投機マネーが商品市場を襲う
食糧暴騰に世界各地で抗議の決起

 新自由主義の下で、多国籍企業の激烈な競争はとどまるところを知らない。この結果、石油、鉄、食糧などの資源争いは世界各地で激しくなっている。そして、昨年の夏のサブプライム・ローン問題いらい継続する国際金融危機により、投機資本は株・債券市場を離れ、商品市場になだれ込み、原油だけでなく、コメ、小麦、トウモロコシ、大豆など基礎的な食糧を暴騰させている。
 左図に示されるように、主要穀物は二〇〇六年の後半から徐々に値上がりしていたが、昨年より急激な高騰を示している。
 世界的な食糧暴騰は、世界の労働者人民の日々の生活を直撃し、各地で抗議闘争、賃上げストや食糧暴動を拡大させている。
 フィリピン(世界最大のコメ輸入国)では、コメの小売価格が最近の数ヶ月で約三割も跳ね上がっている。このため、政府は安価な政府米の大量放出で急場をしのいでいるが、それはそれでまた財政負担を強め、値上げを検討している。コメ暴騰は貧困層だけでなく、中流層までをも直撃し、彼らも普段は口にしない政府米を求めている。各地の小売店では長い行列ができているが、品切れ続出である。四月十六日には、コメ卸業者五人が不当な価格つり上げで摘発されている。
アロヨ大統領の対応の遅さと不十分さに怒った人民は、マニラ市内で大統領退陣のデモをおこなっている。中部パナイ島では、米穀業者の倉庫を襲撃する事件も勃発している。
ベトナム(タイに次いで世界第二位のコメ輸出国)では、国内出荷を優先させる政策を進めている。このため、今年三月下旬に、グエン・タン・ズン首相名で、年間輸出量を三五〇〜四〇〇万トンに抑える通達を出し、六月末までの新規輸出契約を禁じている。
だが、昨年十二月に物価上昇率が年率12%を超え(冷害もあってコメの国内価格が上昇した)、アジアで最も高い水準となり、賃上げ闘争がひん発している。今年二月には、日系企業の矢崎総業で、約二〇〇〇人の労働者がストに入り、三月には、台湾系企業(ナイキの下請)のチン・ルー製靴工場の二万人あまりの労働者も賃上げを要求してストに入っている。
バングラデッシュでは、昨年の大規模な洪水被害で三〇〇万トンの穀物が失われ、コメをはじめとする食料品の価格は約二倍となっている。四月十五日から、ダッカ南郊の工場地帯で、約二万人の衣料労働者(衣料はバングラデッシュの主要な輸出品)が、食料品価格の高騰に抗議し、大幅な賃上げを要求して、無期限ストに突入している。
インドネシアでは、大豆など食料品の値上がりが、労働者人民の生活を圧迫し、三月中旬には、ジャカルタで約五〇〇人の抗議デモがあった。政府は、パーム油を原料とする料理用の油、小麦粉、コメ、大豆の値上がり防止の措置を講じざるを得なくなっている。そして、自国でのコメ確保をはかるため、コメの輸出と輸入を当面禁止することとした。
インドでは、小麦やコメの価格がこの半年で一・五〜二倍に高騰し、一日三度であった食事も回数を減らす家族が増えているという。近年、年8〜9%の高度成長をつづけるインドではあるが、貧困層は全人口の三割近くを占めており、食料品の高騰は貧困層への打撃をさらに強めている。
政府は、昨年二月に、小麦の輸出を禁止し、今年三月末にはコメの輸出を禁止(一部高級米を除く)しているが(インドは世界第三位のコメ輸出国)、インフレはなかなか収まる気配をみせていない。人民の生活破壊が進行する中で、国民会議派に閣外協力する政党は、野党との連携を強める動きを進めている。
中国でも、消費者物価の上昇率は、昨年後半約6%台だった。そして、今年二月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比8・7%の上昇となった。これは、一九九六年五月の上昇率8・9%以来のもので、十二年ぶりの高騰である。その主因は、やはり食料品の大幅値上げである。
政府は、今年のはじめから、小麦、トウモロコシなどに5〜25%の臨時関税をかけるなどして、値上がりがつづく穀物類の輸出抑制を行なっている。
輸出規制は、コメとともに小麦の分野で顕著である。小麦輸出国上位12か国のうち、ロシア、アルゼンチン、カザフスタン、中国、ウクライナ、セルビア、インドの7か国が輸出規制を行なっている。シカゴ商品取引所の小麦価格は、1ブッシェル(約27キロ)あたり九・三二ドル(一月四日時点)と、一年前の二倍となっている。
カリブ海の島国ハイチは、人民の過半数が一日2ドル以下の暮らしで、最貧国の一つであるが、ここでもコメ、豆類、食用油などが高騰している。
