大失業時代における日本労働運動の闘争方向
  
   首切り反対と社会構造改革を結合し


 派遣労働者、期間工の雇用調整という名の首切り、新卒者の内定取り消しがニュースを賑わせている。このかんの格差拡大問題の上に雇用危機が重なり、首切りに抗議する非正規労働者の組合結成などにも社会的関心が寄せられている。
厚生労働省は十一月時点の全国調査で、十月から今年三月までの六ヶ月間で非正規労働者約3万人が雇い止めされると発表したが、それを大きく上回る非正規切りとなると見られている。さらには、ソニー、日本IBMなどは、正社員の雇用削減をも発表した。連合の緊急調査では、3社に1社が何らかの雇用調整を実施している。労働組合のない下請け・中小零細企業への、親会社の発注減などによる正規・非正規解雇の波及は計り知れない。ILOは、今回の金融危機で世界で2000万人の雇用が失われると予測している。まさに未曾有の大失業時代の到来である。
 今回の世界的な金融危機は、不良債権の程度が不明であり信用収縮の回復の目途が立たないこと、震源地が世界経済の中心のアメリカであること、実体経済に大きく影響し世界的同時不況となっていることなどの特徴がある。そして、危機の規模、深刻さ、速さは、今までに経験したことのないものである。金融危機を招いたマネーゲームの手法が問われているだけでなく、まさに資本主義体制そのものが問われているのである。
 麻生連立政権は十二月九日、三年間で2兆円を投入して140万人の雇用を下支えする「新たな雇用対策」をまとめ、第二次補正予算、〇九年度予算で実施するとした。内定取り消し相談窓口の設置、非正規労働者を正社員にした場合に100万円の助成、地域雇用創出基金に4000億円、雇用保険制度の拡充、雇用促進住宅の活用などである。政府の雇用対策の基調は、これこれを行なった企業にはこれこれの助成を与えるという経営者頼みの従来の手法である。
 政府の対策では生ぬるく、かつ遅いとして、民社、社民、国民新の野党三党は、強制力をもった緊急雇用対策関連四法案を国会に提出し、臨時国会で成立を図ろうと十二月十八日、参議院厚生労働委員会で強行採決した。翌十九日には参院本会議で、共産党も賛成に回る形で可決された。野党法案は政府案よりも相対的に優れてはいるものの、二五日の臨時国会閉会前に政府・与党の無策ぶりを浮き彫りにしておくという政局的な意味合いも強いものである。
緊急に必要なことは、法案の成立をまってどうこうではなく、現行法でも可能なことを直ちに政府と自治体にやらせるということである。雇い止めされた派遣労働者が寮から追い出されるなど深刻な事態が多発しており、何よりもまず雇用対策・生活対策の実施を急がせなければならない。
また、正規労働者の企業内組合では対応できない非正規労働者の雇用危機に際して、個人加入制の地域ユニオンや産別組合の本格的出番となっている。大量の非正規首切りとなっている自動車工場などで、非正規労働者のこうした労働組合への加入と闘いの開始が各地で始まっている。解雇通告の全体からすれば少数の闘いであっても、日本の労働組合を変えていく流れとして、その意味は大きい。また大量解雇が強行されても、組合を作って闘った組合員についてその雇用継続が勝ち取られるならば、それは大きな成果である。
とはいえ現状では、大量の解雇が実施されていく傾向を阻止することは困難であり、労働運動全体としては、個別の組織化のみならず、戦略的・政策的なたたかいが問われている。
政策的には、このかんの新自由主義構造改革によって破壊されたセーフティネットを再構築していかなければならない。日本の雇用対策は正規労働者を前提としたものであるが、それを非正規労働者も対象としたものにすることである。以前は、日雇い雇用保険が非正規労働者の雇用のセーフティネット策であったが、派遣、パートなどの雇用形態が拡大することによって日雇い雇用保険は形骸化し、無権利・低コストの労働力が生み出されてきたのである。同一価値労働同一賃金、均等待遇の実現をめざし、労働者派遣法の抜本改正、最低賃金の大幅引き上げ、リビングウェイジの実現、日雇い雇用や短時間雇用であっても不就労時の賃金保障の確立、職業訓練の充実、労働時間短縮・ワークシェアリング、労働者による雇用創出などを行なっていかなければならない。また、そのような非正規労働者の安定した雇用労働対策を支える医療制度、住宅政策、保育教育支援、生活保護が機能するようにならなければならない。
このような雇用対策・生活対策は、今までの制度の充実ではなく、非正規労働者を対象にしつつ、非正規・正規を一元的に包括する制度として確立することが求められている。
そして、そのような社会制度をつくる前提として、どのような社会をつくるのかが問われている。新自由主義による競争社会ではなく、社会主義を目指し、人々が支え合い、協同して治めていく社会である。エネルギーと食糧を大量に輸入し、自動車や電機を輸出する社会構造を転換すること、自然エネルギーの活用や食糧自給率を高め、医療、教育、介護などの充実を図ること、これら労働者・国民の生活を第一とした新たな内需拡大政策と結びつきながら、当面の労働・生活対策をすすめる必要がある。
このような、緊急対策、制度抜本改革、社会構造改革を、非正規労働者と正規労働者が一体となって闘える態勢を作り上げなれればならない。たたかう非正規労働者の団結をつくることは容易ではない。お互いのたたかいの情報交換ネットワーク作りから始め、非正規・正規の共通の利害を追求していくことが、地域を中心に新たな共闘をつくりだしていくであろう。
時代の転換のなかで、社会変革をめざす運動づくりに踏み出そう。(K)

