最低賃金制
  格差拡大の歯止めにならず
  地域最賃の闘争布陣を!
 
 現行の最低賃金制度は、周知のように、各都道府県の最低賃金審議会で決められるが、その前提として、中央最低賃金審議会でその年の引き上げの「目安」額が答申され、この額を「目安」にして、各都道府県の地方最低賃金審議会で確定される。
 中央最低賃金審議会での「目安」の答申は、02年度、03年度、04年度は答申が出されず、05年度に、01年度いらい実に四年ぶりに答申がなされた(だが、「目安」は公益委員見解として出されている)。その内容は、A、B、Cの各ランクで各三円、Dランクで二円の引き上げというものである。引き上げ率は、各ランクとも〇・四%であった。
これを踏まえて各都道府県の最低賃金が改定され、時給額で最高が東京都で七一四円、最低が青森・岩手・秋田・佐賀・長崎・宮崎・鹿児島・沖縄の各県で六〇八円であった。〇五年度の地域別最低賃金の全国加重平均時間額は、六六八円で、〇四年度の六六五円に比べ、金額で三円、率で〇・四五%の引き上げとなった。
 昨年度の中央最低賃金審議会の「目安」の答申は、A、Bランクで四円(引き上げ率〇・五〜〇・六%)、Cランクで三円(同〇・五%)、Dランクで二円(同〇・三%)であった。引き上げ率が、各ランクにより異なるのは、一九七九年度以来のもので極めて異例なことである。ここでも、地方間格差が影響しているのである。
 これを踏まえて各都道府県の最低賃金審議会で改定された最低賃金は、時給額で最高が東京都の七一九円、最低が青森・岩手・秋田・沖縄の各県で六一〇円であった。全国加重平均時間額は、六七三円で、前年の〇五年度に比べ、金額で五円、率で〇・七五%となった。
 だが、このような三円、五円などという微々たる引き上げでは、とても多くの非正規労働者などの生活破壊を食い止めることもできず、「健康で文化的な」最低限の生活さえも確保できない代物である。昨今、ますます社会問題となっているワーキングプア層の現状を、とても改善しうるものではない。
 それどころか、現行の最低賃金制度は、昨年度の中央最低賃金審議会の答申にみられるように、ますます拡大する地方間格差を制度的に追認し、保障するものとなっている。
図にみられるように、日本の最低賃金は、九五年度に六一一円となり、初めて六〇〇円台に乗せたが、その後十年余りで約60円程度しか値上げされず、〇六年度で六七三円(全国加重平均)でしかない。イギリスやフランスがすでに一〇〇〇円を超え、日本同様に低かったアメリカさえ大幅な値上げが確定的になっているのであり、「先進国」といわれる中で日本のみが格段に低い最低賃金なのである。
 余りにも拡大する所得格差、ワーキングプア層の増大と社会問題化などを見て、政府もようやく重い腰をあげ、問題に対して取り組むかのような姿勢を見せ始めた。
七月十日、政労使の代表で構成される「成長力底上げ戦略推進円卓会議」は、参議院選が間近に迫るのを意識して、二〇〇七年度の「最低賃金の大幅引き上げ」に合意し、そのために、従来とは異なる考え方・方法での最低賃金額の「目安」設定を中央最低賃金審議会に求めることとした。
 七月十三日、中央最低賃金審議会の今年の初会合が開かれた。ここで、厚生労働省は、従来の方法(30人未満の零細企業の賃上げ率を基準とする)とは、異なる方法として次の四案を提示した。
 それは、@正社員など「一般労働者」が受取る所定内給与に対する最低賃金の比率(二〇〇六年度は三七・二%)を過去最高の三七・七%か、それを上回る三八・二%に引き上げる方法。これによると、13円あるいは23円の最低賃金引き上げとなる。A最低賃金と、高卒初任給の平均の八割、または小規模企業の女性労働者の高卒初任給で最も低い水準との差を縮小する方法。これによると、29円あるいは34円の引き上げとなる。B小規模企業の一般労働者の賃金の中央値の半分にする方法。これによると、14円の引き上げとなる。C労働生産性の伸び率を今後五年間で一・五倍にする、という政府計画に沿って引き上げる方法。これによると、15円の引き上げとなる(『日経新聞』7月14日付け)――というものである。厚生労働省の提示した新たな方法では、13〜34円の幅での値上げ案となる。
しかし、これらの方法はいずれも、労働者の生存権が保障されるという観点からのものではない。
 今、中央最低賃金審議会の「目安に関する小委員会」が開かれているが、労働側委員は時給五十円の引き上げを主張し、資本家側委員は「急激な引き上げは中小企業への影響が大きすぎる」と反論し、ほぼ例年並みの五円程度の引き上げに留めることを主張している(『日経新聞』7月31日付け)。このため、今年の目安額もまた小委員会で決定されず、公益委員の見解が提示されることで終りそうである。しかも、現状では、決定自身がたぶんに難航することと思われる。
 ここで注意すべきは、大企業労組などは今や労働者階級の命と生活をかけて、資本と闘う姿勢がほとんど無くなり、最賃制闘争もまた選挙闘争や最低賃金審議会での討論だけに依存することになっていることである。
 最賃制闘争は、組織労働者、未組織労働者の区別にかかわらず重要な闘いなのであり、労働者一人ひとりが、連帯と団結を強め、闘いによって実現することが問われている。今日、大企業労組が闘いを放棄し、資本に擦り寄っている現状では、今直ちに、全国的な最賃制闘争を組織することは極めて困難な状況である。このことを踏まえて、当面は、地域最賃を上げる闘いなどを通して、地域でナショナルセンターを越えて闘う布陣を形成し、全国一律の最賃制を勝ち取る展望をもって闘いを組織しよう。 (T)



