麻生首相は、小泉郵政改革の矛盾の露呈を背景とする六月十二日の鳩山邦夫総務相の辞任を機に、政府・与党への指導力を完全に失い、麻生連立政権の崩壊と解散・総選挙が間近となっている。引きずり降ろされる前に自分の手で解散をやりたい面子だけの麻生と、彼のもとでの解散は「集団自殺」になるという与党のボスどもとの醜悪な争いが行なわれ、自民・公明の執権の最期が近づきつつある。
 いま日本の労働者人民は、自公政権に取って代って登場しようとしている新しい政権に対して、何を要求するのか、どのような闘いによって新政権に迫り対峙していくのか、この一点を明確に意識する必要がある。辺野古新基地阻止をはじめとする沖縄基地問題、派遣法改正など労働・雇用問題、当面この二つの闘いが焦点となるだろう。直面する「政権交代」はブルジョア的政権交代であり、われわれ労働者人民の闘いなくして本質的には何も変わらない。しかし、われわれの闘いによって、根本的変化への第一歩とすることは可能なのである。「政権交代」を実現し、当面の政治転換をかちとり、労働者階級人民の闘争態勢を大きく前進させよう。
 以下は、総選挙・政権交代を前にした沖縄からの報告である。


【沖縄からの通信】

  「政権交代」の激流の中で辺野古新基地阻止の勝利へ

   宮里政玄さんら県内20氏が、総選挙で重大アピール


 六月二六日、宮里政玄(沖縄対外問題研究会代表)、我部政昭(日米関係論)、新崎盛暉(沖縄現代史)など研究者・ジャーナリストの各氏二十名が沖縄県庁で記者会見を行ない、来る総選挙に臨む全政党に対し、沖縄県民の総意である「米軍普天間飛行場の県内移設反対」をそのマニフェストに明記するよう求めるアピールを発表した。
 その意味するところは具体的には、県外移設をこれまで公言している民主党が、マニフェストにそれを明記するかどうかが重大ポイントとなる。この有識者二十名の行動は、「政権交代」選挙を機に、沖縄県民世論を国政舞台のど真ん中にぶちこもうとする智略に富んでおり、その行動は県民広くから高く評価されている。かれらは言う、「新しい政府が、再交渉を要求すれば、米国側も応じざるを得なくなる」と。
 かれらは県内有識者グループとして、これまでも辺野古新基地建設に情熱をこめて反対し、「グアム移転協定」反対など時に応じて声明を発表し、また(沖縄は基地と共存せざるをえない等の)「常識をくつがえす」討論会を連続的に行なうなどしており、それは広く県民から支持されてきた。だから、かれらの今回のアピールは、県民を勇気づけ奮起を促す、今総選挙での選挙権行使の積極的意義を明確にする、県民世論をバックに各政党への強い圧力となる、等々その影響は大きい。
 他方、県政野党や労働団体・市民団体によって「普天間基地の県内移設に反対する県民会議」がいぜんから存在しているが、この有識者グループの行動に比べ、この県民会議が機能していない現状が際立ってしまっている。有識者グループの呼びかけは個々の県民にひろく働きかけるが、大衆動員が可能な組織関係をもつわけではない。沖縄の総意たる「新基地断念」を獲得できる大衆闘争の力が必要であり、本格的で常設的な大衆闘争機関の再建あるいは創設を考えるべき時にある。

