野宿脱却へ総合施策を
  「ホームレス支援全国ネットワーク」が6・9発足

 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」は十年の時限立法として二〇〇二年に制定が勝ち取られたが、現在その中間見直し年となり、野宿労働者などへの支援策の実現・拡充を求める運動が活発化しつつある。
 四月六日、「ホームレスの実態に関する全国調査」の結果が厚生労働省から発表された。ホームレス自立支援法に基く調査で、〇三年三月の第一回目以降二回目となるものである。今回は、法および基本方針の見直しを検討するために行なわれたもの。
 概数調査では全国の野宿生活者総数は18564人で、前回より6732人(26・6%)減との結果であった。大阪市は6603人から4069人で38・4%の減と、大幅な減少という結果であった。
 これは、法による支援事業や生活保護等による施策効果として評価できる面があるとはいえ、中味をみると減少率の最も高いのは「公園」の区分である。現に公園でのブルーテントや仮小屋等は少なくなった。強制排除を頂点に公園でテントを張りにくくなり、一部は自立支援センターに入所するなかでの減少であろう。しかし問題は、その減少の一定数が再野宿なのであり、ダンポール等での「移動層」への移行と考えられる。今回の調査方法では、「移動層」を把握するのは困難である。事実、「道路」区分での減少は低いのである。
 平均年齢は57・5歳と前回より1・6歳高くなり、野宿生活期間では五年以上が41・4%と前回より17・4%も高くなっており、高齢化と長期化が顕著となっており、若中年層で野宿期間が短い人には施策効果が現われていても、中高年層では取り残されていることが示された。
 他、調査結果は総数の減少のみが強調され、現在までの施策の有効性がマスコミ等に流されることとなっているが、総合的な就労・居住施策の必要性を逆に浮きぼりにする結果ということができる。
 このように法と基本方針の見直し年度に入る中、五月三日、大阪市では「ホームレス支援全国ネットワーク」の設立準備会第一回会議が、エルおおさかにて行なわれた。ネットワークは、NPO北九州・釜ヶ崎・新宿の各支援機構とふるさとの会の四団体が呼びかけ、全国より多数の支援団体・個人が集まった。
 当面は見直し論議に対し、七月にも支援団体からの提言を提出すべく、全国調査に対する評価を深め、各地区・各団体の経験からの意見を寄せ合い、意見提言を強めていくことが論議された。
 なお、ネットワークは、以下の七つの方向性を共有する諸活動団体で構成されている。一、いのちと権利が守られるための支援を行なう。二、自立支援法を活用し、支援活動を行なう。提言・要求を国に対して行なう。三、支援団体相互の協働をはじめ、地域や行政との協働をめざす。四、路上からの脱出を課題として取り組む。五、脱出後の継続的支援を行なう。六、就労自立のみならず、多様な自立支援を、さらに自立を経済的自立のみならず全人的課題として捉える。七、貧困や格差、ワーキングプア等の課題を抱える社会で、ホームレスにならない支援を行なうこと、とされている。
 来たる六月九日、東京都の墨田区生涯学習センターにて午後一時より、「ホームレス支援全国ネットワーク設立総会」と基本方針見直しに向けた討論集会が行われる。見直し年度にあたり、基本方針の後退を許さず、就労・居住を中心に、実効的施策を迫っていく取り組みを強めよう。
 一方、「虹の連合」による「もう一つの全国ホームレス調査」の最終報告集会が五月二七日、大阪市で行なわれ全国から百五十名が参加した。
 二月十八日の中間報告・討論集会で報告された調査結果(本紙三月一日号参照)をさらに深めた分析が行なわれ、公表された。調査を担当した大阪就労福祉居住問題調査研究会の水内俊雄大阪市大教授からは、一、ホームレスの実数(施策の対象となる)は広範囲であること。二、さらにホームレス経験者数という概念・概数で施策を組み立てる必要性。三、支援組織の施策が要であり、対応能力の低下した行政施策を再構築しなおす必要性。四、ハコモノで対応している地域(都市)では施策の縦割りの弊害が生じており、サービスの入り口での多様化・柔軟性が必要なこと。五、ホームレス施策を利用する・せざるを得ない人々・層の増大に、行政が対応できていない等の問題点や課題が報告された。
 ホームレス支援全国ネットの結成と、もう一つの全国調査結果で明らかになった実態とを結合し、野宿に到らざるを得なかった労働者の野宿からの脱却とその生活の確立へ、さらに支援をすすめていこう。(大阪S)


