税制改正大綱
  ごまかしの地方格差対策
         消費税率大幅アップも策す

 自民・公明の与党は、十二月十三日、〇八年度与党税制改正大綱を決定した。
 大綱は、「持続可能な社会保障制度」を維持するために、「安定した財源を確保する必要がある」として、消費税などを含む税体系の抜本的改革を強調した。しかし、参院選での大敗、来るべき衆議院選への配慮から、消費税大幅アップの具体的時期については、明示していない。
 消費税問題については、自民党内でも大きな意見の違いがあり、未だ議論が続いている。谷川禎一・政調会長、与謝野馨・党財政改革研究会会長などいわゆる財政再建派に対して、中川秀直前幹事長などの経済成長派は、現在の財政には歳出削減の余地がまだまだあり、増税の前に歳出削減を徹底すべきとしている。最近の言葉で言うと、「霞ヶ関埋蔵金」というものである。
 政府・与党は、来年度予算編成で四苦八苦し、約十兆円の国債返済に、財政融資資金特別会計の積立金(〇五年決算によると積立金残高は二六兆四千億円余)の一部を取り崩して、当てる方向で調整に入っているという。はからずも、「霞ヶ関埋蔵金」を裏付けたようなものである。だが、「霞ヶ関埋蔵金」は、まだまだ発掘しうるものである。たとえば、独立行政法人には、年間約三・五兆円の財政支出がなされているが、そのすべてではないとしても、その多くは、官僚の天下りのための受け皿にしか過ぎない。天下り団体はいうまでもなく、高級官僚の特権を保証し、官治システムの根幹をなすのであり、廃止を徹底的に推進する必要がある。
 大綱は、消費税のほかに、証券優遇税制を上限つきで二年間延長したり、揮発油税(ガソリン税)など道路特定財源では、天井知らずの石油値上がりが続いているにもかかわらず、本来の税率に上乗せした暫定税率を十年間、延長したりしている。
 だが、今回の大綱で焦点となったのは、なんといっても次の衆議院選をにらんで行われた「地方への再配分」である。
 本紙前号でもいわれているように(三面)、〇四〜六年度にかけての小泉三位一体改革の総決算は、国庫補助負担金の廃止・縮減が約四・七兆円で、その代わりの地方への財源移譲は約三・〇兆円で、差し引き一・七兆円が地方の犠牲となった。それだけでなく、地方交付金は約五・一兆円という大幅な削減であった。まさに、財政再建の名により、犠牲の多くが地方、しかも大都市以外の地方に押し付けられたのであった。
 この結果は、高齢者の多い地方の自治体などでは、高齢者を対象とする福祉事業の廃止や縮小があいついでいる。そして、この間の東京一極集中という経済動向もからんで、地方自治体間の税収格差をきわめて大きなものにしている。地方税収のうち、法人住民税・法人事業税の法人二税の項目が、もっとも格差が大きく、全都道府県の平均を一〇〇とすると(〇五年度決算)、沖縄三九・五に対して、東京は二七三・七で、約一対六・九の格差である。地方税収全体でも、沖縄対東京は、約一対三・二の格差である。
 このような途方もない格差を、さすがの福田政権も放置することができないで、なんらかの手直しをせざるを得なくなった。そこで大綱は、法人事業税五兆六千億円(〇七年度見通し)のうち、約二兆六千億円を来年十月から地方税から国税に切り替え、「地方法人特別税」として、人口や面積などに応じて地方へ再配分し、格差をわずかなりとも是正しようというものである。
 この結果、暫定的な措置として、東京三千億円、愛知四百億円、大阪二百億円を財政力の弱い自治体に回すことで政治決着がついた。「地方法人特別税」案による地方再配分は、〇九年度から始まる予定なので、〇八年度は暫定措置となったのである。
 だが、このような政治決着はまったくの時代逆行である。小泉三位一体改革で、四・七兆円と引き換えにようやく手にした財源移譲は、わずか三兆円であった。だが、それに迫る額である二兆六千億円が瞬く間に地方財源からとりあげられたのである。
 問題の核心は、補助金や、時には地方交付税さえもが、中央政府の景気対策や地方支配に利用され、そのため、地方の自主財源が依然として少ないところにある。これが第一である。つまり中央と地方の間での税源配分の調整(垂直的調整)がまず行われなければならないのである。地方自治にとって、最も肝心なこの点をなおざりにして、地方格差を中央政府が取り仕切るというアナクロニズムに陥っているのが政府・与党である。
 そのうえで、第二に必要なのは、地方自治体間の格差を是正する水平的調整である。地方税の税源は、基本的に地方偏差や景気変動に影響が少ないものであること――これは世界の常識である。だが、政府は、あるいは国会は、この点を長年にわたって放置してきた。このことを前提にして、それでもなお残る地方間格差は、「地方共有税」の公平な分配という観点から、毎年、再分配すべきであろう。その推進主体は、あくまでも中央政府ではなく、国会の下に設けられた独自の機関が行うべきである。
 十二月十八日、総務省は〇八年度地方財政計画を決定した。これによると、地方交付税は三年ぶり、地方財政計画の規模は七年ぶりに増額となった。地方交付税の総額は一五兆四千億円で、前年度よりわずか二千億円増加した。地方財政計画の規模は、八三兆四千億円で、これもわずか三千億円の増加である。
 福田政権は、根本では新自由主義路線なので企業や金持ち優遇政策から転換できない。だからといって、弱肉強食路線を露骨に進める限り、政権の座から転がり落ちるのが必至なので、「弱者」への攻撃を一時的に和らげることで、世論の批判をごまかそうとしているのである。だから、さまざまな政策で一時凍結・一時見直しとか、暫定措置などとかが連発されているのである。地方交付税の微増もまた、その類である。
 その証拠に、微増した〇八年度の地方交付税の財源は、交付税特別会計の借金返済を先送りして、ひねりだしたものである。(T)