世界の失業者が過去最多の1・9億人
  フランスでは
    250万人のゼネスト


倒産増・生産縮小で世界の失業者が過去最多の一・九億人
ヨーロッパでスト・デモが拡大
ILO(国際労働機関)の年次報告によると、二〇〇八年末の時点での、世界の失業者数は過去最多の一億九〇二〇万人に達した(速報値)。失業率でいうと、六・〇%(前年末比で〇・三ポイント増)である。
 ILOによると、「最悪のシナリオでは、〇九年中にさらに四千万人の失業者が発生する」といわれる。この場合、〇九年の失業率は、七・一%にまで上昇する可能性がある。
OECD(経済協力開発機構)の予測では、日米欧だけでも、失業者は二〇一〇年までに約四二〇〇万人と、現在よりもさらに八〇〇万人増えるといわれる。
アメリカの失業率は〇八年の三月から七月までは5%台だったが、八月と九月が6・2%となり、十月6・6%、十一月6・8%と連続して上昇し、十二月にはついに7%台に突入し、7・2%にまで増大した。
九月のリーマン・ショック以降、失業者数が劇的に増大したことは、非農業部門の雇用増減数を見るとよくわかる。〇八年前半では、この部門では雇用が一貫して減少しているが、それでもその規模は各月一〇万人以下であった。八月に至ってもまだ、一二・七万人の減少であった。それが、九月以降は一気に大規模に減少する。すなわち、九月四〇・三万人、十月四二・三万人、十一月五八・四万人、十二月五二・四万人である。
結局、アメリカの雇用者数は、〇八年一年間では、二五八万九千人も減少したのであった。これは、第二次世界大戦がおわった一九四五年の、二七五万人減に次ぐ大規模なものである。
分野別で見ると、失業は金融業から自動車などの製造業、建設業、小売りなどのサービス業に波及している。
倒産、合併、生産縮小などにともなう大規模な首切り、人員削減は、金融、自動車にとどまらず、他部門の大手企業にも波及している。
昨年末から今年にかけて、通信最大手のAT&T一万二千人、アルミ最大手のアルコア一万三五〇〇人、IT機器大手のEMC二四〇〇人、同マイクロソフト五〇〇〇人、レンタカー大手のハーツの四〇〇〇人などと発表されてきた。そして、決算発表が本格化した一月二十六日には、たった一日で七万五〇〇〇人の削減となった。
年明け以降の一ヶ月間でみると、主要企業だけで一五万人を超えている。建設機械最大手のキャタピラー二万人、製薬大手のファイザー(ワイスの買収を決定)の一万九〇〇〇人、航空機大手のボーイング一万人、ホームセンター最大手のホーム・デポ七〇〇〇人などである。
オバマ新大統領でさえ、「このままでは失業率が10%を突破するのは時間の問題だ」と、いわざるを得なくなっている。
ヨーロッパでは、EU(欧州連合)加盟27カ国の失業者数は、〇八年十一月時点で、一七四六万人で、前年同月よりも一一三万人増加している。
昨秋の米リーマン・ブラザーズの破綻以降は、失業・雇用不安が加速し、十月に失業者は一七〇〇万人を突破し、十二月にはさらに悪化し、〇八年を通して失業者は一二〇万人以上も増えたとみられている。
失業率でみると、ユーロ圏(〇八年十一月)が7・8%、イギリスが(〇八年八月〜十月)6・0%である。
失業増が、とくに顕著なのは、スペイン、フランス、イギリス、イタリアなどである。
スペインは、不動産バブルが崩壊し、失業者は14年ぶりに三〇〇万人台にのぼり、十一月時点で13・4%へと、一年前の8%台から急増している。
フランスでは、失業は金融・自動車の大手企業からさらに中小企業に拡大し、十一月の失業者数は二三〇万人を超えている。
イタリアでも、若年層の失業が多いが、一年以上職が見つからない長期失業者が増えてきている。
ドイツでは、この間、失業者がやや減少する傾向を見せていたが、昨年後半に三〇〇万人台となって減少が止まり、今年一月の失業率は、8・3%と前月よりも0・9ポイントも上昇した。これは、実数で言うと、前月比三八万七千人の急増で、三四八万九千人の失業者数である。世界的な傾向でもある自動車産業の人減らしで、今年は四年ぶりに失業増大に転じているのである。
