9・11総選挙 その結果と展望

  小泉圧勝は分裂と没落の始まり
         現状打破の渦巻く欲求を労働者人民の闘争の側へ

 先の総選挙は、自公の与党が三分の二をこえる議席を、自民が単独でも安定過半数を獲得し、圧勝する結果となった。各党の比例区得票率は、自民党38・2%、公明党13・3%、民主党31・0%、日共7・3%、社民党5・5%であった。

 総選挙の結果が意味するもの

 総選挙の結果が意味するものは、次の三点にまとめることが出来よう。
 第一は、超大国アメリカの金融独占資本が要求し、これに追随する日本の金融独占資本中枢の市場原理主義政治が、戦後体制を特徴付けてきたケインズ主義的な利益誘導型政治を打ち砕いたという点である。
 小泉が「郵政民営化法案」の是非を問う「国民投票」だと銘打って断行した解散・総選挙の本質は、この市場原理主義政治の確立にあった。超大国アメリカの要求と日本の金融独占資本の利益ための政治を末端にまで貫徹させるシステムが、社会の諸階層、諸集団への利益配分を基盤とするブルジョア階級総体の「和の政治」、派閥政治、族議員政治を踏みしだいた。政党中枢の権力を強める小選挙区制度と政党助成金制度がこの転換を媒介した。
 第二は、支配階級が、没落する体制を前にして、超大国アメリカ一辺倒・市場原理主義で資本の活力を高める「改革」一本やり路線により社会の崩壊を顧みない部分と、資本主義の延命のためには「改革」路線しかないことを認めつつも、階級支配を維持する見地から「社会の統合」あるいは「東アジア重視」を模索する部分とに分裂し、対立を深めていく出発点を画したという点である。
 支配階級の抱えるジレンマは、深刻である。産業の成熟に伴う過剰生産の傾向的深まりの下で、資本は、マネーゲームの世界を肥大化させ、資本間の競争を熾烈化させ、正面切って弱肉強食を正当化する以外ない時代を開き、労働者階級のますます大きな部分に恒常的な失業・半失業の境遇を、その就労部分に安全無視の低賃金過度労働を強要している。地球環境全体が危うくなってきている時に、根本的なところで自然環境破壊を引き続き促進している。支配階級は、資本のあくなき蓄積運動と社会の存立とを両立させ得ない時代に入り込んでしまったのである。
 それゆえ、アメリカ一辺倒で社会の崩壊を顧みず資本のあくなき蓄積運動を推進せんとする勢力の圧勝は、これから始まる一連の政治劇の第一幕に過ぎない。すでに支配階級の間において、「改革」の進展そのものが社会の崩壊を加速し、ブルジョア支配体制そのものを揺るがすであろう事への危惧が広がっている。こうした危惧を背景に、支配階級の内部に、小泉路線に対抗する勢力が形成されることは、一つの必然である。
この勢力は、小泉路線と「改革」では気脈を通じながら同時に労働者人民の拡大する対抗運動を包摂する、超大国アメリカに追随しながら同時に東アジアと協調するマッチ・ポンプ路線、股裂きの矛盾を抱える政治スタンスを定めていくことになろう。この勢力は、あからさまな「改革」路線が社会的緊張を高めるとき、政治の前面に登場してくるに違いない。
 第三は、労働者民衆が、経済的不平等への怒り、社会的閉塞感、超高齢化社会での年金問題等の将来不安を強め、現状の打破へと政治的に大きく動き始めたという点である。
 労働者民衆のかなりの部分が、小泉の「改革」を、それが弱肉強食社会、格差社会をもたらす危険を半ば承知の上で支持し、小泉自民党の圧勝をもたらした。それは、彼ら、彼女らの怒り、閉塞感、不安がそれだけ大きくなってきていたことの現われだった。
 小泉の「改革」を支持したのは、「女刺客」に象徴される「米国かぶれ」の「勝ち組」だけではなかった。非正規労働者、女性パート、年収二百万円以下層においてさえも、典型的な終身雇用・年功型賃金の公務員労働者に対する反発を媒介に、少なからぬ人々が「改革」を支持した。「負け組」の多くが「勝ち組」になれるとまだ幻想している状況も、小泉の勝利に有利に作用した。アメリカ一辺倒の外交路線が、現実には行き詰まっているのだが、民衆の生活に実害を及ぼすまでには至っていないことも、小泉に幸いした。
 着目すべきは、労働者民衆、とりわけその下層が、ブルジョア議会制度の枠内であれ、また右の方向に向かってであれ、政治的に大きく動いたこと、その背後に彼ら、彼女らの現状打破への巨大な欲求が渦巻いていることである。左翼がこの欲求と結合できていないこと、そこに課題があるのだということである。