下請イジメ是正のガイドライン提示−経済産業省
  取引慣行変革に何が必要か
 
 経済産業省は、六月二十日、自動車業界、広告業界、情報通信業界など七業種に対し、大企業など発注企業と下請け企業の間の異常な取引関係を是正するようにと、ガイドライン(指針)をまとめ公表した。これは、昨年十一月に行なわれた金型など素形材業界(鋳造・鍛造・金型・金属プレス・金属熱処理などの金属加工関連業の総称)向けのガイドラインに次ぐものである。
そして、同省は「自動車業界に対しては早速、社内の調達マニュアルが指針にそっているかどうかについて一斉点検を指示」(『朝日新聞』6月21日付け)している。
下請イジメの実例や、逆の模範的取引例などをまとめたガイドラインの作成は、今日、進展する新自由主義的諸政策の結果、企業内部でも一部の大企業などのみが収益を回復し(実際はそれどころでなく、バブル期以上のもうけとなっている)、他の多くの中小零細企業では収益の回復がなされていないため、政府の経済政策への不満が強まっているからである。同省は、違法な取引・不公正な取引の是正によって、この矛盾を解決し、ひいては大手と下請け企業との「共存共栄」を図ろうとしているのである。
「地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業」と銘打った2007年版の「中小企業白書」もまた、同様の考え方から、経済構造の変化を踏まえたうえで、中小企業の取引条件の改善による業績回復を提起している。たとえば、白書は、大企業などの一方的な価格決定に対抗する方策として、製品の差別化(他の企業には作れない独自の製品作成)や販売先の多様化などとともに、取引条件の書面化が重要であることを指摘している。
従来、日本では長い歴史的な積み重ねの中で、極めてルーズな契約がなされてきた。つまり、取引自身、不特定多数を対象とするよりも、「相対(あいたい)取引」が多く、しかも、長い取引の中で形成された「相互信頼」が取引上での主要な規範であり、厳格な取引条件を契約すること自身は「相互信頼」の観点からすれば、それは「水臭い」ものとして軽視されてきたのである。
だが、このようなルーズな契約関係の結果はどうであったか。大手と下請け企業との契約は、対等な者同士の平等な契約とはならず、後者が多くの面で不利益をこうむってきた。たとえば、契約期間中に景気が悪くなり、一方的に発注側から単価や数量の切り下げが通告され、発注側のリスクは下請けに押し付けられるのである。
このような不公正な取引関係がまかり通るのは、一時的部分的な大手側の温情(たとえば、厳しい金融状況のときの融資、大手側の下請け育成のための技術指導など)もあるが、究極的には、公正なルールの下での厳正な競争による契約締結ではなく、受注側の抜けがけ的な受注確保が常態化しているからである。つまり、下請け企業は、受注単価の一方的な切り下げなど不利な条件が押し付けられても、「信頼」関係の名の下に、これを受忍し、「長い目からすれば得だ」と言って、取引関係だけは維持するという行動に出るのである。
下請代金支払遅延等防止法は、「独占禁止法の特別法であり、下請取引の公正化と下請事業者の利益を保護することを目的としている」(白書の一九二頁)であるが、不公正な取引慣行がこれまでなかなか是正されなかったのは、先に見たような受注側の悪しき意識を変革する働きかけがなく、法律を形式的に適用しようにも当事者双方がともに、問題の発覚を隠蔽してきたからである。
白書は、この点をどの程度意識しているか、それは不明であるが、「企業間の望ましい取引関係を構築していく上では、業界の取引慣行、企業間の力関係、系列取引内での暗黙のルールなどの様々な障害があり、当事者だけでは取引条件の改善を進めていくことが難しいケースも存在する。この場合は、行政や業界団体など第三者の関与が必要となろう。」(白書の二一六頁)と述べている。
しかし、行政や業界団体の関与が、どの程度熱心に行なわれるかは、極めて疑問である。たしかに、取引関係が多様化している下請業者や、製品差別化が行なわれる下請業者においては、旧来の取引慣行は是正される可能性は高いだろう。しかし、系列取引内の下請業者の場合は、きわめて困難であろう。
それに、技術も弱く、単なる数量をこなすような下請業者には、今、強力なライバルが現われている。派遣業である。きわめて劣悪な賃金・労働条件の派遣労働者を犠牲にして、偽装請負も偽装出向(派遣業者の違法が常態化され、厚生労働省は派遣業大手のフルキャストの全店舗に事業停止を命令する模様である)もあり、経団連の御手洗会長みずから偽装請負の合法化を要求する状況である。
不公正な取引慣行の是正には、まだまだ多くの障害があるのである。
大企業などの不公正な取引による下請け企業収奪は、中小零細企業に働く労働者の劣悪な賃金・労働条件を正当化する上での大きな論拠である。中小例企業の労働者の利益の観点から、下請イジメを断固やめさせよう。(T)