「世界多極化」をうたったBRICs首脳会議
  拡大するIMF債購入


六月十六日、中国の胡錦濤国家主席、ロシアのメドベージェフ大統領、インドのシン首相、ブラジルのルラ大統領が、ロシア中部のエカテリンブルクで初の公式首脳会議を開いた。この会議は、同日行なわれた上海協力機構(中国、ロシア、中央アジア4カ国が加盟)の拡大会議に引き続き開催されたものである。この拡大会議では、「世界の多極化推進」をうたった「エカテリンブルク宣言」などが採択された。
BRICs首脳会議で採択された共同声明では、「国際金融制度改革」、「通貨システムの多様化」、「途上国支援」、「食糧安保」、「国連改革」などグローバルな課題が挙げられながら、「より民主的で国際法に基づいた多極的な世界秩序を支持する」と明記された。これは、明らかに「アメリカ一極主義」から「多極化主義」への転換をうたいあげたものである。
だが、ロシアは、上海協力機構を欧米に対抗する政治・軍事ブロックにしたいという強い思惑を持つのに対して、ブラジル、インドはもちろんのこと、中国でさえ欧米諸国との政治的軍事的対立を激化させるのには消極的である。
要は、米欧諸国にグローバル経済のルール形成を牛耳られている現状を批判し、主にBRICs諸国の経済的な発言権の強化を図るのが、今回の首脳会議が開催された背景にあるといえる。欧米の金融恐慌により、途方もない悪影響を受けている現下の情勢においては、「多極的な世界秩序」に転換するのは当然である、という気持ちがひとしお強いのである。
現実に、新興国の多く、とりわけ中国、ロシアは、IMFなどの国際機関での権限強化をすでに推し進めている。
六月九日、IMFのストロスカーン専務理事は、最大600億ドル(約5・8兆円)のIMF債を発行することが固まったことを明らかにした。それは、すでに公表されているように、ロシアや中国がIMF債を引受けることに基づいたものである。(IMFは、金融恐慌により途上国支援の資金が足りなくなり、五月二十七日に創設いらい初めて債券を発行すると発表していた)
中国の新華社は五日、中国政府が外貨準備でIMF債券を最大100億ドル(約4・9兆円)購入すると伝えた。債券は、IMFの準備資産であるSDR(特別引き出し権)建てになる見通しである。SDRは、ドル、ユーロ、円、英ポンドの4通貨で構成する合成通貨単位で、IMFが金やドルなどを補完する二次的な準備として、一九六九年に創設したものである。
中国は、世界最大の外貨準備の7割をドル資産で運用しており、昨年九月には日本を抜いて世界最大の米国債保有国となった(昨年九月末の米国債保有残高は5850億ドル〔約56・9兆円〕)。他にも、米連邦住宅抵当公社などの債券も大量に購入している。
だが、今年三月には、中国人民銀行の周小川総裁がSDRをドルに代わる基軸通貨に育てる構想をうたう論文を発表した。それは、ドル大量保有に対する危険性を主張する国内世論が台頭しているためである。もちろん、中国とてもただちに大量のドル資産の転換(運用先の多様化)を主張しているわけではないが、六月にはアメリカのガイトナー財務相が訪中し、「米中の協力なしにはグローバルな問題は解決できない」と強調して中国をなだめざるを得なかった。
中国に先立ち、ロシアはすでに最大100億ドル(約9800億円)分のIMF債を購入することが、五月二十七日、IMFから発表された。そして、六月十日、ロシア中央銀行のウリュカエフ副総裁は、保有する米国債を売却し、ドル資産での運用比率を引き下げる方針を明らかにした(ロシアの外貨準備は日本に次いで世界第三位)。ロシアは、この間の金融危機対策としてG8などで、「超国家的な基軸通貨創設」を提唱しており、最も強くドル離れを主張している。
今回の金融恐慌を通して、「G7」の影はますます薄く、「G20」の存在が大きくなり、気候変動問題でも主要輩出国16カ国でつくる「主要経済国フォーラム」が果たす役割が大きくなっている。今やBRICsを始めとする新興国抜きでは、国際問題の解決において意味のあることは何も決められない状況になってきている。IMFの投票権は、今年六月現在、BRICs合計で9・62%(表を参照 『日経新聞』6.17.)であるが、今回の中国、ロシアのIMF債購入でさらに拡大するのは必定である(七月一日現在では、IMF債購入は中国、ロシア、ブラジルで最大700億ドルと発表されている)。「アメリカ一極主義」は、じわりじわりと変質していかざるを得なくなっている。(Y)