09年度補正予算案
  新自由主義の誤りをケインズ主義で補正
  消費税など大増税の魂胆

 四月二十七日、麻生政権は、新年度がスタートして未だ一ヶ月もたたないのに、〇九年度補正予算案を国会に提出した。
 それは、財政支出15兆円余、事業規模約57兆円の、かつてない大規模な「経済危機対策」をもりこんだ補正予算案である(これまでの最大は、小渕政権の九八年十一月の7・6兆円)。これにより、補正後の〇九年度予算の規模は当初予算とあわせて102兆円を超え、初めて100兆円ラインを突破する。
 このような大規模な補正予算となったのは、「100年に一度の経済危機」を大義名分としているからである。昨年秋のリーマン・ショックを契機とした急速な世界経済の一斉後退は、日本をも襲い、日本経済は20〜40兆円の需要不足といわれる。したがって、経済の底割れを防ぎ、自立的回復を促すために大規模になった、というのである。

〈消費税アップに依存した補正予算案〉

だが、実際は、延ばし延ばしにしてきた総選挙対策である。政府・与党は、一九九〇年代、バブル崩壊後の景気刺激策の失敗をなんらの教訓ともしないで、ふたたび誤った利益誘導策(バラマキ政治)に走り、財政赤字を積み重ねようとしているのである。
しかも、小泉政権の構造改革のもたらした歪みを是正するといって、自動車・家電などの買い替え補助金、地域活性化を名目とした地方自治体への一時的な交付金の付与などの利益誘導策を行ないつつも、それ自身、自動車・家電・土建など関係業界を支援する狙いが中心である。雇用対策などといっても、一時的なしかも対症療法でしかなく、労働者としての権利と保護を剥奪した非正規労働者を生みだす体制をなんら改革するものではない。社会保障費の増額なども、やはり一時的なものでしかなく、医療・介護・年金の抜本的な制度改革に向けたものではない。
いわば、新自由主義の欠陥と誤りをケインズ主義で補正しようという、つぎはぎだらけの「経済政策」でしかないのである。
そのうえ、大規模な補正予算の財源の多くは、国債発行による借金である。すなわち、建設国債7・3兆円、赤字国債3・5兆円の計10・8兆円が国債である。その他は、税外収入、いわゆる「埋蔵金」など3・1兆円である。
この結果、〇九年度の新規国債発行額は、当初予算の33・3兆円を加えて、44兆円を超え、過去最高となる。こうして、国債残高は〇九年度末で、約592兆円となる。国と地方の長期債務残高は、〇八年度末で約787兆円であるが、この新規国債発行額を加えるだけで、軽く830兆円を超えることになる。
ケインズ主義が破綻した理由は、いくつかあるが、公共工事の多さによって自然が破壊されたこと、独占資本が推し進めるインフレ傾向を促進したこと、財政赤字を放置してそのツケを後世の人々にまわしたこと(未来の先食い)などがあげられる。
財政赤字が累積した原因は、恐慌・不況期に行なわれた借金による財政支出増や減税を、好況期の財政支出減や増税でカバーするという原則が行なわれなかったことにある。したがって、財政赤字が累積するばかりとなったのである。まさにバラマキ政治である。これは、日本がもっとも顕著であり、債務残高はいわゆる先進国でもっとも多い対GDP比率170%となっている。アメリカ、ドイツ、フランスが60〜80%という現状で、財政規律、財政再建をたとえ口先であろうとも配慮しているのに比較し、麻生政権ならびに自公与党は、全くといってよいほど真剣に考えていない。そして、景気が回復したら消費税をあげればよい、という安易さなのである。
世界的に拡がる財政赤字の累積は、長期金利の利上げ、インフレ基盤の増大、通貨価値の弱体化など資本主義経済を衰退させる諸要因を台頭させるものである。端的に言って、日本の債務の平均金利が1%あがるだけで、年間8兆円超の国民負担が増えることとなり、これは消費税が8%以上アップすることと同じである。

〈寄らば大樹の外需依存主義〉

そもそも、今回のサブプライムローン問題に端を発する世界恐慌は、資本主義自身がもたらしたものであることは、言うまでもない。マルクスは、「世界市場恐慌は、ブルジョア的経済のあらゆる矛盾の現実的総括および暴力的調整として理解されなければならない」(『剰余価値学説史』マルクス・エンゲルス全集第26巻U P.689)と、いっている。
21世紀に入って、日本資本主義は緩やかに回復してきたといわれるが、そこにはアメリカに対する貿易黒字が大きな役割を果たしている。それは、世界景気を維持するアメリカの借金に基づく「最後の買い手」への依存によって成り立っていた。したがって、日本経済の景気回復は、アメリカの「借金に基づく背伸びした消費」に頼った過剰生産がもたらしたものである。
だが、アメリカ経済は、住宅バブルの崩壊で無残な状況に転落する。そして、アメリカ経済においては、これまでのようなバブル経済の綱渡りで景気を維持する方策が、ますます困難になりつつある。この結果、日本の貿易収支は28年ぶりの赤字で、その規模は約一・四兆円にのぼっている。今年三月の鉱工業生産は、〇八年の初め頃と比較すれば、四割近く減産している。
四月二十二日、国際通貨基金(IMF)は、「第二次世界大戦後、最悪の景気後退になる」と指摘し、〇九年の世界経済の成長率を大幅に下方修正した。それは、マイナス1・3%である。この中でいわゆる先進国は、マイナス3・8%であるが、日本は飛びぬけて悪くマイナス6・2%とみなされている(世界銀行の見通しでも同様にマイナス5・3%)。
だが、二十七日に公表された内閣府の見通しでは、日本の実質経済成長率(GDP)は、〇八年度がマイナス3・1%、〇九年度がマイナス3・3%となっている(三十日に発表された日銀の見通しも、〇九年度はマイナス3・1%)。
IMFなどの見通しが精確だなどとは断定しないが、ドイツはIMF見通しマイナス5・6%に対し、自らはマイナス6・0%と慎重に予測しているのに比べると、日本の見通しはあまりにも甘く対照的である。麻生政権は、あと一〜二年ぐらいすれば世界の景気は回復し、ふたたび輸出による貿易黒字が回復するであろう、という程度でしかないのである。
資本家というのは、骨の髄までエゴイストである。ある資本家は自分が雇う労働者に対しては搾りに搾るが、他の資本家が雇う労働者に対しては高い購買力(すなわち高賃金)を望む。自分が生産する商品を販売したいがためである。同じことは、国家間貿易でも言える。自国の労働者には低賃金で購買能力を低下させておきながら(利潤を高めるため)、他国の労働者には高賃金を望む。輸出拡大で儲(もう)けたいがためである。
麻生政権は、同じことを夢見ているにすぎない。だが、アメリカの「借金にもとづく背伸びした消費」を前提とした日本の貿易黒字という「成長モデル」は完全に破綻した。今度の補正予算には、そのような自覚の下での中長期的観点での制度改革は、一カケラも見ることができないのである。
おりしも、IMFは、世界の金融機関(日本も含む)がかかえる潜在的な損失が4兆540億ドル(約400兆円)に膨らんだと発表した。この見通しには、金融危機のみならず景気後退に伴う損失も含まれている。(Y)