〔書評〕
  
 『素描・1960年代』川上徹・大窪一志
               07年3月 同時代社


  左翼総体の建て直しへ

 この本は、たんなる60年代の回顧として書かれていはいない。当時を日共−民青に所属してたたかった著者たちの、半生の経験を踏まえた民衆運動のあり方への問題提起である。また、国家と諸階級・諸階層がこれからの一時代を闘い抜く政治布陣の形成へと激動し始めた今という時代の節目に際して、民衆の側の戦列の建て直しと総団結を願って投じた一石である。
 一般的な総括文書ではなく、個人の経験をつづる中でそれぞれの見解を滲ませる表現形式が、分厚い本にも関わらず一気に読ませるものとなっている。川上徹さんの主要な問題意識が政治に、大窪一志さんのそれが思想にあるというそのズレも、内容に厚みを与えている。
 67年に早大に入学した私にとって当時は、10・8羽田闘争以降の学生運動の激動のまっただ中を駆け、69年の第二次ブントの分裂で赤軍派へ、そして赤軍派の破産―70年代前半の総括作業・路線転換と、左翼としての最初の試練を経験した時期であった。そこでは、共産党−民青は外在的で、とっくに議会主義・官僚主義・修正主義に染まった存在としてしか見ていなかった。それゆえこの本を読み、共産党のそうした傾向に抗しながら学生・青年運動の大衆的発展に助力しようしていた部分が、民青の内に一大勢力として存在していたこと、その立場の思想的打ち固めを深く追求していたことを知って、新鮮な驚きを感じるとともに左翼総体の建て直しへ一段と確信を深めることができた。
 もっとも当時においては、まだ横につながる条件が熟してはいなかった。社会の基底において「産業化」の最終局面は終り切っておらず、そのことに規定されて社会の諸組織の在り方が基本のところで変わっておらず、その意味でマルクス、レーニン以来の革命理論を土台のところから発展させうる条件もまだ成熟していなかった。「シンヒヨ」(新日和見)のひとたちは、エリート官僚による善政主義の道へと変質していく「産業化」時代の党に対して、これに置き換える「党」を構想できないまま、半ば共産党に残る形にとどまった。時代的限界は、そこに端的に刻印されていた。
 21世紀の今日、産業が成熟し、社会的価値の重心が産業から人間(自然環境を含む)へと移動する時代を迎えている。国家と資本に象徴される旧来のシステムが、社会−人間の存立にとって桎梏に転化しつつある。そうした中で共産党においては、議会主義だとか修正主義といった問題だけでなく、構成メンバーや大衆団体を機械の歯車・伝動ベルトとして扱う旧来の組織の在り方が通用しなくなる。これからの時代の社会の在り方を模索するには、かつてと違った組織の在り方が求められる。人々の多様性を押し潰すのではなく、それを抱擁し活力に転化できる、そうすることで民衆の総体的な横のつながりを実現し発展させることのできる組織の在り方である。この本は、60年代を語りながら、現代のそうした課題への問題提起にもなっている。
 この本は、政治の季節を前にした川上さんたちの戦闘宣言になっている。それがこの本の出版の最大の意義であると言ってさしつかえあるまい。右への政治の流れを転換させるべくたたかうすべての人々に広く読んでほしい本である。(松平)
 

 『格差社会 何が問題なのか』橘木 俊詔
                     06年 岩波新書

格差拡大は止められる

 この本は、「格差問題」の第一人者ともいわれる著者が、現代日本の格差拡大の実態とその打開策を論じたものである。
 その第五章「格差社会の処方箋」が言っているとおりに実現すれば、格差社会は数年のうちに解消に向かい、今苦しんでいる国民の30%に当たる年間所得200万円以下の人をなくすことができ、国民の全員が年間200万円以上となる。格差はなくならないが、なくせる方向に向かうことは確かだ。その処方箋の内容は以下のようだが、よく読み込んでほしい。
 @雇用格差を是正し、格差の下層にいる人(貧困者)をゼロに近づける。それには同一労働同一賃金、正規労働であろうと非正規労働であろうと、一時間当たりの賃金を同じにすること。A最低賃金制度の改善(著者の研究では雇用が減ることはない)。若者は(一部を除き)脱フリーターを望んでいるし、脱ニートも可能。職業安定機構を作り、雇用政策を充実させる。職業教育体制を現在より増やす。B働く女性のための育児支援を充実させる。地域の力を引き出すため、企業誘致や人が暮らしやすい地域のために介護、医療、福祉を充実させ、若い人も働ける場を作る。C農業育成。有効な農地利用策、品種の改良、農機具の改良など。D生活保護政策を見直す(日本の生活保護基準は厳しすぎる)。生活保護給付の資産調査を緩め、今の複雑な手続きを簡素化する。家族制度が変わり家族や親族の援助が期待できなくなっているので、そこの原則を緩めていく。E失業保険制度の見直し。失業保険改悪で雇用期間が短くなっていて失業保険をもらえない。見直したほうがよい。失業保険の給付期間が短いので、その期間で新たな職業を見つけるのは大変。F累進課税を復活し、累進度をもっと上げるべきである。G社会保障をヨーロッパ並にして社会保障を高負担高福祉とすべきである。逆進性の消費税の導入(私は疑問あり)。
 この本は、大企業・グローバル企業の優遇を図る安倍内閣の政策を、とめる方法はあることを教えてくれている。(関西H)