迷走を重ねた国家公務員制度改革関連法案
  官僚依存の無能な麻生政権

 迷走に迷走を重ねた公務員制度改革関連法案が、三月三十一日に、ようやく閣議決定され、国会に提出された。
 同法案は、昨年六月に成立した国家公務員制度改革基本法(以下、「基本法」と略)に基づいたもので、主な内容は以下のようなものである。@国家公務員の幹部人事を一元的に行なう「内閣人事局」の新設、A幹部職員に民間を含めた公募制度を導入、B首相を補佐し、内閣の重要政策を企画・立案する「国家戦略スタッフ」を導入、C各閣僚を補佐し、特定政策を企画・立案する「政務スタッフ」を導入など。
 同法案は、当初、三月十日の閣議決定が予定されていたが、政府案と自民党案が対立し(その裏には高級官僚の画策があった)、ようやく三十一日に閣議決定された。迷走した主な理由は、「内閣人事局」の内容・権限などをめぐっての対立である。そもそも「内閣人事局」という名称は、昨年六月の「基本法」で定められたが、その後、総務省の行政管理局を丸ごと「内閣人事局」へ移管するため、「内閣人事・行政管理局」に改称された。だが、丸ごとの移管が「焼け太り」と批判され、元の名称に戻された。そして、「内閣人事局長」の位置づけでの対立(官僚トップの内閣官房副長官〔事務〕に兼任させるか、あるいは内閣官房副長官級の専任官とするか。このポストに民間人がつくか否かなど)が官僚側の抵抗・画策も含めて展開されたのであった。
 だが、結局は、「官僚内閣制」を全面的に改革する気がさらさらない麻生首相の抵抗と「決断」で、全体的に高級官僚に有利な内容で、法案が決定された。そのことは、内閣官房副長官に「内閣人事局長」を兼任させることにより、「官僚主導から政治主導へ」という狙いが、全く骨抜きされたことに象徴される。
なお、今回の法案では、「政治からの中立」を理由に、検察庁と警察庁などの幹部人事は対象外となっている。しかし、両庁を「聖域」としてよいわけではなく、別の形であっても、人民の監視がなされるシステムが必要である。

 〈グローバリズム即応の国家公務員へ〉

 今日の国家公務員制度改革の直接的な出発点は、一九九六年六月の「橋本ビジョン」(「橋本行革の基本方向」)と翌年十二月に出された「行政改革会議」の最終報告である。その目的は、市場原理主義にもとづく大競争時代に即応した「国と国家公務員の役割」への改革である。
 これにより、1府12省庁体制への中央省庁の再編(二〇〇〇年)や独立行政法人化の大幅な導入がすすめられた。
 だが、戦後改革いらいの官僚制度の根本問題は、いっこうに改まることはなかった。その根本問題とは、天下り、「官僚内閣制」、公務員の労働基本権などの諸問題である。
 その後、二〇〇七年六月に、安倍政権の下で、国家公務員法が改定され、天下り廃止のための「官民人材交流センター」が設置されるようになり、二〇〇八年六月には、福田政権の下で、「政治主導」の確立を軸とするプログラム法である先述の「基本法」が成立した。
 
 〈なくならない天下りの斡旋〉

だが、改正国家公務員法は、あくまでも従来の各省庁による天下り斡旋を廃止するだけであった。同法に基づき、内閣府に昨年末に設置された「官民人材交流センター」は、各省庁斡旋をやめる代わりに、天下りを一元的に斡旋するものである。しかも、麻生首相は、昨年末に、各省庁の斡旋を「移行措置として三年間」も認める政令を出しており、やる気のなさを露呈させた。これには、今国会で野党の批判を浴び、省庁斡旋を年内に廃止する政令を出すことを約束させられた。
天下り問題で重要なことは、官僚組織の秩序を一元化するための早期退職慣行を廃止すること、天下り先をなくすこと(これは予算編成にも関係する)などである。天下り先の問題では、大企業などとの癒着をなくすことともに、国家予算に依存する政府関連団体を廃止することが不可欠である。
 
