教育の荒廃を加速させる教育基本法改悪案
  改悪阻止は重大局面に

 教育基本法改悪案の実質審議が、十月三十日の衆院教育基本法特別委員会で再開され、十一月初旬に通過儀式としての「公聴会」がアリバイ的に強行されれば、十一月十日以降には衆院特別委員会・本会議でいつ強行採決されてもおかしくないという危機的状況に入る。
 しかし事態がここに来ても、憲法改定問題に比べると、教育基本法改定の是非をめぐる国民的論議がもりあがっているとは言えない。その論議の低調さを利用しつつ、政府・与党は強行突破しかねないのである。
 他方、現下の続出する「いじめ自殺」など深刻な教育問題は、労働者人民が広く心を痛める関心事となっている。現在の教育基本法改定をめぐる状況は、これら現実の教育現場の問題解決とかけ離れ、まさに国民無視・こども無視の、党利党略の場となっている。安倍首相が今臨時国会で教育基本法の改悪を最大課題としているのは、自己の特定のイデオロギー的立場からであって、教育矛盾の現実を解決したいからではない。こどもや父母のことよりも、「戦後レジーム脱却」「愛国心」のほうが大事なのである。まともな教育論議もなく、教育を政治の道具にして、教育の基本法が簡単に変えられてしまってよいのか。これはもはや、政治的立場を問わず言語道断の事態と言わねばならない。
 われわれは次ぎのように主張してきた。教育基本法改悪案は、第一に、教育の目標として「愛国心」などを法的に強制し、「戦争をする国」作りにこどもと教職員を動員するものであり、第二に、新自由主義的改革によって教育に市場原理主義を持ち込み、差別選別教育を強化するものであり、それらを進めるため第三に、国民の教育権を否定し、国家の教育権を確立しようとするものである。(民主党案も、若干の文言の違い等はあるが、この三点の本質は同じ)。
 法案をそのように批判的に認識する者が廃案を求めるのは当然としても、現実の教育矛盾の激化とは上滑りに進む教育基本法国会の現状には、あきれている教育関係者も政治的立場を問わず多いのではなかろうか。教育問題について強行採決という事態は避けるべきだ、これは左右を問わず最低の常識だろう。
 このように考えると本来、教育基本法改悪反対の闘いはもっと大きく、広範なものになるはずである。教育基本法改悪案を必ず阻止し、安倍連立政権を包囲する今秋のたたかいが決定的に問われている。
 各方面から反対運動は高まってきている。 このかん日本教職員組合(森越康雄委員長)は、十月十八日から国会前座り込み行動を支部役員などを動員して連日取り組み、十月二六日には、主任制反対闘争以来三十一年ぶりに「非常事態宣言」を発し、組合員の大衆決起として日比谷野外音楽堂で「教育基本法改悪阻止!緊急中央集会」を行なった。緊急の取り組みであったが、全国から教職員と他労組など八千五百名(主催者発表)が結集した。
 日教組はこのかん、九五年路線転換以来の政府・文科省とのパートナー路線を払拭しないまま、教育基本法調査会の国会設置要請署名なるものでお茶を濁してきた。その基調は「慎重審議」お願い路線である。しかし小泉から安倍への教育基本法改悪の攻撃が、日教組をパートナーとしてまったく扱わず、無視した攻撃であることは明らかである。協調路線では闘えない、日教組中央は改悪阻止のための指導性を放棄している、与党案よりも悪質ですらある「日本国教育基本法案」を出した民主党とつるんで何をしているのかなど、組合員の批判も全国で日増しに高まってきていた。10・26緊急中央集会で、参加組合員が森越委員長の集会不在などを糾弾して演壇を占拠しようとする事態が発生したが、これも指導部への高まる批判の現われであろう。
 いま闘わなければ、いつ闘うのか。日教組の指導部も考え直さざるをえない客観情勢になっている。政府案に対してはもちろん、民主党の改悪案にも反対を明確にしつつ、ストライキを含めた全国統一闘争で日教組が総力をあげて闘うことが求められている。
 このように日教組が全国的運動をリードできていない現況下、各地方では県教組が重要な役割を担っているところも多いが、対国会闘争では市民団体や自主的な教職員運動の健闘が目立っている。
 首都圏の教育労働者などが参加する都教委包囲ネットワークは、日教組の座り込みと並行して、国会前ハンスト行動を続けてきた。
 全労連、全教なども国会行動を繰り広げている。(中央労働団体としては連合が、憲法改悪反対で統一行動が取れないのと同様、教育基本法でも同様の有り様となっている。しかし政府案反対なら統一行動をやれるのではないか、何もやりたくないということか。)
 市民団体などが横断的に参加している「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会議」は、このかん毎週火曜日に国会前集会を開き、二十三日には議員会館で院内集会を開いて総決起を意志一致、十一月十二日には「教育基本法の改悪をとめよう!11・12全国集会」(日比谷野音、一時半)とデモを行なう。この集会・デモに枠組・党派を越えてこぞって参加し、教育基本法国会を圧倒することが必要だ。
 また、全国連絡会議と連動し、教科書ネットワーク21など市民団体の呼びかけによって十一月八日には国会を手つなぎで包囲するヒューマンチェーン行動が行なわれる。
 各地方でも、審議入りの情勢をふまえて、十月下旬以降、多くの地方都市で改悪反対集会・デモが行われている。日教組と全教の各地方組織が、教育基本法改悪阻止の共同行動を行なっている地方も増えている。
 また、国会での改悪案阻止とともに、現在進行形の安倍政権による具体的教育攻撃と闘うことが必要だ。
 改悪案が今国会でどうなるにせよ、安倍政権は「教育再生」は進めるとして、首相補佐官の山谷えり子が担当する「教育再生会議」(座長・野依良治)なるものを官邸に発足させ、十月十八日に初会合が行なわれた。
 ここでは優先課題として、教員免許更新制、外部評価を含めた学校評価制などの導入を掲げている。今のところ新自由主義的教育改革の面に重点を置き、具体策を打ち出そうとしている。教育格差を拡大する教育バウチャー(利用券)制なども検討するのだろう。来年一月に中間報告を出し、通常国会に関連法案を出すとしている。
 「教育再生会議」によって、教育基本法改悪を先取りする具体的施策が導入されようとしている。改悪案が成立すれば、それは強化され加速される。教育基本法は基本法であり、具体的施策を規定するものではない。改悪案を阻止しても、具体的な闘いは続くのである。
 小泉政権では、官邸直結の経済財政諮問会議が猛威を振るった。安倍政権では、「教育再生会議」は文部科学省と調整せざるを得ないとみられるが、どうあれ反動的な調整である。
 安倍政権の「教育再生」によっては、こどもが自殺し、教員も自殺し、校長も自殺する教育の惨状は解決されない、ひどくなるだけである。教育基本法改悪を阻止すると同時にそれだけでなく、ひろい意味での教育闘争が問われているといえるだろう。(A)