 
「派遣法の抜本改正をめざす12・4日比谷集会」に二千人
  派遣社員はモノじゃない

 十二月四日、東京・日比谷野外音楽堂で、まやかしの派遣法改定案国会上程弾劾!派遣労働者の切り捨てを許すな!をスローガンに「派遣法の抜本改正をめざす12・4日比谷集会」が行なわれ、非正規労働者など約2000名が参加した。参加組合は連合、全労連、全労協の各傘下を始め、全日建連帯、全港湾、動労千葉など広範な結集であった。主催は、全国ユニオンに事務局を置く集会実行委員会。
 この集会は、自動車や電機などを始めとして派遣労働者の中途解約、期間工の雇い止め、学生の内定取り消しなど首切り攻撃が相次いで始まる雇用情勢の中、マスコミや各政党の注目も大きく、十一月四日に政府案が国会提出された労働者派遣法改定案をめぐる争点とともに、直面する非正規労働者などの首切り反対・生活保障要求が強く前面に出た行動となった。
 最初に棗一郎さん(日本労働弁護団)の主催者挨拶の後、集会呼びかけ人を代表して鎌田慧さん(ルポライター)が挨拶、「労働者使い捨ての派遣法を容認してきた、これまでの労働組合運動が問われている。そして、いまや資本主義そのものも問われている。派遣法廃止へ向け、抜本改正を」とアピールした。
 続いて、ステージに「派遣社員はモノじゃない」の大看板を示す中、解雇通告などを受けている現場の仲間たちが次々と発言した。昨日組合(全日本金属機器の支部)を結成したばかりの、いすゞ自動車栃木大平工場の期間社員たちを始め、大分キャノンの派遣労働者(日研総業ユニオン)、もっぱら派遣の阪急トラベルサポート添乗員(東京東部労組)、郡山市のパナソニック派遣子会社の女性労働者、厚木の日立オートモーティブの派遣労働者、グッドウィル・ユニオンなどの仲間が、突然の解雇通告や寮追い出しの不当性、解雇撤回への支援を訴えた。
 国会議員も力を入れた参加であった。民主党の菅直人、共産党からは志位委員長ら八名、社民党からは福島党首ら七名、国民新党の亀井亜紀子の各氏と全野党が挨拶した。
 弁護団(日弁連、労働弁護団、自由法曹団)を代表して、反貧困ネットワークでお馴染みの宇都宮健児弁護士が挨拶、「日弁連が十月人権大会および十一月六日会長意見書で、派遣法抜本改正を一致して求めていることは重要だ」、「被解雇者の支援も反貧困ネットの課題、十二月二四日に『年越し相談』と生活保護一斉申請を行なう」と報告した。
 最後に、「日本の非正規労働者全体の生存が脅かされている非常事態である」と認識しつつ、そのような安易な首切りを生み出している労働者派遣法の抜本改正を求める集会宣言を採択した。野音の横の厚生労働省へ向けてパフォーマンスを行なった後、国会請願デモを行なった。
 なお集会宣言では、抜本改正の内容を、政府案を批判しつつ以下のように求めている。@日雇い派遣に例外業務を認めず全面的に禁止すること、A30日以内の期限付き雇用を禁止するなどという中途半端な改正ではなく、登録型派遣を廃止するか真に労使対等の実態のある専門業務に限定し、期間の定めのない常用型派遣を原則とすること、B平均的なマージン率の情報提供義務では何の意味もなく、派遣料金のマージン率規制について上限規制を設けること、C派遣労働者の賃金等の待遇改善策について、派遣先の同種労働者との「均等待遇」を使用者に義務付けること、D偽装請負・違法派遣があった場合の派遣先との「みなし雇用」規定を創設し、違法派遣を受け入れた派遣先の雇用責任を厳しく問うこと、などである。(東京W通信員)
 