 〈地方分権・政治任用・労働基本権の回復を〉

 官僚主導から政治主導に転換し、「官僚内閣制」を廃止する問題は、先に見た国家公務員制度改革関連法案では、とても解決しうるものではない。
 この批判に対して、麻生首相は、今度の法案が「幹部候補者名簿に基づき、首相、官房長官、閣僚が任免を協議する」から政治主導の幹部人事になる、と反論するかもしれない。だが、官房長官が主宰する現行の人事検討会議でも、各省が作った人事案に拒否権を持ってはいるが、実際には、その多くが追認に終っている。今度新たに、首相、官房長官、閣僚の協議による幹部の任免を行なうとしても、そのたたき台は高級官僚が作ったものなのであり、旧来の枠組みを抜本的に変えて、政治主導が実現するとはとてもいえないのである。
そもそも、高級官僚を特別職(国家公務員法が適用されない国家公務員)に身分変更しないで一般職にとどめておく限り、戦前以来の「官僚内閣制」の抜本改革にはなりえないのである。このことは、近年、政治主導に変革しようとして、副大臣や政務官を増やしたが、「官僚内閣制」は基本的に解決していないことを見ても明らかである。
ちなみに、民主党は政権交代の暁には、イギリスに見習って、なお一層大量に、内閣へ政権党議員を送り込み、「官僚内閣制」問題を解決しようとしているが、これとても大いに問題がある。そもそも、イギリスでは、政治と行政、政治家と官僚の間の関係は、癒着なしの協働関係が成立しており、高級官僚から政治家への転身がないことにみられるように、前提条件が全く違うのである。さらに重要なのは、イギリスの行政部門は、首相府のほか17前後の省で構成されているが、日本とは異なり、政権交代のたびに省庁の再編(統廃合)がひんぱんに行なわれているのである。日本のように、各省庁の権益が積みかさなり、行政が巨大な省益の連合体となっているところでは、簡単には「官僚内閣制」を解体することはできないのである。
「官僚内閣制」の根本問題は、高級官僚が重要な権限をもちながら、人民の監視から逃れており、政界や業界と癒着し、一部の特権層の利益を図っているところにある。したがって、当面の抜本的変革には、まず第一に、中央行政による地方自治体支配を払拭し、地方分権を推し進め、地方自治と住民自治を結合することである。第二は、縮小された中央省庁の高級官僚を一般職から特別職に移行させ、政治任用制度を採用し、官僚組織の自律化をなくすことである。第三に、高級官僚を特別職に移行させ、一般公務員の範囲を限定し、後者の労働基本権を全面的に回復させることである。公務員の労組活動を自由にすることにより、高級官僚の腐敗や政界・業界との癒着を廃止する活動が内部から前進しうるのである。
麻生政権は、福田内閣が閣議決定した「道路財源の一般財源化」を反故(ほご)にし、「国の出先機関改革」では、地方分権に対する無関心とおざなりの態度をあらわにした。
そしてさらに、麻生政権は、国家予算や補正予算の作成では、財務官僚に頼りきって、伝統的な「自民・官僚同盟」をふたたび強化し、族議員の圧力もあって、バラマキ政治を復活させつつある。
麻生政権を早期に打倒し、「自民・官僚同盟」を解体しよう!(H)

