GM破綻−ビッグスリー体制の崩壊
  覇権国家を激しく揺さぶる

 六月一日朝、米ゼネラル・モーターズ(GM)は、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用をニューヨーク市の破産裁判所に申請した。四月三十日に、同法を申請したクライスラーにひきつづき、ビッグスリー三社のうち二社までが破産し、ついに「ビックスリー体制」崩壊の時をむかえたのであった。
 それは、二十世紀アメリカ資本主義の象徴である自動車産業の斜陽化を歴然として示すものであり、米製造業の徹底した凋落を意味する。これらを決定させたのは、いうまでもなく、サブプライムローン恐慌であり、アメリカ帝国主義の一極支配の経済的基礎はますます弱体化しつつある。

〈三割縮小で再建可能か〉
 破産法11条を申請する前日の五月三十一日、米政府はGMの再建計画の概要を発表した。その基本的内容は、以下の通りである。
@6月1日に破産法11条の適用を申請し、60〜90日で手続きを完了する。
A同社の事業を引き継ぐ新生GMに、米政府が301億ドルを追加支援し、引き換えに新生GMの約60%の株式を取得する。取締役の選任権ももつ。
Bカナダ政府(オンタリオ州政府も含む)は新生GMに95億ドルを追加支援し、引き換えに約12%の株式を取得する。取締役一人を選任する。
C全米自動車労組(UAW)との間では、退職者に医療保険を提供する新たな基金VEBAを設立することで合意した。旧来は200億ドルを提供する義務であったがこれを半減し、引き換えに新基金は、新生GMの株式17・5%と、ワラント(新株引受権)2・5%を取得。また新基金は取締役一人を選任する。年金と従業員の身分は新生GMに引き継がれ、GMとUAWとのこれまで得られた合意は新生GMに引き継がれる。
D271億ドルの無担保債務の削減案では、金額ベースで54%、人数で千人以上の債権者が同意した。債権者は、債務削減と引き換えに10%の株式と15%のワラントを取得する。
Eリストラ策として、従来は年間1600万台の米市場を前提としていたが、1000万台でも利益が出る体質に転換する。国内の11工場を閉鎖し、3工場を休止する。
 なお、六月一日、ダウ・ジョーンズ社は、ダウ工業株30種平均からGMと金融大手シティグループをはずし、代わりに通信大手シスコシステムと保険のトラベラーズが組み込まれる、と発表した。
破産法11条を申請し、借金を一部棒引き・一部株式取得で清算する方法は、クライスラーの場合と同じ手法である注)。クライスラーの再建策と最も異なるのは、新たな株主の中心主体が民間か政府かの違いである。六月一日、ニューヨーク市の破産裁判所は、クライスラーの資産を、伊フィアットなどが出資する新会社へ譲渡する計画を承認した。これにより、フィアットの力を借りての債権が本決まりとなった。
 だが、GMの資産規模は(連結ベース)は823億ドル(約7・8兆円)にのぼり、クライスラーとは比べものにならない。その巨大さのために、債権を引受ける資力をもつのは政府以外にはなかったのである。
 しかし、借金の大幅な削減は可能となっても、会社として再建できるかどうかは、別の問題である。GMやクライスラーに限らないが、今、化石燃料に依存した自動車産業は大きな曲がり角にある。環境問題をクリアしなければ、車産業そのものの延命が困難となる事態である。しかも、世界恐慌により自動車市場も大きく縮小している。大幅に縮小する中での、まさに食うか食われるかの激烈な資本間競争が待ち受けているのである。
 米調査会社CSMワールドワイドによると、〇九年の世界の自動車生産能力は約8760万台で、他方、同年の世界の新車販売は前年比17・9%減の約5040万台に止まる(生産能力の6割弱)見通し、といわれる。
 このことは、当然のこととしてアメリカ市場にもあてはまる。アメリカでは、〇九年一月の新車販売数が前年同期比37・1%減の65・7万台であったのに続き、二月も同41%減(年率換算912万台)と、さらに激しく減少した。三月は、同36・8%減の85・8万台(年率換算986万台)で先月よりやや改善したが、四月の新車販売数は、同34・4%減の81・9万台(年率換算で932万台)で、4ヶ月連続の一千万台(年率換算)割れであった。日本メーカーも含め、各社は販売奨励金の積み増しや(購入者が)失業時のリスクを軽減する販売方法を取ったが、新車販売の「底ばい」が継続した。失業者に対する自動車ローンの優遇措置は、六月一日に終了するため、五月は「駆け込み需要」もあった。そのため、同月の新車販売台数は前年同月比で33・7%減の92・6万台まで回復した。しかし、優遇措置にもかかわらず、年率換算一千万台割れは五ヶ月連続となった。