労資間年収格差の急拡大
  資本主義制度の所産

 新自由主義の特徴を最もよく表現しているのが、弱肉強食である。バブル崩壊後の日本資本主義は、従来の景気循環同様に、不況期の公共投資の拡大で景気はやがて回復するとタカをくくっていたが、大量の不良債権は一向に処理できず、抜本的な「構造改革」を迫られた。   
だが、資本家階級は、経営改善と称して、労働者人民に一方的犠牲を押し付けた。それは、日本資本主義の伝統的手法ともいうべきものである。すなわち、一九九〇年代後半からの嵐のようなリストラ・首切りである。
政府統計による完全失業率は、九五年に3%台、九八年に4%台と急激に上昇し、二〇〇一年七月からは5%台(三百数十人規模)に突入した。〇一年5・0%、〇二年5・4%、〇三年5・3%という具合である。
『労働力調査』によると、一九九八年から二〇〇五年までの八年間の間に、男女の正規雇用は四六一万人減少し、男女の非正規雇用が四一七万人も増大している。
このように、首切りを通して、あるいは直接的に正規から非正規に突き落とされるなどして、四百数十万にものぼる厖大な数の労働者が大幅な賃金カットに追いやられたのである。もちろん、正規の身分を維持した労働者も、超時間労働と過密労働を強いられ、サービス残業は大企業でも当たり前といわれるように、賃下げに追いやられた。
労働者階級全般へのこのような劣悪な賃金・労働条件を押し付けながら、他方で、資本家階級は、成果主義賃金などといって、自らの収入は大幅に増大させ、株主への配当金も大幅に増大させている。
表にみられるように、資本金十億円以上の大企業では、労資の収入(賃金)格差が、二〇〇〇年代の初期から急速に拡大している。労働者の中でも恵まれた上層労働者であるこの層でも、一九九〇年代の後半頃から賃金カットが当たり前となり、二〇〇〇年代に入っても賃金は下がり続けている(サービス残業もあるので、実際にはもっと賃金カットはすすんでいる)。
だが、この大企業の役員の収入は、近年、急激に上昇している。一九九〇年代後半、資本金十億円以上の企業の役員一人当たりの平均年収は、一四〇〇万円代の半ばから一五〇〇万円台を推移していたのが、二〇〇〇年度、二〇〇二年度、二〇〇三年度には、一七〇〇万円台にはねあがる。それが、二〇〇四年度には二二〇〇万円台、二〇〇五年度には二八〇〇万円台と、さらに急上昇している。
同時に、この間、この大企業一社あたりの平均配当金も、急激に増大している。あのバブル期の一九八八年度のそれが、約七・八億円だったのが、二〇〇五年度には、約一五・三億円にはねあがっている。約二倍の増大である。
こうした階級間の「賃金格差」を、表でみてみると、バブル期の一九八八年度から二〇〇五年度の十八年間の間に、上層労働者はわずかに一九・七%の「上昇」でしかないのに、資本家たちは二二〇・六%(約2・2倍)の上昇である。
問題は、これだけではない。今日では、「健康で文化的な最低限の生活水準」以下のワーキングプアが厖大な規模で、増大している。これらの非正規労働者の年収を仮に二〇〇万円以下とすると、資本金十億円以上の企業の役員一人当たりの平均年収二八一九・九万円は、約14倍以上である。このことは、階級間の格差がかつての感覚では尋常ではない水準になっていること、すなわち、弱肉強食の世界そのものをまさに示しているものである。そして、同時に、労働者階級内部の分極化がすさまじいレベルで進行していることをもあわせて示しているのである。
個々人の労働の評価を正確に客観的に測るのは、なかなか難しい問題ではある。だが、少なくとも、これほどの「賃金格差」が階級間で生じるような労働の「質的・量的」な違いがあるはずがない。それは、労働の違いというよりも、まさに階級的所属の違い、所有の違いがもたらしているものであり、まさに資本主義という社会のシステムがもたらしているものである(新自由主義により、階級格差は露骨になっている)。まさに「賃金格差」の拡大は、諸個人の努力では乗り越えられない、社会システムそのものがもたらしているのである。(T)


年度  役員収入       配当金         従業員給与など
  1988 1278.3(   ―)    78144.5(  ―)    600.4( ―)
  1989 1391.6( 8.9%)    78604.2( 0.6%)     634.8( 5.7%)
  1990 1408.3( 1.2%)    75455.4( −4.0%)   660.5( 4.0%)
  1991 1484.7( 5.4%)    74059.0( −1.9%)   677.8( 2.6%)
  1992 1435.9( −3.3%)   65745.3(−11.3%)   682.7( 0.7%)
  1993 1409.9( 1.8%)    59460.8( −9.6%)   682.7( 0.0%)
  1994 1527.8( 8.4%)    58100.1( −2.3%)   694.5( 1.7%)
  1995 1433.0( −6.2%)   58437.4( 0.6%)     717.1( 3.3%)
  1996 1521.0( 6.1%)    59066.5( 1.1%)     731.8( 2.0%)
  1997 1525.9( 0.3%)    58227.7( −1.4%)   742.7( 1.5%)
  1998 1440.2( −5.6%)  56587.4( −2.8%)   732.5(−1.4%)
  1999 1462.7( 1.6%)    58503.6( 3.4%)     723.4(−1.2%)
  2000 1727.7( 18.1%)   69894.4( 19.5%)    734.4( 1.5%)
  2001 1424.8(−13.5%)  55677.9(−20.3%)   763.4( 3.9%)
  2002 1735.2( 21.8%)   72971.6( 31.1%)    733.1(−4.0%)
  2003 1745.6( 0.6%)    90027.0( 23.4%)    738.8( 0.8%)
  2004 2271.6( 30.1%)   94972.4( 5.5%)     724.3(−1.9%)
  2005 2819.9( 24.1%)  152995.9( 61.1%)     719.1(−0.7%)
  
  資料:『法人企業統計』
注1) 対象企業は、資本金10億円以上の営利法人(ただし、金融・保険業は除く)。2)単位は万円。3)カッコ内は対前年度比。4)役員収入は給与と賞与の計の一人当たりの平均、従業員給与などは給与と福利厚生費の計の一人当たり平均、配当金は一社当たりの平均。