【本の紹介】


アスベスト公害と患者・家族の記録
『明日をください』 今井 明
       06年10月発行・アットワークス

    アスベスト問題はこれからが正念場

 労働運動や市民運動の集会やデモに、カメラを構えた今井さんの姿があることを知る人は多い。その今井さんが「アスベスト公害と患者・家族の記録」を出版したことを知ったのは昨年秋のことで、購読した日に一挙に読み終えた。
 この本には、アスベストに蝕まれた患者と家族からの聞き取りがたんたんとしたタッチで綴られ、同時に今井さんが撮影された沢山の家族の写真が載せられている。写真を撮り始めたのは2000年からだと本には書かれているが、アスベストとの闘いは1980年代の横須賀、住友重機の患者掘り起こしから記録され、2006年3月に制定された石綿被害救済法の不十分さ、欠陥を告発しつつ、アスベストのない世界を作るための希望と闘いの方向を示している。それが、「明日をください」というタイトルに凝縮されている。
 人生これからというときに突然発病し、それが作業で使っていたアスベストに起因するものであるということ、しかも不治の病であるということを知らされた患者と家族の方々の苦痛ははかりしれない。病気の痛みや苦しさそして死の恐怖と日々向き合いながら、社会に対してアスベスト禁止と撲滅、治療の確立を訴える叫びが切々と伝わってくる。文章とともに掲載されている闘病生活の家族写真、遺影をもったご遺族の写真には、生きた人生の豊かさが詰まっていて、何故その尊い命をアスベストが奪わなければならなかったのか、という怒りが湧いてくる。
 またクボタの周辺住民によるアスベスト被害掘り起こしの経過を語る座談会記録では、国を動かした草の根運動の成功の秘訣が、患者や家族らのしぶとい足でかせいだ現地調査にあったことを教えている。
 2006年9月、政府は0・1%以上含有のほとんどのアスベスト禁止を打ち出した、これは遅すぎた決定であり、これでアスベスト問題の幕引きをしようというなら、とんでもないことである。
 中皮腫などの発症はこれから数十年が山場であり、アスベストによる被害者が益々増大することは疑いない。アスベスト問題はこれからが正念場なのだ。この本の一読を薦めます。そしてアスベスト被害の現実を知り、アスベストとの闘いに立ち上がろう。
▼編集『明日をください』出版委員会  値段本体1500円+税
▼連絡先 中皮腫・じん肺・アスベストセンター 〒136-0071 東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル5階 пF03-5627-6007

『日本軍事史』 藤原 彰
  上巻06年12月発行・社会批評社

      戦争を再発させないために

 この藤原彰著『日本軍事史』(上・下)は、一九八七年に日本評論社から一巻本で出版されたものの再刊である。二十年で再刊されるということは、それだけの価値がある本と言うことだろう。
 著者の基本的立場は、「軍事史は、戦争を再発させないためにこそ究明されるべき」という言に示されている。旧軍関係者による戦史の類は非常に多く出版されてきたが、日本の軍事史についての手頃な本は意外と少なく、この本のように反戦の立場でまとめられた類書はほとんどない。
 旧軍出身者の戦史類にも史実的には評価すべきものもあるようだが、日本軍とその戦争の総括についてはいただけないものがほとんど。著者も四十一年陸軍士官学校卒で中国侵略戦争に参加した経歴をもつが、この本は「日本軍の独自性」についての批判的分析などその立場性は明確である。「日本軍の独自性」の一つとして指摘される「生命軽視」ということは、著者が後に書いた『餓死した英霊たち』(青木書店)にも表わされ、一般にはこの本のほうが話題になったように思える。靖国の「英霊」の多くは戦死者というより餓死者であること、無謀な戦争指導の犠牲者であることが話題となった。
 防衛省と自衛隊は、この日本軍の歴史的性格から解放されているのか否か。海外派兵を本務化し、「戦争をする国」に進む現状とたたかう上で、この本は有益な基本文献である。(W)