たそがれアメリカ帝国による国家犯罪
   大テロリストの亡命と無実のキューバ人への重刑
               樋口 篤三(キューバ友好円卓会議共同代表)

★チェイニー、ラムズフェルドの陰謀集団

 ブッシュ政権(第一期 二〇〇一〜五年)は、「チェイニー副大統領とラムズフェルド国防長官の陰謀集団に乗っ取られ」、「外交政策機関無視を助長した」。
 「イラク、北朝鮮、イランの諸問題で、さらにはハリケーン『カトリーナ』『リタ』などの国内の危機で災厄を招いた」。
 この痛烈な非難は、反米国家が行なったものではない。同時期の国務長官パウエルの首席補佐官をつとめたローレンス・ウィルカーソンの講演での発言である。(05・10・19)
 彼はこの中で、「国務省が存在するのが疑問に思った」ほど米国安全保障機構がゆがめられ、「常軌を逸脱し」「粗略に扱い」「混乱させた」と言い、ブッシュ大統領は「国際問題に疎く、関心も薄い」人物だと論評した。

★大うそつきのボルトン国連大使

 ブッシュ政権が行なった最低最悪の人事の一つが、ボルトン国連大使の任命強行であった。ボルトンは国務次官時に、キューバは生物化学兵器を開発し所有していると発言。キューバ政府は、カーター元大統領を招き、疑問指定箇所を含め、見たいところを自由に見せ、反体制派活動家との面会も、TVでの放送も何一つ干渉せず、カストロ政権への批判も生放送で放映した。もちろんその種の兵器類は何一つ「発見」されなかった。
 その種の兵器類は、カストロの知的道徳的ヘゲモニー力からはありえないことであった。
 米国務省情報調査局(INR)担当官も同じ分析であった。だがボルトンは、一年後にまた同じ言葉を繰り返した。そしてボルトンは、この分析官の解任を担当のフォード国務次官補に迫り、拒否されるや「分析官に指を立て、顔を赤らめ声を荒げて激怒した」という。この分析官は、「パウエル長官やアーミテージ副長官がフォード支持のため解任を免れた」とのこと。
 フォードは、ボルトン国連大使就任の是非を問うた上院外交委員会の公聴会で、この不当解任策動を暴露し、「彼は上司にへつらい、部下には当り散らす究極のタイプ」、「職権乱用の常習者」と痛烈に批判(05・4・13朝日)。元国連大使ら元外交官五十九人は、上院がボルトンの国連大使就任を拒否するよう外交委員長に要請。民主党はもちろん、共和党の中からも反対が続出したために指名が危うくなるや、議会休会中に大統領令で執行を強行した。
 ボルトンの国連否定はかねてから定評であった。「国連などというものはない。あるのは国際社会だ。それは、世界に残された唯一のパワーである米国に率いられる」(94年)。「もし、今日、国連安保理を作り直すとしたら、常任理事国は一つだけだ。その一つとは米国だ」(00年)。

★戦争より大統領暗殺の方が安上がり

 アメリカ帝国の政治、外交、内政は、これほどまでに腐敗しきってきた。道徳はまさに底抜けの崩壊である。
 もう一つ、〇四年ブッシュ選挙の中心の一人だったパット・コバートソン師(75歳)が、ベネズエラのチャベス大統領を消せと公言した。キリスト教保守派の道徳的崩壊を示すものである。彼はTVで、チャベス大統領がベネズエラを「共産主義やイスラム過激主義の拠点にしようとしている」、「わが国は彼を消し去ることができる」、「暗殺の方が戦争より安上がりだ」と発言した(05・8)が、さすがに多くの批判が集中した。
 この伝道師は、「謝罪する」としたが、同時に「同大統領を『排除する』方法は、誘拐も含め、他にもたくさんある」、「彼を排除する能力があるし、その能力を行使する時期に来ている」と発言した。まさに語るにおちるである。

