大江・岩波沖縄戦裁判の大阪地裁判決をふまえて
  控訴棄却、検定意見撤回を

 3・28勝利判決報告集会

 大江・岩波沖縄戦裁判は三月二八日の被告側勝利判決の後、四月二日に原告側は頑迷にも控訴したが、被告側と支援する市民団体・労働組合などは、大阪高裁への控訴棄却の要請、文部科学省への教科書検定意見撤回の要請など、勝利判決を踏まえた闘いを強めている。
 二八日の判決後、午後二時からエル大阪で「勝利判決報告集会」が行なわれた。主催は沖縄から平和教育をすすめる会、沖縄の真実を広める首都圏の会、大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会。二五〇名が参加し、会場は人であふれた。
 弁護団が報告。昨年三月三十日の裁判のあった日に教科書検定結果が公表され、我われ弁護団も重荷を背負うことになったが、原告側は、「集団自決」を住民が「国のために美しく死んでいったもの」などとして教科書を書き変え、歴史を塗り変えたいという意図で裁判を起こしたことはまちがいない。それに負けないためには、当日に隊長命令があったかどうかというレベルの争点ではなく、軍の強制、生きて捕虜となることを許さない軍命によって住民が「集団自決」に追い込まれたことを立証しなければならない、と思ってやってきた。
 岩波書店の岡元さんが語った。戦争する国家体制にもっていくための裁判であったと思う。文科省は、この裁判と原告・梅澤陳述書を理由にして、あの検定を行なった。この判決を受けて、文科省はどういう態度をとるのか。判決では、梅澤陳述書は信じるに足りないと認定された。この一枚の陳述書で教科書を変えてしまった責任は重大である。
 安仁屋政昭さん(沖縄戦研究者、沖縄国際大学名誉教授)が講演。沖縄では、「集団自決」を改めて考えてみると、防諜などを理由とした住民虐殺と同質・同根である。中味は何かと体験者から聞けばよく分かる、親が幼子を殺す、子が年老いた親を殺すなど親族同士が殺し合う「集団虐殺」である。それは、天皇の軍隊の強制・誘導で行なわれた。
 集会では、大阪高裁に対し控訴棄却を要請する世論作り、文科省に対し判決を踏まえ検定意見撤回・記述回復を行なわせる取り組みの強化、などの方針を確認した。(関西N通信員)

4・24沖縄戦検定意見撤回を求める全国集会

 東京では、四月九日に勝利判決報告集会が行なわれるとともに、四月二四日には「沖縄戦検定意見撤回を求める4・24全国集会」が集会実行委員会主催で豊島公会堂にて行なわれ、約三五〇名が参加した。
 この4・24全国集会は、「いらない!こんな教科書検定」という副題をかかげているように、沖縄戦検定意見の撤回を求めるとともに、教科書検定制度そのものの抜本的改革・廃止を訴える内容であった。
 集会では、石山久男さん(歴史教育者協議会委員長)が検定意見撤回・記述回復のこのかんの取り組みを経過報告し、小牧薫さん(沖縄戦裁判支援連絡会事務局長)が大阪地裁判決報告を行なった。大阪高裁への控訴棄却要請署名を六月末で一次集約し、七月に提出する。
また、沖縄からは山口剛史さん(沖縄戦の歴史歪曲を許さず沖縄から平和教育をすすめる会事務局長)、松田寛さん(沖高障害児学校教職組委員長)が沖縄戦教科書問題について語り、大浜敏夫さん(沖教祖委員長)が背景としての基地問題、3・23県民大会の報告を行なった。また首都圏の沖縄出身大学生も発言した。沖縄県教育委員会は、「集団自決」での軍の強制を適切に教えるための指導事例集を出している。検定意見撤回・記述回復がなされていない現状でも、県民世論を背景に教育現場で是正措置がとられている。
集会後半では、教科書検定制度そのものの問題点を論議した。俵義文さん(子どもと教科書全国ネット21事務局長)が問題点の概要を解説。各教科で、いかにナンセンスな検定意見が付けられているかも驚くべきであるが、文科省の指導要領強制によって、日本の学校教育が「教科書で」教えるではなく、「教科書を」教えるという事態になっている現状がよく分かる話であった。また、検定意見がもっとも多く付くのは、歴史や社会ではなく理科だそうで、小佐野正樹さん(教科書シンポジウム世話人)が理科教科書検定への学界の批判を紹介した。
また講演として、暉岡淑子さん(埼玉大学名誉教授)が、九一年度検定で著書の教科書引用が全文削除されたことを許さず、四年余りの闘いによって文部省に検定意見の誤りを謝罪させ、記述を回復させた経験を報告した。この件は裁判の判決によってではなく、ねばりづよい追及行動によるものであるが、検定意見を事実上撤回させた前例として教訓深いものがある。
最後に、@沖縄戦記述に対する〇六年度の検定意見をただちに撤回し、「集団自決」に軍の強制という記述を復活させること、A教科書検定制度を抜本的に改革し、検定制度を段階的に廃止すること、を柱とする集会アピールを確認した。翌二五日、集会参加の諸団体は、この二項目について文科省要請行動を行なった。対応した文科省の布村審議官らが、地裁判決にもかかわらず、居直りの返答に終始したことは極めて遺憾である。
なお、小牧薫さんが4・24集会での報告の中で、今後の取り組みの一つとして控訴棄却・検定意見撤回とともに、「大江さんへの注文」ということを語っている。『沖縄ノート』はウチナンチュとヤマトンチュを対立させていると批判し、また大江氏が「集団自決」は軍事用語であり「集団自殺」と言うべきとしているが、「『集団自殺』でなく『強制集団死』の用語を定着させるために先頭に立たれることを強く望む」としている。
このかん、市民団体への態度などをめぐって大江健三郎氏に批判が出ていることも承知しているが、小牧さんの大江批判の内容、またその扱い方は論議を呼ぶものである。小牧さんが自己の主張を展開されるのは自由であるが、今後の方針の一つなどとして枠をはめるような言い方をされるのはいかがなものか。この闘いの更なる発展を願う立場から、あえて苦言を申し上げる。(東京W通信員)