日本では、昨年十二月の完全失業率は、4・4%となり、前月比0・5ポイントの悪化となった。
この急激な悪化幅は、41年ぶりのことといわれる。これで、完全失業者数は、前月比三九万人増の二七〇万人となった。
日本では、周知のように昨年後半から自動車や電機など輸出産業の派遣労働者、期間工などの非正規切りが次々と情け容赦もなく行なわれた。これは、首切り専門要員として設定された派遣法体制に基づいて行なわれているもので、資本主義の反労働者性を如実に表すものである。そして、資本家どもは、日頃盛んに「法令順守」などと口先では言うが、平気で契約途中でも一方的に非正規切り、派遣切りを行なう傍若無人さであり、まさにこれは、下請け企業への契約期間中の単価切り下げと同じ仕打ちである。
厚生労働省は、非正規労働者の失業者数(昨年十月から今年三月までの間で)を、昨年十一月時点では、約三・七万人、十二月時点で約八・五万人と見積もっていたが、今年一月調査では、約一二・五万人と見積もり、非正規労働者の首切りはますます拡大している。
だが、派遣・請負の業界団体の調査では、約四〇万人と推計され、政府の調査・対策の不十分さ・拙さが露呈している。
なお、〇八年の企業倒産(負債総額一千万円以上)の件数は、一万五六〇〇強と、五年ぶりの高水準となり、倒産した企業の正社員数は、前年比24%増の一五万二六〇〇人弱である。今後、景気後退により、正規労働者であれ、首切りや賃金カットに見舞われるのは、必至である。
中国では、中国人事社会保障省が一月二十日、〇八年末の都市部の登録失業者数が八八六万人で、失業率は4・2%(第3四半期と比べると、0・2ポイント増)になったと発表した。中国では、〇三年いらい失業率は低下または横ばいが続いていたが、沿海部の輸出企業の倒産や生産縮小などで失業者が急増し、失業率が五年ぶりに上昇した。
しかも、中国国家統計局の発表では、〇八年十〜十二月の実質国内総生産(GDP)は前年同期でプラス6・8%の減速となった。アメリカなどの景気後退による輸出不振などで、六年ぶりの一ケタ成長である。人口の多い中国では、今日の市場経済路線の見地に立つ限り、雇用維持には「8%成長」の確保が欠かせず、まさに黄色信号がともったという形である。
しかし、失業率の4・2%は都市部の登録者に限定されたものであり、全体状況を示すものではない。現に、「中国社会科学院では当局への未登録者も含めると失業率は9・4%に高まると分析」(『日経新聞』一月十七日付け)している。
世界的な失業増大の傾向は、この間の国際金融危機の深刻化と実体経済の悪化が相互作用し、倒産の増大、急激な生産縮小などで、急速に強まっているのである。
ドイツの信用保険会社ユーラーヘルメスによると、世界の倒産が急増していると見込まれている。アメリカの倒産件数は、〇八年が前年比45%増の四万一二〇〇件と見込まれ、〇七年が前年比約四割増だったので、二年連続して大幅な倒産が進んでいることになる。ヨーロッパでも、イギリス、ドイツ、フランスなど17カ国の〇八年の倒産件数は、前年比14%増の一六万九〇〇〇件程度と見込まれている。
日本の倒産は、東京商工リサーチの発表によると、〇八年の倒産件数(一千万円以上の倒産)は前年比11%増の一万五六四六件で、五年ぶりの高水準となった。負債総額は、前年比二・一倍の一二兆二九〇〇億円と六年ぶりの規模となった。特徴的なのは、上場企業の倒産件数が、前年比五・五倍の33社であり、これは戦後最多である。

〔スト、デモの拡大〕
世界的な失業の増大や雇用不安、賃金抑制などで、労働者の生活は、急激に悪化している。
ギリシャでは、昨年十二月六日夜に、アテネ中心部の学生街で15歳の少年が警察官に射殺された。これをキッカケに若者たちが警官隊と対決する闘争が連日つづけられ、一部では商店街も破壊される暴動となっている。
