韓国イ・ミョンパク政権打倒の高揚と、朝米関係の進展
  民衆の北東アジアかちとれ

 ここ一ヶ月あまりの朝鮮半島をめぐる状況は、韓国内でも朝米関係でも劇的な変化を遂げている。
 韓国内の政治情勢では、BSEが危惧されるアメリカ牛肉輸入解禁反対のキャンドルデモは、このかん連日行なわれ既に百回を超えているが、なかでも六月十日のデモは、ソウルで七十万、全国で百万人の壮大な街頭行動となった。六月十日は二十一年前、チョン・ドファン軍事独裁政権を追いつめ、大統領直接選挙制を引き出した87民衆大抗争の記念日に当たる日であったが、さらに七月五日には、ソウルで五十万人の大闘争を展開している。七月二日には民主労総のゼネストが決行され、「イ・ミョンパク独裁政権審判のためにゼネスト闘争の強度をさらに強める」とも宣言している。
 これらの行動は、反BSEをこえて、イ・ミョンパク政権の新自由主義政策による社会的格差の拡大、大運河構想による地域破壊・環境破壊、英語教育の推進と称した教育の競争と差別の更なる激化、公共部門の民営化による労働者の首切りと公共サービスの低下、韓米など自由貿易協定による農業破壊、これらに広く怒りの矛先が向けられている。イ・ミョンパク氏はCEO(経営最高責任者)大統領などと自称したが、無制限的な資本活動の自由を保証する新自由主義と、韓国社会に旧来から根強い開発独裁型の政策とをミックスしたその政権運営が、まさに破綻を露呈したといえる。
 さらに民衆の怒りは、「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」による政権寄りの右翼偏向報道にも向けられ、廃刊を求める直接行動も行なわれている。他方、中立的報道を続けるKBS、MBCの二大放送ネットワークに対しては、政権側が政治介入をほのめかす事態となっており、公共放送を守れとの運動にも発展している。
 そればかりではなく、与党ハンナラ党関係者などは、二代続いた「在野」系大統領に対して「失われた十年」と称し、歴史のネジを逆戻りさせんとして、国家保安法体制の強化と新たな公安政局さえ策動している。その端的な現われは、イ・ミョンパク氏が大統領就任当時に、済州島4・3民衆蜂起六十周年に対し大韓民国建国六十周年を対置する、と暴言を吐いたことである。当時米軍政の庇護下、イ・スマンは朝鮮半島南半分だけの単独選挙を強行せんとし、この分断の固定化に反対して蜂起したのが済州島民衆であった。南北の統一をねばりづよく求め続けた韓国民衆と、前二代の政権の努力に逆行し、現政権とハンナラ党は、国内安保を口実として北との関係悪化を招いている。
 韓国民衆のイ・ミョンパク政権打倒の決起は、BSE国民対策会議の呼びかけで行なわれている。当会議は旧来からの運動圏とは直接的な関係のない市民組織であり、なかには、このまま闘争を続ければ、ハンナラ党のパク・クネ勢力や更に右派のイ・フェチャン勢力に権力を奪われるとの危惧の声も聞こえている。これは、現在の闘争で、進歩連帯などの在野民主勢力や民主労働党のような民衆政党が決定的な影響力を持っていないためである。右派に危惧した「着地点」論ではなく、一層の闘いの強化でこそ民衆自身も在野勢力もより発展できるのではないだろうか。
 朝米関係の進展も世界の注目を集めている。六月二六日、朝鮮民主主義人民共和国は六者協議の議長国・中国に核計画申告書を提出し、同日、ブッシュ米大統領は北へのテロ支援国指定と対敵国通商法適用の解除手続きに入ることを声明した。二七日、ヨンビョンの核施設・冷却塔の爆破が、アメリカのテレビ局を通して全世界に放映された。
 ブッシュ政権にすれば、外交で成果らしい成果をやっとあげたと宣伝している訳であるが、これは、昨年十月の六者協議での「第二段階」合意および「行動対行動」の原則を北も米国も守り、実施に入ったということに過ぎない。四十五日以内の制裁解除、北の申告書の検証をめぐって若干の不安定要素もあるが、朝米の国交正常化へ向けた第一歩が始まったといえる。朝米関係の進展を、北東アジアの平和を闘いとる有利な条件として我々は歓迎する。
 朝鮮核問題自体については、六者協議では北の完全な非核化は第三段階以降とされているが、平和的であるだけでなく公正な解決が行なわれるべきだ。北が〇六年に核実験に至った背景としての、東アジアにおける米軍・同盟国軍の軍事力の再編強化が見直されるべきだ。そうしなければ、朝鮮半島非核化から更に東アジアの平和と解放に前進していくことはできない。
 他方、日本の右派勢力・右派マスコミは、朝米関係の進展にあわてふためいている。福田政権は極右とは一線を画しながら、六月十二日の北京での日朝実務者協議で部分的合意を得たが、拉致問題だけは言っておこうとするのみで、制裁解除や過去清算など他の懸案については曖昧な態度に終始している。日朝関係の正常化にとって、拉致問題や核問題の完全な解決を前提とするならば、事態は進まない。冷戦時代の国家犯罪である拉致問題は、北東アジアで冷戦を完全に終わらせんとする外交の踏み出しの中でこそ、その解決が促進される。
 今こそ日韓・日朝の民衆連帯の力で、とくに日本側としては過去清算の実現が不可欠であることを明確にしつつ、日朝国交正常化と北東アジアの平和実現をかちとろう。(Ku)