東海地方 - 非正規解雇の集中地域
  大企業の逃げ得許すな

 東海地方はこの数年、製造業を軸に日本経済回復のけん引車たることを自負してきた。自動車や電機などの大企業の生産拠点が集中し、全国から即戦力たる労働者を集めてきた。また日系ブラジル人など移民労働者も集めてきた。結果、派遣や請負い、期間工などの非正規労働者を大量に吸収してきた。
 いま、アメリカ金融危機を発端とする世界的不況に直面して、企業は破廉恥にも一斉に非正規労働者を大規模に解雇し始めている。厚労省が十一月二八日に明らかにした〇九年春までの非正規解雇予測では、全国3万人のうち、東海四県(愛知、岐阜、静岡、三重)で約一万人が見込まれており、全国の三分の一が東海地方に集中するということだ。
 愛知を本拠とするトヨタは早々に、全国で期間工3千人を削減することを明らかにした。シャープは亀山工場の生産ラインの再編を打ち出し、派遣労働者の解雇を始めている。ソニーは全社で正社員を含め1万6千人の削減計画を発表した。
 自動車や電機はすそ野の広い産業だから、下請け、孫請けも含めて様々な業種の企業がその配下につながっている。配下の中小企業では非正規だけでなく、正規の雇用も脅かされている。トヨタが減産を明らかにしたことで、三重県の三次下請け企業では十二月から休業に追いこまれた。労働者は仕事がなくなって休業手当をもらっているが、もともと低賃金なので、休業手当では生活できない状態になっている。
 非正規で働いている労働者の多くは、仕事がなくなったら会社の寮も追い出される。四十歳台の元派遣労働者は自動車部品工場で働いていたが、解雇されると同時に寮を追い出された。友人宅に居候しているが北海道に帰っても生活できるあてはない、と言う。寮を追い出されると「住所不定・無職」となる。次の仕事を見つけ出すことは、ほぼ不可能だ。ホームレスの状態が続いてしまう。
 まさに、労働者はたたかわなければボロ屑のように捨てられる時代になった。一人でも加入できるコミュニティ・ユニオンなどが、非正規労働者のたたかう大きな武器となっている。正規労働者による企業別組合では非正規労働者を守れない。
 トヨタなど大企業は、下請け・孫請け企業を通して景気のよい時期には多くの非正規労働者の低賃金・長時間労働を土台として、「史上最大」の利益を上げてきた。いまも利益をしこたまため込んでいる。この時期に犠牲を全部、非正規労働者や下請け・孫請け企業におしつけて、自分たちは利益を持ち逃げしようと画策している。非正規には雇い止め、下請けには発注停止だ。かれらは確信犯だ。
 非正規労働者を使って一番もうけてきたのは、トヨタなどの大企業だ。ため込んだ資金は、悲惨な状況に置かれ始めている非正規労働者の生活を救済するために全部使われなければならない。トヨタなどを攻める戦略が必要だ。闘いはまさに、これからが正念場だ。(東海S通信員)