8・30総選挙

民主圧勝で、懐柔・包摂の「第二極」政権が成立
  批判と活用の
    闘争力量問われる

八月三〇日投開票した総選挙は、大方の予想通り、民主党が単独過半数(241議席)を大きく上回る308議席(比例代表相対得票率42・4%)を獲得し、政権交代を確実なものにする結果となった。自民党は、公示前勢力の約3分の1(119議席、26・7%)に激減し、一九五五年の結党以来一時的下野はあるものの50年以上にわたって確保してきた政権与党の地位を失った。この一〇年間、支持基盤が崩壊していく自民党を支えることで政権与党のうまみを味わってきた公明党も、党首の落選を含めて小選挙区のすべてを落とす大敗を喫した(10議席減の21議席、11・5%)。民主党との部分的選挙協力で総選挙に臨んだ社民党と国民新党は、それでも改選前の議席のレベルを維持するのがやっとだった(社民7議席4・3%、国民3議席1・7%)。民主党中心の政権に是是非非で臨むとした日本共産党も、やはり改選前議席数を維持するので精いっぱいだった(9議席、7,0%)。

1、 歴史的意味
 
 今回の総選挙は、次の歴史的意味を持つものとなった。
 一つは、「これからの一時代の階級攻防を規定する政治構造が形作られる局面」(労働者共産党第四回大会決議)の第二の節目を刻印したことである。
 第一の節目は、小泉政権の誕生であった。小泉政権は、資本主義の今日的「発展」を牽引する巨大投機マネーと多国籍企業の利益に奉仕し、それが社会の崩壊をもたらさずにいないことに対して開き直る、アメリカ一辺倒・市場原理主義の「第一極」路線を立てた。今回の第二の節目においては、「第一極」路線の推進が東アジアでの孤立化と社会の崩壊をもたらした事態に直面して、「第一極」路線を一定是認しながらも、アメリカと一定距離を置いて東アジアとの友愛を、格差と貧困の淵に沈む労働者民衆の懐柔と政治的包摂を重視する「第二極」路線が立てられたのである。
 たしかに、小泉政権において「構造改革」を牽引した竹中が今なお主張するように、市場原理主義をやってカジノ資本主義に道を開く以外、資本の自己増殖運動に未来はない。しかしそれは、社会を崩壊させる。支配秩序を壊してしまう。これからの一時代、支配階級はこのジレンマの中でやっていかなければならないのだ。今回の総選挙においては、社会の崩壊に危機感を深めた支配階級の一半が、労働者民衆の苦悩と怒りの広がりを政治的に包摂して「第二極」路線を立ち上げたのである。
 二つは、小泉・構造改革の下で急速に進行した利益誘導型政治の解体が、今回の自民党の惨敗・政権交代によって、決定的になったということである。
 小泉・構造改革によって格差・貧困問題が浮上・深刻化し、これにアメリカ発金融恐慌が追い打ちをかけた事態の中で、麻生政権は、崩壊が進む利益誘導型統治システムへの依存へと後退し、旧来型の財政出動(バラマキ)に政権の延命を託した。しかし、かつてない巨額の景気対策費を投入するも、失業率が5・7%にも達するなど、利益誘導型統治システムの生命力が既に尽きていることを明らかにしただけだった。この統治システムを政治的に代表してきた自民党の腐敗、世襲化、人材枯渇は極まっていた。麻生政権は、この政治的窮状を朝鮮敵視・排外主義政治でカバーしようと、アメリカのバックアップの下で軍事をもてあそんでみたが、尻つぼみに終わった。
 今回の総選挙は、半世紀以上の及んだ戦後統治システムとその政治的担い手としての自民党の終りを宣告した。自民党は、文字通り「解党的」出直しを迫られている。その中から、いずれ「第一極」政治勢力が態勢を立て直し、進出してくるに違いない。
 三つは、「第二極」政権が誕生したことによって、労働者民衆が、その社会再建運動と資本・行政に対する闘争を大きく発展させ、それを背景に自己の政治勢力を「第三極」として形成していく局面に入ったことである。これこそが、政権交代の最大の意義に他ならない。

