今秋臨時国会の焦点―野党共同提案を作れ

  労働者派遣法の抜本改正を

 七月二八日、厚生労働省のいわゆる有識者で構成する「今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会」が報告書をまとめた。早ければ八月下旬から始まる臨時国会では、労働者派遣法の改正が大きな闘いとなる。
 政府・与党が、指針の見直しですませようとした今春までの対応から、手直し的なものとはいえ労働者派遣法の法改定へ動くことになったのは、このかんの労働運動側の派遣先企業と派遣会社への闘い、国会行動、世論形成などの闘いの成果であり、また現行労働者派遣法がもたらす社会矛盾の激化に支配層としても何らかの対応を迫られたものと考えられる。
 東京・秋葉原において六月八日、派遣会社・日研総業の若い派遣労働者が通行人多数を無差別殺傷した事件は、派遣労働者がおかれている境遇とその問題点を鋭く社会に問いかけることになった。容疑者の派遣先であった関東自動車が、トヨタ自動車の生産計画の見直しに伴って五月二六日、今年四月から来年三月までの契約で受け入れていた派遣労働者約二百名を六月末で契約解除することを派遣会社に通告したこと、これが事件の背景にあった。突然の契約解除は、派遣労働者の生活を破壊するものであり、これを契機に容疑者は人生と社会への絶望的対応へ走ったとみられる。事件に対し、派遣先の関東自動車が派遣元に責任転嫁しつつ、指針にも反する一方的な大量解雇という自己の責任を居直っている態度は極めて許しがたいものである。
 さて、厚労省の研究会報告の内容は、「現行制度の骨格は維持した上で、派遣労働者の保護と雇用の安定を充実させる方向で検討した」とし、具体的には、日雇い派遣の原則禁止、「マージン」公開の義務化、グループ企業派遣の割合規制、違法時の派遣先に対する雇用契約申込み勧告の創設、労災保険料の派遣先からの徴収などである。
 研究会報告は、日雇い派遣禁止を打ち出したとして一般に注目されている。しかしその実際は、「登録型派遣のうち希望する者には、常用型派遣を含む常用雇用へ切り替えることを促進するための仕組み」を提案した与党プロジェクトチームの提言(七月八日)よりも、後退したものとなっているのである。
 不当なマージン(派遣会社によるピンハネ等)による低賃金、仕事があるときだけの雇用契約であり不就労時の雇用保険も支給されない、途中解約による失業の不安など、派遣労働者が抱えているこれらの問題を、この研究会報告で解消することはできない。また、登録型派遣の多くを占める日雇い派遣について、「原則禁止」とは例外を残すということか。直接雇用の日雇いと派遣の日雇いとを区別した上で、後者を一律に禁止すべきだ。
 今後の、あるべき派遣法改正で、最低限必要なことは、@派遣対象職種を専門的職種に限定、A登録型派遣の原則禁止、Bマージン率の上限規制、C途中解約の禁止や一年未満の派遣契約でも雇用保険を適用する、などの措置である。
 研究会報告での日雇い派遣の定義は「30日以内の期間を定めて雇用するもの」となっており、厚生労働省の指針にもとづくものである。派遣労働者は、特定の派遣会社に登録しているので日雇雇用保険の対象労働者ではないとしてきた厚生労働省は、昨年その方針を転換した。しかし、失業した派遣労働者が雇用保険給付をもらえていない実態は改善されていない。方針を改善したのなら、それを進める具体的措置が必要だ。
 すでに法改正に向けて、七月三十日から労働政策審議会の職業安定分科会労働力需給制度部会が始まった。八月中には結論を出すペースですすめられている。そして秋の臨時国会には、政府の労働者派遣法の改定案が提出される予定である。
 各党は、それぞれ労働者派遣法の改正案を用意している。共産党、社民党、国民新党の各案は、一九九九年改定前に戻して派遣対象業種を専門性の高い職種に限定すること、マージン率の上限規制、派遣先の責任強化などが共通している。問題は民主党案である。民主党案は、二カ月以内の雇用期間の日雇い派遣原則禁止、罰則の強化を打ち出しているだけであり、このことが野党の足並みを乱している要因になっている。まだ、与党プロジェクトチーム案の内容のほうが、民主党案より踏み込んでいるからである。
 労働側から、よりよい野党共同案づくりを後押しする運動をつくることが求められている。臨時国会へ強力な大衆行動を実現しよう。
 同時に、一時的・臨時的な雇用が必要な場合には、労働組合による労働者供給事業を行なうようにしていくことが必要である。日雇い派遣に法的規制が入っても、一時的・臨時的な雇用はなくならないのであり、労働側の対応領域を拡大することが問われるだろう。労働者供給事業は職業安定法第44条で禁止されているが、例外として第45条で労働組合が行なう労働者供給事業は認められている。禁止されている労働者供給事業の例外が労働者派遣である、という捉え方は誤っている。例外は、労働者が団結して行なう雇用の確保、労働組合の労働者供給事業である。
 労働者のこのかんの雇用破壊・賃金破壊をもたらした最大の要因は、労働者派遣制度である。労働者派遣法を改正し、将来的には労働者派遣法を廃止するたたかいを行なうことは労働運動の責務である。(K)