伊藤長崎市長銃撃・殺害の右翼政治テロに断固抗議する
  テロを生む右派政治一掃しよう

 四月十七日に長崎市で引き起こされた伊藤一長市長への銃撃・殺害事件は、日本の民主主義と労働者人民の政治的権利にとって極めて重大な事態である。右翼の政治テロに断固抗議し、また極右勢力を励まし増長させている安倍政権の右派政治を打倒するために、全力で闘うべきときである。
 選挙期間中に候補者が銃殺されたという一点のみにおいても、犯人の意図がどうであれ、民主主義を全面否定する攻撃であることは言うまでもない。議会制民主主義の骨幹がファッショ的に否定されただけでなく、すべての言論・政治活動の自由がテロ攻撃を受けたのである。また被爆地ナガサキの市長がまたもや銃撃され、今回は殺害されてしまったことは、反核・平和運動への言語道断の攻撃である。伊藤市長は自民党であり市政に問題もあったが、自治体首長としての核廃絶運動への取り組みを、対米批判の明言を含めて進めてきたことは広く支持されていた。事件は、これらすべてを抹殺する政治テロである。
 しかしマスコミは、一九九〇年の本島長崎市長銃撃事件などに比べて今回のテロは政治的背景に乏しい、公共事業がらみの怨恨が犯行の動機、暴力団などの行政対象暴力を取り締まれ、という方向に事件を描いている。この事件が「行政対象暴力」の極限的一つであることは間違いないが、自治体へのユスリ・タカリ問題一般に解消してしまうならば大きな誤りである。
 犯人の城尾某は、本島銃撃犯の田尻(=若島)某と三十年来の右翼仲間であり、出所後の田尻は、昨年〇六年の加藤自民党元幹事長実家放火事件の犯人・堀米某の支援者でもある。このかん山形地裁のこの放火事件裁判が全国の極右勢力の結集軸となり、犯人を「英雄」へ祭り上げてきたが、その極右人脈に城尾も連なる。かれらの本質は一つながりの極右テロ集団であり、あるときは右翼政治団体であったり、あるときは暴力団の利権屋であったりするにすぎない。こうしたテロ集団が、右翼主流派の「日本会議」などの別働隊として存在し、天皇の戦争責任問題や靖国参拝問題などで事あるごとに、右翼主流派の意を体してテロを実行するという関係にある。
 そして最大の問題は、安倍政権が「日本会議」などに支えられた政権であり、事実上、極右テロリストの大バックであるということだ。安倍政権の右派政治家たちは、自民党・保守勢力の全体ではなく一分派であり、批判派とたたかう必要があるが、安倍自身が暴力に訴えるわけにはいかない。封殺せんとする別働隊が必要だ。極右テロの主要な標的が、左翼にではなく、保守勢力内の反対派にあるのはこうした意味がある。
 こうした安倍政権が、「反テロ」二重基準となり、右翼テロを放置する政権であることは明らかだ。安倍首相が市長銃撃の当日に出した談話は、「厳正に捜査が行なわれ、真相が究明されることを望む」というだけであった。汚職容疑の事件か何かならともかく、現行犯の政治家テロという真相が眼前にあるにも関わらず、テロ糾弾の一言もない。各界から批判を受けて翌日、断じて許さず云々と述べたものの、テロ糾弾よりも、自己の右派政治と犯行が関連付けられることを恐れて『週間朝日』攻撃のほうに熱心であった。加藤実家放火事件のときも、安倍(当時官房長官)は二週間何も言わなかった。小泉と共に、批判派へのテロを黙認していたのである。 
 また、〇三年には石原都知事が、外務省の田中均審議官宅の爆破未遂事件について、「あったり前だ。国民の怒りがあってそうなった」と暴言し、朝鮮半島外交で気にくわない人物にはテロは当然だと公言した。
 右翼テロの跳梁とともに、それを公然・非公然に擁護し、その撲滅のためにけっして闘おうとはしない右派政治勢力の存在が重大問題である。広範な共同戦線で右翼テロを撲滅し、右派政治を打倒しよう。
 長崎では、テロ追放・民主主義擁護の広範な運動が開始されている。事件後ただちに、4・18声明「伊藤一長長崎市長のご逝去に心から哀悼の意を表するとともに市長への銃撃・殺害を糾弾し、暴力の追放と民主主義の擁護を訴える声明」が、県内の市民団体・労働組合など五十六団体によって発せられた。
 あまりの事態にしばし茫然となる長崎市民も多かったと聞くが、選挙戦終了の四月二十二日からは街頭活動も始まった。「今こそ長崎市民が立ち上がりましょう」、チラシがまかれ、署名運動が始まった。
 その署名は、「長崎市長への銃撃・殺害を糾弾し、暴力の追放と民主主義の擁護を訴えます。〜平和都市・長崎を取り戻すための長崎市民の署名〜」である。要請事項としては安倍首相宛に、暴力追放・民主主義擁護のための全国民的取り組みを進めること、および行政対象暴力の根絶のための対策、これらを求めるものとなっている。署名運動は、「暴力の追放と民主主義の擁護を訴える長崎市民有志一同」として行なわれている。(連絡先は、「市民運動ネットワーク長崎」内 FAX095−822−4098)。
 四月二五日には、寄せられたばかりの1218筆の署名が、平野伸人さん(被爆二世教職員の会)ら長崎市民によって首相官邸に提出された。
 事件一ヵ月後の五月十七日(木)には、銃殺糾弾・民主主義擁護の長崎市民大集会(午後六時半、教育文化会館)が行なわれる。長崎市民に連帯し、テロ・戦争・憲法改悪の日本政治を変えていこう。(A)