2、 新政権の政治的性格

 新政権は、「第二極」政治を特徴とする政権となる。
 アメリカ一辺倒・市場原理主義の政治によって深く傷ついた社会を癒すことが、第一の使命となるだろう。使い捨て労働制度の一般化、生活保護母子加算の廃止、障害者を切り捨てる「障害者自立支援法」の導入、「うばすて山」の後期高齢者医療制度の導入、年金制度崩壊の放置、農・林・漁業衰退の放置、等々の速やかな転換が問われる。
 支配階級のヘゲモニーの所在は、巨大投機マネーと多国籍企業(日本的にはまだ後者が主)の利益を推進する部分から、拡大する東アジア市場に重心を置く広範の層の利益を推進する部分に移行する。「東アジア共同体」が実践的課題として浮上してくるだろう。侵略・植民地支配の歴史の清算、日朝国交正常化の実現が問われる。
 とはいえこの政権も、超大国アメリカの日本に対する一定の統制・支配の仕組みから自由ではありえない。総選挙後早速オバマ政権の高官から、沖縄普天間基地問題での再交渉はないと、恫喝が入った。アメリカが総選挙前、駐留米軍は第七艦隊だけでよいと発言した小沢の党代表辞任に動いたと推定されることも、記憶に新しい。
そもそも支配階級は、アメリカの世界覇権に依存しており、アメリカ一辺倒政治からの脱却には限度がある。「対等な日米関係」の模索は、新政権の政治能力が最もシビアに試される領域の一つである。超大国アメリカの壁をどれだけ突き崩せるかは、労働者民衆の運動的意思表示の広範さと強さの度合いにかかってこよう。
 またこの政権は、巨大投機マネーと多国籍企業の利益を推進する市場原理主義からの転換においても、中途半端たらざるを得ない。なぜなら、資本主義を前提とするならば、産業が成熟した土台の上では貨幣資本が累積的に過剰化し、新規投資領域を見い出せずに投機マネーへと転化していく為、一層大規模な投機の過熱(バブル)を実現する方向に進む以外ないからである。市場原理主義からの転換は、新政権が労働者民衆の懐柔・包摂の必要性を階級支配の見地から深刻に自覚する場合にだけ、それなりのレベルにおいて実行されるのである。ここでも、労働者民衆が転換の度合いのカギを握っているのだ。
 新政権の政治的特徴は、その二面性、動揺性、マッチ・ポンプ路線にある。アメリカ一辺倒と東アジア共同体志向との間、巨大投機マネー・多国籍企業の利益と労働者民衆の利益との間で動揺するのである。労働者民衆の横のつながり・闘争力の発展・政治的進出が、これからの最大の課題となる。

3、「第三極」政治の形成へ
 
 「第二極」政権の誕生によって、これからの一時代の階級攻防を規定する政治構造が形作られる最終局面の過程が始まる。「第三極」政治勢力の形成に至る過程が始まる訳だが、それを実現する鍵は、直接的に政治領域にあるのではない。産業の成熟、地球環境限界への逢着、モノから人間(環境を含む)への人々の欲求(社会の目的)の重心移行、という社会の地殻変動を踏まえ、地域における社会の再建を主導し、闘争力量を育成することこそが、「第三極」政治勢力を形成する上での最大のポイントである。
 「第二極」政権は、それ自身のスタンスから社会の再建を推進し、労働者民衆の運動を一定支援し包摂しようとする。それは、労働者民衆の運動の再構築にとって、必要不可欠の条件となるものである。社会の崩壊と生存の危機の淵に投げ込まれた労働者民衆の切実な要求の実現と運動の発展のために、左翼は、この条件を十全に活用する態度をもたなければならない。新政権の帝国主義的ブルジョア的性格を批判するだけの態度は、労働者民衆から見放されるだけである。それは、左翼の終わりを意味する。
 地域における社会の再建と労働者民衆の闘争力量の育成を、左翼が、可能なすべての地域で能動的に推進すること、これが大切である。地域からの新たな社会システムの萌芽的形成と住民自治の発展とは、それを包摂しようとする支配階級との路線対立を顕在化させ、第三極政治勢力へと向かう流れを、民主党、社民党、共産党、新左翼などの政党政派の枠を越えて浮上・合流させるに違いない。
 「第二極」政権は、基本的には、新産業の育成によって社会の崩壊を押し止めるという、産業発展の時代の成功例に倣おうとする。しかし、産業が成熟段階に達した現代においては、産業的改良がエコ面などで実現していくにしても、新産業の勃興は資本主義を歴史的に再生するものとしてはありえないことである。「第二極」政権の下で、社会の崩壊は進行するのである。
 それは、巨大投機マネーの略奪的膨張運動に依拠する「第一極」路線の再登場をもたらさずにいない。それは他方で、人間自身(環境を含む)の豊かさの実現を目的とする社会の在り方を目指し、その方向に社会の崩壊と生存の危機の打破を展望する労働者民衆の運動を勃興させるに違いない。後者は、政治的「第三極」の形成を導く。
 われわれは、この全過程において、労働者階級の就労部分と失業部分、正規と非正規の階級的団結を重視し、その実現を推進していかねばならない。労働者下層の自律的運動の勃興と階級的に団結した労働運動の発展こそは、政治的「第三極」が強固な変革力をもって進出する上で不可欠のものである。労働者下層の政治・組織的獲得をめぐっては、右翼排外主義との攻防にも勝ち抜いていかねばならない。この領域における事の成否が全局を規定することは、歴史の教訓である。
 以上を踏まえて、「第三極」政治の形成へ、着実に前進しよう。