  仲井真を包囲打倒しよう

 名護新基地建設に反対する、ヘリ基地反対協や平和市民連絡会などのこのかんの闘いは、@沖縄防衛局のアセスメント準備書に対する分析と批判、また準備書に対する各個人の意見書を出す運動であり、全国から五千通余の意見書が集約された。(環境影響評価手続きでは「準備書」の前の段階に「方法書」があるが)Aでたらめな防衛局のアセス方法書を提訴する闘いが開始され、またB来年一月の名護市長選挙についての対応が努力されている。
@の準備書に対する闘いは、当面の県環境影響評価審査会に対する傍聴などの取り組み、その評価書に向けた闘いなどによって、来春に予定されている埋め立て許可を県知事が到底出せない状況を作り出す闘いに続いていく。
 Aは、方法書が「確定」しているのかどうか不明確なまま、準備書までアセス手続きが流れている違法性(アセス法28条および県条例25条「事業内容の修正の場合」への抵触)を問うものである。形式だけの、飛行場の位置と面積のみを記した方法書が〇七年八月に出された。それへの意見書が出された後の翌年二月になって、「追加・修正資料」という名で本格的内容がやっと現われてきた。その内容は「弾薬装填場、桟橋付き護岸」等々基地の各施設であり事業内容そのものである。このかん防衛省のやりたい放題で、アセス手続きにおける県民の権利は奪われている。したがって、「アセス方法書からやり直せ」という裁判闘争をやらざるを得なくなった。
なぜかくも奇怪なアセス、その方法書となったのか。宜野座村、金武町の真の住民世論は、無条件の「新基地反対」である。しかし、村・町当局が「上空を飛ばない」ことを防衛省に確約させるというペテンで、住民意見が抑えられている。各種のエサによって飼いならされている町村当局とボスたちによって、民意が歪められ、隠蔽されている。薄皮一枚で「現地OK」が成り立っているのである。
 このきわめて不安定な「現地OK」を維持するためには、方法書で普通に、あたり前に新基地の全体像を書くわけにはいかない。かくして、小出し・後出しの奇怪なものとならざるを得なかったのである。
 しかし、方法書をめぐる提訴は、政府・県に法治を貫かせるためだけではない。主眼は、仲井真知事を包囲するためである。県環境影響審査会は昨年、防衛局の「追加・修正資料」提出に対して「方法書の書き直し」を求める答申を出した。これに対し仲井真は防衛省と談合して、「書き直し」は「やり直し」ではないなどとねじ曲げ、防衛局のアセス手続き進行を認めた。これは知事としてあるまじき反県民行為であり、彼の罪状につけ加えるべき事柄だ。これは、県議会における「多数派」野党による仲井真追及に、欠かすことのできない一内容でもある。仲井真包囲の戦略をきたえよう!
B名護市長選が六ヶ月後に迫っている。前回市長選は、一方では、名護市の中枢部で大衆的に明らかにされない密室での候補者選定があり、他方、新基地反対陣営では、個人次元の「原則」や「真の革新」なるものを掲げて大局をかえりみず、さらに最悪のことに候補「一本化」の方針と行動が死んでしまい、それによって個人プレーが正当化され、ついには市民が悲喜劇の中に打ち捨てられ、敗北した選挙であった。
今回も、「新基地阻止」のためには候補者一本化は至上命題である。新基地容認派では現職の島袋市長と、故岸本前市長系などが推す稲嶺前教育長が立候補表明しているが、新基地反対派ではまだ決まっていない。我々側の「一本化」候補のためには、秘密主義は捨てられるべきであり、「個人プレー」は克服されるべきだ。大衆のど真ん中で、公然と「出てくれ」「出るな」「これがいい」を言い合ってほしい。これが大胆に行なわれてこそ、市民大衆が集中して参加し、勝てる選挙戦が作れるだろう。
また、直面する総選挙では、名護市を抱える沖縄3区で、いまだに社民党と民主党が候補一本化を成していないことは極めて遺憾だ。新基地阻止を第一に考えるならば、それは可能なはずだ。

  封じよう埋め立て「認可」

現時点での行動にかくれて、まだ方針が討論されていない段階だが(しかし、誰の心の中にもある事柄として)、知事の「埋め立て許可権」の問題がある。沖縄防衛局による知事への「埋め立て許可」申請は、日本政府のもくろみでは来年一月である。
政府は、アセスやり直しとならない範囲内(50m)での「沖合移動」で、仲井真との実際上の落とし所を得ていると言われている。しかし我々は、知事の「認可」を封じるために、知事不信任決議を県議会に要求し採択させることもできる。いろいろな闘い方がありうるだろう。知事包囲の連続大衆行動も準備すべきだ。それは来年十一月の県知事選挙の勝利につながっていく。
「県内移設阻止」「新基地阻止」「普天間無条件返還」という80%以上の県民世論を実現するために、宮里政玄氏らの行動に続き、あらんかぎりの政治的創造力を発揮して闘おう。(沖縄T)