新自由主義の国家再編と対決し
 安倍連立政権打倒、改憲阻止の広範な共同戦線へ



 歴史上、稀にみる異常な通常国会が、終った。
異常さの一つ目は、戦後初の現職閣僚の自殺である。安倍自民党は、政治資金収支報告書の不明さに対する説明責任を松岡農水相が果たすことを阻止し、結局、農水相は自殺に追いやられた。
 二つ目は、年金記録のズサンな管理が露呈し、安倍政権の泥縄式の対処でさらに年金不信が増幅したことである。この年金問題は同時に、「日本の官僚は優秀だ」という神話を決定的に崩壊させた。
 三つ目は、安倍首相の強引さとブレで、強行採決の記録をつくったことである。新聞報道によると、衆議院での「強行採決」は過去五年間で計11回であるが、今年の通常国会だけで計14回に達している(衆参合わせると計17回)。
 さらに、安倍自公連立政権は、不利な参院選の状況を少しでも改善しようと姑息にも国会会期を延長したり、年金関連法案の強行採決を続行させたりして、強引な議会運営と強権的な政治手法を際立たせた。
 この異常な通常国会で、ついに改憲手続法が強行的に成立させられた。これにより、改憲の国会発議は、最短で三年後には可能となった。これは、憲法改悪か否かをめぐる全人民的規模での攻防が、実際的段階に突入したことを示す。今夏七月二九日投票の参議院選はその第一歩である。