20カ国・地域首脳が結集の金融サミット
  労働者の生活防衛は二の次

 G7に新興国などを加えた20カ国・地域首脳会議(G20)が、四月一〜二日にかけて、ロンドンで開催された(図表参照)。
 発表された首脳宣言によると、会議では、以下の諸点について論議され、合意された。
@経済成長と雇用を恢復するために、来年末までに五兆ドル(約五〇〇兆円)の財政支出を追加し、生産を四%引き上げ、数百万人の雇用を維持・創出する。
A今回の金融危機の根本原因は、金融監督の失敗にあるとして、次のような措置をとる。*金融安定化フォーラム(FSF)を引き継ぐ「金融安定理事会」を設立し、国際通貨基金(IMF)と協働する。*規制・監督をシステム上重要なすべての金融機関(ヘッジ・ファンドも含む)、商品、市場に拡大する。*賃金と報酬に関するFSFの厳格な新原則を実施する。*規制監督と登録を信用格付け会社に拡大する。*タックス・ヘイブン(租税回避地)など金融監督に非協力的な国や地域を特定し、制裁措置を準備する。*金融資産の評価・引き当て基準の改善と、質の高いグローバルな会計基準の実現に取り組む。*景気回復後に、銀行の資本の質・量、国際的整合性を改善する。
B世界的な経済危機には、グローバルな対処が必要として、IMFの資金を三倍化の七五〇〇億ドルに拡大し、国際開発金融機関による貿易金融支援を二五〇〇億ドル確保するなど、「途上国」などへの支援を強化する。国際的金融機関の改革として、〇八年四月に合意したIMFの出資比率と発言権の改革を行なう。次期出資比率見直しは一一年一月までに完了する。世界銀行の発言権・代表権改革は、一〇年春までに合意するよう期待する。国際金融機関の長と幹部の選出を、開かれた透明なものにする。
C貿易・投資の再活性化は、成長回復に不可決であり、前回のワシントンで結んだ保護主義是正の誓約を再確認し、いかなる違背措置も是正する。誓約は、一〇年末まで延長する。
D公平で持続可能な世界経済の基礎を築くことを決意する。「低所得国」が利用可能な資金を増大する。成長への刺激、教育・訓練への投資、積極的な労働市場政策で、雇用を支援する。強靭で持続的かつ環境に優しい経済回復に向け、財政刺激策を利用する。
E進捗状況を確認するために、今年末までに次回会合をおこなう。
 首脳会議は、当然なことではあるが、アメリカのサブプライムローンに端を発する世界金融恐慌とそれに伴う急激な実体経済の悪化に直面し、新興国も巻き込んで、世界資本主義体制の再構築を図ることが最大の狙いである。したがって、世界の労働者人民の生活確保、失業解決などは、二の次、三の次である。
 このことは、当初、首脳宣言には、「09年中にG20で一九〇〇万人の雇用創出」という目標が書き込まれる予定だったのが、発表直前になって、「数百万人」に引き下げられたことでも明らかである。
 金融監督の問題では、前回のワシントン会議と比較すると、それなりに具体的政策が出始めた。これは、投機資本の資本主義体制への破壊的作用が露呈されたことから、アメリカも一定の規制を行なわざるを得なくなったからであり、これにより、ヨーロッパ諸国との間で妥協がなされたためである。だが、アメリカは、あまり規制が強いと資本の活動そのものが制約されるとして、規制の程度をゆるやかなものに止める態度である。したがって、規制は未だ、具体的なものとして煮詰め切れていないのである。しかし、資本主義である限り、いくら金融機関に対する規制が整ったとしても、過剰貨幣資本がもたらす資本主義体制のかく乱は解決されえないであろう。
 次に、恐慌による実体経済の悪化への対処策として、ふたたび大規模なケインズ政策が米日などによって強調された。だが、ヨーロッパ諸国は、財政赤字とそれによるインフレを恐れて、慎重な態度をとった。
だが、日本では、自民党の族議員を先頭に、ここぞとばかりに旧来型の公共事業を復活させ、官僚と一体となって、バラマキ政治をよみがえらせつつある。
 アメリカでは、イランやアフガンでの戦争政策による財政負担が続く中で、ブッシュ政権に引き続いて、オバマ政権も、金融と実体経済の悪化を食い止めるため、史上稀に見る大規模な財政支出がなされている。あまりにも大規模な財政赤字は、大規模な国債発行をもたらし、このことはインフレの可能性を強めるだけでなく、ドル安への圧力を強め、ドル基軸体制を大きく揺さぶるものとなろう。現に、中国では、ある特定の国家に結びついた国際通貨を改めるべきだ、としきりに強調されている。
 首脳宣言は、その他にも、日本とEUがそれぞれの事情からIMFの「後進国」に対する支援強化で一致したこと、新興国とりわけ中国の存在感が一段と強まったこと、保護主義に対する懸念から、国際的な協調と結束が強調されこと、などが目立った。(Y)