激変する朝鮮半島情勢
  休戦体制から平和体制へ

 このかん、朝鮮半島をめぐる劇的な変化が見られた。九月二七〜三十日に第6回六者協議第二次会合が開催され、暫定合意文を各国に持ち帰り、それぞれでの承認を経た後、十月三日に正式合意文書が公表された。
 また十月二〜四日には、第二次南北首脳会談がピョンヤンで行なわれ、「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」が採択された。
 またこの時期に日本では、対北強硬路線を主張し続けた安倍が政権を放り投げ、福田新政権が発足し、朝鮮・アジア外交政策の今後が評価に値するものになるのかどうか、日本外交転換の機会が与えられた。
 北京で開催された第6回六者協議第二次会合では、第一次会合の2・13合意に基づく五つの作業部会(@朝鮮半島の非核化、A米朝国交正常化、B日朝国交正常化、C経済・エネルギー協力、D北東アジアの平和・安全メカニズム)の報告を確認し、10・3合意を発表した。その主旨は次のとおりである。
一、北朝鮮は、ヨンビョンの核施設の無力化および核計画の申請を、いずれも十二月三十一日までに行なう。また北朝鮮は核物質・技術・ノウハウを移転しないとの約束を再確認。
二、米国は、テロ支援国家指定と対敵国通商法の適用の解除を、米朝国交正常化作業部会における合意を基礎として北朝鮮が取る行動と並行して履行する。
三、日本と北朝鮮は、ピョンヤン宣言に従い、不幸な過去を清算し懸案事項を解決する
ことを基礎として早期に国交を正常化するため誠実に努力する。そのため両者間の精力的な協議を通じ、具体的な行動を実施することを約束した。
四、すでに供給された十万トンを含む百万トンの重油に相当する経済・エネルギー・人道支援を北に提供する。
五、適切な時期に六カ国閣僚会議を開催。
このように政治的合意は最終段階となりつつあり、実施の日程的な合意の段階へと進展を見せている。とりわけ米朝間では、朝鮮戦争の停戦状態から終結状態への移行と国交正常化に向けたサインが双方から出されている。朝鮮民主主義人民共和国における核施設の無力化の作業は日一日と進展しているようであり、アメリカはその確認と共に満足な意向を示している。米帝ブッシュ政権には、その対北核先制攻撃論の破綻によって、対朝鮮政策を一九九四年米朝合意のレベルに変更したと取れる政策の転換が見られ、朝鮮半島情勢においては平和を希求する全世界の人民の前に、一部屈服したかのような姿勢が見られる。
いっぽう日本政府は上記の合意をしておきながら、朝鮮への経済制裁の延長を、合意公表後まもない十月九日に福田内閣が閣議決定している。福田政権の内外への「融和主義」的姿勢が取りざたされているが、朝鮮政策・在日朝鮮人政策では依然として小泉・安倍路線を継承しており、日本の民衆からの糾弾と監視をいぜん緩めてはならない。
また各右翼マスコミは「拉致問題」を口実として、その問題解決が置き去りになるなどとして六者協議合意やアメリカの対朝鮮政策転換を非難している。しかしながら、10・3合意の三項における「懸案事項」とは「拉致問題」そのものを指しており、懸念には及ばぬことである。関係正常化の中でこそ、事実究明等は進むのである。むしろ安倍前首相らの絶たれた願望を遂げたい右翼分子たちは、引き続き「拉致問題」を、その解決よりも反朝鮮宣伝のために利用したいようだ。
この時期と並行して第二次南北首脳会談が行なわれた。ノ・ムヒョン韓国大統領は、板門店(パンムンジョン)の軍事境界線を車から降り歩いて越えるという見事なパーフォーマンスを行なった。日本のマスコミは、今回の首脳会談を盛り上がりに欠けると印象付け、一様に低い評価を与える報道に終始していたが、事実はどうか。当日、渡韓していた日韓民衆連帯ネットワークのメンバーによれば、韓国では連日微に入り細に入りの報道がなされ、その視聴率の高さからも、韓国民衆が単純な昂揚感というよりも南北融和を既定事実として受け取っており、統一の日の近いことが実感されたということである。
さて、採択された「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」では、二〇〇〇年6・15南北共同宣言では踏み込むことのできなかった「経済協力問題」「軍関係問題」に具体的な言及がなされている。「西海での偶発的な衝突を防止」など、具体的な合意に発展する可能性を示唆している。首相・国防相会談などで明らかとなるだろう。
しかし、この宣言でもっとも世界の目を引いたのは、その四項目にある「南と北は、現在の休戦体制を終息させ、恒久的な平和体制を構築していくべきだということに認識をともにし、それに直接関連した三者または四者の首脳が朝鮮半島地域で対面し、終戦を宣言する問題を推進するために協力していくことにした」という、朝鮮戦争終戦・平和体制構築への踏み込みであった。
それにしても、「三者または四者」との文言には筆者も驚きを隠せない。なぜなら休戦協定には、北・米・中は署名しても韓国は署名していないからである。しかし、ここでの三者とは、南北と米国を指し、四者目として中国が加わるという意味である。韓国は今、何ゆえ終戦問題に言及するのだろうか。それは先述したように、六者協議において朝米間での朝鮮戦争問題での決着が差し迫るなか、朝鮮戦争終戦の課題での南北による主導性を強調し、これを政権の成果として、今年末の韓国大統領選挙を有利に展開しようという思惑があるものと考えられる。
以上のように大きく動きだした北東アジア情勢であるが、その中での韓国民衆状況、なかでも大統領選挙情勢などについては改めて報告したい。
情勢に関連する重用事として、韓国の過去事件事実究明委員会が十月二四日に「金大中拉致事件報告書」を発表したことがある。この報告は韓国政府が、一九七三年に東京で引き起こされたこの事件が韓国中央情報部KCIAの犯行であったことを公式に認めたもので、当時の韓日両政権の「政治決着」を事件の真相究明を妨げたものとして批判するものでもある。しかし報告書では明言していないが、当事件では、KCIAの犯行ばかりではなく、日本の警察や自衛隊の関与が決定的に疑われている。
福田政権は改めて、主権侵害についての韓国側の謝罪を求めたが、当時の自民党政府が朴軍事独裁政権と政治決着を行なっただけでなく、事件の共犯ではなかったのかという疑いは晴れていないのである。この点に関し、先日来日した金大中氏からも日本側の事実究明放棄に対し、怒りの声明が出されている。この件でも、日本政府の過去清算は進んでいない。新しい北東アジアのためには、いぜん解決すべき問題の一つである。(Ku)