 問われる戦略

 中・長期的な見地に立つならば、今回の総選挙は、体制の打倒へと展開していくであろうダイナミックな過程を始動させた事件と捉えることが出来よう。しかし、局面的には極めて厳しい政治状況での闘いが問われることになる。小泉政権は、衆議院の三分の二を越える議席を占める与党をもったことで、制度的には参院での採決の成否を無視しえるなど、自己の法案を通すことが格段に容易となった。議会外での攻防がシビアとなる。大衆的反撃が、圧倒的に重要さを増してくる。
 小泉政権は、総選挙圧勝の余勢を駆って、「郵政民営化」を皮切りに全線にわたって「改革」攻勢を加速しようとしている。
 小泉は、在日米軍再編・再配置問題の調整を加速するよう関係省庁に指示し、「テロ対策特措法」(期限、本年十一月  日))、「イラク特措法」(期限、本年十二月十四日)の延長を図るとした。自民党が改憲に向け、民主党を巻き込んで「国民投票法案」審議のための委員会設置の動きを起こした。財務相と政府税調会長が、定率減税撤廃の意向を表明、大増税の方向を示唆した。そしてこの臨時国会で郵政民営化法案を成立させ、郵貯・簡保の三四〇兆円を米・日の金融独占資本に開放して、日本の社会をマネーゲームの世界に投げ込もうとしている。
支配階級にとっては、その新自由主義政策によって、労働者の多くが失業・半失業化し、就業部分における非正規労働者の比率が35%程に到り、労働者の流動性が国境をも超えて飛躍的に高まる時代を加速することは、監視と警察力に頼る秩序維持体制を整備すること、労働者の企業の枠を越えた地域的な団結の形成を阻害する体制を整備することとセットのものである。小泉政権は、これを、「共謀罪」や「労働契約法」などの立法をテコに実現しようとしている。
だが小泉の全線にわたる「改革」攻勢は、労働者人民を「改革」への幻想から解き放ち、彼ら、彼女らに階級矛盾・階級対立を意識させてゆくだろう。いやわれわれは、労働者人民自身のこの意識化の過程を、いかに困難であろうとも粘り強く促進していかねばならない。
既に、小泉政権の後ろ盾にして「改革」の策源でもある超大国アメリカのブッシュ政権は、イラク占領の行き詰まりとハリケーンの直撃を受けて、揺らぎ出している。この揺らぎは、この北東アジアにおいても、六カ国協議でのアメリカの若干の妥協的態度として現われ、日朝国交正常化実現の余地をもつくりだしている。国際環境もこうであり、小泉政権をその足元から揺るがす情勢を切り開くことは、可能になってゆくに違いない。
今回の小泉圧勝に圧倒されて、ファシスト国家が形成されると警鐘を鳴らす向きもあるようである。しかし既に指摘したように、事態の本質は、資本主義体制が社会の安定的な再生産との矛盾関係に陥り、支配階級が分裂を深め没落する時代が始まったという点にある。外交的にも、超大国アメリカと東アジアの狭間で国論二分は必定である。
ただ現局面でいえば、支配階級内部の小泉自民党に対抗する勢力は、小泉圧勝を前にして、自己を形成する苦悶の中に叩き込まれている。
「苦悶」を象徴しているのが、民主党における前原の代表就任である。彼は、小泉と「改革を競う」のだと言う。小泉と市場原理主義改革を競うというだけでは、支配階級にとって存在価値は無い。小泉自民党に合流すればよい、ということになる。支配階級が必要とするのは、「改革」一本やりでは危うくなったときに、「負け組」の要求と運動を一定包摂しながら「改革」を堅持していける路線であるだろう。
では前原がなぜ代表に就任することになったのか。それは総選挙の結果に端的なように、まだ、「改革」一本やりの路線が、現状の打破を願う諸階級・諸階層の多くの部分を、下層のそれなりの部分を含めて引き寄せることの出来る局面だからに過ぎない。それは一時的なものである。とはいえ政治の世界では、「一時的」も大きな意味を持つ。小泉自民党が狙う「年金」そして「改憲」での大連合は、挫折させねばならない。
民主党は、社会の崩壊の危機、格差の拡大が進み、民衆の対抗的運動が発展するとともに、その寄り合い所帯的性格を活かし、路線的幅を獲得していくことが問われよう。小泉路線に対抗する支配階級の政治分派が、民主党の延長に形成されていくか否かは、更なる政界再編の可能性もあり、流動的であるだろう。それが、労働者民衆の対抗運動の発展、社民や日共の再編動向と絡む可能性も、考慮しておかねばなるまい。
 現下の最大の問題は、国家権力を握るアメリカ一辺倒の市場原理主義勢力と根底から対決できる労働者人民の政治勢力をいかにして形成するのか、という点にある。
 それは、利潤第一の競争社会に対して、人間と自然環境を大切にする新しい社会を目標として闘い、崩壊しはじめているこの社会の中で相互扶助の関係を地域から構築していく政治勢力でなければならないだろう。増大する非正規労働者・失業労働者の団結と闘争を、企業の枠を越え、地域から構築できる政治勢力でなければならないだろう。アメリカ一辺倒の市場原理主義勢力とたたかう全ての政治勢力の連携を、小泉路線に対抗する支配階級の政治分派との一時的・部分的な連携をも含めて、安保・憲法闘争から経済闘争までの全線にわたって編み上げていくことのできる政治勢力でなければならないだろう。超大国アメリカとそのあからさまな追随勢力に対する・東アジアの対抗布陣を、労働者民衆レベルのネットワークの発達を基礎として、大胆に構想できる政治勢力でなければならないだろう。
 今回の総選挙において、たしかに小泉「改革」政治の大攻勢があった。しかし、矛先は伸びきり、進撃の限界も明らかになった。この間敗走を重ねてきた共産党、社民党が、合わせて八百六十万(比例)を得票し、とりあえず踏みとどまったことは、その国政選挙への現われだと言えよう。もちろん、この両党自身は、新自由主義と根底から対決し・それを打ち砕くことのできる質と戦略を持ち合わせている訳ではない。競争社会、格差社会にかわるもう一つの社会の実現を目指し、革命的左翼を含めた左翼総体の再編・結集、「第3極」の形成が問われている。
 超大国アメリカの覇権、日帝ブルジョアジーの支配の打倒をしっかり見定め、まずは右への政治の流れを止めて日本の政治の転換をたたかいとるべく、団結できる全ての人々と団結し、共同した運動を発展させていこう。その中で、新しい時代の労働者人民の政治勢力を断固として浮上させよう。