【本の紹介】

  『年功賃金体系と最低賃金制度
     ―産別・総評運動の経験から学ぶ』

      
     著 堀込純一  07年4月発行  頒価 2200円 

 堀込同志のこの本は個人出版ですが、その内容は、労働者共産党のこのかんの労働運動方針論議と密接な関係を持っています。
 戦後の日本労働運動がなぜダメになったかという総括では、「企業別組合」や「本工主義」の欠点をポイントとする論者は多い。堀込同志の総括の独自性は、「賃金体系変革闘争の欠落」をポイントとしていることである。
 戦後日本の労資関係の特殊性として、「年功型賃金体系」(および五九年制定の現行「最低賃金制度」)を批判的に押さえること、(本のタイトルにも示されている)この二つの仕組みを労働運動が変革対象としてとらえた戦略的なたたかいができていないことを、同志は強調している。
 労働運動の「戦略」というと、労働運動を軸とした統一戦線論・政権論という政治闘争の文脈で語られることが多いが、同志の言う「戦略」は、より労働組合運動プロパーな意味であり、日本特殊的な「差別と分断の重層的賃金構造」を打破して労働者階級の階級的統一をすすめていく、という意味になるようです。
 また賃金体系や最賃制をめぐる論争などの史料が豊富で、同志の総括視点に必ずしも同意しない人にとっても、とても勉強になる本ではないかと思えます。
 なお労働者共産党は、現在の労働運動政策としては、個人加入制の新しい労働組合を日本労働運動の主流に押し上げていくこと、その方針との関連で賃金体系論としては、年功給の防衛ではなく、社会的に規制された仕事給への転換をすすめるべきだという方針をすでに確立している。しかし、この本が扱っているような戦後日本労働運動の総括としては、共通の見解を決議として持っているわけではない。
 したがって、現在の党の労働運動政策の背景に、どのような路線をイメージするかという点では、同志によっていろいろな傾向があるのではなかろうか。そういう意味でも、この本は刺激的一冊と言えそうだ。(W)