長崎4・18
  伊藤一長市長への銃撃・殺害を糾弾し
       暴力追放と民主主義の擁護を訴える声明


 4月18日午前2時28分、伊藤一長市長はついに帰らぬ人になりました。
 まだ事件の背景は明らかになっていませんが、現役の市長が、市長選挙の真っ最中に選挙事務所の前で暴力団幹部に銃撃され殺害されたという事態に、私たちは皆一様に、驚き、怒りにふるえています。
 選挙は民意の赴くところを明らかにしようとするものであり、それはいわば民主主義の実践そのものです。選挙運動中は候補者と有権者がじかに触れ合うことが大切にされるのでみんな無防備になります。そんな場面を狙う暴力は卑劣という以外ありません。
 長崎では、1990年に本島市長が右翼団体幹部に白昼市役所玄関で銃撃されるという事件が起りました。また昨年8月には、自民党の加藤紘一元幹事長の実家が右翼団体幹部の放火によって全焼させられました。これは明らかに政治家の思想と言論を封殺しようとするテロでした。
 しかし、この間日本では、政治家だけでなく、新聞社、大学教授、ジャーナリストも脅迫や暴力の対象になり、意に添わない存在を暴力によって脅迫し、殺害せんとする行為がはびこり始めているのではないかと懸念せざるを得ません。暴力にものを言わせるのではなくて、円満な話し合いによって物事を決していこうというのが民主主義社会の基本ルールです。テロや暴力はこのルールを真っ向から否定するものです。それは民主主義の破壊であると言わなければなりません。
テロや暴力は、人々を威嚇し、発言や行動を萎縮せしめ、強者に服従させようとする効果をもちます。だから私たちは、いまこそ、いかなる暴力も許してはならないことを声高に主張しなければなりません。そして暴力を追放し、思想及び良心の自由を最大限に保障し、違いを認め合い、違うもの同士が共生し合う寛容な民主主義社会の確立をめざしていかなければなりません。
時代はいま、教育基本法の改悪から憲法の改悪へと一直線に進もうとしています。日の丸君が代の強制や愛国心教育は精神の自由を侵害し、国のために進んで犠牲になる教育を始めようとするものです。同時に、60年前のあの悲惨な戦争と原爆から学び取った貴い教訓である「戦争の放棄」を捨て、自衛軍を認め、軍の海外派遣ができる憲法改悪をしようとしているのが安倍政権です。私たちはこの政治の醸し出す戦争肯定の雰囲気と論理が社会における暴力容認につながっているのではないかと推測します。
そう考えると、暴力追放・民主主義擁護の主張は、自然に改憲反対に連動してゆきます。非暴力主義の象徴が憲法9条だからです。私たちは、伊藤市長の無念さを思い、憲法9条の旗を掲げて、すべての暴力の否定と民主主義の擁護確立を、心の底から訴えます。
  2007年4月18日
  4月18日現在56団体


4・27東京
長崎市長銃殺事件抗議の緊急集会
  民主主義封殺許すな

 四月二七日、東京では「民主主義を封殺するあらゆる暴力を許すな!長崎市長銃殺事件抗議4・27集会」が緊急に開かれ、御茶ノ水の総評会館に約二五〇名が参加した。主催は、首都圏の市民運動家やジャーナリストなど十五名の呼びかけによる集会実行委員会。集会準備では平和フォーラムが支援した。
 集会冒頭、核廃絶の途上で凶弾に倒れた伊藤一長市長の無念におもいを寄せ、全員で黙祷をささげた。
 白石孝さん(プライバシー・アクション)が、この緊急集会開催の経過を含めてあいさつ。昨夏の加藤自民党元幹事長の実家放火事件に対して、十七名の呼びかけで抗議集会を行なったが、その経験を下地として今日の集まりを持つこととなった。重大な事態に対し、市民一人ひとりが行動を呼びかけることが必要だと経過報告した。
 呼びかけ人を代表して鎌田慧さん(ルポライター)があいさつ。小さい行動であっても、ただちに反撃することが問われている。目に見える抗議を起こさなければ、テロを容認したことになる。また今回は、政治的背景が無いかのような情報操作が行なわれているのではないか。政治家が政治活動の最中に殺害された。本質は、個人の怨恨ではなく政治テロである。その点を明確にした反撃が必要だとアピールした。
 なお、集会の呼びかけ人は、共同アピール「民主主義を銃撃するあらゆるテロを許すな!」を発し、「この国には民主主義を脅かすテロが横行している。これを憂慮しつつ座視してはならない。」「みなが一人ひとりの勇気をもって声をあげ、抗議の嵐を巻き起こそう」と訴えている。
 呼びかけ人等によるリレートークでは、上原公子(国立市長)、内田雅敏(弁護士)、きくちゆみ(グローバルピースキャンペーン)、富山洋子(日本消費者連盟)、西川重則(平和遺族会)、福山真劫(平和フォーラム)、ジャーナリストでは斎藤貴男、谷内真理子、前田哲男の各氏が、それぞれの抗議と今後の活動の意志を語った。
 平和と住民自治の行政で知られ、それゆえに右翼暴力団からの攻撃にさらされてきた上原・国立市長は、後継者の市長選勝利を受けて退任間近であるが、次のように語った。自治体首長が襲われることが多くなった。銃撃当時は広島にいたが、秋葉市長と連絡を取り合った。こんな日本になってしまったか、という危機感があるが共に奮闘していこう。
 集会は最後に、長崎での取り組み(長崎県の市民団体・労働組合による4・18声明、政府宛の署名運動など)を紹介しつつ、首都圏・全国で抗議運動を広げていくことを確認して終了した。(東京W通信員)