この闘争の背景には、経済危機の下での貧困や不正に対処しない政府への広範な怒りがある。ギリシャ全体の失業率は、7〜8%だが、25歳以下では、21%という規模である。毎年八万人ほどの大学卒業生がいるが、その約半分は就職できないのが実情である。若者の失業率が、とりわけ多いのはギリシャに限らない。スペインでも28%、フランスでも20%である。だが、ギリシャでは失業問題だけでなく、たとえ職につけたとしても、大卒でわずか月収六〇〇ユーロ(約七万二千円)という現状がある。いわゆる「先進国」の非正規労働者よりもさらに低賃金なのである。
政府は、全国化する若者たちの闘いを沈静化させるために、野党に協力を要請した。だが、これに対して、野党の全ギリシャ社会主義運動は逆に政府は信頼を失ったとして、政府の退陣、早期の総選挙実施を求めた。
このさ中、十二月十日、ギリシャの労働人口の半分にあたる二五〇万人を組織する官民の二労組が一斉ストライキを行なった。労組は、これまでも年金改革、国営航空の民営化、税制改革などに反対して、しばしばストライキを行なってきた。今回は、政府が“全国化する若者たちの闘いに油をそそぐ”と中止要請をおこなったが、あえてストを決行し、国際空港、バス、地下鉄、学校、病院などの業務をとめている。
ラトヴィアでは、一月十三日、IMFの支援と引き換えに押し付けられた緊縮財政に基づいた増税方針に反対して、民主化以降最大の一万人の反政府デモが首都リガで展開された。
リトアニアでも、一月十六日、社会保障支出削減に反対するデモが首都ビリニュスにある国会に向けて行なわれた。
ブルガリアでは、一月中旬、首都ソフィアで、反政府デモが連日展開された。ブルガリアでは、経済危機に対する政府の拙い対策に抗議するだけでなく、汚職やロシア産ガスの供給停止問題への不満が噴出したのであった。
新自由主義に便乗して、金融立国を目指したアイスランドでは、この間の金融危機で国家破綻同様の状態となったため、首相の退陣を求めるデモが粘り強く展開され、ついに退陣に追い込んでいる。
東欧、バルカン半島などヨーロッパ周縁地帯では、国際金融危機が恐慌に発展する中で、一早く米欧資本の流出が行なわれ、金融恐慌の影響に直撃されたのである。
ヨーロッパ周縁地帯の闘いは、ヨーロッパ「先進国」にも波及している。
フランスでは、一月二十九日、運輸関係の労働者や教育労働者など二五〇万人が、ゼネストに決起した。参加者は、地下鉄、国鉄、空港関係の労働者、学校に勤務する労働者、そして、民間企業の労働者たちである。中には、パリ証券取引所の労組のように、20年ぶりにデモに参加するところもあった。労働者たちは、雇用の維持や賃金値上げを要求して、ストを行なったが、特にサルコジ大統領の経済対策への不満が拡がっている。
ドイツでは、ドイツ鉄道の労働者が10%の賃上げを要求し、また航空会社の労働者たちもストライキを行なった。
スペインでは、北部サラゴサで、自動車産業の労働者たち数万人が雇用対策を要求して、デモを行なった。
イギリスでも、石油精製関連の労働者たちが、雇用不安から各地でストに入っている。
貧困、格差、失業を広範にもたらす新自由主義の打倒のみならず、資本主義そのものの変革が要求されているのである。(T)


オバマ新大統領が直面するアメリカ資本主義の一層の危機
   ふたたび強まる金融不安

 ブッシュ政権の最悪の八年間の裏返しか、圧倒的人気を集めるオバマ新大統領の就任式。その日、一月二十日、ダウ工業株平均の終値は、二ヶ月ぶりに八〇〇〇ドルを割った。「歴代大統領の就任日では過去最悪の下げ」といわれる。シティグループの三ドル割り込みを始めとして銀行株が軒並み売られ、GMも三ドル五〇セントを割ったためである。
昨年のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に、この間の国際金融危機は世界金融恐慌に発展し、金融危機と実体経済の悪化が相互に作用する「悪循環」の過程に入っている。

