきた。しかし、一部の大手金融機関は依然として経営困難から脱することはできていない。そして、今や商業不動産の値下がりが最大のリスク要因となり、これに積極投資した中小金融機関が相次いで経営危機に直面している。FDIC(米連邦預金保険公社)によると、地方銀行の破綻件数は、今年11月初め現在すでに100件以上に至っている(07年は3行、08年は25行)。11月1日には、中小企業向け貸し出しの商業金融大手CITが破産法11条の適用を申請した。
10%に迫る失業者と個人消費の低迷、実体経済の回復の緩慢さなどともに、弱さの残る金融市場という事態は、アメリカ経済の先行きを不透明なものとしている。国際通貨基金(IMF)も世界経済の見通しについて、「回復は緩慢で金融危機再燃の懸念は今も残っている」としている。金融市場の動揺は、継続している。(H)