第三極の形成に向けて広く議論を
       その政治内容と方途についての私見
                                   深山和彦

 現在、戦後のブルジョア支配体制を特徴づけてきた米帝庇護下の平和と利益配分型統治が解体する中で、これからの政治と社会の在り方をめぐる葛藤が激化し、諸階級・諸階層が時代の変化に対応したそれぞれの政治布陣を形成していくダイナミックな過程が進行している。
最初に登場したのが、米帝・ブッシュ政権を後ろ盾に戦後体制の解体・再編に主導権を取り、昨秋の総選挙を契機にこれを果たした小泉に代表される支配階級の一分派である。支配階級のこの分派は、アメリカ一辺倒であり、米軍の指揮下で世界各地に軍事介入し、新自由主義をやることで米日多国籍企業の利益を図り、社会が崩壊していくことに目を向けない路線を推進してきた。だが支配階級のこの分派の路線の弊害が、北東アジアにおける外交的孤立、米軍基地の重圧の高まり、食の安全を無視した米国産牛肉輸入の受け入れ、金儲け・競争至上主義の蔓延とJR事故、耐震強度偽装、経済のマネーゲーム化、そして「格差社会」問題の浮上などとして続々現われてくるに及び、支配階級の間において、東アジアとの関係を重視せよ、「改革」をやるにしてもそれによって生存を脅かされる民衆をセイフティーネットで包摂しながらやるべきだとする路線が勢いづこうとしている。支配階級は、大きく二つの陣営に収斂していくだろう。こうした中で、労働者民衆を代表する第三極の形成という課題が浮上してきているのである。
情勢は全ての階級・階層に、これからの一時代を闘い抜く自己の政治布陣の形成を要求している。労働者民衆は、自己の政治的代表部を持ち、政治権力の獲得を目指さねばならない。そうしなければ、これからは賃金奴隷として生存し続けることさえ難しくなってゆくからである。第三極形成の事業は、今年から来年にかけてが正念場となるだろう。

@ 幕開け

第三極を形成する際に重要なのは、世界史的に資本主義の仕方では社会が立ち行かなくなる時代に入ったという認識である。かかる時代の日本における政治構造のありようの問題として、第三極は構想されねばならない。
こんにち産業(生産手段)の発達は、グローバルな分業の発達を伴いつつ、成熟段階に到達した。いまや社会は、その主要な目的を、産業(生産手段)の発達から人間自身(および外的自己としての自然環境)の豊かな発展へと移行すべき世界史的時代に入っている。資本主義は、それを妨げ、それどころか社会(人間)を崩壊させ始めている。
資本主義は、産業(生産手段の発達)が成熟段階に到達し、物的生産領域において本質的な意味での新産業の勃興の可能性がなくなる中で、ますます増大する過剰な貨幣資本をかかえてマネーゲームの世界を肥大化させ、その対極に、好況においてもさほど吸収できない巨大な失業者層を生み出し膨張させている。資本主義は、慢性的な過剰資本圧力に促迫されて、全ての諸国と全ての経済領域に対する市場開放と市場原理主義の強要へ、増大する失業者群を背景にした労働者使い捨てシステムの普遍化へ、グローバルな搾取体系の全面的発達と世界的規模での社会的格差の拡大へ突き進んでいる。地球環境保護を語りながらこれを破壊し続けている。資本は、ひたすら、共食いと社会(人間)の犠牲の上にしか、その自己増殖運動を維持できなくなっているのである。そして唯一の超大国アメリカとその巨大金融独占資本が、まさに資本の置かれているこの現実を開き直り的に正当化し、圧倒的武力を背景に行動しだしているのである。いまや社会(世界)は存立の危機に陥っていると言って過言ではない。
日本においてアメリカの尻馬に乗ったのが小泉である。昨年九月の総選挙における小泉自民党の圧勝は、日本資本主義が共食いと社会(人間)破壊の時代への突入を画した事件だった。国家権力中枢において、戦後のケインズ主義的・利益配分型統治、ブルジョア階級の和の政治を代表してきた「守旧派」のヘゲモニーが粉砕された。守旧派とよしみを結んできた伝統的国家主義者達の力も大きく削ぎ落とされた。アメリカ帝国の内に自覚的積極的に日本を組み込む路線、アメリカ(と日本)の金融独占資本の特殊利益をあからさまに押し貫く政治が勝利した。だがそれは、新時代の政治構造に向かう一連の過程の幕開けに過ぎない。「第一極」の路線的権力制覇であった。