〈関連業界にも失業波及〉
 GMは、二〇〇九年三月末現在、北米11・2万人、ヨーロッパ5・5万人、中南米・アフリカ・中東3・3万人、アジア・太平洋3・3万人、その他0・2万人で、全世界で23・5万人の労働者を雇用している。このうち、アメリカ国内では、工場従業員6・1万人、事務職2・7万人である。
 リストラ策によると、国内の工場労働者は約2・1万人が首切りとなる(六月一日の発表では、北米の事務系職員も今年末までに7900人削減)。
 GMのリストラで閉鎖・休止する工場は、アメリカで14ヶ所であるが、そのうち二〇一一年までに閉鎖するのは、図に示される11工場である(ニューヨーク州の部品工場はすでに五月に閉鎖されている)。このうち、ミシガン州では、5工場が閉鎖され、2工場が休止する。
AP通信によると、このリストラ策により、ミシガン州だけで8640人の雇用に影響が出るという。自動車産業が集中する同州では、すでに4月の失業率は12・9%(アメリカ全体では8・9%)であり、クライスラー、GMの破綻で失業者はさらに増大するのは必至である。失業の増大は、単に工場閉鎖に終わるのでなく、地域経済全体に影響し、地域の荒廃の度をさらに一段と強める。たとえば、一部学校の閉鎖と統廃合にも至るのである。
 問題は、GMの破綻がGMのみに止まらず、関連業界に波及し、連鎖倒産が続出することである。
 GMはすでに五月十五日、全米にある約6000社のディーラーのうち、規模の小さく不採算の1100社との契約を来年十月までに打ち切る、と通告している(クライスラーはその前日に、約3200ある系列ディーラーの25%になる789社に対し、六月九日までに閉鎖する、と通告している)。さらに、これとは別に「ハマー」など売却対象のブランドを扱う470社のディーラーとも契約を解除する、としている。
 全米には、ディーラーが約2万社あるが、クライスラーやGMの破産にともない、その影響はたちどころにディーラー部門に波及し、全米自動車ディーラー協会によると、「18万人が職を失う」といわれている。
 同様な事態は、部品メーカーにも及び、その詳細は未だ不明ながらも、大きな影響を与え、さらに倒産や失業者を増大させることは間違いない。

〈米帝の凋落を促す〉
 GMは、一九〇八年に設立され、昨年までの77年間、世界の自動車産業のトップの座を占めていた。フォードが「大量生産ライン」をもって成長したのに対して、GMは一九一九年に自動車ローンを提供する販売金融会社GMACを設立し、「大量販売」システムを作って成長した。そして、つぎつぎと自動車会社を買収し、一九三一年にはトップの座をフォードから奪う。
 第二次世界大戦中には、戦車や軍用車を大量に生産した。GMの全盛時代は、一九五〇〜六〇年代であり、新車販売は国内でしばしば50%を超え、世界最大の製造業として君臨した。一九五三年、GM社長のチャールズ・ウィルソンは、アイゼンハワー政権の国防長官に転じ、「我が国にとって良いことはGMにも良いことである。逆もまた真なり。」と、豪語した。
 GMは、大きくてパワーのあるアメリカ車の代名詞的な存在であった。日本のメーカーの多くが、GMをお手本とした。日本の富裕層の少なからずの人々がGM車にあこがれた。
 他方、アメリカ人にとってはどうか。明治大学の越智道雄名誉教授によると、GMなど「パワーのある大型車に乗ることは、米国民が覇権国家の一員として意識を高める役割を担っていた」「米国民も兵器や航空機は所有できないが、パワーのある大型車を持つことで優位性を感じることができた」(『東京新聞』六月二日付け)といわれる。
 かつて西洋世界に君臨したローマ帝国の市民は、奴隷を所有することが市民としてのステイタスシンボルでもあった。アメリカ市民がGMなどの大型車を所有することもまた覇権国家=アメリカ帝国主義の一員としての優位性を確認することでもあった。そのGMが、今やサブプライムローン恐慌で破産するという事態である。アメリカ帝国主義の凋落は疑いもない。(Y)


注) 四月三十日、クライスラーはついに、連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請し、同時にイタリアのフィアットとの資本・業務提携でも正式に合意した。このため、クライスラーの再建策の概要は、以下のようになる。
@リストラと経営見直し――*UAWは賃金や退職者の福利厚生を削減、*69億ドルの無担保債務を大幅削減、*ダイムラーは20億ドルの債権や19%の株式を放棄、*サーベランスは20億ドルの債権や出資株式を放棄、*新生クライスラーは債権者団に20億ドルを支払い、旧クライスラーの大半の資産を購入
Aアメリカ政府の金融支援――*約33億ドルの「破綻企業向け融資」を実施、*新生クライスラーに、再建手続き完了後に約47億ドルを融資
B新生クライスラーの概要――*フィアットは20%の株式を取得、知的財産権使用権を供与する。15%の追加出資や取締役9人のうち3人を選ぶ権利を保有、*米財務省は8%の株式を取得。4人の取締役を選ぶ権利を保有、*カナダ政府は2%の株式を取得、取締役を1人選ぶ権利を保有、*クライスラーは再建後も、ディーラーと顧客に対する金融サービスに関してはGMACを通じて提供。政府がGMACを資金面で支援。GMの関連金融会社であるGMACは、2008年12月に政府から5 0億ドルの資本注入を受け、銀行持ち株会社に移行している。