新自由主義型国家への再編と、憲法改悪策動

 新自由主義の推進は、必然的に新たな国家形態や国家秩序への改編を推し進めている。
 この間、支配階級がおしすすめ、今また安倍政権が推進している新自由主義型国家の特徴は、以下のようなものである。
 まず第一は、日系多国籍企業のグローバルな活動を軍事的に保証し、アメリカの軍事戦略に応えるための、日本領域外で武力行使を可能とする「戦争ができる国家づくり」である。この点こそが、財界を始めとする支配階級が憲法9条改悪を執拗に狙う最大の根拠である。
 今日、日本の金融独占資本は、貿易だけでなく、海外での直接的な活動からの収益に大きく依存するようになっている。したがって、ブルジョア政府は、日系多国籍企業の海外での活動を政治的軍事的に保障する体制を早急に整備せざるを得ないのである。
 しかも日本帝国主義は、日本企業の海外活動を保障し、海外権益を防衛するために、今まで以上にアメリカ帝国主義との同盟関係を強化する方向性をとっている。日米軍事の一体化である。そのアメリカの軍事戦略は、「9・11事件」後、非正規戦争時代にグローバルに対応できるように、世界各地の米軍基地と戦力をトランスフォーメンションし、世界中のどこにでも短期間に兵隊を送り、戦争を行なえるようにしつつある。
 このために、日米安保もますますグローバルとなり、自衛隊の海外派兵は本来任務となった。さらに集団的自衛権の解釈改憲、そして憲法9条そのものの改悪が策動されているのである。
 第二は、中央政府、とりわけ内閣総理大臣の機能強化による統治機構の改編である。
資本のグローバルな活動に応じて、頻発する国際的諸問題に対して迅速に対処することは、不可決であり、そのために総理大臣、あるいは中央政府の権限の強化がはかられている。
二〇〇五年十一月に公表された自民党の「新憲法草案」は、内閣総理大臣の権限について、衆議院の解散権、「自衛軍」の最高指揮権を新設し、「行政各部を指揮監督する」という現行の規定(第七二条)に「その総合調整を行なう」ことを書き加えている。
総理大臣をはじめとする中央政府の機能強化は、同時に、これに結合したものとしての地方統治の再編、すなわち「道州制」などもまた策動されている。
 第三は、「官から民へ」の流れを強め、「簡素で効率的な筋肉質の政府」を実現するとして、種々の社会保障費を抑制・圧縮することである。それは、ケインズ主義と福祉政策を基調とした利益誘導的で階級対立隠蔽的な国民統合型国家から、市場原理主義を基礎にした弱肉強食型国家への転換である。
 これまで、健康保険や年金保険の保険料値上げ、年金給付の減額、診察料の値上げが次々に行われ、二〇〇六年四月からは、要介護者の増加を抑制し、介護給付費の伸びを抑える改正介護法が施行されている。同時期、障害者自立支援法が施行され、介護や福祉サービスを利用する際に原則一割負担が課せられ、もともと収入が少ないほとんどの障害者が苦しみにあえいでいる。値上げされ続けてきた医療費は、二〇〇六年六月の医療制度改革関連法により、負担の増大はついに老人層にまで及んでいる。まさに、市場原理主義の新自由主義は、弱い者いじめそのものである。
 また社会保障制度は、コムスンなど介護業者の不正請求、介護報酬の切り下げによる利用者へのサービス低下と介護労働者の賃金低下、社会保険庁のズサンな年金管理による社会不安の増幅などの諸矛盾を露呈している。
 第四は、暴力装置を強化し、人民監視と治安弾圧の体制を整備することである。
今日、弱肉強食の新自由主義が横行する社会で社会矛盾が深刻となり、家庭・学校などでのイジメ・虐待や社会一般での刑事事件が頻発しているが、犯罪が引き起こされる社会的理由の解明が十分になされないままで、厳罰主義によってただ形式的に対処する傾向が司法・立法において顕著である。
 そして、行政改革による公務員の全般的削減傾向の中で、全国の警察官の定員は、二〇〇一年度二六万九九一〇人から二〇〇六年度二八万八四五一人に増大している。警察機構の肥大化とともに、「捜査協力」の名による持ち物検査の強要、微罪による逮捕、そして労働争議の弾圧など警察の横暴が目立っている。さらに、防犯カメラの設置、学校や地域商店街などと警察の連携強化などで「監視社会」の促進が進められている。
 また、六月六日に日本共産党によって、イラク派兵開始時における陸上自衛隊の情報保全隊による露骨な人民監視と威嚇を示す資料が公表されたが、憲兵隊の復活を思わせるこうした自衛隊の治安活動への乗り出しが目立ってきている。これと同時期に自衛隊と警察が連携しての、立川自衛隊監視テント村の自衛隊官舎反戦ビラ配布への不当逮捕が行なわれた。今年五月の沖縄辺野古への海上自衛隊出動は、事実上の治安出動であり、軍事国家への危険な転換点である。
 新自由主義に即応した国家形態への転換は、戦後憲法と根本から対立するものとなっている。支配階級による憲法改悪の最大の狙いは、憲法9条改悪である。だが、支配階級は次には、国家主義的な観点から、「公共の利益」・「公益」の名によって人権を制約し、現憲法第25条(生存権)の変質化をも策動していることは明らかである。

 憲法改悪派を落選させよう

 この間、自公連立政権は自衛隊の海外派兵の本来任務化、集団的自衛権についての解釈改憲、防衛庁の省昇格、イラク派兵の延長など戦後の平和主義を破壊する策動を次々と強めている。来る参院選では、不利な状況に追い込まれた安倍連立政権の与党・自公を徹底的に追いつめ、憲法改悪阻止の闘いを発展させよう。と同時に、与野党を問わず札付きの憲法改悪派の議員を落選させ、平和主義、基本的人権、立憲主義(憲法は人権を保障するために存在し、国家権力を制約する)を堅持する議員を当選させよう。
 今夏の参院選がいかなる結果になろうとも、国会勢力の三分の二以上の改憲派をまとめるには、「大連立」的状況が不可欠である。全国的な憲法改悪反対の闘いの発展は、民主党内の改憲消極派を後押しし、自民・民主の「大連立」による国会発議を阻止することにつながるであろう。
 三年後以降の憲法改悪か否かをめぐる全人民的な決着を射程に入れて、改憲阻止勢力の共同を強化しつつ、保守リベラルへの浸透などウィングを右にもひろげつつ、反改憲の広範な共同戦線を形成し、憲法改悪阻止闘争を発展させよう。