A 構想

第一極政権は、米軍に頼り、軍事力に頼る形で、金融独占資本のための世界的な権益拡張に突き進むだろう。アメリカと日本の金融独占資本の略奪者的本性に多少とも課せられてきた国内の法的・社会的制約を、全面的に取り払ってゆくだろう。失業・半失業の沼地を社会全体の足元に大きく広げてますます多くの人々をそこに投げ込み、労働者の使い捨てを日常的な現実とし、人々の横のつながりを寸断し、社会の秩序をもっぱら警察による監視・治安管理に委ねていくだろう。北東アジアの諸民族に対する敵視政策を一段と強化していくだろう。これは、社会を崩壊させる道である。
支配階級は全体として、こうした新自由主義路線を採用せざるを得ないが、そのことによって自己の支配的地位を自ら危うくする。このため支配階級は、新自由主義路線の積極推進派とこの路線を推進しながらその社会破壊の諸結果をセイフティーネットで取繕うことをも重視する一派とに分裂していく。この路線対立は外交路線では、アメリカ帝国の傘下におけるアメリカ一辺倒と東アジア重視の対立に収斂していくだろう。支配階級の「第一極」と「第二極」への分裂である。「第二極」は、その性格上極めて寄せ集め的かつ動揺的で、対米追随・新自由主義的改革を推進するかと思えば、東アジア重視を唱え労働者人民の包摂に腐心するという具合であるだろう。いわばマッチ・ポンプ路線である。
支配階級が資本主義の延命と引き換えに社会を壊していくこれからの一時代は、労働者人民が資本主義に代わるシステムを模索しつつ社会を再構築していく時代であり、それを基盤に政治革命を実現する時代である。ここに「第三極」形成の必然性が存する。われわれは、第三極を構想する場合、この戦略的確信をもってせねばならない。
第三極は、人間とその自然環境を大切にする新しい社会の萌芽を孕む労働者民衆の運動に立脚し、人々の横のつながりの発展と地域社会づくりに寄与する政治勢力として形成されるだろう。第三極は、日共、社民を含む左翼諸潮流が、前世紀の歴史的制約に規定された左翼の質的限界性と分裂構造を克服し、自己改革を通して大連合することなしには形成されないだろう。第三極は、国境をこえて、とりわけ東アジア規模で出現する第三極のネットワークの一翼として形成されるだろう。
このような第三極は、とりあえず次の四大綱領あたりから出発し、ネットワークのひろがりと経験の深まりとともに共同で綱領的豊かさを獲得していくものとなるだろう。
1、 全世界の民衆的連帯を発展させると共に、東アジアとの友好、対米自主を目指す。
2、 地方の自治権を強め、協働・相互扶助の精神を高め、NPO・協同組合事業・社会的企業を発展させ、人と自然環境を大切にする社会を地域から目指す。
3、 非正規・失業労働者の団結と闘争を共同で発展させ、労働運動を推進力に社会的格差の解消を目指す。
4、 以上の課題の実現に奉仕する政府を樹立する。