 一月三十日、米商務省は〇八年十〜十二月期の実質GDP(国内総生産)が、年率換算で前期比マイナス3・8%になったと発表した。このマイナス幅は、八二年一〜三月期以来、約27年ぶりの落ち込みといわれる。これで、米の実質GDPは2四半期連続のマイナス成長である。
 マイナス成長の要因としては、民間設備投資が19・1%減(前期は1・7%減)と急速に落ち込んだこと、この間下支えしてきた輸出も19・7%減となったこと(同3・0%増)、そしてGDPの七割を占める個人消費が3・5%減(同3・8%減)と二期連続して落ち込み、中でも自動車や家電など耐久消費財は22・4%減(14・8%減)となったことなどによる。
 実際、年末のクリスマス商戦は、全くの不振であった。商務省が一月十四日に発表した昨年十二月の全米小売業界の売上高は、前月比2・7%減の三四三二億四二〇〇万ドルであった。これでマイナスは六ヶ月連続であり、前年同月比でみると9・8%の大幅下落である。
 国際金融危機の発端となった米住宅市場は、「底打ち」も見えず、一向に回復の兆しがない。住宅販売件数は〇五年をピークに減少しているが、全米不動産協会の見込みでは、〇八年は新築・中古あわせて五五〇万件(前年比15%減)であり、価格もまた二ケタの下落率(全米の住宅価格は既にピークから二割超下落)である。
 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の発表によると、昨年十一月の「S&Pケース・シラー住宅価格指数」(一戸建て住宅の売買価格を毎月集計し、二〇〇〇年一月を一〇〇として指数化)は、主要十都市平均で前年同月比19・1%の下落で、十月と同じ水準であった。これらは、一九八七年の調査開始いらいで最大の下落率である。
 失業や賃金抑制の下で、住宅ローンの返済は滞り、そのため物件差し押さえの動きが弱まらない。米不動産調査会社リアルティトラックによると、〇八年に差し押さえの通告を受けた住宅件数は、前年よりも八割も多い二三三万件に上っている。この数は、政府や議会が〇七年に差し押さえ「予備軍」とした二〇〇万件をはるかに上回ったものである。
 「変動金利型」のサブプライムローンは、契約して3〜5年後に急激に金利が上がるが、そのような年を迎える契約者が、今年以降、大幅に増える。住宅市場は、ますます深刻にならざるを得ない。
 金融危機が生産過程や流通過程に破壊的作用をもたらす中で、金融システムの不安がふたたび米欧で高まっている。金融危機の震源である住宅価格の下落に歯止めがかからないだけでなく、実体経済の悪化で金融機関のもつ資産が劣化し、不良債権が膨らんでいるからである。 
 米金融大手6社の〇八年第4四半期の決算は、唯一黒字のJPモルガン・チェースを除き軒並み赤字となった。唯一黒字であったJPとても、その黒字はわずか七・二〇億ドルでしかなく、前年同期と比べると76%の減益である。
 各社の損失は、貸倒引当金など不良資産の増加に伴う処理が中心であり、実体経済の悪化が、今度は逆に金融機関に影響を与えているものである。シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガンチェース3社の〇八年第4四半期の不良資産処理に伴う損失は、計四四五億ドル(約四兆円)で、サブプライムローン問題が本格化した〇七年半ば以来、最高の水準である。景気後退が長引けば長引くほど、金融機関の損失が拡大するという構造にはまり込んでいるのである。
 この基本構造は、アメリカもヨーロッパも同じであり、支配階級は新たな段階での金融対策が迫られている。だが、このことがもたつく間に株式市場では、金融株などに売り浴びせが行なわれ、絶えざる金融不安が継続するのである。
ニューヨーク市場のダウは、結局、今年一月の間に8・8%も下落し、一ヶ月間の下落率としては、一九一六年の8・14%を更新し、過去最大となった。(Y)