国際金融危機の歴史的位置について
  問われる革命理論の再構築


 アメリカ・サブプライム問題に端を発する金融危機が、実体経済を不況の淵に引きずり込み始めた。(経過については三面参照)いまや29年大恐慌の再来が警鐘乱打される情勢となっており、諸国の支配階級は、あるいは公然とあるいはひそかに、民衆が預金取り付けに走らないよう慰撫キャンペーンを始めているという具合である。
 いまや革命の問題について正面から論ずべき時代に入ろうとしていると言ってよかろう。しかし革命理論の建て直す方向性をもたないそれは、社会的に無力であるだろう。「蟹工船」がベストセラーとなる左の風が吹き、さらに「大恐慌」だという時代情勢の中で、左翼の理論的立ち遅れの早急な克服が問われているのである。
 若干殴り書き的になるが、現在の問題意識を以下まとめてみることにした。
@第二次大戦を媒介に米帝による他の帝国主義諸国に対する一定の支配・統制を組み込んだ国際反革命同盟体制が形成され、その下で金融資本が多国籍展開し、70年代初頭に至っ「産業の成熟」時代に移行し始める。これが資本主義発展の結語、今日のブルジョア社会を解明する切り口である。
「産業の成熟」は、一方で生産過程から遊離した貨幣資本の過剰を、他方において、物的豊かさの実現から一人ひとり(含・環境)の自由な発展の実現へ、社会の欲求の移行を促した。人間(含・環境)の自由な発展を保障する活動領域は、利潤を目的とする一つの支配隷属関係である資本主義にとって本質的に適合できない領域であるから、過剰貨幣資本が入り込むには限界がある。その結果、過剰貨幣資本は膨張し、投機資本に転化する。  
この過程は、七〇年代のアメリカで始まったのである。アメリカ金融資本の投機マネーへの転化の穴を埋めうように、西欧の金融資本は七〇年代に多国籍展開(対米直接投資急増)、日本の金融資本は七〇年代に対米集中豪雨的輸出、八〇年代に多国籍展開(対米直接投資急増)し、国際分業における産業(特に、自動車・家電)の支配比率を拡張した。
A投機資本のヘゲモニーが確立し、資本の蓄積運動が産業の発展および労働者の搾取と相対的に切り離されて自己展開するシステム(「カジノ資本主義」)が発達する。産業資本、銀行資本と産業資本の融合、ケインズ主義的需要拡大策・フォーディズム的労働編成による補強などとして歴史的に形成されてきた資本蓄積様式は後景化する。
八〇年代の米レーガン政権(英サッチャー政権)の登場と新自由主義政策の展開は、投機資本が米英の支配階級の間で主導権を獲得したことの現れであった。
B投機資本の自己増殖運動が社会を崩壊させていく。
 投機資本(過剰貨幣資本)の増大は、その対極における絶対的過剰人口の膨張を意味する。すなわちそれは、資本主義の下では生存できない層の形成と膨張であり、貧困、社会的格差、社会の分裂が重大問題化していくことである。
 投機資本の自己増殖は、マネーゲームによる蓄積、「略奪的蓄積」である。資本同士の共食い、民衆の小金の巻き上げ、ついには貧困層からの詐取(サブプライム!)へと至る。詐取するものが貧しい人々の臓器だったりもするのである。そしてまた、労働者を大量的に非正規雇用化して労働賃金を大幅に引き下げ、ケインズ主義的な福祉財源を掘り崩して自己の懐を肥やすという具合である。投機資本は、労働とその搾取に関心が薄く、投機の過熱である「バブル」から利益を引き出すことはその蓄積運動の不可避の一部である。
 投機資本は、拝金主義、弱肉強食を是とする思想を蔓延させる。労働者は、増大する自由な発展への欲求と、使い捨てられ生存さえも保障されない自己の在り様との矛盾に苦悩を深める。一方における道義的退廃、他方における生きる目的の喪失、こうした意味でも社会の崩壊は進行する。
C産業の成熟により資本主義の歴史的役割は終焉した。
 かつては、過剰生産・大量失業とそれに伴う過剰貨幣資本は、新産業の勃興によって吸収された。基本的に、これがない時代にはいっているのである。産業成熟時代においては、「グローバル・ニューディール」も「反テロ・軍事スペンディング」も、その経済的効果は限定的たらざるを得ない。発展途上国の産業の高度化と経済的興隆も、成熟した既存産業の量的拡張という域を出ないから、これも危機の先延ばしに一定影響を及ぼすに過ぎない。危機の「克服」は、「カジノ資本主義」の拡大再生産によってしか、そしてより大規模な社会の破壊によってしかありえないのである。
 今回の世界的な投機の過熱の崩壊は、投機マネーの世界においても、産業支配の世界においても、超大国アメリカの統合力の後退をもたらさずにいないだろう。多極化と無秩序化が進行するに違いない。また諸国の支配階級においても、新自由主義を推進する路線と社会の崩壊を押し止めようとする路線の対立が激化し、支配秩序が崩れていくに違いない。そして、社会を建て直す民衆運動が発展し、社会の存立の桎梏として立ち現れる資本主義とのたたかいも激化していくことになる。
Dこのような時代の中で日本の支配階級は、巨大投機資本と多国籍企業の利益を擁護してアメリカ一辺倒・市場原理主義の路線を推進し、社会の崩壊には監視・弾圧・分断で対処する一半と、支配階級の広範な諸層の利害を擁護してアメリカと一定の距離を置いて東アジアとの関係を重視し、社会の崩壊を押し止めるべく民衆の包摂にも配慮しようとする一半とに分裂してゆかずにいない。
今世紀初頭に登場した小泉政権が、前者の路線の旗を立て「改革」を推進したことによって社会の崩壊が深刻化し、民衆の怨嗟の声が巷に溢れる事態となった。今や、この事態を背景に支配階級の間においても後者の路線が台頭し、政治の転換が実現されようとしている。今回の世界金融恐慌の展開がもたらすであろう民衆生活の一層の悪化は、民衆への今一段の譲歩を政府に強制するだろうし、そうした懐柔策でも包摂しきれずに様々な反抗を激発させる可能性が高い。われわれはこの中で、政権交代を実現するとともに、地域社会の再建と労働者民衆の集団的闘争を思い切って発展させ、労働者民衆の政治勢力を第三極として進出させていかなければならない。(M)