B 条件

現在の情勢の要求は、直ちに労働者民衆の政権を樹立するところにはない。情勢の要求は、まず右への政治の流れを止めること、第一極政権を打倒することにある。この情勢の下で我々に問われている課題は、右への流れを止めることを通して、第一極政権を打倒することを通して、左派が、民衆運動が発展する政治空間を押し広げることである。
右への政治の流れを止め、第一極政権を打倒するという焦眉の課題を達成するために、団結できる全ての人々と団結する。これがこの局面でとるべき政治態度である。この一月に日本共産党が、憲法改悪反対の一点での共闘を社民党に申し入れた。注目すべき大変化、歓迎すべきことである。全ての左翼は、革命的左翼を含めて大同団結し、共同して労働運動、民衆運動が発展する政治空間を押し広げていかねばならない(団結の破壊を本性とする人たちは対象外として)。それは、政治を語る者の責任であるだろう。
団結できる全ての人々と団結するという場合、第一極およびその右に位置する極右勢力以外の全ての人々、端的には第二極路線をとる人々が、一時的・部分的連携ということであっても、視野にはいっていなければならない。否、われわれは、左翼が圧倒的少数派になっており、支配階級の第二極の路線をスタンスとする人々が、民衆の間でも圧倒的多数である現実から出発するのである。こうした人々との共同した闘いの発展の中でしか左派の活動空間を拡大し、第三極を一つの極として押し出すことは出来ないだろう。また副次的なことであるが、こうした人々との共同した闘いの高揚は、形成される第二極の、第一極との路線的亀裂を大きなものにするだろう。
こうした見地から、われわれは以下の戦線を共同で発展させていく必要がある。
第一は、全世界、とりわけ東アジアの民衆との交流と連帯を深め、米軍再編とそれにリンクした九条改憲に象徴される戦争国家づくりに対して、地域ぐるみの反撃、全人民的反撃を創り出していくことである。日本の民衆運動は、運動の担い手の高齢化をも伴った後退戦のこのどん詰まりにおいて、セクト主義の弊害を打破して団結し、広範な共同で反撃する方向に動き出している。団結が鍵である。
第二は、資本主義の仕方で社会が維持できなくなる中で、旧来と違う仕方での社会の再建は、超党派的課題となっている。育児、学習、労働、医療、福祉、環境などの諸領域における政府・資本の選別・切捨て路線と闘うとともに、地域から協同的な社会づくりを模索していくことである。現代の運動は、社会づくりを基盤とすることではじめて、労働者民衆の支持を、そして強力な社会的アピール力を獲得できるのである。
第三は、非正規労働者・失業労働者の運動の発展をはかり、階級的に団結し地域生活に根ざした労働運動を創り出していくことである。新自由主義グローバリゼーションの下で労働者階級の過半を非正規労働者・失業労働者が占めるようになり、社会全体が寄せ場化する時代になろうとしている。非正規・失業労働者は、家族を形成し子孫を残すことが困難な経済的境遇、差別と偏見、監視・・・の中に置かれ、使い捨て労働力として利用される。昨秋フランスでこの層のイスラム系の若者たちの怒りが大暴動となって爆発したように、この層には、被差別問題が凝縮されている。これからの時代、現状の打破を求めて増大するこの層の彼・彼女らの怒りの行方が、政治の帰趨に決定的ともいえる大きな影響を及ぼすであろう事に留意しなければならない。この層は、左翼の側もほとんど捉えていない。非正規・失業労働者の運動の発展のために、力を合わせることが求められている。
第四は、東アジアとの連帯のために、かつまた、労働者民衆の生存のために、日本の政治の転換をたたかいとることである。
いま世界的に政治の流れが変わろうとしている。
超大国アメリカによる圧倒的な軍事力をテコとした世界覇権の確立と経済覇権の拡大攻勢は、イラク民衆の抵抗闘争に足をとられるなかで、雲行きが怪しくなってきた。中東では、パレスチナでハマスが自治評議会選挙に勝利するなど、イスラム的反米反イスラエル強硬派が勢力を強めている。アメリカの裏庭と言われた中南米でも、反米的政権が続々誕生している。こうした中で東アジアにおいても、東アジア共同体への流れが形成されるなど、アメリカと一定距離を置こうとする動きが諸国支配階級の間で強まってきている。核問題を口実としたアメリカによる朝鮮侵略戦争の策謀も、南北統一へと動きだした韓国の身を挺した抵抗により押し止められている。そしてこの東アジアにおいてアメリカの帝国的支配の強力な足掛かりとなり続けている日本においても、政治の転換をめぐる葛藤が熾烈化してきている訳である。
日本の政治の転換は、東アジアにおいてアメリカの帝国的支配を大きく揺るがさずにいない。それは、労働者民衆の運動の発展と政治的進出に、また国境を超えた民衆同士の交流と連帯に、広々とした道を開くだろう。

C 媒介

第三極を形成するには、政党・党派とは異なる媒介組織が必要であるように思われる。諸政党、諸団体の壁を越えて横の結びつきを編み上げ、共同への流れを促進する媒介組織である。このような媒介組織は、潮流・傾向ごとに縦割りにされてきた日本の運動状況を打破するには、おおきな役割を果たせるし、形成可能であるに違いない。
 それは、国際交流、労働運動の再建、NPO・協同組合事業、改憲阻止、選挙、理論・宣伝活動などの課題別に、旧来の枠組みを超えて協力と連携の発展を促す仕事を基本する組織だろう。それは、日本共産党、社会民主党、新左翼諸派、労働運動諸団体、市民運動諸団体などの活動を担う人々の少なくない部分を含む、それに止まらない広範な人々をも包括した、個人参加の組織であるだろう。それは、共同の目標と意志決定機関を有するが、諸政党、諸団体の構成員を含む連合体でもあり、参加者の自律性を尊重し、ゆるやかであることによりダイナミックに協力できる組織であるだろう。全国組織というより、地方の特殊性を基盤につくられ、全国的には横の連携もあるというものになるだろう。
第三極の形成に向けて、ひろく議論を巻き起こしていこう。今は何よりもそのことが大切である。私の提案がその一助となれば幸いである。