四月四日以降、首都ポルトープランスや南部レスカジェスなどで、抗議のデモが展開され、警官隊や国連平和維持軍(PKO)部隊と激しく闘っている。抗議行動や商店の掠奪は、一週間以上もつづき、四月十六日現在、六人の死者と六十人以上の負傷者が出ているといわれる。
ハイチ上院は、四月十二日、食糧増産や価格抑制のための適切な措置を怠ったとして、アレクシス首相に対する不信任決議を可決した。
アルゼンチンでは、三月に、農民が高速道路をトラクターで封鎖し、物価の値上がりに抗議した。また、四つの農民団体は、穀物、菜種の輸出関税の引上げ(物価スライド制の導入)に抗議してストに入った。
ペルーでは、二月に、アメリカとの自由貿易協定に反対して、農民たちがマチュ・ピチュ方面に向う鉄道や道路を封鎖して闘った。
エジプトでは、政府が二月に行なった発表によると、都市部でのインフレ率は前年比12・1%で、牛乳、食用油、鶏肉などがここ三年で二倍以上に値上がりしている。
市場では、パン一枚が50ピアストル(約10円)だが、公設販売所では一枚5ピアストルのため、庶民は公設販売所に殺到している。だが、パンや小麦のヤミ市場への横流しが行なわれ、庶民は入手が困難となっている。
北部マハッラ・エルコブラでは、四月六、七日、労働者数千人が物価高騰と低賃金に抗議する闘いを展開した。この時、労働者たちは、治安部隊の弾圧に抗して激しく闘い、一部で騒乱状態となった。パンを求める人民たちの行動は、しばしば暴動化し、二月から四月にかけて、十一人以上の死者が出ているといわれる。
食料品などの暴騰に対して、アフリカ各地の闘いは激烈となり、暴動に発展している。
西アフリカのブルキナファソでは、二月に、首都ワガドゥグで大きな暴動が起こり、三〇〇人以上の逮捕者が出ている。
モザンビークでは、二月に、タクシー運転手がガソリン価格の高騰に対して、抗議の闘いが暴動となり、警官隊との闘いで六人が殺されている。
カメルーンでも、二月末に、タクシー運転手がガソリンの高騰に抗議してストライキで闘った。労働者人民の闘いは、失業や憲法改定(大統領の任期延長を狙った)に対する抗議と結びつき、各地で暴動となった。死者は、人権団体の発表で一〇〇人以上に上り(政府発表は二五〜四〇人)、逮捕者も千数百人となった。
セネガルでは、三月に、首都ダカールで、食糧価格の値上がりに抗議して、無許可デモが展開された。これに対して、警官隊は催涙ガスや電磁警棒(触れれば体内に電流が流れる)を使って、鎮圧した。だが、この様子がテレビで繰り返し放映され、警官隊は今度はテレビ局を襲っている。
食糧値上がりなどに抗議する闘いは、この他にも、モーリタニア、コートジボアール、マダガスカルなどでも行なわれ、各地に拡がっている。
食糧農業機関(FAO)の調査によると、昨年三月からのわずか一年間で、主要穀物の国際価格は、コメが約一・七倍、小麦が約二・三倍、トウモロコシが約一・四倍に上昇している。世界食糧計画(WAP)は、30か国が食糧危機となり、うち23か国が「きわめて深刻な情勢」であると言っている。
アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁は、四月十八日、マニラのADB本部で記者会見し、世界的な食料品価格の高騰に関連し、「途上国を中心に、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題より深刻だ」(『日経新聞』四月十九日付け)と述べている。WFPのパウエル事務局長も「まるでツナミのような緊急事態だ」(『朝日新聞』四月十三日付け)と言っている。
世界的な食糧高騰の原因は、さまざまな要因がかさなっている。たとえば、@オーストラリアの干ばつなど、主要農業国の不作、Aトウモロコシなどの穀物をガソリン代わりのバイオ燃料に転用した影響、B経済発展が著しい国々での食生活の変化に伴う穀物需要の増大(日本も同じだが、肉の消費が増えると、穀物を直接食べる場合よりも何倍も穀物が必要)などがある。しかし、今回の食糧危機で特筆されるべきは、アメリカのサブプライム・ローン問題をきっかけに国際的な金融危機が引き起こされ、投機マネーが株式市場や債券市場から商品市場へ大規模に流入し、原油とともに、穀物価格を大きく引き上げたことである。
@の原因も、必ずしも「自然災害」だけとはと言い切れず、ここ半世紀ほどの化石燃料の消費に伴う自然破壊、地球温暖化とも関連することを考えると、資本主義のもたらす結果として、世界の多くの人々の食生活そのものが脅かされているのである。しかも、資本主義のグローバル化により、一つの経済変動が直ちに世界各地に大きな影響をもたらすことが、今回の食糧危機で示された。
サブプライム・ローン問題が長びくのと同様に、世界的な食糧危機もまた長期化することは、必定である。(T)