臓器移植法改悪「A案」を廃案へ
  脳死=「人の死」は医療の荒廃


 六月十八日、衆議院で臓器移植見直し法案の採決が行なわれ、A案が賛成263、反対167の百票近くの大差で採択された。A案は、一九九七年に策定された「臓器移植法」を完全否定する構成である。
 現行法は、一、臓器提供に関しては、本人の意思が書面で必要と認められており、また家族の同意が必要、二、脳死は本人に臓器提供の意思がある場合のみ「人の死」とする、三、十五歳未満の子どもの臓器提供は認めない、以上三点が骨子である。
 A案はこれに対し、一、脳死は一律に人の死である(ただし判定拒否権は本人・家族に認める)、二、提供者の年齢は制限しない(〇歳から可能)、本人の意思が不明の場合、家族の同意があれば提供はできる、三、家族に優先提供ができる、としたものである。現行法より更に厳しく運用しようとする社民党・阿部知子議員らによるC案も含め、他三案は廃案となった。
 現行法では、「施行後三年を目途に必要な措置を講ずる」とされていながら、十二年間修正を加えられてこなかった。改定作業が復活した背景には、渡航移植が世界中に拡大する事態を懸念したWHOの、「臓器移植の自国内実施」を求める新指針の動きがあった。これを理由に、子どもからの臓器摘出をより容易にさせようとするものであった。
しかし、子どもの脳死をめぐって、「脳死は人の死ではない」と明確に証する例が日米で報告されている。「長期脳死例」といわれるものである。少なくとも、わずか九時間の審議で議決を強制するような問題ではないのである。
脳死を「人の死」とすることにより、医療現場では、救命・延命治療を早々に切り上げる方向が推進される。さらに本人の意思表示の確認を剥奪しており、氏名不詳の状態で担ぎこまれる場合や、単身者の場合の脳死判定が促進されるだろう。人の生死が安易に決定される危険なケースが多くなるだろう。
現在、参議院では、現行法を基本に子どもからの臓器提供を検討する「子ども脳死臨調」設置を条件とする対案が出され、審議に入っている。我々は、脳死を人の死とするA案を絶対に認める訳にはいかない。A案を廃案に追い込もう。(S)


貨物検査特措法案が駆け込み提出
 許すな麻生「戦う時は戦う」暴言

 麻生連立政権は、貨物検査特別措置法案なるものを七月七日に提出しようとしている。この法案は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に出入りする船舶に対し、六月十二日の国連安保理決議に基づいて公海上などでの貨物検査を行なうために、自衛隊・海上保安庁を動員するとするものである。
 七月二八日が延長国会の会期末であり、それ以前の解散が濃厚となっている状況下で、なぜ政府・与党はこのような成立の見込みが薄く、緊張激化につながるだけの法案を出すのか。一つは、五月の二回目の北朝鮮核実験に対する国連安保理の北朝鮮制裁決議は、その採択までには難航したが、採択の先頭に日本政府が立った手前、対応する国内法を作って北制裁の積極姿勢を対米向けに示すという意味があるだろう。もう一つは、とにかく提出だけはして対北対決姿勢をアピールしたほうが総選挙で有利だ、安全保障問題で一枚岩でない民主党を揺さぶることもできる、という判断があるだろう。日朝関係の修復をさらに困難にする法案を、しかも党利党略で提出することは許しがたい。
 この貨物検査特措法案は、「周辺事態」認定を前提とする二〇〇〇年制定の船舶検査法がそのままでは使えないので編み出されてきたものであるが、公海上での船舶強制臨検という交戦権行使、戦争行為に突入する危険の高い法案である。先の国連制裁決議はかろうじて、日米の意図に反し、三年前の制裁決議と同様「第41条・非軍事的措置」が入った。これによって対応する貨物検査法案でも、検査には船舶旗国の同意が必要となる見込みである。しかし、日本や第三国の領域内では強制が可能である。公海上でも、同意・不同意と揉めていれば、武力衝突事態にもっていくことが可能だ。
 麻生は六月七日、吉祥寺駅前の都議選応援演説で、北朝鮮に対して「戦うべき時は、戦わねばならない」と絶叫した。麻生は、憲法第9条「国の交戦権は、これを認めない」を読んだことがあるのか。戦争放火によって総選挙情勢を一変させる、麻生の念頭にそれがあるとすれば、まさに万死に値する輩である。(W)
 

三野党が労働者派遣法改正共同案
  一歩進むが闘いは次へ

 労働者派遣法についての、民主党、社民党、国民新党の野党三党による共同改正案が六月二十三日にまとまり発表された。
 それは、登録型派遣は現行政令で定める専門26業務以外を禁止する、製造業派遣は別途政令で定める専門業務以外を禁止する、また違法派遣の場合に派遣先に直接雇用の成立を通告する「みなし規定」を入れる、などの前向きな内容となっている。
 しかし、派遣会社との雇用期間を「二ヵ月以内」原則禁止とする民主党当初案が、そのまま共同案となってしまった。この点では、「30日以内」禁止をもって日雇い派遣の禁止と称する与党案と大差はない。派遣先への日々派遣は無くせないからだ。
 また、このかんの派遣法改正要求運動で「登録型原則禁止」「みなし雇用規定」と並んで要求されてきた、「常用型派遣は原則として期間の定めのない雇用とせよ」の要求も共同案に入っていない。派遣労働者の多くは派遣先で同じ仕事を何年も続けていても、三ヵ月・六ヵ月ごとに派遣会社との雇用契約反復を強いられている。その度に「雇い止め」の不安が頭をよぎるのである。
 三党共同案には多くの限界、問題点がある。しかし当面、与党案を阻止し、抜本改正へ向けて現実の改善を一歩でも進めるためには、必要な過程ということもできる。
 日本共産党は三党の要請に対して二五日、「製造業全面禁止が必要」等を理由として、三党案に加わらないことを回答した。製造業派遣での「別途政令」があいまいなのは事実だが、野党統一案を流産させるだけの理由足りうるだろうか疑問である。日共の本音は、総選挙を前にして民主党との違いを出すためには、三党案には乗れないという政治判断ではないのか。
 こうして派遣法改正問題では当面、野党統一案ではなく三党共同案となったが、登録型原則禁止などの内容自体だけでなく、このかん大衆運動が議会政党を動かし、法案合意まで大衆運動の圧力でもっていった過程自体により重要性があるということができる。
当面、三党案の今国会成立は困難だが、与党案も阻止できる。両案は解散総選挙で仕切り直しとなるだろう。総選挙で、派遣など使い捨て放置の与党案か、使い捨て原則禁止の野党案かと争点化し、新しい政権の下、臨時国会で派遣法抜本改正の決定的闘争を実現しよう。(A)