★ラムズフェルドがついに“首”に

 アメリカ政治のある種の「復原力」は、別の道からやっと始まった。米中間選挙における民主党の十四年ぶりの勝利と共和党の敗北をうけて、政権の二大中心者の一人ラムズフェルド国防長官がついに“首”となった。
 国務長官と国防長官は、米政権の中枢である。後者では、マクナマラ(フォード自動車社長を経て一九六〇〜六八年)のベトナム戦争期八年間についで、ラムズフェルドは二度目の同職を六年近く続け、イラク戦争開始と展開をリードした。彼は大企業の経営原理=効率至上主義と唯武器中心思想で軍首脳と対立し、参謀総長を切り捨て、五〜七週間の短期決戦完勝戦略で自信満々イラク侵略に臨んだ。
 CIAはフセイン直轄軍の内容をかなり調べ、「寝返り将軍」をつくるなど力を発揮したが、最大の「誤算」は、開戦の大義を「大量破壊兵器」の所有としたにもかかわらず、全くデタラメだったことである。決定的誤りは、イスラム教を三流宗教、邪教とし、イスラム教を信奉する人民を愚民視して「問題外」としたことにある。それが、ベトナム戦争、ソ連のアフガン戦争(ブレジネフ書記長は5〜6日間で勝てると判断し、出兵に関して党や政府の会議さえ行なわなかった)と同様の「大失敗の本質」であった。

★大テロリストの米国亡命

 このアメリカ帝国の政治・外交・軍事路線は、キューバ革命に対しても四十数年間、基本的に同じ方向で対応した。
 カストロ暗殺計画は、公表された公式文書だけでも、百数十回に及ぶ。ヘルムズCIA長官(02・10・22死亡)は、「キューバのカストロ首相暗殺計画やチリのアジェンデ政権転覆に関与したとされる」と報ぜられた。(朝日)
 最近では、カストロ暗殺を長年狙ってきた大物テロリスト、ルイス・ポサダがいる。六一年の武力侵攻・ピックス湾事件−キューバ軍の反撃で失敗−に関わり、七六年にはベネズエラ発のキューバ航空機を爆破して七十三人を死亡させた。八〇年にはパナマにおいてカストロ暗殺容疑で逮捕され八年の実刑判決。だが反キューバのモスコリ前大統領が〇四年の退陣時に恩赦、マイアミの亡命キューバ人らの飛行機で米国に亡命した。(05・5・13朝日)
 
★逆に無実の五人が重刑に

 カストロ暗殺・政権転覆・テロ続発の基地がマイアミであることは、広く知れ渡っている。この連続的犯罪行為を未然に防ぐべく調査を行なった五人のキューバ人が、九八年九月十二日に逆にスパイとしてFBIに逮捕され、〇〇年の裁判で終身刑などの不当判決となった。
 この五人が、@米国政府に対するスパイ行為、A米軍に対するスパイ活動、B米国内でのテロ活動などは一切行っていないことは、確認されている。〇五年八月にアトランタ第11巡回裁判区裁判所は、三人の判事が一致して、判決の無効とマイアミ以外での裁判のやり直しを命じているのである。
 だが検察庁がそれに反対し、命令は取り消され、「米国の安全保障上の脅威となる」(出入国管理局)として、五人の家族へのビザ発給も拒否し、米国憲法と刑務所規定が認めている家族との面会さえ拒絶している。
 筋書きは全くあべこべである。証拠がはっきりしている反キューバ・テロリストは、公然と亡命が認められて大手を振って活動を再開しているのに、一方ではスパイ行為が一切立証されず、テロリスト調査のみを行なったものが重刑となった。
 米国民主主義と司法の危機、道徳の崩壊などが、ここにくっきりと集中的に反映されている。
 (五名の釈放を求めるキャンペーンが、日本でも開始される。無罪釈放要求署名にご協力を。)

★アメリカ帝国のたそがれ−孤立の深まり

 「人権の米国」は、国連の人権委員会で落選(01年)するくらい諸国の信頼を全く失ってきた。
 国連安保理非常任理事国(15カ国)の中南米枠に立候補したベネズエラ(カストロ尊敬を何回も公言し、後継を目指すチャベス大統領)は、アメリカの代理国グァテマラと対決し、実に47回の投票を行なったが、双方とも有効投票の三分の二(今回は百二十ヶ国)に達せず、“中道”のパナマに合意してやっと48回目に決着した。
 逆に米国によるキューバ経済封鎖の解除決議は、国連総会で九二年以来年々キューバ支持が増え続け、今年度は賛成一八三、反対四(米国、イスラエル、マーシャル諸島、パラオ)、棄権一(ミクロネシア)の圧倒的大差となった。落日のアメリカ帝国、旭日のキューバを見事に示している。(了)