安倍「政権公約」
 「戦後体制脱却」を掲げ、改憲と戦争へ突進
   右派政権打倒の共同戦線を

 九月一日、安倍晋三官房長官は自民党総裁選への立候補を正式表明し、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を基調とする政権公約「美しい国、日本」なるものを発表した。自民党および国会の現状からすると、自民・公明による安倍連立政権が九月下旬に成立することは不可避であろう。
 このことは、日本の労働者人民にどのような闘いを求めているのか。登場しつつある安倍新政権への批判を強めると同時に、新政権と闘う労働者人民の側の態勢こそが問われなければならない。わが党、労働者共産党は去る八月、第三期第二回中央委員会総会を開催し、安倍政権の登場を始めとする当面の情勢に対処するために、決議「広範な共同戦線で右派を打倒しよう」を採択した(全文を前号掲載)。すべての左翼的、民主的な人々と団結・連合し、安倍政権打倒の闘いをおしすすめよう。
 安倍の政権公約の第一の特徴は、その冒頭で、「新たな時代を切り開く日本にふさわしい憲法の制定」を真っ先に掲げ、現憲法の全面的改悪である「新憲法制定」を強行することを明確にしたことである。
 政権公約で憲法改悪を掲げたのは安倍が初めてであり、これは昨年の総選挙で小泉自民党が改憲を選挙公約に初めて掲げたことを継承し、さらに政権の第一の課題としておしすすめようとするものである。しかも、安倍の改憲論は、特定の国家像を伴っていたとは言い難い小泉の改憲論と異なり、「戦後体制からの新たな船出」のための改憲であり、「21世紀の日本の国家像」すなわち「強い日本」を実現し、「わが国の国際社会における規範形成力を強化する」という目的意識を明確にした改憲論である。
 また、「教育の抜本的改革」を第二の課題として掲げており、「新憲法制定」と一体のものである。国会で継続審議の教育基本法改悪案を任期中に成立させることによって、「美しい国」への「愛国心」を強制し、「強い日本」の軍事体制に国民を駆りたてようとしている。
 かって中曽根政権が「戦後政治の総決算」を掲げたが、これは社会党・総評ブロックを解体し「55年体制」を崩壊させるという意味であった。安倍の「戦後体制」脱却論は、戦後六十年の日本を、現憲法を否定することを通じて全面的に仕切り直そうという意味である。安倍は一日の記者会見でも、「憲法は日本が占領されている時代に作られ、占領軍が深く関与した。私たち自身の手で新しい憲法を書いていこう」と述べ、内容無視のお決まりの「押しつけ憲法」否定論を開陳した。
 安倍は自民党の中でも根っからの「自主憲法制定」派であり、また十五年戦争を侵略戦争として認めず、したがって「戦後五十年」国会決議にすら同意しておらず、「自虐史観反対」論の発信源の一人でもある。ある意味では「戦前回帰」型の陳腐な極右であり、これまでの戦後保守政治からみても、首相の座に付けるには危険すぎる反動派なのである。
 にもかかわらず、彼が首相になろうとしているのは、右翼ナショナリストであると同時に親米派であること、アメリカ帝国主義が求める今日の日米同盟の要請に小泉同様忠実であろうとしているからである。
 こうして安倍の政権公約の第二の特徴として、小泉の「世界の中の日米同盟」路線を引き継ぎつつ、その路線に労働者人民を積極的に統合せんとしていること、そのためにも彼が「国家像」を強調しているということが分かる。
 政権公約では、「『世界とアジアのための日米同盟』を強化させ、日米双方が『ともに汗をかく』体制を確立」するとしている。これは、日本の領域外で(安保条約第五条の範囲を越えて)集団的自衛権を行使すること、自衛隊が世界中で米軍とともに戦争できるようにするという宣言である。
 安倍の持論の一つは、母方祖父の岸信介元首相(A級戦犯容疑者)は安保の片務性を双務性に近づけるために六十年安保改定を闘った、その志を実現したい、というものである。岸内閣を打倒した日本人民の安保闘争は、その後長期に渡って改憲と国家主義の台頭を防止してきたが、安倍にとって今こそ復讐の秋が来たというわけである。
 彼の言う「主張する外交」とは、朝鮮半島や中国への強硬姿勢を売り物にする無益かつ危険な外交である。たとえば、拉致問題を冷戦時代の負の遺産の解決として扱わず、プッシュ流に冷戦後の「対テロ」として扱い、日朝関係を膠着させた責任は彼に大きい。「自由な社会の輪を世界に広げる」、「米欧豪印など価値観を共有する国々との戦略対話を推進」などは、ネオ・コン路線そのものである。
 政権公約の第三の特徴は、「小泉改革」の郵政民営化に代表される市場原理主義の継承である。「再チャレンジできる社会の実現」、これは「勝ち組・負け組」がはっきり現われる前に介入する所得再分配路線を明確に否定し、両極分解を当然として、「負け組」でも労働力として稼動できる者は使えるようにしようという徹頭徹尾資本家的な路線である。
 総裁選挙では麻生、谷垣を飾り花として、自民党内はポスト目当てに安倍支持に雪崩れを打っているが、新政権が抱える矛盾も大きい。福田康夫元官房長官は、朝鮮ミサイル騒ぎを背景に「国論分裂の印象を与えたくない」として出馬しなかったが、東アジア外交問題が「政権をめぐる路線闘争の一中心課題として浮上してきている」(二中総決議、以下同)ことに変わりはない。小泉のように東アジア外交破産を放置したままでは亀裂は大きくなる。安倍新政権は、党内・財界のアジア重視派にも配慮せざるを得なくなるだろう。「官邸主導の政治リーダーシップ」も、小泉のように強引にはいかない。
 民主党は、政権交代を求める野党色を強めている。しかし「支配階級のこの一半は」「新自由主義などを推進しながら、一方ではその結果の現われを糊塗せんとするマッチ・ポンプ路線である」にすぎない。
 「自民・民主と区別された国民的規模でのもう一つの政治勢力、あらゆる左翼的・民主的な諸勢力による共同戦線、すなわち『第三極』の形成」が問われている。「情勢の要求は、まず右への政治の流れを止めること、アメリカ一辺倒・市場原理主義政権を打倒することにある」。これを「達成するために、団結できる全ての人々と団結する、これがこの局面でとるべき基本的な政治態度である。」「そこでは支配階級内部の労働者民衆を包摂していこうとする人々との一時的・部分的連携も、視野に入っていなければならない。」
 労働者共産党のこの決議は、日本のすべての左翼的・民主的な政党・政派・個人に呼びかけている。最悪の右派政権・安倍新政権を前に、セクト主義は取り返しのつかない誤まりである。広範な共同戦線で右派を打倒せよ、と。